米中ヒューマノイド競争、日本企業の商機はどこにある? 投資家・ペガサスのウッザマンCEOに聞く 防衛テックの投資動向も

米中ヒューマノイド競争、日本企業の商機はどこにある? 投資家・ペガサスのウッザマンCEOに聞く 防衛テックの投資動向も
  • 米中ヒューマノイド競争、日本企業の商機はどこにある? 投資家・ペガサスのウッザマンCEOに聞く 防衛テックの投資動向も
  • ペガサス・テック・ベンチャーズ 代表パートナー兼CEO アニス・ウッザマン氏
  • ペガサスは企業向けのベンチャー投資を「VCaaS(Venture Capital-as-a-Service)」として提供している
  • 「日本はロボットに必要な部品をほとんど全部作れる。米国のソフトと連携すれば前に進める」
  • 「防衛と民生を切り離さず、社会課題に使える技術として見ている」と話すウッザマン氏
  • ペガサスが主催する「スタートアップワールドカップ」。2026年の世界決勝は11月4日~6日に米サンフランシスコで開催

フィジカルAIの進化によって、ヒューマノイドは研究段階から工場や物流の現場へと動き出している。米国ではFigure AIやAgility Robotics、テスラが実用化を競い、中国では国家プロジェクトのもとで多数の企業が参入する。その中で、日本のロボット産業はどこで勝負すべきなのか。

米シリコンバレーに本社を置くベンチャーキャピタル、ペガサス・テック・ベンチャーズは、アイシンやジャパネットなど日本の大手企業とともにCVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)ファンドを運用し、世界のAI・ロボティクス企業に投資している。

ロボスタは同社の創業者 兼CEO、アニス・ウッザマン氏にインタビューを行った。「中国がかなり先行しているが」という問いに、ウッザマン氏は「やり方はあると思います」と答え、自ら用意した資料と映像を見せながら、米中のヒューマノイドの違いと日本の勝ち筋を語った。話は、ロボットを支える自律制御AIなどの要素技術、そしてその先にある防衛テックにも及んだ。

ペガサス・テック・ベンチャーズ 代表パートナー兼CEO アニス・ウッザマン氏

■東工大で学び、IBMで戦略投資を担当 2011年にペガサスを創業

ウッザマン氏は東京工業大学(現・東京科学大学)工学部を卒業後、米オクラホマ州立大学で修士号、首都大学東京(現・東京都立大学)でコンピュータ工学の博士号を取得した。その後、IBMで戦略投資を担当し、大企業が巨額の予算のなかでスタートアップの技術を取り込む、その最前線に立ってきた。

同社によれば、大企業の側にどんなニーズがあるのかを知っていたことに加え、日本で学んだ経験から「日本の技術力は高いのに、なぜ世界にあまり出ていかないのか」という問題意識を持っていたという。大企業とスタートアップ、そして日本と世界を「つなぐ」仕事をしようと、2011年にペガサス・テック・ベンチャーズを立ち上げた。

■出資から技術提携へ アイシンやジャパネットと進める「1社1ファンド」

Q.ペガサス・テック・ベンチャーズの特徴を教えてください。

アニス・ウッザマン氏

「私たちはシリコンバレーにあるベンチャーキャピタルですが、少し変わっています。ただ投資をするだけではありません。

日本の大企業も多くがCVCを作っていますが、海外の、世界のトップ技術を持っているベンチャーと組んでいくのは、日本の企業にとって大きなハードルです。そこで私たちは、日本の大企業が求めているトップ技術と、シリコンバレーやヨーロッパなど世界のベンチャー企業をつなぎます。

進め方は「1社1ファンド」です。まず、その企業が何をやりたいのかをヒアリングして、預けていただいたファンドから戦略的に投資します。そのうえで、技術提携やライセンス契約、場合によってはジョイントベンチャーといった形で新しいビジネスにつなげていく。大企業とベンチャーをつなぐことが、私たちのメインコンセプトです。」

ペガサスは企業向けのベンチャー投資を「VCaaS(Venture Capital-as-a-Service)」として提供している(出典:Pegasus Tech Ventures公式サイト)

同社はこの仕組みを「VCaaS(Venture Capital-as-a-Service)」と呼ぶ。現在、世界40社以上の大手企業からLP出資を受け、これまでに世界300社以上に投資してきた。公式サイトでは88件のエグジット、29件のIPOの実績を掲げている。投資先にはSpaceX、OpenAI、Anthropic、xAIなどが並び、日本ではMujinやSkyDriveにも投資している。

