「現場プロセスイノベーション」の本質は技術をプロセスとして繋ぐこと パナソニックのBtoB向けロボットソリューション

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2018年に創業100周年を迎えたパナソニック株式会社が、10月30日(火)~11月3日(土)の日程で「クロスバリューイノベーションフォーラム2018」を開催した。4日目の11月2日には、物流や食品加工産業分野などBtoB分野へのロボット技術に関する講演が行われた。2日目の10月31日に行われた非接触給電システムのセミナーと合わせてレポートする。


パナソニックのBtoB=現場プロセスイノベーション


パナソニック スマートファクトリーソリューションズ株式会社 常務取締役 コネクテッドイノベーションSBU長 足立秀人氏

パナソニック スマートファクトリーソリューションズ株式会社 常務取締役 コネクテッドイノベーションSBU長の足立秀人氏は「ロボティクスを活用したリテールサプライチェーンへのご提案」と題して講演した。パナソニックの4つのカンパニーの一つであるコネクティッドソリューションズ社(CNS)では「BtoB=現場プロセスイノベーション」と捉えているという。世の中の活動は人を介して行われている。パナソニックではBtoBへ注力するにあたってもERP(基幹系情報システム)などのソフトウェア系ではなく、これまで培ってきた品質・安全などのノウハウを活かせる物理的な「現場運営プロセス」を改善するところにこそ強みを活かせるし社会貢献ができるのではないかと考えたのだと語った。


パナソニックCNS社の概要
現場プロセスイノベーションコンセプト

足立氏は「パナソニックは産業用ロボット分野でトップレベル企業だ」と語った。パナソニックでは、米粒よりもはるかに小さい部品を、高速かつ正確に基板に実装する電子部品実装関連システム、溶接ロボット/レーザー溶接システムなどを手がけている。溶接システムは特に中国市場で伸びており、仕上がり、強度などのプロセスで高い評価を受けているという。実装システムの精密技術は、機械加工と人の手によるチェックがベースになっており、それが差別化につながっていると紹介した。


パナソニックの産業用ロボット
パナソニックのスマートファクトリーソリューション


生産技術ノウハウを流通・物流・食品加工分野にも適用


スキューズと開発中の食品加工分野用ロボット

それらを踏まえて、パナソニックは流通・物流・食品加工分野にも進出している。コア技術を組み合わせて各々事業を展開し、さらに自動化・省人化ノウハウを他の業界にも展開しようとしている。また実装MESシステム「PanaCIM」を活用して商品情報などを管理しているという。工場内のプロセス、運営は、これまでの設備間の接続や動線管理、ものの動かし方、職場環境などを改善してきたノウハウを蓄積した「モノづくりプロセス最適化ソリューション」で最適化している。グローバルな工場改善のノウハウを会社に集めると、たいていの顧客の工場に対して改善点が見つかり、それをベースにビジネスを展開しつつあるという。効率の良い設備の使い方をプロセスとして提供しており、現在ではかなり大きなビジネスになっていると語った。


ロボット活用領域の拡大

物流や食品加工では共通する社会課題として人手不足が顕著になっている。少子高齢化は世界にも広がりつつある。日本企業であるパナソニックが課題先進国・日本で起きている社会課題に対する効率的な答えを逸早く見つけることができれば、それは将来、世界的なソリューションになり得る。そのような文脈で新たな分野にも踏み出している。
そのために重視しているのがアジャイル型事業開発だ。顧客を巻き込んだかたちで事業を開発する。そうでないと顧客のスピードに全くついていけないという。特に業界で大きな影響力を持つリードカスタマーを選んで、顧客に密着して現場でパナソニックの工場経験から仮説を立て、顧客の仮説とディスカッションする。そしてソリューションを現場に適応しては修正を繰り返す。開発を一周だいたい1ヶ月くらいで回すような高速開発を行うことで世の中にこれまでなかったような、痒いところに手が届くような開発ができないかと進めているという。


アジャイル型開発を方針としている


AI、IoT、ロボティクスを活用してサプライチェーンを革新する

ものづくり現場では単純作業の繰り返しが行われている。物流現場では1t以上あるカゴ車を道具を使って扱っている。凸凹がある床での転倒は日常的に起きている。コンビニ現場では外国人店員が不慣れな言語で、非常に複雑な業務を行なっている。そしてEコマースの隆盛によって流通業界全体が大きな変化をしている。


