ソフトバンク、空飛ぶ基地局「HAPS」試験サービスを8月開始、2027年商用化へ スターリンクとの違いは?

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ソフトバンク、空飛ぶ基地局「HAPS」試験サービスを8月開始、2027年商用化へ スターリンクとの違いは?
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ソフトバンクは2026年8月以降、空飛ぶ基地局と呼ばれる「HAPS(High Altitude Platform Station)」の試験サービスを日本上空で開始する。気球方式のLTA型HAPS機体を米ニューメキシコ州から飛行させ、成層圏を経由して日本へ到達させる。日本上空では、災害を想定した通信実証を実施する。本格的な商用サービス開始は2027年以降を目指す。

ソフトバンクは発表にあたり、記者説明会を開催。説明会に登壇したソフトバンク 技術統括 プロダクトR&D本部 ユビキタスネットワーク企画統括部 統括部長の上村征幸氏は、2017年から続けてきたHAPS構想について、「いよいよ日本の空で実用化へ」と説明した。

ソフトバンク株式会社 技術統括 プロダクトR&D本部 ユビキタスネットワーク企画統括部 統括部長 上村征幸氏

■HAPSはいよいよ日本の空へ 2017年から続く構想が実証段階に

ソフトバンクは2017年からHAPSの実用化に向けた取り組みを進めてきた。
HAPSは、通信機器を搭載した無人航空機などを高度約20kmの成層圏で飛行させ、地上のスマートフォンなどに直接モバイル通信を提供する仕組みだ。地上の基地局機能が空で実現するような構成から、「空飛ぶ基地局」とも呼ばれている。

HAPS:空飛ぶ基地局

同社はこれまで、成層圏での飛行試験やモバイル通信の実証、長時間の定点飛行、自律運航技術などの開発を進めてきた。2025年にはHAPS搭載無線機を用いた日米間のネットワーク試験を完了。2026年は、日本上空から試験サービスを提供する段階へ進む。

■高度約20kmから直径最大約200kmをカバー

一般的な地上基地局の通信範囲が数km程度であるのに対し、HAPSは1機で直径最大約200kmの範囲をカバーする構想だ。

高度約20kmの成層圏は、航空機が飛行する高度よりも高く、人工衛星よりも大幅に地上に近い。気流が比較的安定していることから、一定のエリア上空を旋回しながら長期間とどまり、通信サービスを提供できると期待されている。

ソフトバンクは、災害によって地上基地局や光回線が被害を受けた場合でも、上空から通信エリアを構築できる点を大きな利点として挙げる。そのほか、離島や山間部など通信環境の整備が難しい地域のデジタルデバイド解消、ドローンや空飛ぶクルマなど、高度方向を含む3次元空間への通信提供も想定している。

ユビキタストランスフォーメーション。「NTN」には高度約20kmの成層圏を滞空する空飛ぶ基地局「HAPS」。ほかに高度約500~2,000km前後の低軌道衛星「LEO」(Starlinkなど)、高度約36,000kmの静止軌道衛星「GEO」がある。地上に近いほど低遅延・大容量通信に向き、軌道が高いほど広い範囲を少ない機数でカバーできる

ソフトバンクは、地上の「TN(Terrestrial Network)」と、HAPSや低軌道衛星などの「NTN(Non-Terrestrial Network)」を組み合わせ、利用場所や用途に応じて最適なネットワークへ接続する「ユビキタストランスフォーメーション」を掲げている。

地上基地局、HAPS、低軌道衛星、静止衛星には、それぞれ通信範囲、遅延、容量、安定性などに違いがある。いずれか一つですべての用途をカバーするのではなく、それぞれの特徴を生かして補完する考え方だ。

■HAPSと「SoftBank Starlink Direct」の違いは

ソフトバンクは、衛星とスマートフォンが直接通信する「SoftBank Starlink Direct」の提供も進めている。では、HAPSとStarlink Directはどのように使い分けるのか。

HAPSとSoftBank Starlink Directの特徴と違い

Starlink Directは、高度約340kmを周回する低軌道衛星を利用し、日本全国を広くカバーできる点が特徴だ。山間部や離島、海上など、地上基地局がないために携帯電話網が届かない場所でも通信できる点が最大の魅力だ。一方、現時点ではテキストや一部のデータ通信など、中~低容量の通信が主な用途となる。

