ドコモの新たな挑戦 (2) キャリアフリーの会員獲得戦略へ!ドコモから見た音声インターフェースの魅力と課題

NTTドコモは「my daiz」(マイデイズ)の発表会で、ビジネスの展望として今後は大きく方針を変更していく意志を明確にした。通信回線の契約者数の競争から脱却し、キャリアフリーの会員獲得にもフォーカスしていくと言う。
「my daiz」はその急先鋒を担うことになる。

「2018夏 新サービス・新商品発表会」での株式会社NTTドコモ 代表取締役社長 吉澤和弘氏。様々な製品・サービスがある中で、my daizは冒頭に発表された。このことからも同サービスにかける意気込みを感じる

前回の記事「ドコモの新たな挑戦 (1) AI音声エージェント「my daiz」の特長と行動分析から学ぶパーソナル学習機能」では、新サービスとしてはじまった「my daiz」の機能や特徴、しくみなどを聞いた。今回の後編では、開発者や提携企業にとってmy daizがどのようにビジネスに繋がる可能性があるのかを、引き続き、NTTドコモのエージェントサービスの担当者である関﨑氏と近藤氏に聞いていこう。


回線契約数から会員数へと舵を切ったドコモ

ドコモは、2017年4月に掲げた中期戦略2020「beyond宣言」を推進し、顧客の利便性の向上を図るため、2018年5月に会員プログラム「dポイントクラブ」をリニューアルした。従来は携帯電話の契約者の獲得数が企業としての重要な指標となっていたが、今後は「dポイントクラブ」の「会員基盤」(dアカウント)を軸とした事業運営に舵を切った。この事業方針にmy daizはどう関わってくるのだろうか?

関﨑(敬称略)

dアカウント会員に関しても、お客様との接点になる、という意味でmy daizが大きな役割を果たすと考えています。
「dポイントクラブ」では、dポイントを貯めて使って頂くことがメインとなっていくのですが、dポイントが使える近隣のお店を案内する、失効期限が近いdポイントを通知して教えてくれる、など、会員に寄り添ったコミュニケーションツールとしての役割のひとつとなっています。
また、dゲーム、dブック、dミュージックなど「d」がつくサービスは、もともとドコモ回線ユーザー以外にもご利用頂けるサービスとてキャリアフリーで提供してきたものの、やはりまだまだドコモ会員向けのサービスだと感じている方も多いので、my daizのご利用をきっかけに、ドコモ回線ユーザー以外の方にも幅広くdアカウントやサービスをご利用頂き、認知して頂きたいと考えています。そして、まさにmy daizをきっかけに、その方向に向かって歩き出したと言えると思います。

株式会社ドコモ コンシューマビジネス推進部 エージェントサービス担当部長 関﨑宜史氏




提携パートナー企業の目標は2020年までに150社

my daizの発表会では、56社の初期参画パートナー企業との提携を発表、2020年までに150社に増やすことを目標にしている。発表以来、多くの企業から問合わせをもらっていると言う。

サービス開始時の初期参画メンバー数は56社だ。メンバーの一覧は公式ページで確認できる。目標を2020年、150社としている

編集部

企業がmy daiz用のメンバー(アプリ)開発やコンテンツ提供に参画したいと思ったらどのように申し込めばいいのでしょうか

近藤(敬称略)

ドコモは「AIエージェントAPI」をオープン化し、「サービスにもオープン」「デバイスにもオープン」な、音声インターフェースをベースとした新たなサービスの協創と提供を行う「ドコモAIエージェント・オープンパートナーイニシアティブ」を推進しています。現在は、その中からご相談しながら共同で開発をすすめています。お客さまのライフスタイルを革新する、日常生活に合ったコンテンツをお持ちだったり、音声会話でサービスを提供していきたいという企業様はぜひ「ドコモAIエージェント・オープンパートナーイニシアティブ」にご参加頂きたいと思っています。

株式会社ドコモ コンシューマビジネス推進部 エージェントサービス 第一エージェントサービス担当課長 近藤佳代子氏

編集部

メンバーの開発環境はどのようなものでしょうか。

近藤

開発の言語は「AIML」を使います。AIMLの標準の仕様に加えて、スマートフォンでアプリが動作しやすくするためのオリジナルの仕様も追加しています。そのため、まずはmy daiz用の開発者向けガイドをオープンにしていくことから始めていく予定です。

編集部

2020年までに提携パートナー企業を150社に増やすという目標を掲げられています。比べるべきかどうかはさておき、Amazon Alexaのスキルの数は既に1,000を超えています。2020年に150社というのは、ずいぶん抑えた数字のように感じますが、提携パートナーを選定したり、メンバー(アプリ)の品質を維持するなど、慎重に増やしていく戦略なのでしょうか

近藤

いいえ、パートナー企業様やメンバーがどんどん増えていくことは決して否定していません。むしろ、たくさんのメンバーによる大きなムーブメントには期待しています。ただ、数を増やすことを優先してはいません。対話によって商品が買えたり予約ができたり、サービスが受けられるといった、今まで体験したことのない高度なことまで視野に入れた場合、ひとつひとつの機能を相談させて頂きながら、品質の良いコンテンツを提供していきたいという考えはあります。