流通業界の課題

ここに、AIやIoTを使った、サプライチェーンの効率化もできるはずだと考えていると足立氏は語り、4つの事例を紹介した。レジロボ、ウォークスルー会計、自動搬送ロボット、蓋かけロボットである。実際に顧客にトライしてもらって導入が始まりつつあるところだという。


4つの事例

レジロボはコンビニでの導入を想定した実証実験を行なっている。なおこの使い方だと必ずかごを持たせるので、平均買い上げ点数が増えるというメリットもあったそうだ。

ウォークスルー型会計ソリューションはRFIDを商品につけた実証実験で、九州に本社があるトライアルカンパニーと取り組んだ。ウォークスルーで会計を行うためにはアンテナのパワー制御や実際に読みとるときのアルゴリズムなどに技術が必要となるが、電子タグのコストも加速度的に下がっていることから先行的に取り組みを進めているという。



サプライチェーンの可視化

サプライチェーンでは情報をつなぐことが重要だ。工場からのデータ連携対応にも力を入れている。ものづくりからすれば理想的なのは、一個売れたら一個作る。それが一番効率が高い。実際にはものを運ぶリードタイムなどがかかるのでそれは無理だし、それぞれの現場のあいだの情報のやりとりに時間がかかる。それが廃棄ロスや在庫の問題につながっている。
パナソニックでは経産省とも連携し、サプライチェーンの可視化を行うEPC-IS(Electronic Product Code Information Service)の標準化・普及に力を入れている。これらの取り組みによって、一瞬で情報がつながっていく世界を目指す。結果として顧客としても一瞬で買い物が終わるし、店舗運営の効率化が可能になり、売れ筋に応じて自動で値段を変える「ダイナミックプライシング」のような仕組みを導入することで付加価値増加が期待できるという。


RFID、EPC-ISなどを使った新たな価値創出


低床型の自動搬送ロボット


低床型の自動搬送ロボット。800kgを持ち上げられる

物流現場向けには低床型の自動搬送ロボットを開発している。132mmと背が低いのに800kgを持ち上げることができる台車だ。この高さはカゴ車の平均高さが172mmなので、それを持ち上げられるようにと決められたという。実際のカゴ車は中央部が凹んでいたりするので、ロボットが実際に滑り込めるようにクリアランスを考えて132mmという数字になったそうだ。

ロボットがカゴ車を持ち上げるときの機構は、カメラのズームアップ機構を応用して作ったという。さらに群制御もでき、一つのシステムで同時に100台を運用することができる。もちろん物流以外、ものづくり現場でも活用は期待される。「様々なすりあわせ技術開発が必要になる領域だが、これをやりきれば日本社会の大きな課題である生産効率改善に寄与できる」と考えているという。


物流だけでなく生産分野でも活用可能


食品加工分野ではスキューズと連携

食品加工分野ではFA・制御技術で知られるスキューズ株式会社と開発している、チルド弁当への蓋かけロボットを紹介した。


食品加工産業分野へのロボット導入

食品加工では人が並んで作業をしている。お弁当にはいろんな形状がある。そのたびにロボットを入れ替えることはできない。また、食品工場には生産技術部隊がいないので、技術者が行って立ち上げないといけない。いちいち技術者を呼ぶわけにはいかないので、ハンドを交換するときにはレンチやスパナもいらない、簡単なものといった要求仕様があり、それらに答えようとしているという。


食品加工現場で使いやすいロボットシステムを開発中



技術を「プロセス」として繋いでロスを減らす

足立氏は、一台のロボットを入れるのではなく、あくまで現場で「プロセスとして繋ぐ」ことが重要だと強調した。「パナソニックが保有している様々なITシステム、ハードウェアをソリューションとしてしっかり繋げていくと、様々なロスが解決できる。そして対価を頂く。そうでないとこれからのこれからのBtoBは成り立たない」と語り「このロボット1台いくらという商売ではない。横連携でつなげたときのメリットは莫大。食品加工現場への導入からその実績が出てきており、我々も実感し始めているところ。たくさんのキラーデバイスと、たくさんのお役立ちを提供していきたい」と語った。