これに対してHAPSは、上空約20kmと地上に近く、地上の携帯電話サービスに近い高品質・大容量の通信を提供できる点が特徴となる。特に、端末からネットワークへ送信する「上り通信」の容量や速度が、両者の大きな違いになるという。

上村氏は、ドローンを例に説明した。ドローンへ飛行指示を送るコマンド通信であれば、比較的小容量の通信で対応できる。一方、ドローンが撮影した映像をリアルタイムで遠隔監視拠点へ送る場合、ドローン側からHAPSへ大容量のデータを送る「上り通信」が重要になる。こうした用途では、HAPSの強みが発揮されるとした。

災害時の運用でも、両者は競合ではなく補完関係となる。

災害発生直後は、すでに日本上空を周回しているStarlink Directによって、まずテキストなどの通信手段を確保する。その後、HAPSが被災地上空へ移動し、音声や大容量データを含む高品質な通信を提供するという、段階的な通信確保と復旧を想定している。

■2026年8月以降、災害を想定した試験サービスを開始

ソフトバンクは、2026年8月中旬以降、HAPSを使ったプレ商用の試験サービスを開始する予定だ。

2026年8月中旬以降 試験サービス提供予定

今回使用するのは、米国のSceyeが開発するLTA(Lighter Than Air)型のHAPS機体。飛行船や気球のように、空気より軽いガスの浮力を利用して飛行する方式で、全長は約65mに及ぶ。

機体は米ニューメキシコ州ロズウェルにある格納庫から離陸する。成層圏へ上昇した後、太平洋を横断して日本上空へ向かう。移動中は衛星通信を介して機体を制御し、日本上空へ到達した後、地上ゲートウェイと接続して通信サービスを提供する。

気象条件によって変動するが、米国から日本までの移動には約2週間を見込んでいる。今回、米国から飛行させる理由について、ソフトバンクは全長65mの機体を収容できる大型格納庫を日本国内に用意できていないためと説明した。将来的には、日本国内から離陸させる体制の構築も目指す。

日本上空へ到達後は、地上ゲートウェイを介してソフトバンクのコアネットワークへ接続し、仮想被災エリアにいるスマートフォンとの通信試験を実施する。

仮想被災エリアに上空から通信サービスを提供

実証候補地には、南海トラフ地震や海溝型地震などの大規模災害を想定し、高知県のほか、近畿、九州、東北などが挙げられている。実際の実施場所は、当日の気象条件などを踏まえて決定する。

■飛行性能、通信性能、地上網への干渉を確認

今回の試験サービスでは、大きく3つの項目を検証する。

HAPS試験サービス概要

一つ目は、日本の気象環境における飛行性能の確認だ。HAPSはすでに海外で長時間飛行の実績を積んでいるが、日本特有の気象条件でも同等の定点飛行性能を発揮できるかを検証する。

二つ目は通信性能だ。音声通話、SMS、データ通信など、地上の携帯電話サービスと同等の通信を高度約20kmから提供できるかを確認する。具体的な通信速度や同時接続台数については、今回の実証結果を踏まえて公表する予定としている。

三つ目は、既存の地上通信網への干渉影響だ。災害発生時には、一部の地上基地局が稼働を続ける一方、停電や伝送回線の断絶によって停止する基地局も混在する。HAPSが広範囲をカバーした際、地上基地局との間でどのような電波干渉やハンドオーバーが発生するかを検証する。

ソフトバンクによれば、機体性能の確認、日米間ネットワーク試験、地上ゲートウェイの設置準備はすでに完了しており、日本上空での試験サービスに向けた準備は整ったという。

■地上ゲートウェイがHAPSを自動追尾

HAPSとソフトバンクのコアネットワークを接続する設備が、地上ゲートウェイ(GW)だ。今回の発表では地上ゲートウェイについて、より詳しい情報が公開された。

地上GWの役割

ソフトバンクは試験に向け、高知県の高台に地上ゲートウェイを設置した。ゲートウェイは光ファイバーや電源と接続され、上部に備えたアンテナがHAPSの位置を確認しながら機体を自動追尾する。

