会津若松がスマートシティ「都市OS」と22サービス連携へ 食農/観光/防災/ヘルスケア/行政/決済の先進事例と10のルールを公開

会津若松市は被災からの復興事業のシンボルとして、2011年より始めたスマートシティプロジェクトを推進している。推進している主体は「一般社団法人AiCTコンソーシアム」で、会津スマートシティプロジェクトの特徴は「オプトインによるデータ活用」と「パーソナライズによる市民中心のICT」を掲げていること。都市OSの構築に積極的で、2023年3月17日、分野を超えた22サービスがこの都市OSと連携したことを発表した。

左: 会津若松市 市長 室井照平氏、右:AiCTコンソーシアム 代表理事 兼 アクセンチュア イノベーションセンター福島 センター共同統括 海老原城一氏


都市OSと連携した22のサービスのうち、内閣府の令和4年度デジタル田園都市国家構想推進交付金Type3事業に採択された、福島県会津若松市の「複数分野のデータ連携による共助型スマートシティ推進事業」として、6分野で計16のスマートシティサービスが都市OSに接続されたことも発表した。

6分野は、食・農分野、観光分野、防災分野、ヘルスケア分野、行政分野、決済分野の6つ(「複数分野データ連携の促進による共助型スマートシティ推進事業」全体概要(出典:会津若松市))


6分野で16のスマートシティサービスが新たに「都市OS」に接続

会津若松市の「複数分野のデータ連携による共助型スマートシティ推進事業」は、データ連携基盤である都市OSを活用して、食・農、観光、防災、ヘルスケア(診療)、行政、決済の6分野でデータ連携と付加価値の創出につながる市民や自治体向けデジタルサービスを実装するもの。
このたび、データ連携にともなう都市OSの機能強化を行い、購買履歴データ、災害時安否情報、ヘルスケアデータなど、新たに17種類のデータアセットと、市の基幹系システムなど3つの外部システムが都市OSに接続されることになった。令和4年度は6分野で16のスマートシティサービスが新たに接続され、これにより、分野を超えたデータ連携を活用した、市民一人ひとりに寄り添ったサービスの提供が可能になった。

都市OSを中心にした「データ連携基盤および相互運用性の確保に向けた全体システム構成図」。アクセンチュアやAIZU LABOのほか、東芝データ、TIS、ソフトバンク、凸版、国土地理院、オムロンなどが開発に関わるサービスが連携し、大規模なシステムを構成

今回、発表された主な内容とサービス分野は以下の通り。


データ連携にともなう都市OSの機能強化


・複数のサービス間でのデータ連携におけるセキュリティを担保しながらも利便性を強化するため、オプトイン機能を強化した。また、都市OSを通じた安全なデータ流通の実現に向けて、「市民」、都市OSの運営主体としての「AiCTコンソーシアム」、「サービス提供者」、「データ提供者」の4主体が、それぞれの間で 適切な規約・契約等を締結できるよう、仕組みを整備した。

・さらにAPIを公開し、そのAPIをサービス創出に活かしていくための「APIポータル」を構築(3月20日公開予定)。これにより、サービスを提供する事業者はデータ提供者が公開するAPIを活用し、地域の特色を活かし市民生活をより豊かにするサービスを迅速に創出することができる。

・市民向けの地域情報ポータルである「会津若松+(プラス)」が、3月下旬よりiOSおよびAndroid向けスマートフォンアプリとして提供開始する。これまではWebブラウザ経由のアクセスのみでしたが、今後はスマートフォンからも、より便利に、より身近に、市民向けスマートシティサービスの利用が可能になる。



食・農分野 「需給マッチングサービス」


・農産物の生産者と、宿泊施設や介護施設、飲食店といった地域の実需者をマッチングするサービス「ジモノミッケ!」は、2023年3月下旬より精算機能や情報可視化機能を拡充。

・精算機能では、決済分野で提供しているデジタル地域通貨「会津コイン」と連携します。現金化にかかるリードタイムゼロを目指し、生産者および実需者にとっての利便性を向上。

・情報可視化機能ではダッシュボード画面の提供を開始し、ユーザーの取引状況や市況価格をベースに算出した参考売買価格を表示、さらに将来の価格予測(一部品目のみ)を確認できる。

・2022年10月11日のサービス開始以降、現在35の生産者、32の実需者、計67者が利用(2023年3月7日現在)しており、今後もユーザーの拡充により、地産地消を推進。


観光分野 「産業観光を起点とした観光DX」


・地域の観光情報提供を一元化し、地域観光のパッケージ化を図る観光支援サービス「Visitory(ビジトリー)」を拡充。飲食店のリアルタイムな営業状況など、情報発信機能(2022年10月に先行リリース)をさらに拡充させ、3月22日からは、市内の土産物産店・観光施設・コワーキング施設・交通など、来訪者の観光や市民の日常生活に関連する情報の発信も開始。

・スマートシティ視察の来訪者に向けた行程管理のサポートをする機能も強化し、今後は、対象を教育旅行や一般観光に拡大するとともに、引き続き、会津若松+のオプトイン情報に基づく来訪者の観光状況を地域に還元する仕組み作りを目指す。


防災分野 「位置情報を活用したデジタル防災」


・平時から発災時まで防災行動をサポートするデジタル防災サービスを、地域情報ポータル「会津若松+」のアプリ上で、3月下旬より本格提供を開始。従来一部市民向けに先行提供されていましたが、このたび全市民を対象に提供。