アニス・ウッザマン氏

「例えばアイシンさんとは2018年からファンドを運用していて、最初は75億円ほどの規模でしたが、今年、更新されました。ほかにも化学メーカーや素材、ヘルスケア、ITなど、さまざまな業種の企業さんと一緒にやっています。カルビーさんとはアグリカルチャー(農業)の分野ですね。ジャパネットさんはテクノロジー系で、スタジアムや施設を作るなかで、投資先のテクノロジーが活用されました。」

アイシンとのファンドは2026年2月、総額約150億円(1億ドル)への拡大と2036年までの運用期間延長が発表され、フィジカルAIやロボティクスにも注力するとしている。ジャパネットグループとのファンドも300億円規模に拡大し、生成AIやフィジカルAI、宇宙分野へと投資領域を広げている。

■米中ヒューマノイド競争をどう見るか 「頭脳」の進化に注目

Q. 中国が国家プロジェクトとして多額の資金を投じる中、日本がヒューマノイド分野で勝機を見いだせるのか、懸念する声もあります。

アニス・ウッザマン氏

「やり方はあると思います。(資料を見せながら)ロボットの技術は、ヒューマノイド全体のシステムを作っている会社と、ロボットのモデル、つまり頭脳を作っている会社に分かれています。中国とアメリカの大きな違いは、この頭脳の部分の進化です。

中国のロボットはタスク型で、一つひとつのタスクはよくできていて、そういう映像もたくさん流れていますが、頭脳の部分は慎重に見る必要があります。そこには米国の勝ち筋があります。また、日本にはハードウェアでの蓄積があります。これはヒューマノイドの世界でも絶対に必要なものです。」

■投資家が注目する米国4社 工場・物流への導入、汎用AI、量産

米国勢で「いま一番目立っている」と挙げたのが、Agility Roboticsのヒューマノイド「Digit」だ。Amazonとの実証実験を経て、物流やEコマースの現場でコンテナを運び、コンベアに載せる作業を担っている。

アニス・ウッザマン氏

「既にグローバルに展開できていて、ドイツのいろいろな現場にも入っているので、かなり実績があります。第三国で実証されているというのは中国の宣伝には無いものです。

もう一つの特徴は、フェンスの外で動いていることです。これまで産業用ロボットは安全柵の中で動かさなければなりませんでした。それがオープンな現場で、人とぶつからずに動けている。その安全性をクリアしていることが、アメリカのロボットの特徴です。」

続いて紹介したのが、ヒューマノイドのスタートアップとして最も高い評価額を持つFigure AIだ。

アニス・ウッザマン氏

「Figureは実用化の段階に来ています。頭脳の部分は人間に近く、洋服を畳むこともできる。工場でも実績を上げていて、BMWの米スパータンバーグ工場への導入実績を持ち、2026年には次世代機Figure 03の導入も進めています。」

さらに、身体を持たず「頭脳」だけを開発する企業の動きも速い。ウッザマン氏が「一番進んでいる」と挙げたのが、Google DeepMind出身者をはじめ著名な研究者が集まる米Physical Intelligenceだ。ハードウェアは他社のロボットを使い、洗濯物を畳むといった作業を学習させている。

取材中には、ロボットがゴミとそうでないものを見分けて分別する様子や、卵やトマトのような柔らかい物を指先で器用に扱う映像も次々に見せてくれた。「もう、そこまでできちゃっているんですよ」とウッザマン氏は強調する。

アニス・ウッザマン氏

「量産の面ではテスラが進んでいて、Optimusは今年末か来年には出荷されると見ています。自動車の生産ラインをロボットの生産に切り替えつつあり、実際に販売が始まれば、FigureやAgilityなども含めて一気に加速するでしょう。来年ぐらいには、どんどんマーケットに出てくると思います。皆さんが想像している以上に、いまは動きが速いと感じています。」

■日本の勝ち筋は「精密な部品」と「米国ソフトとの連携」

Q.その中で、日本にはどんなチャンスがあるのでしょうか。

アニス・ウッザマン氏

「私たちの見方では、テクノロジー、つまり頭脳の部分はアメリカが進んでいて、ハードウェアは日本と中国が進んでいます。アメリカは頭脳の部分、AIに注力していて、その流れはこれからも続くでしょう。一方、日本の強みは精密な品質です。

ロボットを作るには、アクチュエーターやモーターが必要です。これは日本が強い。体をスムーズに動かすためには、精密なセンサーやギアがなければできません。いろいろな部品という意味で、日本へのデマンドは大きくなります。精密機器の会社さんにとっては、大きなチャンスだと思います。

