【世界初】東京大学が修復能力を備える生きた皮膚で覆われたロボットの開発に成功 7日間で傷口が修復

東京大学大学院情報理工学系研究科の竹内昌治教授、河井理雄大学院生(研究当時:修士学生)を中心とした研究グループは、人の皮膚細胞から作製される「培養皮膚」(人やその他動物の皮膚細胞を体外で増殖・培養して作製された皮膚組織)を利用し、細胞由来の生きた皮膚を持つ指型のロボットを世界で初めて開発。2022年6月9日午前11時(米国東部夏時間)に米国科学誌「MATTER」のオンライン版に掲載された。


「修復能力」など人間らしい機能を備える

ヒューマノイドなどのロボットは従来シリコンゴムで被覆されることで人間らしく柔らかい皮膚を備えてきたが、シリコンゴムには自己修復やセンシング、廃熱(発汗)など人間らしい能力を備えていないという課題が残っている。

この研究では、人の皮膚細胞を体外で培養することで作製される「培養皮膚」をロボットの被覆素材として活用することで、修復能力など人間らしい機能を備えた肌を持つ指型のバイオハイブリッドロボットを作製することに世界で初めて成功した。


7日間ほどで「傷口」を修復、関節運動が可能に

図 1. (A) 指型ロボットの設計 (B) ロボットを被覆する培養皮膚の形成手法。真皮細胞を含んだコラーゲン溶液を培養すると激しく収縮し培養真皮組織を形成する性質を利用し、指型ロボットをぴったりと被覆する培養皮膚組織を作製する。

骨格となるロボットは3関節の指形状となっており、中心部を通るワイヤーモーターを引くことで関節運動を行う。

指型ロボットの周囲で真皮組織をゲル化させると真皮組織が 激しく収縮し、指型ロボットをぴったりと被覆する培養皮膚が形成される。また、その後 に培養真皮組織表面全体に表皮細胞を播種し培養を進めることで表皮層が形成され、培養皮膚組織が作製される。(図1B)

図 2. (A) 培養皮膚に被覆された指型ロボットの関節運動。作成したロボットは皮膚を破壊することなく関節運動を行うことができる。(B) 表皮組織の確認。(C)表皮組織の特性である撥水性の確認

図 2A が示すように指型ロボットは形成された培養皮膚を破壊することなく関節運動を行 うことが可能であり、また培養皮膚表面には撥水性のある表皮の層が形成されていることが確認できる。(図 2B、C)

指型ロボットを被覆する培養真皮組織は傷つけられてもコラーゲンシートを傷口に貼ることで修復ができ、メスを用いて作られた傷口にコラーゲンシートを貼ると7日間ほどの培養でコラーゲンシートに真皮細胞が移動し、傷口の接着強度が強まることが確認された。

これにより修復された指型ロボットは再び関節運動を行うことが可能となり、傷口部分が一体化していることも確認できたとしている。

開発された培養皮膚付きロボットの作製に関わる要素技術である培養皮膚は、将来のヒューマノイドロボットの被覆材料のみならず、義手・義足分野や皮膚を対象とした化粧品や医薬品の開発、移植素材としての再生医療分野等での活用が期待される。


発表雑誌
雑誌名 「Matter」オンライン版 2022年6月9日公開(米国東部夏時間)
論文タイトル Living skin on a robot
著者 Michio Kawai, Nie Minghao, Haruka Oda, Yuya Morimoto, Shoji Takeuchi*
DOI番号 10.1016/j.matt.2022.05.019


発表者

竹内昌治 (東京大学 大学院情報理工学系研究科 知能機械情報学専攻 教授)
ニエ ミンハオ(東京大学 大学院情報理工学系研究科 知能機械情報学専攻 助教)
河井理雄 (東京大学 大学院情報理工学系研究科 知能機械情報学専攻 修士学生 (研究当時))

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ロボスタ編集部

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