下肢麻痺者の日常生活支援を目指す「生活支援ロボットコンテスト」 2020年9月開催、賞金総額約1億円
2020年9月12日から14日の日程で、つくば市で開催が予定されている「生活支援ロボットコンテスト」の説明会が2019年12月23日に東京・大手町で行われ、具体的な競技内容とスケジュールが紹介された。「生活支援ロボットコンテスト」とは、障害者が日常生活を支援なしで行えるようにすることを目指すロボコン。主催はGlobal Innovation Challenge実行委員会。
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下肢麻痺の人の支援を目指す
はじめにGlobal Innovation Challenge実行委員会 委員長の上村龍文氏が、概要と趣旨を紹介した。Global Innovation Challenge実行委員会は、趣旨に賛同する協賛企業や自治体で構成される任意団体。地域や人の抱える課題をイノベーションで解決することを目的とし、研究開発と製品化の加速を目指している。
これまでに「Japan Innovation Challenge」として、2016年から北海道・上士幌町で「山岳遭難救助ロボットコンテスト」を行ってきた。「山岳遭難救助ロボットコンテスト」とは、山のなかでの遭難者を発見し、レスキューキットを届け、できれば救出するというミッションのロボコンだ。参加チームは赤外線カメラを搭載したドローンや陸上を走行するAGVを使って救助を試みるという競技で、こちらは株式会社トラストバンクが支援している。
今回のGlobal Innovation Challenge「生活支援ロボットコンテスト」は、介護される側・介護する側のサポートを行えるロボット競技を想定している。下肢麻痺で車椅子生活を行っている人が介護者の支援や車椅子を使わずに生活できるようにすること、また海外へも展開できる技術の開発促進を目指す。
競技フィールドとしては、つくば市の廃校となった旧つくば市立菅間小学校の体育館のなかに、50平米くらいの模擬住居や横断歩道などを丸ごと作る。競技会場となる小学校は丸ごと競技に使われる。各教室やグラウンドもバックヤードとして用いられる予定だ。
実際の競技では、朝起きてから寝るまでの生活におけるタスクをトイレ、荷物受け取り、入浴など10の課題に分けてロボットが手助けすることになる。タスクの詳細は公式サイトに掲載されている。
課題の難易度ごとに賞金が設定されている。実行委員会では第一回での課題達成は難しいと判断しており、9月と3月の年二回開催、全ての課題達成までの期間として10年くらいを想定する。
今後のスケジュールは、2020年9月中旬にコンテスト開催予定。実際に「パイロット」となる障害者の方にチームと来てもらって操作してもらうために安全面の検討を行い、レギュレーションは随時修正していくが、2020年3月にはフィックスする予定。コンテスト会場は2020年1月から建設開始し、4月以降は実際の見学も可能にする。
上村氏は「今回初めての開催となる。安全面やプライバシーなどについての配慮を重視して進めていきたい」と述べた。
つくば市も場所を提供して後押し
場所を提供するつくば市からも、政策イノベーション部 科学技術振興課 課長補佐の中山秀之氏は、「つくば市25万人の人口のうち2万人が研究者だ」と紹介し、市民の科学技術に対するリテラシーが非常に高いのがつくばだと述べた。つくばでは2007年から「ロボットの街つくば」を掲げており各種実証実験のほか、社会実装トライアル支援事業も行われている。中山氏は「市長も二言目には『ぜひやろう』と言ったくらい乗り気。ぜひ応募いただきたい」と語った。
同 経済部 産業振興課 スタートアップ推進室の馬場えり奈氏は、つくば市のスタートアップ支援について「つくば市は研究学園都市として多くの研究シーズがあるが市民にあまり実感されていない。ビジネス化で社会還元しようということで2018年にできたのがスタートアップ推進室」だと紹介した。推進室ではスタートアップ戦略を策定し、スタートアップと寄り添い、科学技術の社会実装を目指している。2019年9月からは駅から5分くらいの場所にある「つくばスタートアップパーク」をリノベーションした。コワーキングスペースやセミナールーム、相談員などを備えており、拠点として活用してほしいと呼びかけた。
参加チームは掛け持ち・合同チーム可、ただし課題は順番に
