日本は世界有数の「産業用ロボット大国」として知られている。ファナック、安川電機、川崎重工業など、世界市場で存在感を持つメーカーも多い。最近ではフィジカルAIへの注目が高まる中で、「日本は産業用ロボットで世界シェア約7割を握っている」といった表現を目にすることもある。
一方、国際ロボット連盟(IFR)は2025年、日本について「世界のロボット生産の38%を占める」と発表している。
世界シェア「約7割」と「38%」。あまりにも大きな差だ。どちらかが間違っているのだろうか。
この数字の乖離を調査するためには当然、同年で比較する必要がある。少し前の集計になるが「2022年」の調査の数字で比較すると、「IFR」が46%、「NEDO」が65.9%とそれぞれ世界シェアを発表している。いずれも信頼性の高い機関だが、それにしても大きな差だと言えるだろう。
更に調査を進めると、この2つの数字はともに「世界シェア」と表現されているものの、そもそも異なる基準と集計対象から算出された数値であることがわかる。
■「世界シェア約7割」という表現の根拠
まず、世界シェア「約7割」という数字そのものの根拠を探ってみよう。
経済産業省が公開している資料には、2022年の産業用ロボット市場を0.8兆円とした上で、日本系企業のシェアを(前述の)「65.9%」とするデータが掲載されている。
出典は、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)が実施した「日系企業のモノとITサービス、ソフトウェアの国際競争ポジションに関する情報収集」だ。
この数値、65.9%をもとに大きく丸めれば「約7割」と表現されることもあるだろう。
一方で重要なのは、この「65.9%」が何の数値かだ。
NEDOの調査仕様書を確認すると、個別企業を日系企業と外資系企業などに分類し、「企業国籍区分別」の市場規模と市場占有率を調べることが明記されている。さらに世界市場規模は原則として「金額ベース」で調査し、金額での推計が困難な場合に「数量ベース」を用いるとしている。
NEDO自身も、この調査について、日本、米国、欧州、中国などの「企業が生産した売上高、世界シェア」を調べていると説明している。
つまり、日本系企業が世界市場で獲得した「売上高」を企業国籍別に集計したシェアが「65.9%」ということになる。
■IFRでは同じ2022年は「46%」と発表
一方、世界の産業用ロボット統計で広く利用されているのが、IFRの「World Robotics」だ。
IFRは2022年について、日本を「世界最大のロボット供給国」として位置付け、世界のロボット生産に占めるシェアを46%としている。
同じ2022年で見た比較では
NEDO:65.9%
IFR:46%
となるが、約20ポイントの差がある。なぜこれほど違うのだろうか。
なお、IFRの発表では、日本の世界シェアの数値はその後さらに低下し、2025年に公表された数字では38%となっている。
■65.9%と46%、大きな差が生まれる理由
では、なぜ同じ2022年のデータで、NEDOは65.9%、IFRは46%となるのだろうか。
2つの数字には、大きく2つの違いがある。
ひとつは、シェアを算出する基準だ。前述の通り、NEDOの65.9%は「売上高(金額)」をベースにしている。一方、IFRの「World Robotics」は台数を中心とする統計で、46%は世界のロボット生産に占める日本のシェアとして示されている。
もうひとつは、集計対象の違いだ。NEDOは「日本系企業」の世界市場における売上高を集計しているのに対し、IFRは日本を「ロボット生産国(robot manufacturing country)」として46%という数字を示している。
IFRの統計手法を見ると、日本ロボット工業会(JARA)から提供されるデータについて、「日本企業の世界のロボット出荷」と「日本の生産・輸入・輸出」を別々に記載している。このことから、IFRの46%は日本メーカーの世界出荷ではなく、「日本の生産(Japanese production)」をベースにした数字と解釈するのが妥当だろう。
つまり、
NEDO:日本系企業/売上高(金額)ベース 65.9%
IFR:日本の生産/台数ベース 46%
と、そもそも異なる物差しと集計対象から算出された数字ということになる。
■売上高65.9%は「普及率65.9%」とは異なる
ここからさらに一歩踏み込んで考えてみよう。
NEDOの65.9%という数字を見ると、「世界で普及している産業用ロボットの約3分の2が日本メーカー製」という印象を持つかもしれない。しかし、そういう意味ではない。
産業用ロボットは、小型で比較的安価な製品から、大型・高可搬、高性能・高精度な高額製品まで価格帯が大きく異なる。
日本メーカーは、自動車や製造業などで使われる大型の多関節ロボットをはじめ、高性能・高価格帯の産業用ロボットに強みを持っている。一方、中国では価格競争力を持つメーカーが急速に台頭している。
IFRによれば、中国市場における中国メーカーのシェアは2023年に47%(台数)まで上昇した。それ以前の約10年間は28%前後だったという。
例えば、単純化して考えれば、価格が2倍のロボットを1台販売すれば、価格が半分のロボットを2台販売した場合と売上高は同じになる。
そのため、台数では中国メーカーなどの存在感が大きくなっていても、金額で集計すれば、高価格帯の製品に強い日本メーカーのシェアは相対的に大きくなる。
NEDOの65.9%は、日本メーカーが産業用ロボット市場で大きな「売上」を獲得していることを示す重要な数字だ。しかし、それをそのまま世界における日本製ロボットの「普及」の割合として捉えると、実態とは大きく異なる印象を持つことになる。
■日本の産業用ロボットの「世界シェア」は何%なのか
ここまでを整理すると、同じ2022年について、
NEDO:日本系企業/売上高(金額)ベース 65.9%
IFR:日本国内/生産台数ベース 46%
となる。
どちらかの集計が間違っているわけではなく、「売上高」と「生産台数」、「日本系企業」と「日本国内」という、異なる物差しと集計対象で算出された数字による相違だ。
NEDOの65.9%は、日本メーカーが世界の産業用ロボット市場で大きな売上を獲得していることを示している。しかし「世界で普及している産業用ロボットの約3分の2が日本メーカー製」という意味ではない。高価格帯のロボットに強い日本メーカーの特徴も、金額ベースのシェアには反映される。
一方、IFRが示す日本の世界シェアは46%から38%へ低下している。ただし、これをそのまま「日本メーカーの競争力が低下した」と捉えることはできない。
IFR自身、日本メーカーが中国市場などに対して現地工場から直接供給していることを指摘している。日本メーカーが海外生産を拡大すれば、世界での販売規模が変わらなくても、「日本国内」で生産される比率は低下する可能性がある。
したがって、46%から38%への低下が、中国メーカーなどの台頭による日本メーカーの競争力低下によるものなのか、日本メーカーの海外生産拡大によるものなのか、あるいはその両方なのか、この数字だけから判断することはできない。
日本の産業用ロボットの世界シェアを語るなら、何%かだけでなく、「売上高か台数か」「日本企業か日本での生産か」まで確認する必要がある。同じ「世界シェア」という言葉でも、その数字が示す日本の強さは大きく異なる。
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