地上ゲートウェイを設置する様子 ソフトバンク提供

設置時にはスマートフォンの専用アプリを使用し、HAPSの飛行空域を確認しながらアンテナの設置場所や方向を決定する。災害発生時に必要な場所へ持ち込み、短期間で設置する運用も想定している。

地上GWの役割
地上ゲートウェイ全景写真 ソフトバンク提供
飛行エリア確認の様子
飛行エリア確認(アプリ画面)

■日本上空での試験期間は1週間から10日

今回のHAPSは、日本上空で1週間から10日程度の試験を行った後、速やかに米国へ戻す予定だ。
2027年以降の運用期間については、今回取得する飛行データをもとに判断する。ソフトバンクは、3カ月から半年程度の運用も選択肢に入れている。

今後、太陽電池やバッテリーの効率が向上すれば、日照時間が短い冬季でも長期間の飛行が可能になる。また、モーターなどの動力性能が向上することで、季節風が強い時期にも対応しやすくなると見込んでいる。機体の進化に伴い、年間を通じてHAPSを利用できる期間は広がっていくとの見通しを示した。

一方、台風については、当面は進路や気圧の変化を予測しながら影響を避ける運用を行う。台風そのものによる災害では制約が生じる可能性があるが、地震や山火事など、気象条件の影響が比較的小さい災害では活用できる場面が多いとしている。上村氏は、まずは安全を最優先し、慎重に運用しながらデータを蓄積した上で、より挑戦的な運用へ広げていく考えを示した。

■災害時に飛ばすのではなく、平時から日本上空で運用

ソフトバンクは、災害発生後にHAPSを離陸させるのではなく、平時から日本上空で運用することを想定している。

平時には、電波が届きにくい建設現場、ドローン映像の伝送、上空から地表を観測するリモートセンシングなど、法人向けの用途を検討している。官公庁からも具体的な要望が寄せられているという。また、イベント会場や一時的に通信需要が増えるエリアで、地上ネットワークの容量を補完する用途も考えられる。

そして災害が起きた際には、運用中または待機中のHAPSを被災地上空へ移動させる構想だ。こうした平時を含む運用を2027年以降に始める考えを示した。

ただし、平時の商用利用と災害対応をどのように両立するかは、商用化に向けた重要な論点になる。

例えば、HAPSを法人向けの通信インフラとして継続的に使用している場合、災害発生時にその機体を被災地へ移動させると、従来サービスを提供していたエリアの通信容量が失われる可能性がある。BtoBサービスでは、契約期間中に安定して利用できることが重要であり、災害対応を理由にサービスが中断する運用は、利用企業にとって大きなリスクとなり得る。

ソフトバンクもこの課題を認識しており、平時にはHAPSだけが唯一の通信手段となる地域を担当させるのではなく、すでに地上網が存在するエリアで追加容量を提供する使い方などを検討している。つまり、HAPSが移動しても通信そのものが完全に失われない用途から始める考えだ。

今後、複数機を配備して予備機や災害対応専用機を確保するのか、あるいは地上網や衛星通信を含めた代替手段を契約に組み込むのか。災害対応という高い社会的意義と、BtoBサービスに求められる継続性をどう両立させるかが、HAPSの商用サービス設計を左右するポイントになりそうだ。

■2次元から3次元の通信ネットワークへ

ソフトバンクは今後、複数のHAPSに加え、低軌道衛星などを光無線通信で接続し、地上から宇宙までを一体化した3次元通信ネットワークの構築を目指す。

3次元通信ネットワーク

HAPSは災害時の通信手段だけではない。ドローン、空飛ぶクルマ、自動運転、自動搬送ロボット、AIを活用した各種サービスなど、今後拡大する高度モビリティ社会を支える通信基盤としての役割も期待されている。

上村氏は、これまで地上を中心とした2次元のネットワークを、空へ拡張していきたいと語った。機体の飛行性能、通信品質、運用コスト、気象への対応、そして平時利用と災害対応の両立など、商用化に向けて検証すべき課題はまだ残る。

それでも、長年構想されてきた「空飛ぶ基地局」が、いよいよ日本上空で実際の通信サービスを提供する段階へ進む意味は大きい。2026年夏の試験は、HAPSが実験技術から社会インフラへ移行できるかを占う重要な一歩となる。

《神崎 洋治》

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神崎 洋治

神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。

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