Unitree CEO「ヒューマノイドのChatGPTモーメントは最短2~3年」“80%×80%”が示す汎用ロボットの未来

Unitree CEO「ヒューマノイドのChatGPTモーメントは最短2~3年」“80%×80%”が示す汎用ロボットの未来
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中国のロボットメーカーUnitree Roboticsの創業者で董事長の王興興氏が、2026年8月20日に北京で開催された「2026世界机器人大会(World Robot Conference 2026)」のメインフォーラムに登壇した。

講演テーマは「展示品から製品へ:ヒューマノイドロボット産業の次の10年(从展品到产品:人形机器人产业的下一个十年)」。
王氏が講演で繰り返し指摘したのが、現在のヒューマノイドが抱える「汎化能力」の問題だ。

固定された環境で、十分なデータを使って学習すれば高い成功率を実現できる。しかし、対象物や環境が変わるだけで成功率が大きく低下する。

王氏は、この問題を乗り越え、ロボットが初めて訪れる家庭など、未知の環境でも、人間から音声や言語で指示されるだけで多くの仕事をこなせるようになることを、エンボディードAI(Embodied AI)における「ChatGPT moment」と位置付けた。

Unitree Roboticsの創業者で董事長の王興興氏。写真:VCG/アフロ

その目安として示したのが「80%×80%」だ。
約80%の未知環境で、約80%のタスクを実行できること。

そして、その転換点が訪れる時期について、早ければ2~3年、時間がかかれば5年、あるいはさらに長くなる可能性があるとの見通しを示した。

■ヒューマノイド最大の課題は「汎化能力」

Unitreeは高速走行やダンス、格闘など、ヒューマノイドの高い運動性能を示す映像で世界的に知られている。
しかし、今回の講演で王氏が重点的に語ったのは身体能力ではなく、ロボットを実際に働かせるためのAIだった。

Unitreeは2024年から自動車工場と協力してロボットの実用化に取り組み、自社工場にもロボットを導入して簡単なテストや作業を行っている。現在は同社AIチームの大部分が、ロボットを家庭や工場で実際に働かせるための研究開発に取り組んでいるという。

では、なぜまだ大規模導入しないのか。

王氏は、現在のロボットは簡単な組み立て作業などはできるものの、人間と比べると効率が低く、新しいタスクに遭遇するたびに再学習が必要になる場合があることを理由に挙げた。

つまり、現在のヒューマノイドは「できること」は急速に増えているが、「どこへ持っていってもできる」段階には達していない。
ここが、デモンストレーションと実用的な汎用ロボットを分ける大きな壁になっている。

2026年8月20日、中国・北京で開催された2026年ワールドロボット会議で、Unitreeのヒューマノイド「G1」が同社のブースでパフォーマンスを披露。多くの観客が詰めかけた。写真:ロイター/アフロ

■ 「80%の未知環境×80%のタスク」がChatGPTモーメント

では、どこまで進化すればヒューマノイドは本格的な普及段階に入るのか。王氏は今回、かなり具体的な目安を示した。
例えば、ロボットをこれまで一度も訪れたことのない家庭に持ち込む。そこには初めて見る家具があり、初めて見る食器や日用品があり、物の配置も当然異なる。

その環境で人間が音声や言語によって仕事を指示する。
ロボットが事前にその家庭専用のデータを収集して再学習しなくても、約80%の未知環境で約80%のタスクを実行できる。

王氏は、このレベルに到達することをエンボディードAIにおける「ChatGPT moment」の一つの基準として示した。
これは非常に高いハードルだ。

現在のロボット開発で多く見られる「この物体をつかむ」「ここからここへ運ぶ」といった特定タスクの成功率を競う話ではない。未知の環境を認識し、人間の言葉から目的を理解し、必要な行動を自ら組み立て、最後まで仕事を完遂する。

つまり王氏が想定しているのは、特定用途向けロボットではなく、かなり汎用性の高いロボットAIだ。

その到達時期について王氏は、早ければ2~3年、遅ければ5年、あるいはさらに長い時間が必要になる可能性を示した。

■散らかった会議室を元に戻す

講演では、Unitreeが取り組んでいる具体的なAIロボットの実験も紹介された。その一つが「会議室の片付け」だ。あらかじめ会議室を散らかしておき、ロボットに元のきれいな状態へ戻させる。

一見すると単純な仕事に見えるが、ロボットにとっては難しい。
何がゴミなのか、何をどこへ戻すのかを認識し、それぞれ異なる物体を適切につかみ、運ぶ必要があるからだ。
Unitreeの実験では、7~8種類程度の異なるタスクを一つのモデルで処理し、ロボット自身がタスクを切り替えながら実行する。