ハードウェアの面から見ると、日本は必要な部品をほとんど全部作れるんです。そこにアメリカのソフトの部分とうまく連携すれば、かなり前に進めるのではないでしょうか。日本にはロボットを受け入れる文化もあります。産業用ロボットで日本は長年高いシェアを持ってきましたし、ヒューマノイドもこれから大きな市場になる。日本にとってはチャンスだと思います。」

「日本はロボットに必要な部品をほとんど全部作れる。米国のソフトと連携すれば前に進める」

■「本当に工場で使えるか」 大企業と実証するロボット投資

Q.ロボットスタートアップへの投資では、どこを重視していますか。

アニス・ウッザマン氏

「私たちは大企業のためにファンドを運用しています。日本の大企業は目利きが強いのです。私たちは技術的に優れているかどうかだけを見ているわけではなく、大企業の方々にも実証実験をしてもらいます。例えば、本当に工場で使えるのか。日本のお客さんはそこをしっかり見てくれます。

私たちは、技術的に優位か、スタートアップとして生き残れるかを見る。その両方を一緒に評価しているので、うまくいくことが多いですね。VCだけでやっていたら、そこはできません。」

ペガサスは日本発の産業用ロボットスタートアップ、Mujinにも出資している。ウッザマン氏は、日本の技術がグローバルに出ていく事例として期待を寄せる。

■自律制御AIからデジタルツインまで ロボットと防衛に関わる5つの技術

ウッザマン氏は技術の進化があらゆる分野に変化をもたらしていると言い、その中でも注目されているのが防衛テックの領域だと指摘する。同氏は投資の観点から5つの注目技術を披露してくれた。

① 自律制御AI GPSや通信が不安定な環境でも、機械が周辺の状況を認識し、安全に動作を継続できる技術。

② マルチエージェントロボティクス 複数のロボットやドローン、センサーを連携させて動かす技術

③ センサーフュージョン LiDAR、レーダー、音響などの情報を統合し、現場でリアルタイムに判断する技術。

④ レジリエント通信 通信が妨害・遮断されても情報を届け続ける、メッシュネットワークなどの安全な通信技術。

⑤ シミュレーションとデジタルツイン 実際に運用する前に、AIとロボットの連携や安全性を大規模に検証する技術。

アニス・ウッザマン氏

「一番大きいのは自律制御のAIです。GPSが使えなくなると、例えば飛行機同士が衝突する危険がありますよね。それぞれの機体が自律制御のAIを持っていれば、GPSなどの測位信号が使えない環境でも、周辺を認識して飛行を継続し、衝突のリスクを低減できます。

こうした技術は防衛の世界で大きく注目されていますが、普通のロボティクスの世界でも注目されています。こういう技術を持っている会社は評価額も高く、成功しているように見えます。ただ、日本ではまだそうした会社が少なく、アメリカには多いですね。」

■防衛テックを災害対応やインフラ保護へ 投資家が見る民生用途

ペガサスは、こうしたロボット・AI技術の延長として、防衛テックの領域にも目を向けている。2026年7月には「スペーステック・防衛テック・AI/フィジカルAI革命の最前線」と題したセミナーも開催した。

Q.ロボット・AIに投資する立場から、防衛テックをどう見ていますか。

アニス・ウッザマン氏

「私たちはロボットやAIをやってきているので、防衛テックといっても、その中には普通の民生でも使えるものが多いと考えています。安全保障は、もはや装備品だけの問題ではありません。AI、ロボティクス、通信、宇宙、サイバー、そしてサプライチェーンを含めた、総合的な技術基盤の問題になっています。

防衛テックの領域は、ソフトウェアやAI、自律システムをハードウェアと融合させるもので、まさに私たちが取り組んできた技術の延長線上にあります。ですから防衛と民生を切り離して考えるのではなく、災害対応や重要インフラの保護、海上の監視といった社会課題に使える技術として見ています。投資にあたっては、国際法の順守、人の安全を高める技術であること、そして人間による適切な監視や説明可能性を前提とすることを重視しています。

インターネットも、もともとは軍事の通信から生まれて、大きなイノベーションのきっかけになりましたよね。」

「防衛と民生を切り離さず、社会課題に使える技術として見ている」と話すウッザマン氏

日本企業の関心について聞くと、「以前よりは高まっています」としつつ、「戦闘機に使われている電子部品やセンサーも、よく見れば自動車に使われているセンサーだったりする。もともと皆さんがさまざまな技術に投資していたのは間違いありません」と、技術としては地続きであることを強調した。

