非製造業分野の課題は製造現場とおおむね共通 パナソニックCNS、共創スペース・カスタマーエクスペリエンスセンターを開設

パナソニック株式会社の社内カンパニーでB2Bソリューション事業を手がけるコネクティッドソリューションズ社(CNS)は、2019年1月に同社本社のある浜離宮ビルに、顧客接点のハブ機能となる「カスタマーエクスペリエンスセンター」を2019年1月にオープンすると発表し、2018年12月17日に記者会見とお披露目を行った。



カスタマーエクスペリエンスセンター


非製造業分野の課題は製造現場とおおむね共通

パナソニック株式会社コネクティッドソリューションズ社 社長 樋口泰行氏

はじめに、パナソニック株式会社コネクティッドソリューションズ社 社長の樋口泰行氏は、同社が掲げている「現場プロセスイノベーション」のビジョンと、その推進状況について説明を行った。CNSでは変革をリードするために、そのフレームワークを「3階建」で考えているという。風土の改革、ビジネスモデルの改革、事業立地の改革だ。パナソニックのような大企業では当初の目的が忘れられたり、内向きになりがちな傾向があるため、原点に帰って仕事を考え直すことが重要だという。また単品ビジネスからソリューションビジネスへの変革、そして選択と集中の実践が重要だと強調した。

そのフォーカス対象が「現場プロセスイノベーション」だ。フォーカスした理由は、生産ライン用の自動機を自社開発しながらものづくりを行ってきたパナソニックのDNAとの親和性、戦略的意味とニーズの高まり、強みに変えられるコア技術や製品を保有していることだと述べた。


ものづくりを続けてきたパナソニックのDNA

樋口氏は、東京大学 藤本隆宏教授の考えを引用しながら、「現場プロセスイノベーション」のターゲット領域は、上位ICTシステムではなく、より現場に近い統合コントロール・レイヤー、そして「もの」が動く現場だと述べた。


ターゲット領域は現場

CNS社では製造業で培ったノウハウやロボティクスをテコとして、顧客の「つくる・運ぶ・売る」の革新を目指している。「あくまで現場の付加価値があるところにデジタルを乗せていく」という。


ロボティクスをテコに「つくる・運ぶ・売る」の現場を革新する

コア技術は人の認識やロボティクス、次世代通信、IoT機器向け各種技術、アンテナ技術、屋内外の測位技術など。これらの基礎技術が「自動化まったなし」の世の中のニーズとマッチすると述べた。


パナソニックCNS社のコア技術

非製造業分野の困りごとも、製造現場とおおむね共通しており、同社のノウハウを活かすことができるという。


非製造業分野の課題と製造現場の課題には共通している部分が多い

これまでに20件を超えるプロジェクトを実施している。そのうちの一つが中国の火鍋チェーン「海底撈」での「自動おかず倉庫」だ。


自動おかず倉庫の模型。3DCADデータから出力したもの

18台のロボットアームが冷蔵倉庫のなかで使われている。

樋口氏は「顧客からの期待値にも非常に手応えを感じている。我々は『現場プロセス本部』を作り、本格的にこの分野を推進していきたい」と述べ、新たな共創活動を生み出す接点として、「カスタマーエクスペリエンスセンター」をオープンすると紹介した。「B2Bの先には個人の生活がある。我々の取り組みは間接的な『くらしアップデート』への貢献だと考えている」という。



「現場の課題=経営課題」を改善していく現場プロセス改善

350名で立ち上げ、さらに倍増して顧客要望に応えていくとのこと

「現場プロセス本部」は2019年1月1日に立ち上げられる。メンバーは350名。現場プロセス改善のニーズは非常に高く、ここ2年くらいに倍増しないと応えられないと考えているという。


パナソニック株式会社コネクティッドソリューションズ社 上席副社長 兼 パナソニックシステムソリューションズジャパン株式会社 社長 片倉達夫氏

パナソニック株式会社コネクティッドソリューションズ社 上席副社長の片倉達夫氏は、取り組みをより詳しく紹介した。いま、人手不足は深刻化している。いっぽう、現場には「この人でなければできない」「頭のなかにノウハウがある」といった属人化した業務プロセスが多く、承継も難しい。プロセス改善には経験値も必要となる。顧客単独での現場プロセスの改善は非常に困難な状況になっているという。そこでCNSはまず現場を「整流化」し、IoTやロボティクスを使った効率化を実施する。特に流通・物流・製造の3領域にフォーカスしている。


現場の課題とパナソニックのアプローチ

パナソニックCNSはグローバル325箇所の工場を作り、それらの現場でタクトを決めたり、標準作業の設定による現場の「見える化」を進めて、改善を実行してきた経験がある。また、その後のプロジェクト実行、実装機や溶接機などロボティクスの導入なども行ってきた。これらの経験をベースに、「つくる」、「運ぶ」、「売る」、それぞれの現場の改善を目指す。