ユーザーに役立つコンテンツの提供を重視

メンバーの機能は予約や購入など、直接ビジネスに繋がるものばかりとは限らない。例えば、ある証券会社が提供しているメンバーは、株売買の取引を行う機能ではなく、”株主優待情報の提供” を主な機能としている。株主優待サービスは株主になることで特定の商品やサービスが受けられる株主にとってお得な情報のひとつだ。しかし、株主優待サービスの存在や、その中身、お得度を知るきっかけを持たないユーザーもまだまだ多い。my daizには「新たな気づきを提供していく」がコンセプトであり、ユーザーが株主優待を知る新たな気づきのキッカケとなれば親和性が十分に高いと判断し、そこでこの情報提供を行うに至ったと言う。

近藤

ドコモにとっても、パートナー企業様にとっても、my daizがコアビジネスに結びつくだけではなく、それ以外の気づきも提供していくことも大切だと感じています。その意味で、今後はメンバーの内容はそれぞれのパートナー企業様がディレクションして頂くものだとも感じています。

編集部

ガス会社が「my daizでmy daizチキのガス料金の支払いができるようにしたい」とか、証券会社が「my daizで株の取引までできるようにしたい」という希望を持った場合、支払いや取引までプラットフォーム(基盤)内でできるようになるのでしょうか

近藤

パートナー企業様のシステムのAPIがあれば、それを私たちのプラットフォームがお預かりして、my daizからAPIを通じてパートナー企業様のシステムを呼び出し、手続きをそのシステム内でおこなって頂くしくみです。そうした連携を前提にしたシステムが組めるように、IDの連携やAPIのアジャスト連携は考慮してプラットフォームの中に準備しています。

編集部

支払いをドコモ回線の月額請求に乗せることはできますか?

近藤

決済に関してのエコシステム的な開発は今後の予定としています。現時点ではご用意できていませんが、今後はドコモで決済を行うというシステムのご要望も増えてくると予想していますので、今後の機能開発として前向きに検討していきます。

編集部

広告モデルは考えていますか?

近藤

現時点では広告モデルはまだ考えていません。my daizの機能を駆使して、パートナー企業が発信する情報を多くのユーザーに届けたり、その情報を望んでいるユーザーに確実に届けることを重視しています。それがユーザーにとってメリットになりますし、それによって結果的にパートナー企業が売上げを伸ばす方向になればビジネス的にもよいお手伝いになるだろうと考えています。




ドコモから見た音声UIの魅力、課題

編集部

my daizの大きな特徴のひとつは音声によるインターフェース「VUI」(Voice User Interface)ですね。「しゃべってコンシェル」のノウハウもあり、国産VUIとしてユーザーの期待も大きいと思います。ドコモさんにとって、VUIの魅力と課題を教えてください。

近藤

音声による操作は、操作を覚える必要がなく、直感的に使える点が魅力だと思います。例えば、my daiz側から問いかけてくれたことに応えるだけで良かったり、能動的だけでなく受動的に聞くだけで情報が得られる側面もあって、幅広いお客様に受け入れて頂けるものだと考えています。
一方で、情報を音声でしか聞くことができない場合、その用途は限定されてしまうのではと思っています。「しゃべってコンシェル」での知見から言えば、情報が音声での提供だけで済むものと、画面があった方がよいものがあります。例えば、観光地の情報は音声での解説とともに写真や映像があった方がイメージしやすいですし、レシピも音声だけでなく、料理している最中やできあがりの写真、文字での情報もあった方がいいですよね。my daizはスマートフォンの画面でそれらを表示し、提供できる点で、音声操作と音声だけの情報提供と比較して、解りやすいコンテンツを提供できるのがメリットだと考えています。

関﨑

スマートスピーカーでは、プライバシーもしばしば問題視されています。他人に聞かれたくない予定や預金残高などを読み上げられるのは抵抗を感じる人も多くいます。そういった情報は音声読み上げより、画面で見る方が適しています。
音声だけでやりとりするサービスを決して否定はしませんが、画面によるインターフェースもあることで、より多くの情報がスムーズにやりとりできると考えています。



スマートスピーカーと比較すると、セキュリティ面でもスマートフォンは有利だ。スマートフォンにはもともとロック/解除機能があるので、ロックを解除してmy daizを起動している時点で、ある程度の認証は完了していると言える。
また、スマートスピーカーと比較すれば、スマートフォンは持ち運べる点で優れている。たしかに画面があることは写真や文字を使った表現力でまさる。しかし一方で、マイク性能やビームフォーミング技術など、音声入力にハードウェア的にチューンアップされたスマートスピーカーに比べて、スマートフォンの音声聞き取り精度は高いとは言いがたい。そしてなにより、スマートフォンには音声エージェントとして「Googleアシスタント」や「Siri」が標準で入っている。それらを使わずにあえてmy daizを使ってもらうための付加価値が求められることになる。パーソナライズや先読み機能が、ユーザーに受け入れられるか、ドコモやメンバーが提供するコンテンツがユーザーにとって本当に価値あると感じられるものになるか。そこに命運がかかっている。



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my daiz / sebastien fan club japan


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神崎 洋治

神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。

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