人と共存するヒューマノイドに何が必要か Honda・川崎重工・早稲田大・アールティが日本の課題を議論

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世界中でヒューマノイド開発競争が激化している。フィジカルAIの進歩によって、ロボットは走り、跳び、複雑な作業をこなすようになり、工場や物流現場への導入も現実味を帯びてきた。
では、その先にあるヒューマノイド開発や社会実装のポイントは何なのか。

一般社団法人ワークロイド・ユーザーズ協会(WUA)が2026年7月6日に産業技術総合研究所で開催したイベント「人とともに進化するヒューマノイドの未来」では、Honda「P2」「ASIMO」開発の中心メンバーだった竹中透氏(WUA特別アドバイザー)をはじめ、早稲田大学の高西淳夫教授、川崎重工業の掃部雅幸氏、本田技研工業の小橋慎一郎氏、アールティ代表の中川友紀子氏、モデレーターとしてWUA副会長の田中純氏が「パネルディスカッション」に登壇。
日本のヒューマノイド開発が目指すべき方向性について議論を交わした。

討論では、「フィジカルAIによって何が変わったのか」「人と共存するロボットに必要な技術とは何か」、さらに「日本が世界の競争にどう立ち向かうべきか」まで、多岐にわたるテーマが語られた。

■フィジカルAIが変えたヒューマノイド開発

冒頭、竹中氏は近年のヒューマノイドの進歩について、「フィジカルAIの登場が非常に大きなブレークスルーになった」と語った。

1990年代、HondaがP2を開発していた頃は、ロボットに「まっすぐ歩き、止まる」という基本動作を覚えさせるだけでも膨大な時間が必要だった。竹中氏は当時を振り返り、「P2では、一歩目から歩いて止まるまでの動作を作るだけで3日ほどかかっていました」と説明する。

竹中 透氏 WUA特別アドバイザー 株式会社本田技術研究所 元主席研究員 Honda P2・ASIMO開発の主導メンバー

しかし現在は状況が一変した。シミュレーション上で膨大な試行錯誤を繰り返し、成功した歩行パターンを学習・蓄積できるようになったことで、ロボットは未知の状況にも近い解を自ら選び出して対応できるようになっている。

竹中氏は、「おっとっと」と姿勢を立て直すようなバランス能力だけで比較すれば、「現在のヒューマノイドはASIMOよりはるかに高いレベルにある」と評価した。

近年公開されているヒューマノイドは、押されても転ばず、段差や荒れた路面でも姿勢を保ち、転倒しても素早く立ち上がる。こうした外乱への対応能力や歩行性能の向上は、フィジカルAIによる学習技術の進歩がもたらした成果だという。

一方で竹中氏は、この進歩がヒューマノイド開発のゴールではないと強調した。
竹中氏は、こうした技術の進歩を高く評価しながらも、「その先に何を目指すのか」が、これからのヒューマノイド開発では重要になると問題提起した。
そんな問題提起が、次のテーマへとつながっていく。

■次の競争軸は「人との共存」

竹中氏が次の競争軸として挙げたのが、「人との共存」だった。
HondaがASIMOなどの開発で強く意識していたのは、「人に恐怖を与えないこと」だったという。

「ASIMOやHondaのロボットは、人との共存を強く意識していました。人に親しみを持ってもらえるように、動きそのものもデザインしていたのです」(竹中氏)

ここで竹中氏が語ったのは、歩行性能ではなく、「歩き方」の話である。
竹中氏は、最近見た中国のロボットなどを例に挙げ、特に高い安定性を実現しているロボットの中には、床を「バン、バン」と踏むような力強い歩き方をするものがあると説明した。

その背景にあるのが、「両脚支持期」だ。

両脚支持期とは、歩行中に左右両方の足が同時に接地している時間を指す。竹中氏によれば、一部のロボットではこの時間がほとんどなく、片足が着いた瞬間に反対の足が浮くため、荷重が一気に次の足へ移るという。

「足が着いた途端に反対の足が浮いてしまう。それくらいの感覚で動くので、荷重が一瞬にして次の足に乗り、『バン、バン』と歩くのです」(竹中氏)

竹中氏は、この歩き方そのものを否定しているわけではない。フィジカルAIによって高い運動性能や外乱への対応能力を獲得した結果として生まれた、一つの歩行スタイルと捉えている。しかし、人と同じ空間で暮らし、働くロボットという視点に立つと、そこには別の価値観が求められる。

「安定性だけを追求する世界は、ある意味で完成に近づいています。これからは、人とどう共存していくかという方向へ技術は進んでいくでしょう」(竹中氏)

つまり竹中氏が問い掛けたのは「人に安心感を与える歩き方をどう設計するか」という思想だった。

この発言は、この日の討論全体を象徴するメッセージでもあった。

■工場はゴールではない

近年、多くのヒューマノイドメーカーがまず工場への導入を目指している。Figure AI、Apptronik、Agility Robotics、UBTECHなども、製造業や物流現場を最初の市場として位置付けている。
竹中氏も、この流れ自体は自然だと語る。
身体能力を高め、安定して作業できるロボットをまず工場で育て、その後、人と共存する環境へ展開していく――現在の世界の開発競争は、まさにその段階にあるという見方だ。ただし、それが最終目的ではない。

「工場はゴールではありません。身体能力を高めた上で、人と共存できる世界へステップアップしていく。それが本来目指す方向だと思っています」(竹中氏)

一方で、最初から人との共存を目標に据えて開発を進める企業も現れ始めており、竹中氏は「そうした流れも今後さらに強くなっていくだろう」と予測した。
(次頁につづく)


《神崎 洋治》

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神崎 洋治

神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。

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