フィジカルAIを現場に根付かせる条件とは Booster Robotics、Fairy Devices、AVITAが示したデータ収集【CEATEC 2026】

フィジカルAIを現場に根付かせる条件とは Booster Robotics、Fairy Devices、AVITAが示したデータ収集【CEATEC 2026】
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2026年10月13日、CEATEC 2026のカンファレンス「[XS-135] フィジカルAIを現場に根付かせるには ― データと共創から考える社会実装 ―」が、展示ホール5のXステージで開かれた。登壇したのはBooster Robotics、Fairy Devices株式会社、AVITA株式会社の3社である。

ヒューマノイドの開発基盤、現場の動画収集、アバターによる接客という異なる入口から、技術を現場に定着させる条件が語られた。

3社の講演には共通点があった。AIの学習に使えるデータは、インターネット上ではなく現場にあるという認識である。一方で、その先の投資判断や実装の進め方には、各社の違いが表れた。登壇順に内容を整理する。

■ Booster Robotics:ハードウェアと開発環境を一体で提供する

トップバッターのBooster Roboticsは、APAC責任者スン・ビンホン氏が講演した。同社は2023年の創業で、中核メンバーは清華大学ロボット制御研究室出身者を中心に構成されており、ヒューマノイド分野で約20年の技術蓄積を有する。研究・教育用途を主なターゲットとし、大学や研究機関、企業の研究開発部門などで導入が進んでいる。

Booster Robotics スン・ビンホン氏

同社は、ヒューマノイドロボット本体、ロボット向けソフトウェア基盤(Booster OS)、開発ツール群(Booster Studio)を統合したエコシステムの構築を目指している。製品ラインアップは、教育やロボット競技向けのKシリーズと、大学や研究機関などでの研究開発用途を主としたTシリーズで構成される。

KシリーズとTシリーズを紹介するスライド

開発ツール「Booster Studio」では、シミュレーション、デバッグ、実機への展開までを1つの環境で進められる。開発者が作った動作やアプリを流通させる「Agent Store」も用意しており、スマートフォンのアプリストアに近い仕組みを想定している。

データ収集の分野では、人の全身動作を遠隔操作でロボットに伝え、映像や関節の情報を記録するソリューションを紹介した。学習用に整えたデータを書き出し、同社のシミュレーション環境で再利用できる点が特徴だという。

遠隔操作によるデータ収集ソリューションのスライド

■ Fairy Devices:遠隔支援の動画を、AIの学習データに変える

2番目の講演は、Fairy Devices代表取締役CEO兼CTOの藤野真人氏が登壇。同社は首にかけて使うウェアラブルデバイス「THINKLET」を開発している。

Androidを基にした独自OS「Fairy OS」を搭載し、広角カメラと5つのマイクを備える。遠隔支援サービス「LINKLET」では、設定済み端末を作業者が首にかけるだけで利用でき、遠隔地の熟練者が現場を支援することが可能だ。

Fairy Devices 藤野真人氏
THINKLETの仕様を示すスライド

元は遠隔支援の用途から始まった製品である。ZoomやMicrosoft Teamsと接続でき、活用事例も広がっているという。支援側の画面には現場の一人称視点の映像が映り、その映像は録画される。藤野氏は、熟練者が現場を支援する様子の動画こそがAIの学習データになると考え、ここ3年ほどで取り組みを進めてきたと説明した。

背景にあるのは、生産年齢人口の減少である。藤野氏は、熟練工の知識をデジタル化する時間は限られていると述べた。

具体例として挙げたのが、ダイキン工業との取り組みである。エアコンの修理を担当するエンジニアがTHINKLETで撮影した数百時間分の動画を、既存の基盤モデルにファインチューニング(追加学習)させ、修理を支援するAIエージェントを開発した。この取り組みは、2026年初頭に経済産業省とNEDOが実施した「GENIAC PRIZE」の「製造業の暗黙知の形式知化」部門で第1位となり、AIエージェント賞も受賞している。

GENIAC PRIZEの受賞を紹介するスライド

藤野氏は、エアコンのパネルを開けて内部を修理する映像や、発電機の内部に入って作業する映像はYouTubeにもなく、こうした動画を持つのは各社の現場だと指摘した。遠隔支援で業務価値を提供しながら動画を蓄積し、教材や作業標準の作成に使い、その先でAIエージェントを育てるという循環を、同社は「三角形」で示している。

