生成AI時代に注目される「FDE」 社会インフラ最適化の成果をグリッドが公開、四国電力は年間10億円以上の収益改善、出光の事例も紹介

生成AI時代に注目される「FDE」 社会インフラ最適化の成果をグリッドが公開、四国電力は年間10億円以上の収益改善、出光の事例も紹介

FDE(Forward Deployed Engineer:フォワード・デプロイド・エンジニア)への注目が急速に高まっている。顧客の現場に深く入り込み、業務や課題を理解しながら、技術による解決策の提案から実装、導入まで伴走するエンジニアだ。

数理最適化とAIの構築・活用を強みとするグリッドは、FDEという言葉が現在のように注目される以前から、電力、物流、都市交通などの社会インフラ領域で、同様の開発スタイルを実践してきたという。
その具体的な例のひとつが、7月末に発表したJALエンジニアリングとの共同プロジェクトだ。

同社はメディア向け説明会を開催し、FDEを活用した社会インフラ最適化プロジェクトの成果を公開した。四国電力では計画策定時間を半分以下に削減し、年間10億円以上の収益改善効果を実現。出光興産では配船計画の作成時間を約60分の1に短縮し、運送効率を最大約20%向上させた。

一方、生成AIやAIエージェントの普及によって、FDEに求められる役割そのものにも変化が起きている。説明会では、なぜ今FDEが注目されているのか、従来のSIやコンサルティングとの違い、さらに今後の業界横断での「全体最適」について、グリッド 技術共創室 室長/CTO/執行役員の梅田龍介氏が説明した。

■FDEとは何か 現場で課題発見から実装まで伴走

FDEは、顧客の業務や現場の要望を深く理解し、課題を整理した上で、開発側へ技術要件としてつなぐ役割を担う。同時に、既存の技術やプロダクトを活用しながら、顧客への提案、導入、実装まで伴走する。

一般的なシステム開発では、コンサルタントやプロジェクトマネージャーが顧客から要件を聞き、仕様書や要件定義書を作成し、それをもとにエンジニアが開発する分業型の体制が多い。

これに対してFDEでは、エンジニア自身が顧客の現場に入り込み、業務を理解しながら課題発見や要件定義にも関わる。顧客と技術開発の距離を縮めることが大きな特徴だ。

Palantirから始まったFDE、生成AI時代に急速に拡大

FDEという職種を早くから採用してきた企業として知られているのが、米Palantir Technologiesだ。

「Forward Deployed」は軍事における「前線配置」に由来する言葉で、Palantirは政府・防衛分野など、機密性が高くデータを外部へ持ち出すことが難しい環境にエンジニア自身が入り込み、現場で開発するスタイルを確立してきた。

グリッドの説明によれば、FDEは2000年代から存在していたものの、生成AIの実装需要が急増した2020年代に入って広がりが加速。OpenAI、Anthropic、Scale AIなどのAI企業に加え、大手テクノロジー企業でもFDEの採用が拡大しているという。

同社が説明会で示したデータでは、米国におけるFDE関連の求人件数は2025年4月の643件から、2026年4月には5,330件となり、1年間で729%増加したとしている。

■グリッドは「FDE」という言葉が浸透する前から実践

グリッドは2009年創業。数理最適化とAIを中核技術として、電力、物流、都市交通など社会インフラ分野の最適化に取り組んできた。

同社によれば、FDEという呼称を使っていなかった時代から、顧客の現場にエンジニアが入り込み、業務を理解し、課題の定義から数理最適化モデルの実装、現場への定着まで担当する開発スタイルを採用してきたという。

背景には、数理最適化という技術の特性がある。

例えば、複数の発電機をいつ、どの程度稼働させれば効率がよいのか。船舶をどの港からどこへ向かわせれば輸送を最適化できるのか。こうした問題では、設備やコストといった明示的な条件だけでなく、熟練者が長年の経験によって身につけた判断基準や例外処理など、言語化されていない「暗黙知」が重要になる。

最適な計算結果を出すだけでは、現場で使えるシステムにはならない。

■「正しく解く」だけでは価値にならない

梅田氏は、数理最適化で価値を生み出すためには3つのポイントが重要だと説明した。

ひとつは、現場から「解くべき問い」を見つけることだ。現場に存在する暗黙知、制約、例外を掘り起こし、何を最適化問題として定義すべきなのかを理解する必要がある。

次に、数学的な「最適解」を「使える解」に変える必要がある。既存の業務フローやシステムに組み込み、現場の担当者が理解できる画面や計画、指示として提供しなければ、計算上の最適解が得られても実際には使われない。