さらに外乱を加えた環境でも動作させている。
現在はAIがリアルタイムで周囲を認識し、推論し、行動を生成しながら動くため、動作速度はまだ遅く、滑らかではない。
王氏によれば、紹介したデモ映像は途中で成功した場面だけをつないだものではなく、連続した状態で撮影したものだという。

■言葉を理解して物を取る

もう一つ紹介されたのが、言語と視覚を組み合わせた操作だ。
ロボットの前に複数の物体を置き、人間が言葉で対象を指定する。ロボットは指示された言葉を理解し、目の前にある物体の色などの特徴を認識し、位置を判断して対象物を取り出す。

ここで重要なのは、事前に決められた動作を再生しているわけではないことだ。
言語理解、視覚認識、空間認識、行動生成、実際の身体制御までをつなげなければならない。LLMやマルチモーダルAIがデジタル空間の中で情報を処理するのに対し、Physical AIは最後に「現実の身体を動かす」という工程が加わる。

そして王氏は、そこに現在のロボットAIが抱える大きな問題があると指摘した。

■本当に難しいのは「最後の数cm、数mm」

王氏が今回の講演で具体的に説明したのが、AIモデルと現実の物理世界との「アライメント」の問題だ。
現在のAIは「何をすればよいか」については、かなり正しく理解できるようになっている。

例えば、ある物体を別の場所へ運ぶよう指示すれば、ロボットはおおむね正しい場所まで腕を持っていくことができる。
ところが実際につかむ瞬間になると、数cm、場合によっては数mmの位置誤差が問題になる。

手は対象物のすぐ近くまで来ている。
しかし最後の位置誤差や触覚フィードバックを正しく補正できず、物体をつかみ損ねる。そこで失敗すれば、それ以前の判断がすべて正しくてもタスク全体としては「失敗」になる。

ここは、現在のヒューマノイドを見るうえで非常に重要なポイントだ。

ロボットが走る、跳ぶ、宙返りするといった身体能力と、家庭や工場で確実に仕事を完遂できる能力は同じではない。
デモ映像では小さな失敗に見える数cmの誤差が、実用化では決定的な差になる。

■フィジカルAIでは誤差が蓄積する

王氏は、これをLLMとの違いから説明した。
LLMの場合、入力も出力も基本的にはデジタルデータの世界で処理される。一方、ロボットはAIが生成した出力を、モーターや関節を使って現実世界で実行しなければならない。
周囲を認識する。
判断する。
腕を動かす。
その結果を再び認識する。
さらに次の動作を生成する。

このサイクルを繰り返すたびに、現実世界では小さな誤差が発生する可能性がある。
そして、その誤差が次の認識や行動にも影響する。AIモデルの世界と現実の物理世界をどこまで正確に一致させられるか。
王氏は、これを現在のエンボディードAIにおける重要な技術課題の一つとして挙げた。

■VLAと世界モデル UnitreeがAI投資を拡大

この課題を乗り越えるため、Unitreeが投資を拡大しているのがAIモデルだ。
王氏は現在のエンボディードAIで主要な技術として、VLA(Vision-Language-Action)と世界モデル(World Model)を挙げた。
VLAは、カメラなどから得られる視覚情報と、人間から与えられる言語による指示などを理解し、ロボットの行動へとつなげる。

一方、世界モデルは現実世界の状態や変化をAI内部でモデル化し、行動によって次に何が起こるのかを予測する技術として注目されている。

興味深いのは、Unitreeが世界モデルの研究を最近始めたわけではないことだ。王氏によれば、同社は2020年初めから動画生成を利用した世界モデルの研究を開始した。
しかし2020年末の段階では十分な成果が得られず、いったん研究を中断した時期があった。その後、生成AIや動画生成技術が急速に進歩したことを受け、2025年から再び動画生成型世界モデルへの投資を拡大している。

現在、AIモデルはUnitreeにとって資金、人員の双方で最大規模の投資領域の一つになっているという。高速走行や格闘、ダンスなど「身体能力のUnitree」という印象が強いが、同社が現在、経営資源を大きく投入しているのはロボットの「頭脳」だ。

■人間のデータ+実機データ

ロボットAIを学習させるためのデータについても、王氏は興味深い考えを示した。
実機ロボットから取得したデータだけですべてを学習させるのではなく、大量の人間の行動データやインターネット上のデータを事前学習に利用し、そこへ実機ロボットのデータを加えるという考え方だ。

王氏はデータ量の面では、人間由来のデータの方が多く、重要になるとの見方を示している。

ただし、人間とロボットでは身体構造も動作特性も異なる。
最終的にAIの判断を現実のロボットの身体で実行するには、実機データを使って物理世界との対応を取る必要がある。