分断された情報を一気通貫でつなぐ

開発についてはパナソニック社内だけで閉じるのではなく「あるものは使えばいいし、ないものは作ればいい」という方針で開発しており、多くの会社と業務提携をしてサプライチェーン改革を進めていると述べ、「一人一人の生活者がどれだけ豊かに生活をアップデートできるかということを考えて取り組んでいかないといけない」と講演を締めくくった。


物流搬送におけるロボティクスの取り組みとプロセスイノベーション


パナソニック株式会社コネクティッドソリューションズ社 プロセスオートメーション事業部
ソリューション事業開発センター ロボティクス開発部 部長 松川善彦氏

パナソニック株式会社コネクティッドソリューションズ社 プロセスオートメーション事業部 ソリューション事業開発センター ロボティクス開発部 部長の松川善彦氏は「現場プロセスイノベーションを実現する自動搬送ロボットソリューションの開発」と題して講演し、物流分野、特に搬送に絞ったアプリケーションについて語った。

作るところから売るところまで一貫して一社で進めているところはデータが統一されているが、そのような会社は少数の大手しかない。「作る・運ぶ・売る」は異なる業者が行い、システムも違う。データのやりとりは人海戦術になっている。そのシステムとデータの階層を繋げることが目指すところだという。そうすることで消費者の多様なニーズに応え、労働力不足に応えられるようになる。物体を動かす搬送も現在は人が担っているが、効率化のためにはロボットが期待される。


多様なニーズにこたえるサプライチェーンマネジメント


低床型とフォーク型の搬送ロボットを開発中

BtoBでは、顧客にどういう「困りごと」があるのかを個別に見ていかないと使い物にならない。そこで業界リードカスタマーと話をして、その顧客の競争力強化に貢献できるようなシステムを提案しているという。搬送ロボットを動かすとロボットは位置情報を持っているので、どの品物がいつどこにあるのか全部記録ができる。また人が介在しないのでヒューマンエラーが起きず、作業の品質の安定化が可能になる。これらはロボット導入のインセンティブになる。
重量物の搬送は負荷が大きい。災害もある。ロールボックスパレット、いわゆるかご車はおよそ800kgになり、中にはクールボックスなど中身が冷蔵庫になっているものは1t近くになる。軽自動車なみの重量を人が振り回して動かしていることになる。またフォークリフトが縦横無尽に走っている現場もある。
倉庫ではモノの移し替えが頻繁に発生する。しかもその作業には付加価値はない。自動化において「荷姿(にすがた)」を共通化するというのは効率化の一つの手段だが、多くの顧客はこれまでのやり方を変えること望んでおらず、既存の運用を継続したいと考えている。つまり何万台もあるかご車を入れ替えることはで難しい。現場で用いられているパレットや6輪台車、オリコン台車などは自分たちが使いやすいように自分たちで開発するところもあり、既存のロボットを導入して運ぼうとなっても、簡単には合わない。そこで低床搬送ロボットを開発したのだという。


物流現場では運用の変更が難しい

コネクティッドソリューションズ社では現在、搬送の自動化に向けて二つのタイプのロボットを開発中だ。かご車を自動把持できる低床型のロボットと、汎用パレットの自動把持ができるフォーク型のロボットである。


かご車を自動把持できる低床型のロボットとフォーク型のロボットを開発中


低床型ロボット


搬送プロセスシミュレーターで全体を最適化

BtoBで一番に考えないといけないことは顧客の経営効果である。まずはロボット利用によってトータルでコスト削減するために、まずは顧客が何をどうやっているかの把握することが重要だ。松川氏は、特に作業者と搬送の前後工程が重要だと強調した。ロボットに積み下ろしする手間が逆に増えてしまっては意味がないので、搬送だけではなく前後のつながりをきっちり考えないと「どう使うの?」と言われてしまう。もちろん、安全性や建物設備を考慮することも重要だ。


経営効果を改善するためにシミュレーターを活用

パナソニックでは、まずはシミュレーターで効率を計算して顧客に対し「ロボットを何台入れたら効果がこれだけある」ということを示しているという。そして群制御システムDOS(Distribution Opimization System)と呼ばれる配送最適化システム、その下にAMR(Autonomous Mobile Robot)と業務支援システムを介して作業者を置く。ここが顧客のタッチポイントになる。これ全体を搬送プロセスシミュレーターでシミュレーションし、システム設計する。


