【SoftBank World 2016 徹底レポート(16)】IBM Watson日本語版による小売業界の顧客体験変革~パネルディスカッション~

Softbank World 2016初日の17:30から行われたパネルディスカッション「IBM Watson日本語版による小売業界の顧客体験変革」のレポートです。

プログラム概要は以下のとおり。

IBM Watsonエコシステムパートナーの中から、小売業界に特化したITサービスを展開している企業をパネリストに迎え、IBM Watson日本語版を使ったサービス実現に向けた取り組みと、今後、どのようなサービスを展開するのかなどお話しいただきます。

登壇されたのは、カラフル・ボード株式会社 代表取締役 CEO 渡辺祐樹 氏、株式会社ゼロスタート 代表取締役社長 山崎徳之氏、モデレーターは、ITジャーナリスト ロボスタ編集部 神﨑洋治氏です。

左から、ITジャーナリスト ロボスタ編集部 神﨑洋治氏、カラフル・ボード株式会社 代表取締役 CEO 渡辺祐樹 氏、株式会社ゼロスタート 代表取締役社長 山崎徳之氏



モデレーター紹介

神﨑氏は30年間コンピューター業界に身を置き、時々での最新情報を発信し続けてきたITジャーナリスト。現在はロボティクスや人工知能分野、IoT領域の情報を発信し、「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)、「図解入門 最新人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)などの著書も発表。



現在、ロボスタでコラム「ロボットの衝撃」を連載しています



カラフル・ボード株式会社 紹介

渡辺氏が代表を務めるカラフル・ボード株式会社は、2014年11月にファッション人工知能アプリ「SENSY」をリリース。こちらは生活者が生活をしやすくするための人工知能です。

カラフル・ボード株式会社
SENSY

インターネットの普及で様々な情報に容易にアクセスすることができるようになりました。一方で検索をしても情報が多すぎる、偶然の出会いが生まれにくいという問題点もあります。そこで消費者のための人工知能として開発されたのがSENSYです。

皆さんの頭の中にはそれぞれ「感性(センス)」があります。何かを見た時にピンとくるのは、センスがあるからとも言えます。

SENSYというパーソナル人工知能に自分の感性を覚えさせることで、自分にあった洋服の提案をしてくれます。

さらにファッションだけではなく、様々な生活領域での提案をしてくれるパーソナル人工知能を1人1台持つ社会を目指しています

現在の代表的な実績は「SENSY」に約5,000ブランドが参加。

三越伊勢丹に店頭接客アプリを提供。

デジタルクローゼットECサービス「夢展望」に導入。

パーソナライズDMを「はるやま商事」が採用。

「三菱食品」とソムリエ人工知能を共同開発。

今後はファッションだけではなく、食や音楽、コスメなどライフスタイル全般にSENSYの活用を目指します。



株式会社ゼロスタート 紹介

元々ライブドアのCTOだった山崎氏は、紆余曲折あり2006年に株式会社ゼロスタートコミュニケーションズ(現:株式会社ゼロスタート)を設立。

株式会社ゼロスタート

この頃、ちょうどAmazonのレコメンド機能が注目されており、同社でもレコメンドエンジンをリリースしました。人工知能という言葉が毎日のように聞かれる以前から、この領域の取り組みをされています。

同社による「ZERO ZONE」は、サイト内検索エンジンとレコメンドエンジンを主力にしたEC版ネットソリューション。ECサイトで検索をして何十万件ヒットしても、できる限りパーソナライズをして、検索結果の1,2ページ目くらいで欲しいものが出るようにするというものです。

ZERO ZONEシリーズ

今となっては当たり前すぎてレガシーなイメージもある「検索」ですが、検索するときに実際にやっていることは会話であり、AIに近いと山崎氏は考えます。

現在、ZERO ZONEを導入している企業はこちら。導入先の年間流通総額は3,600億円で、ヤフーショッピングとほぼ同じ金額だそうです。

ZERO ZONEとIBM Watsonとの取り組みです。

山崎氏は人工知能を「表の人工知能」と「裏の人工知能」と呼び分けます。

スライド右側の「データ分析/アイテム選定」部分は古くから同社が取り組んできたもので「裏の人工知能」と呼んでいます。スライド真ん中部分はIBM Watsonを使用している「表の人工知能」と読んでいる、人間のように振る舞い、コミュニケーションを行う部分です。

裏の部分でデータ処理をしてパーソナライズやレコメンドも行い、表の部分で擬人化したコミュニケーションを人間と行います。例えば、マイクロソフトのりんななどが表の人工知能と山崎氏は言います。

現在IBM Watsonで日本語化されているインターフェイス(API)は6つあり、このうち5つが対人間へのインターフェイスです。ここからも現状のIBM Watsonは表の部分で対人インターフェイスとして活用されるべく存在しているのかもしれません。

「人工知能」というと自分で考えて勝手に進化するとお思いの方もいらっしゃるかもしれませんが、現状そのような人工知能はありません。

裏の人工知能部分でいろいろなテクノロジーやロジックを使ってベイズ理論・相関関係・クラスタリングなど、いろいろな技術を使って職人芸のようにパーソナライズを行っているのです。この職人芸のような裏の人工知能部分を、IBM Watsonという表の人工知能を使って広げていきたいと考えています。



パネルディスカッション

パネルディスカッションのテーマは以下の4つです。

 1. 小売業界の現状と課題
 2. 最先端の取り組み(オムニチャネル、機械学習など)
 3. AI活用に対する市場の期待と現実
 4. IBM Watsonによる顧客体験変革の可能性