フィジカルAIについて、人が遠隔操作した記録をロボットに学ばせる模倣学習が現在多いが、行動の多様性を確保するには手数が足りず、人が自分の目線で撮影する一人称視点(エゴセントリック)のデータが次の候補になっているという。

そのうえで藤野氏は、人の介在が欠かせず、現場があり、法人が顧客となる領域に、日本企業の機会が大きいと見ている。

日本企業にとって機会が大きい領域を整理したスライド

■ AVITA:アバターで人手不足を補い、対話データを残す

3番目のAVITAは、取締役副社長COO兼CFOの西口昇吾氏が事前収録の映像で講演した。代表は大阪大学の石黒浩教授が務めている。

AVITA 西口昇吾氏

西口氏が前提として示したのは、働き手の減少である。2020年から2040年にかけて生産年齢人口が17%減るとされる一方、最低賃金(全国加重平均)は2015年から2025年の10年間で323円上がった。

人を雇う費用が上がり、人を確保しにくくなる状況で、同社はAI、アバター、ロボットで人手を補うアプローチを2つ紹介した。一人の生産性を高める方法と、身体や言語などの制約で働けなかった人が働ける環境をつくる方法である。

生産年齢人口と最低賃金の推移を示したスライド

AVITAの事業は、採用、研修、接客の3領域に分かれる。接客分野では、アバター接客サービスを展開しており、その代表例がローソンへの導入事例だ。店舗ではセルフレジ横に設置されたアバターが、操作に迷う来店客をサポートするほか、商品案内や接客対応を担っている。

また、アバターを遠隔操作するスタッフは自宅などから勤務でき、1人で複数店舗を同時に担当することも可能だ。こうした仕組みにより、育児や介護、身体的な制約など、さまざまな事情を抱える人でも働きやすい環境づくりが進められている。ローソンとAVITAは、アバターを活用した新たな接客モデルと柔軟な働き方の実現を目指している。

ローソンの店舗で活用するアバターの事例を示したスライド

教育分野では、営業や接客のロールプレイングを行うAIロープレサービス「アバトレ」を展開している。利用者はAIアバターを相手に実践的な対話トレーニングを繰り返し行うことができ、ロールプレイ後にはAIが会話内容を分析し、評価や改善点をフィードバックする。

また、商談や接客の録音データ、Web会議の議事録などをAIが分析し、個人ごとの特性や課題に応じたトレーニングシナリオを自動生成する機能も提供している。蓄積された対話データを活用することで、より効果的な人材育成やトレーニングの最適化につなげる考えだ。

一方、AVITAは接客や研修向けのアバターサービスに加え、ヒューマノイドやフィジカルAIの開発にも取り組んでいる。2026年には、アバターやロボット向けのソフトウェア基盤「AVITA OS」を発表し、フィジカルAIの社会実装を進める方針を示している。


■ 導入の壁は、意思決定者と現場の時間軸の違い

西口氏は、技術を現場に定着させる際の課題として、導入を決める人と現場で使う人の視点の違いを挙げた。そのうえで、ROI(投資対効果)を2つの時間軸で考えるよう提案している。

現場の担当者は、今日から半年程度を見る。システムの月額利用料が、効率化で減った費用と同程度かそれ以下であれば許容できるという基準である。

経営層や管理職は、3年から5年で考える。採用や教育にかかる費用、少人数でも事業を続けられる体制づくりまでを含めて投資を評価する。

どちらが正しいのではなく、両方を満たす計算が定着には必要だというのが西口氏の主張である。

ROIの考え方を整理したスライド

■ 3社の講演から読み取れること

3社の話を並べると、データの出どころが共通している。Boosterは遠隔操作の記録、Fairy Devicesは遠隔支援の動画、AVITAは接客や研修の対話ログである。各社とも、現場で生まれる動作、映像、対話を記録し、学習に活用する方法を示した。

一方で、フィジカルAIとして実際にロボットが現場の物理作業を担う段階は、いずれの講演でもこれからの課題として語られた。

現場データがどの経路で実用に結びつくかは、現時点で確定していない要素も大きいと言える。導入を検討する企業にとっては、まず自社の現場でどのようなデータが日々生まれているかを把握し、半年単位と3年から5年単位の両方でROIを描けるかを確認することが、出発点になるのではないだろうか。

《杉田 大樹》

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