自動搬送ソリューションの構成要素

「搬送プロセスシミュレーター」は地図情報や運用情報などから、どの荷物をどこからどこまで運ぶというデータをシミュレーターに入れると結果レポートがでてくるというもので、ロボットの台数、処理能力から何台入れると最適かを自動計算してくれる。ロボットには物理的な一定の大きさがあるので、いっぱい入れてしまうと動けなくなってしまうのだ。そういったことをシミュレートして、処理しないといけない荷物個数と見合わせながら、どこが最適かを見出すツールである。ロボットが効果を出さないときは要は前後工程とうまく合ってないことになる。ビジュアルで見ることができるので、イメージがわきやすいという。


ロボット台数の最適化や見積もりもシミュレーターで行う


配送を最適化する群制御システムDOS

「群制御システム」はロボット以上に大事だという。複数台のロボットの効率的な制御を行うことができる。なおパナソニックでは自社のロボットだけにこだわっておらず、他社のロボットも活用できればいいと考えているとのこと。配車・運行制御では、「チケット」と呼ばれる、ある荷物を送るデータを見て、DOSとロボットがネゴシエーションして、その荷物をどのロボットが扱うか決める。荷物の属性、すなわち、今パレットにのっているのか、かご車か、どのくらい急ぐのかといったデータもそのときには照合される。ロボットの渋滞や衝突回避、充電は当たり前の機能だ。
フレキシブルな運用も、荷物量の急変動が起こる物流では重要だ。需給波動を吸収できるか。頻度が少ないときはロボットは遊んでしまう。そこで昨今は近隣の倉庫とロボットをシェアリングするといった仕組みも考えているという。当然、ビジネスモデルとしてはロボット単品を何百万売るというかたちではなく走った距離に応じて課金するRaaS型になる。また、自動ドア、シャッター、エレベーターなど周辺設備との連携も考慮する必要がある。


荷物属性から効率的にロボットを配車、フレキシブル運用に対応

全体としては中央制御と分散制御の中間であるハイブリッド型制御をとっているという。群制御サーバが大まかな指示を出し、ロボットはある程度自律的に動く。全体の効率化ができ、ロボットの計算が軽く、実際の状況に応じた柔軟な行動が可能になるからだ。群制御ではパレットとロボットによってデッドロックが起こってしまうようなケースで、旋回用スペースをちゃんと確保するといった細やかな制御も行なっており、顧客現場で実証実験を行うまえに、まずあたりをつけることもシミュレーターで事前検討していると紹介した。


群制御にはハイブリッド型を採用


使う側と機械側の協調安全

ロボットは直進時と旋回時で2段階の減速領域を持っている。床面がツルツルだとロボットは急ブレーキをかけると滑ってしまう。その距離を停止領域にしている。それを担うのが安全LiDARで、安全認証をとったLiDARを用いている。ここに追加ソフトウェアを入れたりすると再度認証取得が必要になるので、「認証が取れたセンサーでバシッととめてしまう」ことが重要だという。


安全LiDARを使った停止

だが現場にはやはり課題があり、たとえば埃っぽい環境ではLiDARに埃がたまって誤検知してしまう。だがロボットが停止してしまうと仕事にならない。そこで顧客にこまめに拭いてもらったりすることで対応しているという。なおワイパーをつけたりすると、また再認証が必要になるので、運用で解決するようにしているとのこと。「ロボット自体に開発コストをかけたら逆に顧客に迷惑をかけることになる。バランスをとっていかないといけない」と松川氏は語った。
自己位置推定にはロバスト性が高いパーティクルフィルタを用いている。もちろんロボットにはロータリーエンコーダーもついているが、車輪と床の滑りで蓄積する位置誤差を修正する。なお床面にガイドをつけると設備を変えた時に張り替えないといけないので、無軌道を望む顧客が多いという。パーティクルフィルタでは自己位置推定する仕組みは以下のとおり。まず、自分の位置を点の集団で表現する。一定時間移動すると、その点の群れが広がっていく。そこで環境計測をして、あり得ない点を消す。そこでまた点を増やす。この繰り返しで自己位置を推定し続ける技術だ。環境を見ながら走らないといけないので広大なエリアでは精度が落ちてくるが、その場合は環境のなかにランドマークをおかせてもらうことで対応している。


