
芝浦工業大学システム理工学部の大谷拓也准教授、早稲田大学理工学術院の高西淳夫教授と富士通株式会社は、量子コンピュータを活用してロボットの姿勢を効率的に制御する新手法を開発したと発表した。
複数の関節を持つロボットの「逆運動学計算」を、量子技術を活用して効率的かつ高精度に解くことに成功している。
複雑化するロボット姿勢計算の課題に量子コンピュータを活用
ロボットの姿勢制御では、目標とする手先の位置から関節の角度を求める「逆運動学計算」が重要となる。特に、複数の関節を持つロボットでは関節の組み合わせが膨大となり、目標位置との誤差を最小化するために反復計算が必要だ。その結果、計算負荷が高くなり、人体の関節数と同等の17個の関節を有する全身多関節のモデルの場合は、解空間が膨大なため解けず、近似した7個の関節で運動計算を行うのが一般的だった。
本研究では、こうした課題に対して、量子コンピュータの特性を活かした新手法を提案した。ロボットの各部品(リンク)の向きや位置を量子ビットで表現し、量子回路を用いて順運動学計算(関節角度から手先位置を求める計算)を実行している。逆運動学計算は古典的なコンピューターで行い、量子と古典のハイブリッド手法によって、効率的な姿勢制御を実現した。
「量子もつれ」を導入し、収束速度と精度が向上
今回の研究では、量子もつれを導入することで、親関節の動きが子関節に自然に影響を与える構造を量子回路上で再現した。これにより、逆運動学計算の収束速度と精度が大幅に向上している。富士通の量子シミュレータを用いた検証では、従来手法と比較して、少ない計算回数でも最大43%の誤差低減を達成した。
また、64量子ビットの実機を用いた実験においても、量子もつれ導入による効果を確認している。さらに、ロボットなどの17個の関節を持つ全身多関節モデルの運動計算を、30分程度で実行できるという試算が得られた。
ヒューマノイドや多関節ロボットへの応用に期待
本手法は、少数の量子ビットで多関節ロボットの姿勢を表現でき、現在の開発段階の量子コンピュータ(NISQ)環境でも実装可能だ。将来的には、ヒューマノイドロボットや多関節マニピュレータのリアルタイム制御、障害物回避、エネルギー最適化などへの応用が期待される。また、量子フーリエ変換などの高度な量子アルゴリズムとの組み合わせにより、さらなる性能向上も見込まれている。
本手法により、産業用ロボットの性能向上や制御効率化が進むことが予想される。多関節構造を持つロボットの精密動作やリアルタイム制御が求められる分野では、今回の技術が新たな標準となる可能性もあるだろう。
人間の骨格を模倣したヒューマノイドの最新動画を公開 PNDbotics、強化学習とシミュレーションで訓練時間を短縮
日本チームが量子計算で快挙、量子位相差推定による高精度計算技術を開発 ソフトバンク、三菱、慶應大、JSR
小型6軸「力覚センサー」をロボットハンドでどう使う? HatsuMuvが動画と3D CADデータを公開
この記事を読んだ人におすすめ
-
ヒューマノイドロボットが物流現場で働く未来像? Figureがパッケージを認識・選別する動画を公開 OpenAIやMicrosoft、NVIDIAなどが出資
-
AI基地局の機能はどれくらい向上するのか ソフトバンクが「AI-RAN」効果を発表 NVIDIA、富士通、armらと研究・開発
-
NVIDIA ヒューマノイド開発支援の最新情報 「Boston DynamicsやFigureなどの大手ロボット企業が導入」
-
触覚を持ったヒューマノイドの動画をSanctuary AIが公開 視覚で手を伸ばし触覚でつかむ 手探り「ブラインドピッキング」も披露
-
Unitreeのヒューマノイド、今度はスピンキックを披露!「720°スピンキック、衝撃を聞け!」
-
UBTECH、複数台のヒューマノイドがEVメーカー「Zeekr」のスマート工場で働く動画を公開 Zeekrは2025年に日本市場へ参入予定
-
家庭用から宇宙まで!? インドのMuksがヒューマノイドを近々リリースすると発表
-
ボストン・ダイナミクスのヒューマノイド「電動アトラス」自動車製造工場で働くためトレーニング中!ラボ内部の動画を公開
-
Lumosがヒューマノイドと触覚センサーの動画公開 丘を走り、壊れものを掴む、打ち上げ花火を手持ちでぶっぱなす様子も
-
Google DeepMindが生成AI「Gemini」をヒューマノイドで活用 会話・三目並べ・文字パズルの動画を公開 Apptronikと連携