そのため、人間由来の大量データと実機ロボットデータの両方が必要になる。
ロボットを何万台も動かして実機データだけを大量収集すれば汎用AIが完成する、という単純な考え方ではない点も興味深い。

■AI自身にロボットを開発させる「自己進化」

講演後半で王氏が紹介したもう一つの注目点が、「物理AIロボットの自己進化」という考え方だ。
これはAIをロボットの頭脳として利用するだけではない。AIに「ロボットを開発する仕事」までさせようというものだ。

人間がルールや制約条件、利用可能なツールなどを設定する。
AIエージェントは最新の論文や研究成果、オープンソースなどを調査し、ロボットを制御するためのコードを生成する。
生成したコードをシミュレーション環境で実行し、学習・検証する。
一定の性能に達したら実機ロボットに展開する。

そこで得られた結果をAIと人間が評価し、その結果を再びCoding Agentに戻してコードを改善する。「調査」→「コード生成」→「シミュレーション」→「実機にデプロイ」→「評価」→「改善」というループをAI自身に回させる構想だ。

王氏によれば、比較的シンプルな深層強化学習アルゴリズムでは、Coding Agentに制御コードを書かせる方法ですでに良好な結果が得られるケースもあるとしている。

■ロボットが増えるほどAIが進化する

この仕組みが興味深いのは、基盤モデルの進歩と実世界のロボットの増加を一つのループにできる点だ。基盤となるAIモデルが進歩すれば、ロボットを開発するAIエージェントも賢くなる。
実世界で稼働するロボットが増えれば、そこから取得できるデータも増える。新しいデータを使ってAIや制御技術が改善されれば、ロボットの能力がさらに向上する。

そして高性能になったロボットがさらに多く実世界へ展開されれば、新しいデータがまた増える。さらに、開発したロボットの技能、データ、制御戦略、評価結果を蓄積し、次の開発に再利用できる。

すなわち「ロボットの実世界への展開」→「データの増加」→「AI・制御技術の改善」→「ロボット性能の向上」→「さらに多くのロボットを展開」という循環を作ることができる。

王氏が「自己進化」と表現するのは、この開発サイクルそのものをAIによって高速化しようという考え方だ。

■時速45km超で走る「Superman」は約3カ月で開発

講演では、Unitreeが最近公開して話題になった新型ヒューマノイドについても紹介された。
Unitreeが「Superman」と呼んで動画で公開した新型ロボットは、最高速度12.65m/sを記録した。時速に換算すると約45.5km/hになる。王氏によれば、開発期間はまだ3カ月あまりで、正式発表前の開発段階にある。
また、「Superman」で高いジャンプ性能もアピールしている。高速走行するヒューマノイドは非常に分かりやすく、映像としても強烈なインパクトがある。しかし今回の約20分の講演全体を見ると、「Superman」は主役ではない。

王氏がより多くの時間を割いて説明したのは、汎化能力、AIと物理世界とのアライメント、世界モデル、データ、そしてAIによるロボットの自己進化だった。

関連記事「Unitree、ヒューマノイド新型機の映像を公開 垂直跳び約2m・10m走は人類超え」

■「動けるロボット」から「考えて働けるロボット」へ

ヒューマノイドの身体能力は、この数年で驚くほど進化した。
「走る」「跳ぶ」「踊る」「転倒しても立ち上がる」。しかし、家庭や工場で本当に役立つロボットになるためには、それだけでは足りない。

初めて見る環境を理解し、人間の指示から目的を判断し、必要な行動を組み立て、数mm単位の物理世界の誤差にも対応しながら仕事を最後まで完遂する。

王氏が示した「約80%の未知環境で約80%のタスクを実行できる」という基準は、ヒューマノイドがデモンストレーションから汎用的な製品へ移行する、一つの分かりやすい目安といえる。

そして王氏は、その転換点を「ChatGPT moment」と表現した。
Unitreeは、これまで高い身体能力を持つロボットを次々と開発してきた。そのUnitreeが今、資金と人員を大きく投入しているのがAIモデルであることは象徴的だ。

ヒューマノイド開発の焦点は「どれだけ速く走れるか」「どれだけ華麗に動けるか」から、未知の環境でも「どれだけ自分で考えて仕事ができるか」へと広がりつつある。
王氏の講演タイトルは「展示品から製品へ」。

そのために越えなければならない壁が何なのか。
今回の講演は、現在のヒューマノイドが立っている位置と、その次に目指している場所を具体的に示す内容となった。


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《神崎 洋治》

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神崎 洋治

神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。

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