自己位置推定にはパーティクルフィルタを活用

ロボットが運ぶパレットにはマーカーをつけてカメラで認識しているが、マーカーが嫌だという顧客も多いため、LiDARを使う方式も組み合わせている。


マーカーとLiDARを使った認識を組み合わせてパレットを運搬

安全に対する考え方については、従来はロボット側での安全が第一義とされていたが、いまはリスクアセスメントで危険源を洗い出し、許容可能範囲までリスクを低減し、そして残留リスクに対しては両者が納得して使ってもらうかたちになりつつあるという。「使う側と機械側の協調安全を一緒にやらないと自動化はなかなか進まない」と語った。


自動化においては「使う側と機械側の協調安全」が重要

最後に松川氏は「顧客とアジャイル開発を進め、本当に使えるものを作っていきたい。技術的にはDOSが重要な位置付けになってくる。顧客の経営効果が上がれば他社のロボットもソリューションとして使っていく」と講演を締めくくった。


技術的には柔軟性のある群制御システムと最適化シミュレーターが要となる



搬送ロボット向け非接触給電システム


パナソニック株式会社 オートモーティブ&インダストリアルシステムズ社 技術本部 エネルギーソリューション開発センター 統合システム開発部 開発2課 高橋英治氏

二日目の10月31日には「桁違いの生産性向上を実現するロボティクスソリューション」と題して、パナソニック株式会社
オートモーティブ&インダストリアルシステムズ社 技術本部 エネルギーソリューション開発センター 統合システム開発部
開発2課の高橋英治氏が講演し、非接触給電システムについて紹介した。
協働ロボットや搬送ロボット利用の背景には人件費高騰や労働力不足があり、自動化システム、ロボットの導入は今後ますます加速する。また稼働率をあげることで効率的活用を実現することが必要になる。


ロボット需要は今後も拡大

AGVのような移動ロボット導入には充電の問題がある。移動ロボットは当然、バッテリーで駆動する。人が介在しないシステムならば自動で給電しなければならない。だが電池で駆動するシステムには航続距離に制限がある。たくさん電池を積むと自重は増加して、ロボット自体の燃費(電費)が悪化する。また電池自体の維持コストもかかる。充電中は作業を停止しないといけない点も課題だ。


移動ロボットの課題

そこでパナソニックとしては、走行作業中に給電できる「非接触給電システム」を開発している。稼働時間とコストを最適化して、かつ、稼働率を損なわないシステムだという。
非接触給電システムは様々なところで提案されている。どのくらいの電力を給電できるか、そして位置ずれをどのくらい許容できるかが導入指標になる。搬送用AGV向けとしては、位置ずれを単に許容するのではなく、動いているときにも給電できればベターだ。


用途に合わせた非接触給電

一般的な非接触給電システムは現実的には「磁界結合型」に集中している。比較的距離も飛ばせて、それなりに効率も出るからだ。では移動体に対してもそれがリーズナブルなのかというと課題がある。送受電コイルの位置ずれが許容できないし、エネルギーをやりとりするコイル間に金属が入ってしまうと異常発熱する。また床敷設が難しく、設置場所の変更が容易ではない。もし、位置ずれに強く、その他の課題を解決した方式ならば適用分野は拡大することが期待できる。


非接触給電システムの種類

そこでパナソニックでは「電界結合型」に着目した。非接触で電力をやりとりするアンテナの金属板どうしのあいだでコンデンサのようなものを形成して、エネルギーをやりとりする方式である。


電界結合型に着目

具体的には交流電力を一度直流に変換したあと、周波数の高い交流波形に整形する。それをさらに整合回路で非常に高い電圧の正弦波に変換する。周波数が高く電圧が高いほうがエネルギーのやりとりがしやすいからだ。それを受け取る側で低い電圧に変換し、さらに直流にして、電池やモーターに供給する。原理的に、対向する金属板同士の面積が変わらなければ電力送受の効率は変わらない。つまり大きな電極板の上で小さな電極板を動かせば効率は変わらない。それをAGVに利用する。金属板は厚さ3mm程度の薄い金属板で十分なので、前述のような課題をクリアできるという。


