NTTがオープン型なのに音漏れしないイヤースピーカー発売 小さな範囲に音響空間を閉じ込める世界初「PSZ技術」搭載

日本電信電話株式会社(NTT)は、耳に差し込まないオープンイヤー型のイヤースピーカー2機種を発表した。耳をふさがないオープンイヤー型でありながら、限られた小さな範囲に音響空間を制限(音を閉じ込める音場を作る)することによって、音漏れを低減、ほぼ音漏れしないことが最大の特徴。

オープンイヤー型でありながら音を閉じ込める音場を作るため、周囲に音漏れしない新開発のイヤホンをプレゼンする日本電信電話株式会社 代表取締役副社長 川添 雄彦氏

体験会でワイアレスモデル「nwm MBE001」を装着したところ。オープンイヤー型なので、耳をふさいでいないことがわかる。音量大で楽曲が流れているにも関わらず、周囲には音漏れしていない


「nwm」ブランドとプライベート音響空間「PSZ」技術

音を閉じ込めてプライベート音響空間の音場を作るこの技術は「PSZ」(Personalized Sound Zone)技術と呼ぶ。NTTはコンシューマー向けブランド「nwm」(ヌーム)を立ち上げるとともに、この技術専門の新会社としてNTTソノリティ株式会社を設立した。


そして、この技術を搭載した商品は有線の「nwm MWE001」(本日発売)と、ワイアレスモデル「nwm MBE001」(来春発売予定)の2機種となる。

PSZ技術搭載有線タイプ(正式名称 有線パーソナルイヤースピーカー「nwm MWE001」) 価格は税込み¥8,250。当初はAmazonでのみ販売

有線モデル「nwm MWE001」は当初はアマゾンでのみの販売となり、ワイアレスモデル「nwm MBE001」は来春、クラウドファンディングでの発売(支援)が予定されている。

PSZ技術搭載無線タイプ(正式名称 ワイヤレスパーソナルイヤースピーカー「nwm MBE001」)。発売は来春「GREEN FUNDING」、「Indiegogo」でクラウドファンディングを行う予定。※写真は開発中のもの

ワイヤレス「nwm MBE001」用のキャリングケース(バッテリー非搭載)

11月9日、この新ブランドと新製品の発表会と技術体験会が渋谷で開催された。

「nwm」ブランドの開発と普及を担う新会社として設立したNTTソノリティ株式会社(2021年9月1日に設立)の代表取締役 坂井 博氏

坂井氏は、ワイヤレスイヤホンの市場規模は4兆円と見込んでおり、同社は2025年までにシェア10%、400億円の売上を目指すことを公言した。なお、海外市場の開拓は伊藤忠商事と業務提携するという。



オープンイヤー型イヤホンの課題を解決する「PSZ」技術

オープンイヤー型イヤホンとは、耳の穴にふさがないイヤホン(耳の穴のすぐ近くで音が鳴る)で、楽曲を楽しんでいる場合、音楽も周囲の音も両方聞こえるのが特徴。耳をふさぐことで周囲の音が聞こえなくなることによる危険性を抑止し、ストレスもないとされる。欠点は音漏れだ。音が密閉されていないために、周囲に楽曲の音や音声が漏れ聞こえる心配がある。

音漏れしているイメージ(左)と、「PSZ」技術で音を閉じ込めているイメージ例

その点を解決するのがプライベート音響空間「PSZ」技術(※特許出願済)だ。理論上、周囲約1cmの範囲に音を閉じ込めるために、電車の座席に座って楽曲を聴いていても、イヤホンの音が隣の席の人にほぼ音漏れしない。この技術は、ノイズキャンセリングの理屈に似ているが、その発想の転換で実現したと言っていいだろう。ある音波(正相)に対して「逆相」の音波を当てることで音波同士が打ち消し合い、音が聞こえなくなる作用を利用し、特殊なハードウェア設計によって、特定のエリアに限定して逆相の音を発生させることで、あたかも耳元に小さなカプセルのように音を閉じ込める空間が生まれ、耳を塞がない状態にも関わらず、周囲への音漏れを最小限に防ぐことができる。


ちなみに、従来の音響デバイスのスピーカーは音をより遠くに届けるために、スピーカーユニットを収納するエンクロージャーの中に逆相の音波も閉じ込め、正相との干渉を防いでいた。一方で、PSZ技術は本来閉じ込められていた逆相の音波を積極的に活用することで音を封じ込める、いわば業界の常識や固定観念に囚われない”逆転の発想”から生まれた。


実際に体験会で筆者が試したところ(周囲が騒がしかったという点は差し引いても)、イヤホンの周囲に耳を近づけても音漏れは感じなかった。



今後の展開と可能性

体験会の会場には実機の有線/無線の2機種が複数台用意されたほか、イス型で耳の周囲にPSZ搭載のスピーカーを配置したプロトタイプも用意されていた。




イスに座るとはっきりと楽曲が聞こえるが、周囲には音漏れしていなかった。飛行機やバス、電車、喫茶店など、公共空間でもオープン型スピーカーで楽曲や音声を楽しむ可能性を持ったデバイスだ。


プレゼンテーションでは、今後の展開として、美術館、歌舞伎、国際会議などての使用のほか、音のARサービスとして、パリコレでランウェイに流れるBGMと、有線「nwm MWE001」で流れる音をシンクロさせたり、新たな演出体験として既に実証活用したことが紹介された。


川添副社長は、冒頭のプレゼンで「テレパシー」に言及したが、特定の音場だけに聞こえるように制御し、ビームフォーミングなどと連動すれば、あるいは将来、オープンな環境でありながら、離れた二人たけが聞こえる新技術へと発展が見られるかもしれない(今は著者の推測に過ぎない)。




主な製品仕様

正式名称:パーソナルイヤースピーカー nwm MWE001
価格(税込): ¥8,250
発売日: 2022年11月9日
販売エリア: 日本 (順次、海外展開予定)

型式オープンエア型 有線
使用ユニットΦ12 mm
出力音圧レベル84 dB
再生周波数帯域100 Hz ~ 20 000 Hz
最大入力40 mW
インピーダンス32 Ω
コード長1.2 m
マイクロホンECM (無指向性)
入力プラグΦ3.5 mm 4極ステレオミニプラグ (金メッキ)
質量9 g (コード含まず)

正式名称: パーソナルイヤースピーカー nwm MBE001
価格(税込): オープン価格
発売日 :来春
今冬、予約販売として、日米にてクラウドファンディング開始
「GREEN FUNDING」、「Indiegogo」にて展開予定

型式オープンエア型 ワイアレス
使用ユニットΦ12 mm
マイクロホンECM (無指向性)
電池持続時間※最大6時間
充電時間※約2.5時間
質量9.5 g (片側)
付属品充電用USBケーブル、キャリングケース(バッテリー非搭載)

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神崎 洋治

神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。

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