さらに、導入して終わりではなく、継続的に改善し、実際のKPIが動くところまで伴走する。

例えば、電力市場の制度や規制が変われば、最適化モデルに与える条件も変わる。社会インフラを取り巻く環境は継続的に変化するため、納品後もモデルやシステムを更新していく必要がある。

このためグリッドでは、FDE的な開発スタイルが数理最適化プロジェクトにとって必然だったとしている。

■四国電力では年間10億円以上の収益改善

説明会では、FDE型のアプローチによる具体的な成果も公開された。

四国電力との取り組みでは、複数の発電所・発電機について、需要や燃料、設備などの条件を考慮しながら運用計画を最適化する。

グリッドのAI・数理最適化技術と四国電力が持つエネルギー分野のノウハウを組み合わせることで、従来は担当者が行っていた複雑な計画策定を効率化した。

その結果、計画策定時間を従来の半分以下に削減。さらに経済性を評価しながら運用できるようにしたことで、年間10億円以上の収益改善効果につながったとしている。

■出光興産では配船計画を約60分の1に短縮

物流分野では、出光興産との配船計画最適化の事例が紹介された。

全国の拠点へ石油製品などを供給するには、船舶をいつ、どこへ向かわせ、どの港で積み降ろしするのかを計画する必要がある。天候、港湾、船舶、需要など、多くの条件が絡み合う複雑な最適化問題だ。

出光興産が持つ配船オペレーションの知見と、グリッドのAI・最適化技術を融合した結果、計画作成にかかる時間を約60分の1に削減し、運送効率も最大約20%向上したという。

また、大手化学メーカーのトクヤマでは、国内初となる天候を考慮した配船計画の最適化・自動化に取り組み、計画時間を半分に削減するとともに、輸送コストについても年間数千万円規模の削減効果を上げたとしている。

■FDEをさらに進化、「ドメイン人材+FDE」の2人一組へ

グリッドが今後強化しようとしているのが、業界の専門知識を持つ「ドメイン人材」とFDEを組み合わせた体制だ。

例えば電力分野であれば、実際に電力会社などで働いた経験を持つ人材を採用し、グリッドのエンジニアと組ませる。

ドメイン人材は、業界特有の制度や商習慣、業務を理解しているため、現場へのヒアリングの段階から質問の質を高められる。一般的なヒアリングでは時間をかけなければ到達できない本質的な課題へ、より短時間で踏み込める可能性がある。

その隣でFDEが、得られた情報をすぐに技術へ落とし込む。

ヒアリングを受けてプロトタイプや画面を作り、それをその場で現場担当者に見せれば、「ここは違う」「ここはもっとこうしたい」といった新たな情報が出てくる。そのフィードバックを再び実装へ反映する。

ヒアリング、実装、確認というサイクルを短期間で繰り返し、より深い課題に到達することが狙いだ。

■JALエンジニアリング、8空港それぞれの業務を理解して共通化

この新しい体制を活用している例として紹介されたのが、JALエンジニアリングとの運航整備における配員計画最適化プロジェクトだ。

航空機を運航するには、空港で整備士による点検・整備が必要となる。一方、航空機にはさまざまな機種があり、整備士が保有する資格やスキルも異なる。限られた人数の整備士を、どの航空機に、どの時間帯に配置するのかは複雑な計画業務となる。

今回のプロジェクトでは8つの空港が対象となる。

難しいのは、同じ航空会社の空港業務であっても、それぞれの空港で規模や運用方法、業務の優先順位などが異なり、独自のスタイルが形成されていることだ。

そこでグリッドは各空港の現場に入り、業務を理解した上で共通部分を抽出し、空港ごとの違いはカスタマイズによって吸収する。

梅田氏は、こうした案件について、FDE的なアプローチがなければ「かなり厳しかった」と振り返った。

■生成AIで「コードを書く」作業は減少、FDEは顧客とAIをつなぐ存在へ

では、FDEは従来のSIerやコンサルタントと何が違うのだろうか。

質疑応答でこの点を質問すると、梅田氏は「現場へのコミットの深さ」が変わってきたと説明した。

従来はプロジェクトマネージャーなどが現場へ行き、エンジニアは整理された要件や仕様書を受け取って開発する場合も多かった。しかし現在は、エンジニア自身が顧客先に席を置き、場合によっては出向するなど、顧客と同じ立場に近いところまで入り込んで業務を理解する。