小売業界の現状と課題

神崎

SENSYさんが協業されているはるやま商事さんは、実際の店舗を運営されていてダイレクトメール(DM)という実際にプッシュする手段があって、もっとヒット率を上げるために人工知能を導入されたんですよね。

渡辺

本来はお客様一人一人にお手紙をちゃんと書いて出すべきものなんですが、これまでは企業側の都合でお客様をセグメントという形で分け、DMをお送りしていました。今では人工知能技術やプリント技術の向上により、膨大な手間をかけないとお客様一人一人に対応できなかったものが、低コストで対応ができるようになりつつあります。これにより、本来あるべきこと、やりたかったことを実現しようとしています。

最近スーツを着る人も少なくなってきています。そこでお客様のことを考え、スーツを買わないのであればジャケットとパンツの組み合わせを提案したり、色や形、ブランドなどをできる限りお客様の要望に合わせてDMを出す。すると来店率が高くなったり、購買の確率が上がるだろう。そういう仮説に基づいてはじめました。

神崎

実際効果は上がりましたか?

渡辺

15,000人のお客様にDMを送ってみて、男性であれば50%以上の費用対効果が上がりました。予想以上に効果が高かったので、今後拡大していこうとしています。



最先端の取り組み(オムニチャネル、機械学習など)

神崎

最先端の取り組みとして、ゼロスタートさんはいわゆる旧態依然とした検索エンジン・レコメンドエンジンと、ハイエンドのものをコラムなどで触れられています。これらの違いと、人工知能との関わりをご説明頂けますか。

ECマーケティングコラム |ゼロスタート

山崎

小売業界との課題にもつながるんですが、現在、店舗を持つ企業でのオムニチャネル最大の問題は、ECサイトを重要視していないという点です。店舗では接客は重要だ、お客様に沿うようなものを提案しなさいと言うのですが、ECサイトでは「おもち」って検索すると「おもちゃ」が出てきたりします。

アメリカではECサイトの使い勝手からウォルマートがアマゾンに食われていっています。EC専業の事業者は真面目にやっているのですが、店舗を持っている事業者はもっとECを真剣にやらないとならないと私は考えます。というのも、ECサイトには20~30%くらいの一定数のお客様がいらっしゃるからです。



AI活用に対する市場の期待と現実

神崎

小売業においてAI技術が期待される分野にか以下のようなものがあります。

 ・ パターンマッチングや認識
 ・ ビッグデータを検索して最適な回答の抽出
 ・ 市場・売上・動向等の分析・予測
 ・ 自然言語会話

そこで、IBM Watsonはどのようなところに活用することが最適だと考えていますでしょうか?

山崎

今、人工知能が注目されてブームになっていますが、きっかけはディープラーニングです。ブーム以前と以後で変わったのはここだけです。分析や予測は古くからの手法でもできたし、存在していました。IBM Watsonも2年前と今とであまり変わらないです。ここで重要なのはIBM Watsonは2年前から存在していたことです。IBM Watsonは世界でも貴重な古くから商業化されプロダクトとして動き続けている人工知能テクノロジーのソリューションです。稼働実績があり安定していて、クリティカルなシーンでも使うことができます。小売業は人の生活を支える部分です。その領域に実績があるIBM Watsonを使うというのが、期待されて担うべき部分と思います。




IBM Watsonによる顧客体験変革の可能性

神崎

具体的に小売業界でIBM Watsonを導入した方がよい領域はどちらだとお考えですか。

山崎

コモディティ化されている食品や化粧品、洗剤のようなものには、今まで人工知能のようなものが入っていなかったので、広がっていくと思います。逆に趣味性の高い、カメラや本、映画などは今すでに何らかのシステムが入っていることが多いです。

渡辺

僕たちはパーソナライズするためのエンジンなんですね。SENSYとIBM Watsonとの連携では、チャットボット的に会話部分のUIにIBM Watsonを使うというもの。もう1つはリアルな店舗でPepperや他のロボットでiPadでお客様に操作をさせたり、音声会話で処理を組み合わせることを考えています。

神崎

具体的に予定はされてますか?

渡辺

そうですね。チャットボットは近日中公開を予定しています。音声での対話をインターフェイスにしたソリューションはも年末か年明けに公開したいと思います。

神崎

ゼロスタートさんでのIBM Watson関連のリリーススケジュールはいかがですか?

山崎

弊社は、リリーススケジュールというより、企業様からのお問い合わせが数件きておりまして、そこからスケジュールをひいて、開発して製品化していくという形です。年末くらいにはリリースできるかな、という感じです。

神崎

お二人の話をまとめますと、IBM Watsonで現在注目している技術的なポイントは「会話」の部分でした。現在、みずほ銀行さんのフィンテックコーナーでPepperを1台導入しています。1台は普通のPepperで、もう1台にはIBM Watson連携がされています。

IBM Watsonが入っているPepperは質問に回答をすることができて、お客様の評価が高いです。ここでもIBM Watsonの会話力が評価されていると言えます。

今日はありがとうございました。




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ABOUT THE AUTHOR / 

北構 武憲

本業はコミュニケーションロボットやVUI(Voice User Interface)デバイスに関するコンサルティング。主にハッカソン・アイデアソンやロボットが導入された現場への取材を行います。コミュニケーションロボットやVUIデバイスなどがどのように社会に浸透していくかに注目しています。

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