「日本には現場がある」ZEALSが準国産ヒューマノイド「D1」を開発 OS・AIモデルを垂直統合、AWSで学習データ基盤構築

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株式会社ZEALSは、アマゾン ウェブ サービス ジャパン(AWSジャパン)が開催した「フィジカルAI開発支援プログラム by AWSジャパン」の成果発表会で、準国産コンパクトヒューマノイド「D1」と、現場データをAIの学習へつなぐ開発基盤について発表した。

D1は日本の狭い屋内で人と共に働くことを想定し、走行ベース幅を48cmに抑えた車輪移動型の双腕ロボット(セミヒューマノイド)である。価格は1体500万円からを予定している。2026年度内にD1を100台量産し、現場で合計1万時間稼働させる目標を掲げる。

プログラム採択時には他社製ロボットを使ったソフトウェア開発が中心だったが、そこから約4~5カ月で、自社ハードウェア「D1」、専用OS「Omakase OS」、AIモデル「Omakase Zen」をそろえた。

そして、発表会直前には名古屋市の重工大須病院へ2台を投入し、3日間で延べ35時間稼働させた。重視するのは販売台数だけではなく、実際の現場でロボットを動かし、フィジカルAIの学習に必要なデータを蓄積することだ。

ZEALSが目指しているのは、ロボットを現場へ届けることだけではない。人手不足が深刻な日本の現場を、フィジカルAIの学習に必要なデータが生まれる場所と捉え、実機の導入、データ収集、モデルの学習・改善、現場への再投入を循環させようとしている。

(出典:ZEALS/AWSジャパン成果発表会資料)

■「日本には現場がある」

ZEALS代表取締役の清水正大氏はこの半年、中国、米国、日本を行き来しながらフィジカルAIとヒューマノイドの動向を見てきたという。その上で、AIモデルやソフトウェアでは米国が先行し、ハードウェアの量産では中国が先行しているとの認識を示した。

株式会社ZEALS 代表取締役の清水正大氏

では、日本には何があるのか。
清水氏の答えは「現場」だ。

日本には、医療・介護、製造・物流、ホテル・サービスなど、深刻な人手不足を抱え、ロボットの活用が求められる現場が数多くある。また、日本の屋内は狭く、人や設備が密集している。高い品質や安全性を求められるこうした環境で収集したデータは、ロボットを世界の現場へ広げるための資産になり得るとZEALSは考えている。

大規模言語モデルは、インターネット上に蓄積された文章を学習に利用できた。一方、VLAや世界モデルなどのロボット基盤モデルには、映像に加え、力加減、移動時の加減速、物を渡す角度など、実世界でロボットを動かさなければ得られないデータが必要になる。

ZEALSは「現場データが欲しい。そして、今日の現場で役に立つロボットを届けたい」という考えから、現場へ入るための身体を自ら作る決断をした。その答えがD1だ。

インターネット上の文章を利用できた大規模言語モデルに対し、ロボット基盤モデルには映像や力加減、加減速など、実世界でしか得られない現場データが必要になる(出典:ZEALS/AWSジャパン成果発表会資料)

■狭い屋内で人と働く、車輪移動型の「D1」

D1は、人の上半身に近い双腕構造と車輪式の走行ベースを組み合わせたコンパクトなセミ・ヒューマノイド。全高は約129.3~159.3cm、走行ベース幅は約48cm。
会話、受付・案内、自律ナビゲーション、障害物回避、多言語対応に加え、双腕による物品の準備や運搬、受け渡しなどへの展開を想定する。

(出典:ZEALS/AWSジャパン成果発表会資料)

移動機構に二足歩行ではなく車輪を採用したのは、人が行き交う屋内での安全性と実用性を重視したためである。清水氏は二足歩行を否定するものではないと前置きしながら、転倒によって人を傷つけるリスクを避けるため、台車型のセミヒューマノイドを選んだと説明した。

販売価格は1体500万円からを予定し、2026年8月5日に導入相談と販売の受け付けを開始した。

ZEALSはD1を「準国産」と表現する。同社が日本の現場に合わせてゼロから設計し、部品は世界各地から調達して、日本で組み立てているためである。
すべての部品を国内で調達するという意味の国産ではない。現時点では、世界水準の部品を採用することで開発期間と価格を抑え、人手不足に直面する現場へ早く届けることを優先した。将来は国内で完結する「純国産」を目指すとしている。

■100台量産と「1万時間の現場稼働」

ZEALSは2026年度の目標として、D1を100台量産し、現場で合計1万時間稼働させる方針を掲げている。ここで同社が重視するのは、販売した台数ではなく、実際の現場で稼働した時間である。

