理化学研究所は、アンドロイドがヒトの表情を模倣すると、模倣されたヒトの唾液中オキシトシン濃度が上昇し、共感経験が高まることを実証した。
■研究チーム
理化学研究所 情報統合本部 ガーディアンロボットプロジェクト
心理プロセス研究チーム
研究員 ジュンティン・シュ 氏(Chun-Ting Hsu)
テクニカルスタッフⅠ 下川 航 氏(シモカワ・コオ)
チームディレクター 佐藤 弥 氏(サトウ・ワタル)
インタラクティブロボット研究チーム
チームディレクター 港 隆史 氏(ミナト・タカシ)
研究の概要
ヒト同士のコミュニケーションで知られる表情模倣の効果が、アンドロイドでも成り立つかを主観評価と生理指標の両面で検証した。
対象は20~30代の女性118人。参加者は感情的なシナリオに基づく表情とセリフを5秒間披露し、審査員が模倣する条件としない条件で比較した。シナリオには、寺院の庭園での会話や深夜の騒音への対応などが含まれた。審査員はヒト(実験1)と理研開発のアンドロイド「Nikola(ニコラ)」(実験2)である。

アンドロイド、Nikola(二コラ)
アンドロイドとは、人型ロボットの中でも、特に人の外見に似たロボットのことを指す。
二コラとは、理研ガーディアンロボットプロジェクトが、ヒトの解剖学・心理学の知見に基づいて開発したアンドロイド。人のような外見の顔を持ち、ヒトのような表情表出ができることが実証された世界で唯一の研究プラットフォームである。
二コラは大阪・関西万博でも展示され、人気を博した。
実験方法と結果
各実験では審査員を2名配置し、審査員1は全試行の20%で表情模倣、審査員2は80%で表情模倣とした。
Nikolaにはミラーニューロンシステムの計算回路が実装され、ヒトのように表情を模倣できる。

結果は一貫して、表情模倣がある場合に参加者の審査員への共感に関する主観評定が上昇し、唾液中オキシトシン濃度も上がった。有意水準5%で有意差が確認され、この効果は審査員がヒトかアンドロイドかに依存しなかった。

社会的意義と今後
本研究は、アンドロイドの表情模倣がヒトの共感を誘発し、オキシトシン分泌を高めることを主観評価とホルモン指標の両面から示した世界初の報告だ。
高齢化や孤立化が進む中、介護、教育、医療、接客などで、共感的に応答するアンドロイドが信頼形成とストレス軽減に寄与する可能性がある。
原著論文のDOI
10.1016/j.chbr.2025.100895