生成AIの登場によって、この役割はさらに重要になる可能性がある。

梅田氏によれば、これまで人間が担当してきた開発工程の一部は生成AIに代替されつつある。特に、実際にキーボードを使ってコードを書く作業については、コーディングエージェントが担う割合が高まっているという。

一方で、「顧客の中に入って話を聞く」「何を解決すべきかを見つける」「課題を要件として具体化する」「AIやエージェントを使って実装できる形に変換する」といった部分の重要性は相対的に高まる。

FDEには、純粋なコーディング技術だけではなく、コーディングエージェントを使いこなす力と、顧客や業界を理解する力の両方が必要になるという。

生成AIによってエンジニアが不要になるのではなく、エンジニアが人間として担うべき領域が変わりつつある。こうした変化も、AI時代にFDEの価値が高まっている背景のひとつと言えそうだ。

■現場で得た知見を競合他社に横展開できるのか

FDEが顧客の現場に深く入り込むほど、別の問題も生まれる。

現場で得た知識やAIによる最適化のノウハウを、同じ業界の他社へ横展開できるのかという問題だ。

筆者は説明会で、自動車メーカーのように競争が激しい業界を例に、ある企業の現場で蓄積したAIや最適化のノウハウを競合企業へ展開することは現実的なのか、と質問した。

梅田氏は「業界による」と回答。電力分野などでは比較的知見を共有しやすい一方、自動車をはじめとする製造業では競争が激しく、横展開は難しいとした。現時点で、そうした競争の激しい業界を簡単に「切り崩す方法があるわけではない」という。

一方、人手不足や設備維持コスト、脱炭素などを背景に、一社だけでは課題を解決できず、企業同士が協力する必要が生じている領域も増えてきている。

例えば共同輸送では、一社ごとの最適化ではなく、複数社が設備や物流網を共有しながら全体を最適化する必要が出ている。

FDEが現場に入り込む対象も、一企業から「業界」へ広がっていく可能性がある。

■個社最適から「全体最適」へ、Future Design Labを始動

こうした変化を見据えてグリッドが立ち上げたのが、技術共創室と共創拠点「Future Design Lab」だ。

これまで同社は、特定の顧客の現場に深く入り込み、一社の課題を最適化することで成果を上げてきた。

しかし、日本では人口減少や人手不足が進み、大規模な設備を複数企業で共有するケースも増えている。設備を一社だけで保有すると稼働率が下がり、維持コストが負担になるためだ。

一社の設備を最適化するだけでも難しいが、2社、3社が同じ設備を利用するようになれば、それぞれ異なる条件や目的を調整した上で、全体を最適化する必要がある。

グリッドはFuture Design Labを基点として、企業単位から業界単位へ、さらに複数の業界をまたいだ共創へと対象を広げようとしている。

同社は今後、これまで取り組んできた電力や物流などに加えて、新しい業界への展開も進める。説明会では医療分野への取り組みや、より上位レイヤーとなる「経営の最適化」などにも言及した。

さらに技術面では、ロボットを含むハードウェア領域にも挑戦したいとの考えを示した。FDEが企業のITシステムだけでなく、現実世界で動く設備やロボットへ広がれば、フィジカルAI時代にも重要な役割となる可能性がある。

AI時代のFDEは「コードを書く人」から「現場とAIをつなぐ人」へ

FDEという仕事自体は、生成AIによって突然生まれたものではない。

グリッドの事例を見ると、社会インフラのように業務が複雑で、現場の暗黙知が重要な領域では、エンジニアが現場へ入り込む必要性は以前から存在していた。

一方、生成AIやAIエージェントによって実装のハードルが下がるほど、「何を作るべきか」「何をAIにやらせるべきか」「現場で本当に使えるのか」を判断する能力の重要性は高まる。

その意味では、AI時代のFDEは、顧客先でコードを書くことだけが役割ではない。

現場を理解し、業務を技術要件へ翻訳し、AIを使って素早く形にし、実際のKPIが改善するところまで伴走する。グリッドの取り組みは、生成AI時代にエンジニアの役割がどのように変わっていくのかを示す事例のひとつと言えそうだ。

《神崎 洋治》

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神崎 洋治

神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。

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