ロボットを現場へ投入すれば、研究施設では再現しにくい人の動線、設備の配置、通信状況、照明や音、物品の形や置き方などに直面する。うまくできた動作だけでなく、失敗や人による介入もモデル改善の材料になる。1万時間という目標には、現場導入とデータ収集を同時に進める意図がある。

ただし、1社だけで1万時間を実現することは難しい。ZEALSは医療、保険、リース、導入支援、データ収集などを担う企業との連携を進めている。成果発表では、CUC、サクラ十字、CHCP、JA三井リース、三菱HCキャピタル、みずほリース、三井住友海上、GMO AI&ロボティクス商事、クイック、タイミーなどとのエコシステムを紹介した。

■4~5カ月でハードウェア、OS、AIモデルを垂直統合

AWSの開発支援プログラムに採択された2026年3月時点で、ZEALSはソフトウェアに注力し、中国企業のロボットを利用していた。そこから4~5カ月で、自社ハードウェア「D1」、ヒューマノイド専用の統合ソフトウェア群「Omakase OS」、マニピュレーション用AIモデルと学習・改善を支える基盤「Omakase Zen」までをそろえた。

D1が現場で収集したデータをOmakase Zenによる学習と評価に利用し、改善したモデルを再び現場のD1へ展開する。機体、OS、AIモデルの三つを自社で扱うことで、この循環を一体で回せる体制を整えた。

AWSは、Omakase Zenの中核となるデータパイプラインの構築を支援した。具体的には、モデル開発で使用するデータの処理基盤、分散学習への対応、データ変換の高速化などである。ZEALSは米国のAWSチームとも議論しながら構成を検討し、データ変換を従来の10倍に高速化したという。

AWSの支援を受けて構築したOmakase Zenのデータパイプライン。分散学習への対応などを進め、データ変換を従来の10倍に高速化した(出典:ZEALS/AWSジャパン成果発表会資料)

■病院へ2台を投入、3日間で延べ35時間稼働

成果発表会の直前となる2026年8月26~28日、ZEALSはCUCの協力のもと、名古屋市の重工大須病院でD1の実証実験を行った。2台のD1を投入し、3日間で延べ35時間稼働。来院者の案内、軽量物の運搬、配茶機を使ったお茶の準備、下膳補助、体操の進行という5種類の院内業務を検証した。

受付・案内と軽量物運搬では、音声による指示を受け、カメラやセンサーで人や障害物を認識しながら目的地まで移動した。配茶や下膳では双腕によるボタン操作やトレーの把持・運搬などを試したが、安全確保のため遠隔操作も併用している。現段階では、すべての業務を完全自律で行ったわけではない点や、遠隔操作が効率的な作業も多々ある点には留意したい。

実証中はZEALSのエンジニアが常駐し、必要に応じて遠隔操作や緊急停止へ切り替えられる体制を整えた。設定した検証範囲では、人との接触とD1の転倒はいずれもゼロだったという。一方、双腕作業については、物に応じた把持位置や力加減、動作の再現性といった課題も確認された。

この実証の価値は、D1が病院内を動いたことだけにあるのではない。院内設備や実際に使われている物品を扱うことで、研究施設では得られない現場データを収集できた点にある。得られたデータをOmakase Zenの学習と評価に使い、配茶や下膳など、双腕による作業の自律性と精度を高めていく計画だ。

重工大須病院に2台のD1を投入し、2026年8月26~28日の3日間で延べ35時間稼働。院内案内、軽量物運搬、配茶機操作、下膳補助、体操進行を検証した(出典:ZEALS/AWSジャパン成果発表会資料)

■ヒューマノイドを導入する現場と、AIを育てる現場を重ねる

ZEALSの取り組みは、「日本はヒューマノイドのハードウェアやAIモデルで米国や中国にどう対抗するか」という問いに、現場から答えようとするものである。日本向けの機体を早く、導入可能な価格で投入し、人手不足の現場で実際に動かす。そこで得たデータをAIの改善へ戻し、再び現場へ届ける。

病院での35時間は、同社が掲げる1万時間に対してまだ出発点である。自律動作の完成度や双腕作業の安全性など、解決すべき課題も残る。それでも、自社の機体、OS、AIモデル、AWS上のデータパイプラインをそろえ、実際の病院でデータを得るところまで進んだことは、ZEALSがわずか数カ月で構築した垂直統合の具体的な成果といえる。

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《神崎 洋治》

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神崎 洋治

神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。

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