その象徴として挙げたのがドローンだ。

アニス・ウッザマン氏

「いま、ドローンによる監視や攻撃が現実の問題になっています。攻撃に使われるドローンは数千ドル程度で作れる一方、従来の手段で対応しようとすると、コストがまったく見合いません。そこでレーザーや電波などを使って無力化する、新しい技術が出てきています。

この技術は民生でも使えます。例えばサッカーのワールドカップのような大規模イベントでは、警察にとってドローンは大きな課題です。ヘリコプターで追いかけて捕まえるのは危ないですよね。そこで電波などで通信やGPSを遮断して、落とす。そうした技術がやっと実用的になってきました。きっかけは防衛かもしれませんが、技術が進化していく方向性の一つだと思います。」

■外部の技術を事業に生かせる企業は何が違うのか

Q.CVCがうまくいく企業と、そうでない企業の違いはどこにありますか。

アニス・ウッザマン氏

「ペガサスを始めてから15年ほどなので、うまくいかない事例を語るのはまだ少し早いのですが、「うまくいく」ところと「すごくうまくいく」ところに分かれます。すごくうまくいくところは、社内で受け入れる人をきちんと用意しています。教育を重視して、トップダウンで進めている。

日本の会社は自社の技術に誇りを持っているので、どんなに優れた技術でも、外から取り入れることにハードルがある場合があります。ビジネスや社内の関係性の部分も含めて、そこをうまく乗り越えられれば、グローバルな協業の可能性は十分にあります。ジャパネットさんやカルビーさんなどは、とてもうまく活用されていますね。

ほかのベンチャーキャピタルでは5人ほどでやっているところもありますが、私たちは150人ほどのチームで、日本にも30人ほどいます。アメリカのベンチャーキャピタルで、これだけ日本にコミットしているところはまだ少ないと思います。」

■企業人材を育てる「ペガサス大学」とスタートアップワールドカップ

「社内で受け入れる人」を育てるため、ペガサスは企業向けの教育プログラムにも力を入れている。

アニス・ウッザマン氏

「大企業の方々は、スタートアップやベンチャーとどう付き合えばいいのか分からないことが多いんです。そこで私たちは「ペガサス大学(Pegasus Tech Ventures University)」を持っていて、大企業の社員の方向けに、少なくとも5カ月ほどのカリキュラムを用意しています。講師はスタンフォードやハーバード出身の方たちです。」

また、同社が主催するビジネスピッチコンテスト「スタートアップワールドカップ」は、世界200以上の国・地域で予選が開かれ、毎年3万社以上がエントリーする。日本でも名古屋、東京で予選が行われ、2026年10月6日の九州予選(熊本城ホール)を経て、11月4日~6日に米サンフランシスコで世界決勝が開催される。ウッザマン氏は「大企業にとっては、世界のさまざまなスタートアップや技術を一度に見られる、すごくいい機会」と話す。

ペガサスが主催する「スタートアップワールドカップ」。2026年の世界決勝は11月4日〜6日に米サンフランシスコで開催(出典:Startup World Cup公式サイト)

■精密部品の強みを事業につなぐ 日本企業に問われる協業の体制

ウッザマン氏は、ヒューマノイドを動かすAIでは米国が先行し、中国では国家の後押しによって開発・供給が拡大していると見る。その中で、アクチュエーターやモーター、センサー、ギアといった精密部品をほぼすべて自前で作れる日本は、米国のソフトと組むことで存在感を発揮できる。日本のロボット産業にとって、ヒューマノイドは脅威であると同時に、部品と品質で勝負できる大きな市場でもある。

そしてロボットを現場で安全に動かすための自律制御AIやセンサーフュージョン、レジリエント通信、デジタルツインといった技術は、防衛テックとも地続きだ。ロボット・AIへの投資の延長線上に防衛テックがある、というのが同社のスタンスだろう。

技術そのものの進化と同じくらい、それを受け入れる企業側の体制づくりが問われている。日本企業とのCVC、人材教育、世界のスタートアップが集まるピッチコンテストを通じて、ペガサスが日本のロボット・AI産業と世界をどうつないでいくのか、引き続き注目したい。

会社概要

社名:Pegasus Tech Ventures(ペガサス・テック・ベンチャーズ)

本社:米国カリフォルニア州サンノゼ(日本拠点:株式会社ペガサス・テック・ベンチャーズ・ジャパン/東京都品川区)

創業:2011年

代表:アニス・ウッザマン(創業者 兼CEO)

事業:CVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)代行運用を中心とするベンチャー投資(VCaaS)、スタートアップワールドカップの主催ほか

実績:世界300社以上に投資、運用総資産額約3,000億円(同社発表)

《ロボスタ編集部》

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