シンギュラリティ大学主催のコンテスト 優勝は「培養肉」、基調講演でソニーCSL北野氏や大阪大学の石黒教授が登壇

2月25日、いろいろと謎めいている米「シンギュラリティ大学」が「ジャパン グローバルインパクトチャレンジ(GIC)」をベルサール半蔵門で開催した。
テーマは「Zero-Stage Problem」。GICに応募した人たちから選ばれた6名のファイナリスト(アントレプレナー)が、環境、貧困、医療等の未解決な領域やバイオ、AI、ロボティクスなどのテクノロジーを活用したソリューションを各自10分間、プレゼンテーションを行い、自らのアイディアを披露した。

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「シンギュラリティ大学」の「ジャパン グローバルインパクトチャレンジ(GIC)」会場の様子。登壇しているのは優勝したYuki Hanyu氏

優勝は食肉培養の「Shojinmeat Project」(ショウジンミート・プロジェクト)、Yuki Hanyu(羽生雄毅)氏が受賞した。「本物の肉なのに、牧草地もいらないし、動物も殺さない」とし、筋肉細胞だけを増やして作る食材「純肉」、培養液によって食肉を作る「培養肉」工程の開発に取り組んでいる。食糧難の課題を解決できる可能性があり、将来は再生医療にも活用できるとしている。スペースコロニーで肉を培養することも夢ではないという。

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筋肉細胞から食肉を培養する技術

優勝者のYuki氏には、シンギュラリティ大学で年1回開催される社会課題のソリューションをテーマとした約10週間の短期集中起業カリキュラムへの参加権が与えられる。
その他の応募作品は、マグナス効果を活用したブレードがない新しい風力タービンの開発、45秒に1人が鬱病で自殺している現状をVRやAR技術を駆使したゲームでストレスの改善をしていくサービス、教育の水準を高めるために乳幼児から知育教育にフォーカスして、ビッグデータを活用した知育アプリやロボットの開発、食糧問題の解決と温室効果ガスの削減をはかるパーソナル・ナノファーム(クローゼットやキャリーオン環境で野菜を収穫)、HMDや触覚センサーを活用したテレプレゼンスロボットなどがあった。

また基調講演として、 ソニーコンピュータサイエンス研究所の北野宏明氏、大阪大学の石黒浩教授、シンギュラリティ大学のスタートアップソリューションVPのパスカルフィネット(Pascal.Finette)氏が登壇した。基調講演のテーマは「AI,Robotics and Beyond」(AI、ロボット工学の先に)

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シンギュラリティ大学とは?

日本では、シンギュラリティ大学という名前はあまり聞き覚えがないと思うが、「シンギュラリティ」という言葉を世に知らしめた脳科学者で発明家のレイ・カーツワイル氏と、宇宙技術開発などを行っているXプライズ財団のCEOピーター・ディアマンティス氏が発起人となり設立された公益企業。米シリコンバレーで突き抜けた未来志向の教育と研究プログラムの提供を目指し、ベンチャー企業をインキュベートする機関でもある。

GoogleやCisco、Nokiaなどの企業が出資していたり、初回の教育プログラムの応募定員が40人に対し、1,200人の応募があったことでも注目された。

今回、開催された「グローバルインパクトチャレンジ」は、シンギュラリティ大学が主催するオーディションで、世界的に人類が抱える社会問題を解決するためのアイデアを募集したもの。貧困や食糧問題、環境問題といったテーマがあげられ、これまでに全世界38か国で実施されてきた。日本での開催は初となる。




シンギュラリティとはどういうものか?

基調講演に登壇したパスカルフィネット氏は「シンギュラリティとはどういうものか?」を解説した。
デジタルは指数関数的に一気に成長・拡大する。たいていは最初の製品や技術は取るに足らないもので失望する。しかし、指数関数で成長すると瞬く間に素晴らしい技術に成長するのが特徴だ。

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Singularity University, VP Start up Solution Pascal.Finette氏 

