2026年10月14日、CEATEC 2026のコンベンションホールAで、セッション「6G×AIが創る未来社会 セッション3 AI-Native 6G:通信とAIの融合で知能化する次世代通信基盤」が開かれた。総務省、XGMF(XGモバイル推進フォーラム)、ARIB(電波産業会)の主催である。
モデレーターは、XGMF代表で東京大学教授の中尾彰宏氏が務めた。パネリストとして、NTTドコモの磯部慎一氏、KDDI総合研究所の山本俊明氏、楽天モバイルの朽津光広氏、エヌビディア合同会社の野田真氏、ソフトバンクの船吉秀人氏が登壇した。
本記事ではその様子をダイジェスト形式でお届けする。

AIの議論に、通信の視点が足りない
冒頭で中尾氏は、AIをめぐる議論が半導体、モデル、データセンター、電力に偏っていると指摘した。AIはどこかで計算し、誰かに届けるものであり、その間をつなぐのが通信である。スマートフォンのAIも、ロボットも、データセンターの内部も、通信なしには動かない。

中尾氏が示した具体例は、データセンター内部のネットワークである。米国の学会が5年間に発表した論文を調べると、評価の軸が変わっているという。従来は1秒間に何ビット送れるかが問われていた。いまは複数のGPUを同期させて動かすため、GPUを待たせずに回し続けられるかが問われる。通信の設計を変えると、GPUの利用効率が2倍から8倍程度まで上がる報告があると、中尾氏は説明した。

中尾氏は自宅の事例も紹介した。メモリ512GBのMac Studioを4台、RDMA(ネットワーク越しにメモリへ直接アクセスする方式)でつなぐと、1兆パラメータ規模のオープンウェイトのモデルが毎秒約30トークンで動く。単にハードウェアを並べるだけでは、この速度は出ないという。
そのうえで中尾氏は、通信とAIの融合に3つの形があると整理した。AIで通信を賢くすること、通信でAIを支えること、通信とAIを同じ計算基盤で動かすことである。
NTTドコモ:100万台超の機器データをエージェントAIが解析する

磯部氏は、NTTドコモの方針を「AIセントリックネットワーク」と説明した。ネットワークの運用にAIを使う「AI for Network」と、AIのためのネットワーク基盤をつくる「Network for AI」の2本立てである。
前者では、ネットワーク保全業務へのエージェントAI(自律的に作業を進めるAI)の商用利用を2月に始めた。RANからコアネットワークまで、100万台を超えるネットワーク機器のデータを解析する。複数のエージェントAIが異常を検知し、運用者に措置を提案するところまで担う。

後者では、三井不動産との取り組みを挙げた。ネットワーク内の計算資源(インネットワークコンピューティング)を使い、端末側のAI処理を肩代わりする実証を進めている。ドコモビジネスは、ネットワーク内に置いたGPUを共有して顧客に提供し、フィジカルAI(現実世界で動くロボットなどのAI)の用途に使う構想も発表している。
6Gに向けた事例としては、無線の送受信にAIを適用する研究を紹介した。現在の5Gは、チャネル情報(電波の伝わり方の状態)を把握するためにパイロット信号を送る必要がある。AIを使うとこの信号が不要になり、屋外環境でスループットが18%向上したことを実証したという。

KDDI:数十万局の基地局設定をAIで最適化する

山本氏は、KDDIが独自に開発した分散強化学習モデルを、商用の数十万局に導入したと説明した。基地局の設定は、場所や時間によって最適値が変わる。人手では対応しきれない数十万局の設定を、AIがセルごとに調整する。スライドによると、低スループットエリアは25%減り、学習期間は従来のAIの1年から1週間に短縮された。

この日の10月14日には、時間帯ごとの混雑にあわせて最適化する成果も発表された。基地局ごとの混雑状況を見て、制御信号に割り当てるリソースを時間単位で変える仕組みである。トライアルでは、混雑時間帯の上り通信速度が60%向上し、低速度エリアが30%減った。

山本氏は、現状に満足していないとも述べた。今のAIは、既存のネットワークに外から手を加える補助役にとどまるという。AI-Nativeとは、AIがネットワークの一部として組み込まれ、自律的に働く状態を指す。6Gでは、AIエージェントやロボットが協調するための「社会の神経網」になり、通信プロトコル自体もAIが環境に合わせて書き換えていくと見通した。その段階に進めば、世代(Generation)という区切りがなくなるかもしれないと、山本氏は想像を語った。
楽天モバイル:AIアプリを本番で7本動かす

楽天モバイルは、仮想化したOpen RAN(基地局の機器を異なるメーカーで組み合わせる仕組み)に、RIC(RAN Intelligent Controller、無線ネットワークの知能的な制御装置)を載せた構成を採る。スライドによると、RICの全国展開は2025年に始まった。RIC上で動くAIアプリ「rApps」は、本番稼働が7本、開発中が10本以上である。
消費電力の削減を狙うアプリもある。アンテナ構成を動的に切り替えるものは最大15%、基地局の電源を動的に落とすものは10%、5Gセルを止めるものは20%の削減をそれぞれ掲げている。

朽津氏は、通信とAIが同じ計算基盤を共有する構成にも触れた。基地局のアプリケーションとAIを1つのクラスターに載せ、計算資源の無駄を減らす考え方である。
ソフトバンク:指標を「速度」から「トークン」へ移す

船吉氏のスライドは、AI時代のインフラ指標の見直しから始まった。現在のネットワーク指標は、最高速度(bps)とアンテナピクト(5G/6Gの表示)である。今後は、最初のトークンが返るまでの時間(TTFT)と、1秒あたりのトークン数(TPS)が指標になるという。

AIの推論を、データセンターに加えて通信網の中にも置く構想も示した。キャリア閉域網にGPUを置くと、クラウドで数百ミリ秒かかる応答を、数十ミリ秒以内に短縮できるという。

AI-RAN(基地局の処理にAIを組み込む仕組み)の応用例として、レーダー検知も紹介された。米国のCBRS帯(市民ブロードバンド無線サービス)では、軍のレーダーとの干渉を避ける必要がある。5Gの上り信号の中からレーダー信号をリアルタイムに検知し、SINR(信号対雑音干渉比)がマイナス5dB以上であれば検知率が100%になることを確認したという。
エヌビディア:推論の増加を、通信網の中でどう処理するか

野田氏は、AIの計算量がChatGPTが登場した2023年の頃と比べて100倍以上に増えていると説明した。2030年ごろには、AIの計算の約6割を推論が占めるとの見方も紹介した。推論はクラウドだけでなく、通信事業者のエッジのデータセンターなど、ネットワークの各所で動かされることになる。
その基盤として野田氏が挙げたのが、AI-RANである。スライドには、ソフトバンクやNTTドコモを含む世界の通信事業者が、AI-RANの実証に取り組む様子が示された。エヌビディアは、シミュレーション用のオープンソースソフトウェアや基地局開発用のSDK、GPUを載せたハードウェアを開発者に提供している。

野田氏は、AIエージェントが無線通信のアルゴリズムを自律的に生み出す「AIテレコエンジニア」も紹介した。エージェントが複数の案をコードにし、シミュレーションで評価し、結果を次の案に反映する工程を繰り返す。従来のアルゴリズムより、数倍の性能が出る例を実証できているという。
まとめ
AI-Nativeな6Gの姿は、まだ1つに定まっていない。標準化と各社の商用導入が並行して進むなかで、その輪郭が少しずつ具体化していく段階にあると言えるだろう。