競技の詳細についてはGlobal Innovation Challenge実行委員会の朴性培(Park Seongbae)氏が説明した。参加チームは3つの役割で構成される必要がある。代表者、パイロット、安全管理者だ。ただし、それぞれの兼務が可能で二人以上の参加も可能。ただし安全管理者とパイロットの兼務は不可。チームは個人でも研究期間でも可能。また、他の団体と組んで合同チームでの参加も可能。
チームはコンテスト2ヶ月前までに企画書を提出する必要がある。その企画書のテンプレートは2020年3月末までに公開される。
パイトットは脊髄損傷者による下肢麻痺者(対麻痺)で、成人であり、円滑に他人と意思疎通ができなければならないとされている。パイロットについては各チームが探し出す必要がある。
ロボットは自動でも手動でも可能。制作費用制限はない。パイロット以外の外部からの遠隔操作は禁止される。また転倒などが起きた場合は119番通報などができる安全機構、ロボット稼働状況の監視機構、緊急停止の機構を持つ必要がある。また外骨格のようなものだけでなく、装具やFES(機能的電気刺激)などを活用したものでも可。
課題は10個から構成される。賞金総額は100万USドル。各チームは、課題1である「トイレ競技」から順番にトライする。トイレ競技をクリアしないうちに課題2である「身支度」、課題3である「食事」にチャレンジすることはできない。ただし「自分たちは『課題2』はできるが『課題1』はできない」といった場合、他のチームと組んで課題をクリアすることはできる。賞金は課題をクリアしたチームで山分けとなる。詳細レギュレーションは参加チームとも相談しながら2020年3月末までに公開予定。なお、課題の順番自体も現時点ではトイレが課題1となっているが、これもまだ議論されているとのことだった。
チームからスケジュールを見ると、申し込み自体は2020年7月12日までにすませる必要がある。その後書類審査を経て、コンテスト1ヶ月前までに事前審査が行われる。事前審査では複数回のデモ、安全性の確認、パイロットの健康診断が含まれる。
安全対策について各リスクアセスメントのほか、事務局側でも対策をできるだけ行うとしている。知財に関しては各参加チームに帰属する。
レギュレーションは参加者たちと相談しながら
Q&Aでは、コンテストの背景や知財に関する懸念、他の同様な各種プロジェクトとの連携可能性、協賛企業の有無や開発期間などに関する様々な質問があった。協賛企業名を出していないことについては、特定の色がつくことを懸念しているためとのこと。なお、協賛企業がこれ以上現れなくても資金的には実施が可能だという。いま様々な側面での可能性を考えて検討中とのことだった。
課題を順番にしか行えないことに対しても参加希望者たちから不満の声が多かったため、検討していく予定という。また競技内容が既存のバリアフリー製品群の活用を前提としていないことへの不満を表明する意見や、もっと実用可能性を高くするほうが現実的ではないかといった意見もあった。「ウェブサイトなどを使って、もっとしっかりと趣旨について解説してほしい」といった声もあった。具体的な質疑よりも、むしろ「こうするべきではないか」といったコメントのほうが多かった印象だ。
競技フィールドとなる模擬住宅の詳細、たとえばどの程度のバリアフリーなのか、ドアの構造などについては未定。また競技開始前のインフラ側への事前準備がどの程度認められるかも、実際に参加してもらうチームと相談しながら決めていきたいとのことだった。
「生活支援ロボットコンテスト」ともっともよく似た競技としては「Cybathlon(サイバスロン)」がある。サイバスロン実行委員会とは情報のやりとりをしているとのことだった。まだまだ手探りで進められている様子だったが、少しでも実用に近い技術開発が促進されることを期待している。
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森山 和道フリーランスのサイエンスライター。1970年生。愛媛県宇和島市出身。1993年に広島大学理学部地質学科卒業。同年、NHKにディレクターとして入局。教育番組、芸能系生放送番組、ポップな科学番組等の制作に従事する。1997年8月末日退職。フリーライターになる。現在、科学技術分野全般を対象に取材執筆を行う。特に脳科学、ロボティクス、インターフェースデザイン分野。研究者インタビューを得意とする。WEB:http://moriyama.com/ Twitter:https://twitter.com/kmoriyama 著書:ロボットパークは大さわぎ! (学研まんが科学ふしぎクエスト)が好評発売中!