“使えない電波”とされてきた「ミリ波」は、本当に使えないのか?
ソフトバンクは2026年3月25日、報道関係者向けに「5G SA(スタンドアロン)」や「ミリ波」の取り組みを紹介する勉強会・説明会を開催した。そこでは新世代5Gに重要な「ミリ波」にフォーカスした解説とデモも実施された。
ソフトバンクは「ミリ波」の性能を強調するだけでなく、Wi-Fi連携によって一般スマホでも高速通信が体感できる仕組みを示していて、イベント会場での実用化に踏み込んでいる。

浜松町から竹芝方面に向かうデッキを歩くと、ソフトバンクの2種類の基地局が設置されていることがわかる。大きい装置が「Sub6のトリプルバンド Massive MIMO」、小さい装置は「ミリ波基地局」だ。

ソフトバンクのモバイル&ネットワーク本部、安藤部長(※)は、
「Sub6側は、装置内に192素子のアンテナを持ち、デジタルビームフォーミングで制御しています。一方、ミリ波側は384素子のアンテナを持ち、アナログビームフォーミングで動作します。
重要なのは、基地局の“箱の数”ではなく、内部のアンテナアレイと、それを制御するソフトウェアの完成度です。ソフトバンクではこの制御技術をかなり磨いており、高い性能を引き出せていると考えています」と語った。
※ソフトバンク株式会社 テクノロジーユニット統括 モバイル&ネットワーク本部 無線開発統括部 無線ネットワーク開発部 担当部長 安藤高任氏
「5G SA」はどれくらい速いのか?
ソフトバンクは「5G SAはどれくらい速いのか」という疑問について、場所は異なるが、5G SAを竹芝埠頭、5G NSA(現在の一般的な5G)を中洲(福岡)、4Gを銀座のバーでの測定値で提示した。
見通しの良い5G SAの竹芝埠頭ではダウンリンク約800Mbps、アップリンク約98Mbpsという結果が得られ、5G NSA(DL 350Mbps)や4G(DL 31Mbps)との速度の違いをポテンシャルとして示した。一方で、5G NSAでは中洲のように混雑環境でも安定した速度が確保でき、速度が確保されにくい地下施設では4Gで速度を確保していることを示した。

5G SA、5Gはどこででも速いわけではないものの、条件次第では非常に高性能であり、通信事業者はこれらを組み合わせて採用することで広範囲に安定した速度が出せるというのが現実解だ。
「5G SA × ミリ波」を実践的に実証へ
三重県鈴鹿市で開催された「2026 FIA F1世界選手権シリーズ Aramco 日本グランプリレース」(F1日本グランプリ:2026年3月27日~29日)において、「5G SA × ミリ波」の実践的な実証を行ったのは既報のとおり(関連記事「「本物の5GがF1にやって来る」F1日本グランプリで「5G SA × ミリ波」を体験 ソフトバンクがスライシングを活用した次世代通信を鈴鹿で提供へ」)。
https://robotstart.info/article/2026/03/25/381718.html
また現在、一般的に「5G」と呼ばれている技術の多くは4Gインフラを活用した「5G NSA(ノンスタンドアロン)」であり、真の5G性能を十分に発揮できていないとされる。このためソフトバンクは「5G SA」への移行を急いでいることもロボスタでは報じてきた(関連記事「「5Gなのに速くない」理由 ソフトバンクが本物の5G「5G SA」拡充を宣言、舞浜と池袋で実証」)。
https://robotstart.info/article/2025/12/23/381515.html
ミリ波は「使えない」のか? ソフトバンクが実測値で反論
次にこの記事の本題である「ミリ波」について話題が移る。
「ミリ波」は一般的に「直進性が強い」「減衰しやすい」「障害物に弱い」などの特性があり、高速性はあるものの使いづらい周波数帯と言われている。シミュレーション上は現在主流の周波数のひとつ「2.1GHz」とミリ波(29GHz)と比較すると、カバレッジ上で約40dBの性能差があり、これは空気中での減衰が大きく、天候の影響を受けやすく、直進性が強すぎることなどから、理論上は1万分の1レベルまで減衰する可能性がある(減衰が大きい)とされ、活用するには「エリアカバーが難しい」「スポット用途に限定される」と言われている。

しかしソフトバンクは、それはシミュレーション上の一般論であって前提条件に依存するものとし、スマートフォンの高さ(約1.5m)で評価するとそのような厳しい結果になる、としながらも、ミリ波は「飛ばない」のではなく「条件が揃えば、かなり飛ぶ」ことをLiDARを使って実環境で検証。見通し(LOS)が確保できる環境では、500m以上の通信も可能であり、条件次第では1km近く届くケースもあり、高速・大容量通信を維持できると説明。実測ではミリ波単独で2Gbps超(DL)を記録しており、混雑環境や雨天時でも安定した性能が確認されたという。

ミリ波の本質的な価値は、圧倒的な帯域幅にある。ソフトバンクの保有周波数の中でも、ミリ波は約400MHz幅という超広帯域であり、他の全バンドの合計に匹敵するレベルを強調。「使い方次第で最も強力な資源」と位置づける。

これらをまとめると、ミリ波は現状では「使いづらい電波」ではあるものの、条件依存が強いことを考慮し、通信エリアではなく容量に着目、Sub6など「面」で活用できる周波数と、ミリ波のような「密度」の高速性能をカバーする電波の共存が次世代の鍵となる、ということだろう。