将来やがて人間と同じくらいの能力のコンピュータができるだろう。すぐに2人分の能力を持つコンピュータができる。それが4人分、8人分と指数関数的なカーブ上で進化・整合すると「どう整合性をとるのか」は想像できない領域になる。それが2050年〜2060年の間にやってくると予想する。 
逆にコストは瞬く間に減少していく。多くのモノがデジタル化され、コストは劇的にさがった。例えば、本の出版は紙の生成から考えれば大変な手間とコストがかかっていたが、それと比較して電子ブックのコストはぼぼゼロに近い。音楽も同じで、レコードやCDは製造コストや流通コストが高かったが、スポティファイは月10ドルで好きなだけ音楽が受け取れるようになった。子供の頃、買ってもらった数千ドルの百科事典は、今では無料のウィキペディアだ、とした。
さらに注目するのは薬のデジタル化だ。将来は錠剤を買うのではなく、どのような分子構造になっているかを買い、ユーザーがそれを素に3Dプリンタの類で生成するようになると言う。製薬会社のビジネスモデルも変わり、サブスクリプションモデルになっていくという節だ。

世界中には食糧が十分に手にできない人、きれいな水が飲めない人が地球上にはたくさんいる。分別のある者には地球規模の問題は解決できない。あらゆるものが変わっていく変化の時代をリードするのは分別のない人間であり、シンギュラリティ大学には分別のない人間たちの発想が溢れている、としめくくった。




北野氏が注力する3つのチャレンジ

続いて基調講演にはソニーCSLの北野宏明氏が登壇した。北野氏は現在主に、次の3つのプロジェクトでゴールを目指してチャレンジしていると言う。それはロボカップ、サステイナブル・リビング・アーキテクチュア、ノーベル・チューリング・チャレンジの3つ。

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ソニーコンピュータサイエンス研究所 代表取締役社長 北野宏明氏

■ロボカップ
2050年までに完全自律型ヒューマノイドロボットのチームでFIFAワールドカップのチャンピオンチームに勝利する
(この過程で生み出された技術が社会・産業を変革する)

■サステイナブル・リビング・アーキテクチュア
インフラのない場所でも、東京やシンガポールの生活水準を実現する

■ノーベル・チューリング・チャレンジ(グランドチャレンジ)
2050年までに、医学・生命科学分野でノーベル賞級の発見をする人工知能システムを開発する
(自律的に研究を行うAIサイエンティストがノーベル賞選定委員に、人間ではないと気付かれないで受賞できるか)

ロボカップではロボットがサッカーをする技術は年々進歩していて、例えば自律的に戦術に合わせて行動する分散ロボット技術を応用して、倉庫管理を行う「アマゾンロボティクス」のシステムが誕生した、などロボカップの技術が産業に反映されている具体例をあげた。(ロボカップの公式ホームページ参照)
地球環境に悪影響を与えずに、持続可能な産業開発を行うことを「サステイナブルな社会」と呼ぶ。サステイナブル・リビング・アーキテクチュアでは、フィリピン、マニラなどの電気がない地域の事例や汚れた水による感染症で亡くなっていることをあげて、環境の水マネジメントや電気を届けるプロジェクトをソニーとして行ったことを紹介した。ガーナでは昼間のうちにソーラーパネルで充電し、FIFAのサッカーワールドカップのガーナ戦を展示型のビューイングシステムを使ってみんなでパブリックビューイングで観戦するプロジェクトを行い、成功したと言う。



石黒教授「自分の存在を増やし、存在を復元するロボットたち」

人間そっくりのアンドロイドやマツコロイドの開発で知られる大阪大学の石黒教授は「ロボットの未来社会」として、10年後、100年後、1000年後の未来を語った。

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冒頭では、いままで石黒氏が開発してきたロボットたちに触れた。石黒氏と言えば、自分そっくりのアンドロイドを開発したことでも知られているが、最近は、遠くで開催される講演に登壇するのはもっぱら石黒氏のアンドロイドだと言う。遠隔操作によって自身が講演を行うもののその場にいるのはアンドロイドだ。自分そっくりロボットによって、石黒氏の物理的な「存在を2倍にする」意味があると言う。
2012年に発表した桂米朝氏の米寿を記念して開発された「米朝アンドロイド」は、高齢のため高座に上がれなくなった本人に変わって落語を行うアンドロイドだ。これは「衰えた存在を復元する」ロボットだ。
更に、最近発表した夏目漱石そっくりの「漱石アンドロイド」は「今まで想像しかできなかった人物の存在を復元する」ロボット。
石黒教授が生み出したアンドロイドは、このように3つの存在にチャレンジし、達成している。


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ロボスタ編集部

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