電界結合型の概要


電界結合型の利点

実際に移動ロボットに適用することを想定した場合、高周波回路と電極シートを工場の床の数カ所に設置し、AGV側に受電アンテナと回路ユニットを搭載して運用することになる。


AGVへの適用

このようなシステムを物流倉庫に設置することを考える。従来は定置充電だったものが、AGVは給電シート上を通過するたびに頻繁に充電されるので、充電スペースが不要になり、ロボット本体の稼働率も向上することが期待できる。搭載する電池の容量も必要なぶんだけ搭載すればいいので、試算すると、従来は20Ahくらい必要だったものが4Ah程度ですむようになるという。必要最小限の容量の電池を積むことで小型軽量化が実現できる。充電レートの高いキャパシタ系電池を使うこともできるようになり、そうなると電池サイズと重量は従来比半分以下と大幅に下げることができる。


物流倉庫に導入したときの効果


ケーブルレスの非接触化ユニット

製造業向けはどうか。人協調・共存ロボット市場の立ち上がりで、ロボット活用・採用用途が拡大している。また柔軟な生産システムへのニーズが拡大している。ロボット自体の性能も向上しており、どんどん複雑な作業ができるようになっており、ロボットを活用した生産性向上にますます期待が集まっている。
製造業分野では組み立てやハンドリングにアーム型、そしてXYステージなどではスライダーを使った直動型ロボットが使われることが多い。これらにはロボットに電力や情報を送るためのケーブルが用いられているが、ケーブルには屈曲による断線リスク、可動部分への配線集中や小型化の限界、ケーブルがねじ切れない範囲でしか動けない回転制約など諸問題がある。ケーブルを保護するケーブルベアがXYステージのサイズを大きくしているといった課題もある。ケーブルには課題が多い。


製造業向けロボットにおけるケーブルの課題

電源・信号線であるケーブルをなくし、非接触化できれば、課題を解決できる。無限回転もできるようになるし、作業レイアウトや動作自由度も拡大する。断線のリスクも当然なくなるし、分解洗浄も容易になる。ケーブルがひっかかることによる事故もなくなる。


ケーブルレス化による様々なメリット

パナソニックでは非接触化ユニットの開発を進めている。特徴は小型・高効率・負荷範囲が広い無線給電が可能であること。アンテナはコイルを使った磁界給電技術だ。これを使って、2種類の非接触化ユニットを提案している。回転型と直動型だ。回転型は2017年の「国際ロボット展」に出展されていた。送受電ユニット合計で800g、伝送電力は300W(瞬間900W)、伝送速度は最大10Mbps。非接触なので当然、無限回転できる。


回転型の非接触化ユニットのプロトタイプ

直動型はケーブルベアがなくなることで占有面積が下がり、摩耗や騒音もなくなる。


直動型非接触化ユニットを適用した例。占有面積が小さくなる

非接触化によって、ロボット自体を高密度化してワークスペースを高効率化し、狭い場所でも干渉しない構造を取ることができて、よりコンパクトな空間で作業が可能になる。また関節部の取り外しが容易になり、メンテナンスが簡単になるといったメリットがある。


工場での適用メリット

高橋氏は最後に、実際に3軸ロボットを使って作業する様子を示した。人協調の現場においても、人を避けやすくなるので、作業の自由度が上がるという。


非接触ユニットを活用したロボット
《森山 和道》

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森山 和道

森山 和道

フリーランスのサイエンスライター。1970年生。愛媛県宇和島市出身。1993年に広島大学理学部地質学科卒業。同年、NHKにディレクターとして入局。教育番組、芸能系生放送番組、ポップな科学番組等の制作に従事する。1997年8月末日退職。フリーライターになる。現在、科学技術分野全般を対象に取材執筆を行う。特に脳科学、ロボティクス、インターフェースデザイン分野。研究者インタビューを得意とする。WEB:http://moriyama.com/ Twitter:https://twitter.com/kmoriyama 著書:ロボットパークは大さわぎ! (学研まんが科学ふしぎクエスト)が好評発売中!

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