なお、今回の説明会では、「ミリ波」は本当に使えるのか、どの程度の速度が出るのか、さらにソフトバンクが展開を進める「ミリ波×Wi-Fi」は通常の5Gより速いのかについて、発表と実機デモを通じて検証された。
最大の課題は「対応スマホ不足」 ミリ波普及の壁
ミリ波の現状での課題は明確だ。ひとつは屋内や奥まった場所に電波が届きにくいこと。
そして最大の課題は「ミリ波に対応するスマートフォンがまだ少ない」点だ。2026年3月時点では国内向けiPhoneに対応機種はなく、Androidでも一部の上位モデルに限られる。
ミリ波×Wi-Fiで突破 “誰でも使える高速通信”へ
こうした課題に対し、ソフトバンクが提示したのが「ミリ波×Wi-Fi」というアプローチだ。
ミリ波で基地局とCPE(受信装置)を接続し、そこからWi-Fiアクセスポイントを介してユーザーのスマートフォンに通信を届ける。これにより、ミリ波非対応の端末でも高速通信を体感できる仕組みを構築する。

つまり、ミリ波を直接使うのではなく「バックボーンとして活用し、ユーザー接続は普及しているWi-Fiで担う」という設計だ。
これは、ミリ波を単なる高速モバイル通信技術としてではなく、イベントや混雑環境を支える実用インフラとして位置づけたものと言える。

実測デモで見えた差「ミリ波・通常5G・ミリ波Wi-Fiの実力」
説明会では実機を使った通信比較デモも行われた(ソフトバンク本社内の屋内)。

構成はコンパクトで、屋外イベントにも持ち込みやすい設計となっており、実際に池袋のイベントでも使用された実績があるものと同形式だ。
ユーザー側は、3つのスマートフォンが用意された。①ミリ波に対応したスマホ、②ミリ波非対応のスマホでモバイル通信(一般の5G周波数で通信)、③ミリ波非対応のスマホで「ミリ波+Wi-Fi」通信(スマホ側はWi-Fiで接続)。

【ミリ波基地局とWi-Fi CPEの構成と距離】
「①ミリ波に対応したスマホ」基地局。また「③ミリ波非対応のスマホで「ミリ波+Wi-Fi」通信(スマホ側はWi-Fiで接続)」のミリ波基地局でもある。ミリ波基地局からCPE、Wi-Fiアクセスポイントまでは見える距離。




【実機デモで計測した速度(SPEEDTEST)】
①ミリ波対応スマホ
ダウンロード 約2.4Gbps、アップロード 約300Mbps
②ミリ波非対応スマホ(通常5G)
ダウンロード 約250Mbps台、アップロード 約10~20Mbps
③ミリ波Wi-Fi経由の一般スマホ
ダウンロード 約770~800Mbps、アップロード 約90~100Mbps
この結果から、ミリ波対応端末が最も高速である一方、通常の5Gでは特にアップロード性能に大きな差があることが分かる。
一方、ミリ波Wi-Fi経由であれば、一般的なスマートフォンでも通常の5Gを大きく上回る通信速度を実現できる。
①ミリ波対応スマホの通信速度結果
ダウンロード 約2.4Gbps、アップロード 約300Mbps


②ミリ波非対応スマホ(通常5G)
ダウンロード 約250Mbps台、アップロード 約10~20Mbps

③ミリ波Wi-Fi経由の一般スマホ
ダウンロード 約770~800Mbps、アップロード 約90~100Mbps

■アップロード性能も高評価 イベント体験を左右する通信
今回の説明で特に強調されていたのが、アップロード性能の重要性だ。
ライブ会場やイベントでは、来場者が動画や写真をSNSに投稿する機会も多く、上り速度が体験価値を大きく左右する。そのため、単に「ダウンロードが速い」だけでは不十分であり、「発信できる通信」が求められている。ミリ波Wi-Fiは、まさにその課題に応える手段として提示された。

■ボトルネックはWi-Fi側 ミリ波の性能を引き出せるか
一方で、ミリ波Wi-Fiにも現時点での制約はある。
今回のデモでミリ波対応スマホより速度が低かった理由は、使用しているWi-Fiアクセスポイントが最大1Gbps級であり、ミリ波の性能を十分に引き出しきれていないためだ(実際は「実効スループット+AP性能+干渉」も影響)。ミリ波は2Gbps級だが、Wi-Fi側が1Gbps級のため“出入口で詰まっている”状態と言える。

今後はより高速なWi-Fi機器の開発や最適化が進めば、ミリ波の性能をより引き出せる可能性がある。
「速さ」から「体験」へ 5Gは次の段階に
筆者は普段、私用ではiPhoneを使用しているが、この環境ではミリ波単独の超高速通信を直接体験することはできない。Androidスマホを含む多くのユーザーにとっても現状では同様であり、現実的にはミリ波Wi-Fiのような仕組みが高速通信体験の鍵になるだろう。
今回の取り組みは、ミリ波の性能そのものを示すだけでなく、「どう使うか」に踏み込んだ点に特徴がある。Wi-Fi連携や可搬型運用といった工夫によって、これまで限定的とされてきたミリ波を、一般ユーザーが体感できるインフラへと近づけた。
5Gは単なる速度競争から、体験価値を競うフェーズへと移行しつつある。ソフトバンクの取り組みは、その転換点を示すものと言える。







