ソフトバンクが次世代電池の早期実現に向けて「次世代電池Lab.」を設立 次世代電池の評価・検証を行う

ソフトバンク株式会社は質量エネルギー密度(Wh/kg)が高く、軽量で安全な次世代電池の研究開発および早期実用化の推進に向けて、世界中のさまざまな次世代電池の評価・検証を行う施設「ソフトバンク次世代電池Lab.(ラボ)」を2021年6月に設立することを発表した。


次世代電池の性能差や技術課題を早期特定

ソフトバンクは質量エネルギー密度が高く軽量で安全な次世代電池について、IoT機器などの既存のデバイスやHAPS(成層圏通信プラットフォーム、High Altitude Platform Station)をはじめとする次世代通信システムなどへの導入を見据え、研究開発を推進している。また、SDGs(持続可能な開発目標)の観点からも、高性能な電池が必要不可欠と考えている。(関連記事(続報)「ソフトバンクが「次世代電池」を開発中 なぜ自ら開発するのか!? 開発のポイントを公開 ドローンやHAPS、EVなどの需要を見込む」)

次世代電池の開発は世界のさまざまな電池メーカーが技術検証を実施しているが、メーカーごとに技術評価環境・検証基準が異なり、同一環境下での性能差の分析・技術課題の特定が難しいという課題があった。ソフトバンクはこれらの課題を解決し、次世代電池の早期実現のため、今回「ソフトバンク次世代電池Lab.」を設立する。

今後「ソフトバンク次世代電池Lab.」において世界中のメーカーのセルを同一環境下で評価・比較することで、性能差の分析・技術課題の早期特定を実現する。「ソフトバンク次世代電池Lab.」で得られた検証結果については各メーカーへフィードバックを行うことで、次世代電池の開発加速を目指す。さらに、「ソフトバンク次世代電池Lab.」では、共同研究先と開発した要素技術の検証も行う予定。検証により得られたノウハウを参画メーカーと共有することで、次世代電池開発のベースアップに貢献する。

すでに世界中の電池メーカー15社の次世代電池の検証を予定しており、今後さらに開発パートナーを拡大していく。これらの活動を通して、「ソフトバンク次世代電池Lab.」は、次世代電池の開発促進を支援するプラットフォームになることを目指す。


「ソフトバンク次世代電池Lab」は「バッテリー安全認証センター」内に設立

「ソフトバンク次世代電池Lab.」は環境試験器の世界トップメーカーであり、安全性・環境評価に優れた設備・ノウハウがあるエスペック株式会社の「バッテリー安全認証センター」内に設立する。今後は充放電設備の増強、モジュール・電池パックの大型評価設備の導入や、安全性試験・低温低気圧など、地上から上空までの特殊な環境試験でエスペックと連携していくことを検討している。

名称 ソフトバンク次世代電池Lab.
代表者 西山 浩司 氏
所在地 栃木県宇都宮市
エスペック株式会社 宇都宮テクノコンプレックス「バッテリー安全認証センター」内
設立日 2021年6月1日(予定)


ソフトバンクがEnpower Greentech社と次世代電池の実証に成功

ソフトバンクと米国Enpower Greentech Inc.はIoT機器や携帯電話基地局などでの活用を想定した、質量エネルギー密度(Wh/kg)が高く、軽くて容量が大きい次世代電池を見据えた材料技術の共同研究を行う契約を2020年3月に締結し、4月から共同で研究開発を行ってきた。

2021年3月15日ソフトバンクは質量エネルギー密度450Wh/kg級電池の実証に成功したことを発表。また、リチウム金属電池の長寿命化の要素技術の開発についても成功した。

今回開発した要素技術にはリチウム金属表面にデンドライトの発生を抑制する極薄(10nm以下)コーティング膜技術や、高い電池電圧と高いクーロン効率(充放電効率)を両立した電解液などがある。

デンドライトとは
電池の充放電を繰り返した際に生じるリチウム金属の針状結晶。デンドライトが成長し続けると、正極と負極の短絡を引き起こし、発火などの原因となる。

クーロン効率(充放電効率)とは
充電時の充電容量に対する放電時の放電容量の比。クーロン効率(充放電効率)が高いほど充電容量を無駄なく放電に使用できるので、寿命が長い電池となる。


実証内容の詳細

質量エネルギー密度450Wh/kg級電池に使用されているリチウム金属負極は、長年究極の負極材料として注目されてきたが、充放電に伴うデンドライトの発生によって、短期間で電池の容量が減少するという課題があった。

ソフトバンクとEnpower Greentechはデンドライトの発生抑制技術の一つである「リチウム金属表面の無機コーティング技術」に注目し、リチウム金属表面を違う材料でコーティングすることで電解液との直接接触を遮断して、安定した固体電解質界面(SEI)膜を形成するというアプローチを実施した。


開発した要素技術を用いた電池の試作品(サイズ:90mm×60mm×2.8mm)
固体電解質界面(SEI)膜とは
リチウムイオン二次電池(LIB)またはリチウム金属二次電池中の負極と電解液の界面で主に充電時に形成されるリチウムイオン伝導性を持つ被膜である。

その結果、無機物を極薄(10nm以下)でコーティングしたリチウム金属電極を用いて、コイン型リチウム対称セル(ラボ測定用電池)で連続500時間経過しても、非常に低い過電圧を維持し続けている充放電データを得ることができたとしている。今後、この技術を450Wh/kg級電池に適用して、電池のさらなる長寿命化を目指す。


Enpower Greentech社について

Enpower Greentechは全固体電池を含む次世代電池の研究開発と事業化に取り組んでいる米国のスタートアップ企業で、日本にも研究拠点(Enpower Japan株式会社)がある。Enpower Greentechは2015年から高容量電極材料や固体電解質材料などの材料技術開発に着手。2017年10月からは米国テキサス大学オースティン校教授であり、ノーベル化学賞を受賞したジョン・グッドイナフ教授の研究グループと全固体電池用材料技術の共同研究を行っている。今回の共同研究の成果に関して、グッドイナフ教授から次のようなコメントが寄せられた。

グッドイナフ教授からのコメント
Enpower GreentechとソフトバンクによるSDGs(持続可能な開発目標)に向けたバッテリーの先端技術、アプリケーション開発に関する素晴らしい成果をうれしく思います。私の研究チームが、基礎材料科学の観点からこの意義のある取り組みに貢献できることを光栄に思います。Enpower Greentechとソフトバンクの皆さまの成功を願っています。

ソフトバンクとEnpower Greentechは、テクノロジーを生かした事業活動による社会課題の解決を目指し、次世代電池の高容量化に向けてさまざまな研究開発を今後も続けていくとしている。

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山田 航也

横浜出身の1998年生まれ。現在はロボットスタートでアルバイトをしながらプログラムを学んでいる。好きなロボットは、AnkiやCOZMO、Sotaなどのコミュニケーションロボット。

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