・災害時に、現在地から避難所などを案内する機能のほか、家族間での安否情報や・位置情報の共有機能を追加。平時は、位置情報に基づいたハザードマップを確認できる。

・さらに、在宅ケア支援アプリ「ケアエール」と連携することで、ケアが必要な人の安否回答や災害情報を家族や関係者に共有することで、個別化された避難支援につなげる。

・今後も市民の声を反映させながら継続的に機能を改善し、個別避難計画の作成支援機能といった機能拡充を予定。オプトインにより提供された情報に基づいて”パーソナライズされた災害対応の実現”を目指す。


ヘルスケア分野 「医療データベース構築、遠隔医療の拡充」


・市民のオプトイン(事前承諾)に基づき、IoTデバイスで取得した市民のバイタルデータ管理と総合病院の一部医師へのデータ連携を実現する「ヘルスケアパスポート」を拡充。3月22日からは、市民が普段の生活で取得したライフログ情報を医療機関に共有できる仕組みが拡大されるほか、一部の医療機関の受診履歴(処方内容)もスマートフォン上で閲覧できるようになる。

・市民のオプトイン(事前承諾)に基づき、オンライン服薬指導や健康相談に対応できるサービス「HELPO(ヘルポ)」を3月15日に新たにリリース。高血圧、慢性循環器疾患に特化したオンライン健康相談サービスである「テレメディーズBP」と、それ以外の診療や服薬指導などにも活用可能な「HELPO」が提供されることで、市民一人ひとりの生活習慣に寄り添った健康管理を支援。




行政分野 「行政手続き連携による“書かない”手続きナビ」


・窓口に備え付けのタブレット端末や市民が所有するスマートフォン等を利用して、転入・転出・転居およびそれらに伴う各種手続きのデジタル申請を2022年10月3日から提供開始。

・マイナンバーカードの本人確認機能を活用し、本人同意を行ったうえで、行政が保有している情報を利用するサービスを2023年3月22日に開始。加えて、3月末までには、対象手続きと取り扱い窓口をさらに拡充し、全22部署で当該システムを順次本稼働予定。

・今後も、全ての方が行政手続きの利便性を享受できる仕組みとして、対象手続きを増やすことにより、市民の皆様に寄り添った「デジタル化でより便利な窓口サービス」提供し、住民サービスの向上を目指す。


決済分野 「地域課題解決型デジタル地域通貨」


・市民向けのデジタル地域通貨の体験の場を創出するため、スマートシティAiCT内にデジタル地域通貨決済店舗を立ち上げ。複数回のオフィスツアーを通して市民や地域事業者の皆様の理解促進をおこなった。今後、市中での利用シーンの拡大を目指す。

・今後、食・農分野と連携し、生産者と需要家実需者の納品状況に基づいてリアルタイム精算処理を進める「現金化リードタイムゼロ」の実現を目指す。デジタル地域通貨によるキャッシュレスを普及させ、地域で購買データ利活用することで地域全体の生産性向上を目指す。

■スマートシティを実現する10のルール




各氏からのコメント

会津若松市の室井照平市長は次のように述べている。

室井照平市長

デジタル田園都市国家構想推進交付金デジタル実装タイプTYPE3の支援により、市民生活に関わる多くの場面でデジタルの恩恵を感じることが出来るスタートラインに立つことが出来ました。本年度構築したデジタルサービスを市民の皆さまに普段使いして頂けるよう、引き続き体験して頂く場を積極的に設け、改善と周知に取り組むことで、理解の浸透と利用拡大の好循環に繋げてまいります。また3月10日には、次年度のデジタル田園都市国家構想交付金デジタル実装タイプTYPE3の採択を本年度に引き続き受けることが出来ました。次年度では、マイナンバーカードをデジタルサービスの基盤の一つとして活用していくことを計画しており、市民の皆さまの生活利便性をさらに向上させるとともに、同様の課題を抱える地方都市のモデルとなるべく、引き続き『スマートシティ会津若松』を進めてまいります。



また、AiCTコンソーシアム 代表理事の海老原 城一氏(アクセンチュア・イノベーションセンター福島 センター共同統括)は次のように述べている。

海老原 城一氏

デジタル田園都市国家構想推進交付金TYPE3の事業を完遂し、都市OSを活用して地域住民の皆様や地元企業の方々へのサービス提供を拡張できたことを大変嬉しく思います。引き続き、地域の方々からフィードバックをいただきながら日々の生活で利便性を実感していただけるスマートシティサービスの実現にまい進します。また、会津若松で構築する、分野を超えたデータ連携による新しいモデルを、会津から全国へと広げていけるよう、AiCTコンソーシアム一丸となって推進してまいります。




AiCTコンソーシアムがスマートシティ構築を推進

AiCTコンソーシアムは、オプトインによるデータ活用とパーソナライズによる市民中心のスマートシティ実現に向け、国内外の有力企業、会津地域の企業や団体など、90以上の会員企業・団体で構成されているコンソーシアム。
2011年に会津若松市・会津大学・アクセンチュアの産学官連携で始まった、東日本大震災からの復興に向けた取り組みを端緒として、先進的なスマートシティの取り組みが進み、多数の企業が会津若松市に集積したことを受けて、2021年に設立された。会員企業・団体は、スマートシティのデータ連携基盤となる都市OSを軸に、ヘルスケア、防災、データ利活用、ものづくり、エネルギー、教育、食・農、地域活性化、観光、行政、決済、モビリティインフラ、スマートホーム、サーキュラーエコノミー領域など、幅広い分野のスマートシティサービスを、組織の枠を超えて開発、運用している。このコンソーシアムでは、会津地域で10年以上をかけて培われた知見、プラットフォーム、ネットワークをもとに、会津における地域DX(デジタル変革)を目指すとともに、日本のあるべきスマートシティのモデルとして全国に発信している。
会員企業の詳細は、AiCTコンソーシアムのWebサイトはこちら。 
https://www.aict.or.jp/company-list 

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神崎 洋治

神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。

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