B2Bソリューションの知見を生かす「現場プロセス本部」を立ち上げへ

この仕事の場合、要件定義自体をパナソニックが行う必要もある。それらの経験者も数十人採用して、組織を一体化して事業に取り組んでいると片倉氏は紹介した。今後も人材補強は行なっていくという。そして「個々の顧客に向き合い、ソリューションを提供していく仕事なので、自社で完結する仕事ではない。パートナー企業と組んで顧客に価値のあるソリューションを提供していく必要がある」と述べた。

また、ターゲットとしては「現場の課題=経営課題」であるような顧客を対象にすることになる。CNSにとっても従来の大量生産ではなく「顧客起点のビジネス」へのシフトとなり、ビジネスモデル変革となる。顧客要望にも早く軽く対応できる新たなプロセスを確立し、ソリューション人材の拡充・育成を目指す。従来の課や部ではなく、顧客向けのプロジェクト単位で業務は進めるという。まずは日本で始めるが、中国、欧州、アメリカへと事業を展開していく予定。

たとえばヨーロッパでは、2017年に買収したゼテス・インダストリーズSA(Zetes Industries SA)の持つトレーサビリティ技術とロボティクスを組み合わせることで新たな物流小売改革を進めていく予定だという。

国内外で2020年までに累計100億円のプロジェクトを推進する。現在、中国の火鍋チェーン「海底撈」のほか、中食の製造ラインや配送プロセスの改善、物流会社倉庫の生産性向上、メーカー工場の工場生産性向上などを手がけているという。たとえばピーク時には人手が不足するが、ふだんは待ちになっているといった、需給波動が大きい現場は少なくない。そういう現場を「改善の目で見てクリティカルなところを取り除いて整流化していくのが仕事だ」と述べた。


国内外で累計100億円のプロジェクトを進行中

片倉氏は「カスタマーエクスペリエンスセンターは互いにアイデアを練る場所と活用していく。またパナソニック以外の会社とも協業を進める」と再度強調して説明を締めくくった。



共創の場所「カスタマーエクスペリエンスセンター」

パナソニック株式会社コネクティッドソリューションズ社 エンタープライズマーケティング本部長 常務 山口有希子氏

「カスタマーエクスペリエンスセンター」の概略は、パナソニック株式会社コネクティッドソリューションズ社 エンタープライズマーケティング本部長で常務の山口有希子氏が解説した。山口氏は、パナソニックCNSとしても従来の「プロダクトアウト型」から「顧客ソリューション提供型」へビジネスの舵を切る必要があり、そのためには本質的な課題を理解してソリューションを提供することが重要だと考え、顧客との連携、共創を加速していくための場所として「カスタマーエクスペリエンスセンター」を設置したと紹介。


「プロダクトアウト型」から「顧客ソリューション提供型」へ

ソリューションのラインナップを展示するのではなく技術やソリューションを事例で紹介、単なるアテンダントでなく専門家が対話しながら顧客と説明、そして「見学」ではなく共創していく場所だという。


従来のショウルームとの違い

顧客に対してもプロジェクト単位で、その分野における専門家「エバンジェリスト」が対応にあたる。それぞれ長年の経験を持つ人たち48名がエバンジェリストとして顧客とのディスカッションをする。エバンジェリストたちは、来年の1月10日に予定している本格オープンに向けて現在トレーニングを受け、準備中だという。


48名のエバンジェリストが準備中

山口氏は「活発な共創を行うためには質の高いコンテンツと、いかに伝えるか、伝える人が重要。そこにもパナソニックの最新技術を使っている」と述べ、テレビ会議システムや4Kプロジェクターを紹介した。遠隔地にいるパナソニックの専門家や、現場ともインタラクティブにやりとりができるという。「脱自前主義で顧客にとって最も良いソリューションを提供していきたい」と語った。

遠隔地にいる専門家とはテレプレゼンスロボットで対話可能

見学スペースでは6分野22のソリューションが並べられている。


家電開発などに用いられている身体負荷可視化ソリューション

各種カメラを使ったセンシングテクノロジー体験ゾーン

多面体アンテナを使った電波可視化ソリューション

HD-PLCを使ったローコスト工場IoTソリューション

プロジェクションを使った荷物仕分け支援システム「ビジュアルソートアシスト」

羽田空港での帰国手続きに用いられている顔認証出入国ゲート

物流倉庫で用いる低床型搬送ロボット

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森山 和道

フリーランスのサイエンスライター。1970年生。愛媛県宇和島市出身。1993年に広島大学理学部地質学科卒業。同年、NHKにディレクターとして入局。教育番組、芸能系生放送番組、ポップな科学番組等の制作に従事する。1997年8月末日退職。フリーライターになる。現在、科学技術分野全般を対象に取材執筆を行う。特に脳科学、ロボティクス、インターフェースデザイン分野。研究者インタビューを得意とする。WEB:http://moriyama.com/ Twitter:https://twitter.com/kmoriyama 著書:ロボットパークは大さわぎ! (学研まんが科学ふしぎクエスト)が好評発売中!

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