近年多くのロボットがインターネットへの接続を基本機能としています。そういう意味では、ロボットはIoT機器の一つということはできるでしょう。
また、IoT機器が一般化した未来では、家やオフィス、あるいは町全体に張り巡らされた機器のネットワークが有機的に運用されることで、私たちを取り囲む環境が巨大なロボットのように感じられることも多くなってくるのではないでしょうか。
このようにIoT機器とロボットは互いを内包しあう相似的な関係ともいえます。
そんな来るべき未来を予想しながらIoT業界を俯瞰してみたり、ミクロな目で個々の製品やサービスを見つめ直したりすることで、皆さんに新しい製品やビジネスのヒントを提供できるのではないかと考え、今後、ロボスタではIoT機器もとりあつかっていくことになりました。
その第一弾でご紹介するのは、家やオフィスで最初に触る機器「鍵」をIoT化した「スマートロック」です。
今回はQrio Smart Lockを製造しているQrio株式会社 事業開発部 シニアマネージャーの高橋諒さんにお話を伺ってきました。
今回は、Qrio株式会社が製品の企画や製造の中で自社の強みをどのように活かしたか、そして製造直後の厳しい反応をどのように乗り越えたかをお話ししていただきました。
編集部
スマートロックというと、スマホで開け閉めができる鍵、というだけでなかなか機能的な特徴を打ち出しにくいイメージがあります。そんななかでQrio Smart Lockをほかの製品と明確に差別化できるような特徴はどんなものなんでしょうか。
高橋(敬称略)
取り付けできる鍵の種類が多い。これが最も大きな特徴だと思っていますね。
ご自宅のドアの鍵の周りを想像してみてください。非常に段差が多いですよね。他社の製品は上からかぶせるような形のものが多いのですが、Qrio Smart Lockはサムターン(錠前を回すためのツマミ)に取り付けた時に周りと干渉が起きにくい構造なので対応力が高いんです。
海外のスマートロックに多い鍵全体を取り換えてしまうタイプに比べ、後付けできるタイプは対応する相手のことを考えなければいけないため、設計の難易度が高いのですが、Qrio Smart Lockはその中でもレベルが高い方だとおもいます。
現状、国内メーカーのカタログに掲載されている鍵の多くに対応していますし、現在でも問い合わせが多いタイプに関しては対応できるよう開発を進めています。
もう一つはセキュリティが堅固という点があります。
暮らしをより便利にする、という目的でスマート化をしてはいますが、鍵は本来、財産や生命の危機に直結しているプロダクトです。また、女性や子供など、あらゆる人が使うという点からもセキュリティについては非常に気を使うべきだと考えています。
たとえばリアルな鍵であれば、なくしたことに気が付くことができますが、スマートロックの場合は「気づかないうちにコピー/ハックされていた」ということがありえます。そういった面から、Qrio株式会社では利便性と同時にセキュリティを堅固に保つことが「鍵」を製造する企業としての責任だと思っています。
現状スマートロックを選定する際に、セキュアなシステムを使っていることを比較材料にしているユーザーがまだ少ないでしょう。そのため一見地味に見えてしまいますが、セキュリティ技術に関してはソニーの持っている知見などをいかしているため、他社製品に比べて優位性は圧倒的なものだと思っていますね。
編集部
なるほど、Qrio株式会社はソニーの血を引いている会社だけあってその技術力をうまく活用しているんですね。
ただ、ソニーというといわゆる黒物家電のイメージが強いですが、なぜスマートロックの開発に乗り出したんでしょうか?
高橋
WiLの共同創設者で、Qrioの代表取締役でもある西條がIoT分野に乗り出すにあたって、なにを開発するかを検討したんです。その際に自身が持っている不動産事業のなかで問題に感じている点を解消するプロダクトとして、スマートロックを開発してみようと思ったそうです。
たとえば、不動産のオーナーとして、「不動産業者との鍵の受け渡しの不便さの解消」や、「内見回数など、施設の利用頻度を知りたい。」という欲求があったのですが、その欲求が一般のユーザーにとっても普遍的なものなのではないかと。
また、「IoT分野では海外は日本よりも3年は進んでいる」、とよく言われているのですが、アメリカではすでにスマートロック市場が立ち上がっています。当時からApple Storeで販売されるような製品も出てきており、そのことも裏付けの一つになったようです。
賃貸がメインの日本市場ではDIY的な取り付け作業が必要な海外製品は対応できないだろうという予想から、「後付けのスマートロック」という差別化できるポイントを作れたのも大きいですね。
編集部
なるほど、家1軒につき確実に1個はあるわけで、たしかに大きな需要が見込める分野ですね。
ただ、Amazonのユーザーレビューなどを見ると辛辣な意見も多いですよね。なかなか当初の予想通りには進まなかったところもあるのではないでしょうか?
高橋
たしかにAmazonのユーザーレビューなどをみるとわかりますが、発売当初は非常に厳しい意見がありました。
それは真摯に受け止めています。ただ、この原因はわかっていて、現在はかなり改善されています。
この問題はハードウェアの不具合というよりも、われわれが考えていたユーザーの使用環境に対する読みの甘さに起因していました。
ひとことで言うと、想定以上に電波を通しにくいドアが多かったんです。開発時は、電池寿命も重要な要素と考え、チップの出力限界よりも弱めに電波を出していたのですが、ユーザーの使用環境では、それが動作不良につながったんですね。
レビューなどを受けて、様々なバグを疑い、検証を行ったのですが、ファームウェアアップデートで出力する電波強度を上げたら効果はてきめんでした。途端にドアが開かない、という問い合わせは減りました。
開発者の側で完璧だとおもって出荷しても、ユーザーにとって完璧ではないことはあります。これからもユーザーの要望には感度を高くしていきたいと思っています。
編集部
なるほど、スマートロックは一般的なIoT機器に比べて使用する環境の自由度が少ないですからね。そういった意味では、非常に厳しいプロダクトなんですね。
ネットに接続していることから、ファームウェアアップデートで製品の熟成を進めていくことができるのもIoT機器の特徴だとは思うのですが、今までに反響の大きかったアップデートは何でしょうか?
高橋
最も反響が大きかったのはやはり先ほどの電波強度のアップですね。これで批判的な意見は一気に減りました。逆に応援してくださっている人の声も増え、厳しい使用環境でも使い続けてくれていたユーザーさんには本当に感謝しています。
次がWearable対応。これはApple WatchやAndroid Wearで鍵を開けられる、というものですが、「未来感を感じる。」という意見が多かったですね。
「もっと早くやればよかった」、と思ったのは、Androidのウィジェット対応ですね。これで鍵を開けるまでに必要な手順が一段階減りました。Wearable対応もそうですが、鍵を開ける際のわずらわしさを減らすための方法をこれからも考え続けていかないといけないと思っています。
現在でもファームウェアアップデートは3-4か月に一回ぐらいの頻度で実施していて、これからも製品の改善は進めていくつもりです。また、まだ内容は言えませんが、今年中に実施する大きな機能追加をちかぢか発表するので、ぜひ楽しみにしてください。
編集部
それは楽しみですね。ぜひ発表した後もう一度取材させてください。
どの家庭にでも必ずある機器をIoT化する、それは確かな市場が約束されている反面、家ごとの差をいかに乗り越えていくのかが大きな課題だったようです。その課題をユーザーとの対話を通じて解消していくうちに商品としての熟成が進み、ユーザーを満足させる根源的な魅力につながっていくのではないでしょうか。
次回は徐々に広がりをみせていくIoT業界の中で見えてきたユーザー像などについてお話していただきます。