柔らかいものを優しくつかめるロボット「触覚ハンド」を製品化へ 豊田合成の次世代ゴム「e-Rubber」を使った最先端ハプティクス技術

豊田合成はハブティクス(力触覚)対応のロボットハンド(グリッパー)「触覚ハンド」(開発名)を商品化する。「触覚ハンド」には同社が開発した次世代ゴム素材「e-Rubber」(イー・ラバー)を圧力センサーとして組み込んであり、ロボットや自動化システムが、柔らかいものや壊れやすいものを持ったり、弾力を検知することができるようになる。

開発名称は「触覚ハンド」。柔らかいものをちょうど良い力加減で掴むことができる

「e-Rubber」は、センサーとマニュピレータ(ソフトアクチュエータ)の両方の役目を担うことができる画期的な次世代素材で、「触覚ハンド」では圧力センサーとして使用する。
なお、豊田合成はトヨタグループの主要企業のひとつで、主に自動車関連のゴム・樹脂部品などを開発・製造している。

ロボットの指に圧力センサーとして組み込まれた「e-Rubber」(赤枠内)。滑り止めの役目もする半透明ゴムで「e-Rubber」がカバーされている状態、接続されている配線が薄っすらと確認できる。「e-Rubber」は圧力センサーの働きをして、荷重がかかるとその数値を信号にしてシステムに送るしくみだ


話題のパスタロボットに「触覚ハンド」を採用

未来の駅を体験できるイベント、大宮「STARTUP_STATION」(主催:JR東日本スタートアップ)が12月4日より12月9日まで開催された。未来感のある最新技術が多数展示される中、人だかりで溢れていたブースが、QBIT Roboticsの「無人ロボットパスタカフェ」だ。タブレットで注文すると、ロボットが来店客と話しながらパスタを作って紙カップで提供してくれる。最先端AI技術を使ったこのロボットに「触覚ハンド」が採用されていた。

報道関係者で賑わうQBIT Roboticsのブース「無人ロボットパスタカフェ」。注目度は抜群

注目の先にはパスタを作って提供するロボットが。通りがかった人を認識して、声をかけたり手を振ったり、愛嬌たっぷり

ロボットのハンド部に、豊田合成が商品化に向けて開発している「触覚ハンド」を採用。柔らかい紙カップを、潰さずに加減よく持つことができる。「e-Rubber」のロゴが見える


柔らかな紙カップを持つのはロボットには難しい

QBIT Roboticsのロボットはこれまで、コーヒーを淹れてくれるロボットで知られてきたが、この時の展示ではロボットがパスタ作りを実演して周囲を驚かせた。パスタの調理は紙カップに乾パスタを入れてお湯とオイルを注ぎ、電子レンジで調理、最後にパスタソースをかけて完成する。パスタソースはカルボナーラとミートソースが選択できるものだった。

提供されるほっかほかのパスタ(カルボナーラとミートソース)

紙カップは柔らかく、強い力で握ると簡単につぶれてしまう。かといって軽く持ち過ぎると落としてしまう。このときの実演でも、最初は乾パスタだけで軽いものの、オイルとお湯を注ぎ、パスタソースを加える。調理が進むにつれて最終的には重さがあって、加減しながらもしっかりと握る必要が出てくる。

お湯とオイルを入れた紙カップを電子レンジへ

強く握り過ぎればカップが潰れるし、軽く握っただけでは落としてしまう・・人間は無意識に握る力を調整しているが従来のロボットはこの「ちょうどよい加減で握る」ことが困難だった。

「e-Rubber」はセンサーにもマニュピレータにもなる画期的な次世代ゴム素材だ。これをまずはセンサーとして「触覚ハンド」に組み込んで商品化を行っていく。豊田合成の担当者に聞いた。

豊田合成株式会社 特機部 eR製品開発室 室長 杉山勝哉氏(左)、豊田合成株式会社 特機部 eR事業開発室 森田陽一氏




小売・サービス業、製造業、農業など幅広く実証実験したい

編集部

「e-Rubber」には今までもずっと注目してきましたが、ロボットハンドごと開発して提供するという動きには驚きました

森田氏

今まで次世代ゴムとして「e-Rubber」を開発し、展示会等を通じてこの技術を紹介してきました。「e-Rubber」は荷重がかかるとそれを数値化する圧力センサーとして活用できます。また、電気を通すことで伸縮する素材なので、ゴムの力で稼働するマニュピレータ(ソフトアクチュエータ)としても使うことができます。その場合は柔らかくてスムーズな動きを実現できます。
現在、私たちはこの「e-Rubber」を圧力センサーとして組み込んだロボットハンドの形で広く提供していきたいと考えています。それを具体的な形にした初めてのケースが今回の「無人ロボットパスタカフェ」の触覚ハンドです。

編集部

今回の実演では柔らかい紙カップをちょうどいい加減で握っていましたね

森田氏

はい。今回は1種類の紙カップでしたが、これが数種類のサイズや硬さの紙カップであったり、硬い陶器や金属のカップが混ざったユースケースであっても、状況に応じて良い加減で持つように設定することができます。

編集部

ショートケーキやゼリーなども持てるのでしょうか

森田氏

はい。条件付きにはなりますが現時点で可能です。また、くだもの(フルーツ)などのサイズが異なるモノもつかむことができます。また、例えば農業では、触覚ハンドが触ってみて柔らかさを確認したうえで熟しているかどうかを判断して収穫する、といったこともできると考えています。更に、「e-Rubber」はゴム素材なので衝撃にも強く、センサーとして壊れにくいことも大きな特徴です。高い耐久性を活かした活用法も考えられると思っています。

編集部

そういえば以前の展示会で、「e-Rubber」をトラックで踏むデモ動画が公開されていて、耐久性の高さに驚きました。いろいろな分野で活用できそうですね

森田氏

今回のイベントでは、QBIT Roboticsさんに「触覚ハンド」の実践の場を頂き、開発スタッフ一同、とてもうれしく思っています。新しい技術なので実践の場がとても大切です。触覚ハンドは製造工場や農業、今回のように小売やサービス業など、幅広い分野で活用できると考えています。まだ先の話ですが、将来的にはシステム開発がしやすいように「SDK」(ソフトウェア開発キット)や「API」なども提供していこうと思っています。

杉山氏

実用化のためにはいろいろなパートナーの方々と連携し、多くのユースケースをこなしながら開発を進めていきたいと思っています。QBIT Roboticsさんとも、少子高齢化社会を支える実用的なロボットの普及を目指してコラボレーションしています。ロボットや自動化を進めている多くの企業様にお声がけいただければ嬉しいです(お問い合わせフォーム)。



食品・医薬品・化粧品といった、いわゆる三品業界は、ロボット化や自動化が進んでいないと従来から言われてきた。その理由のひとつに、食料品のような柔らかいモノが持てなかったり、人と協働する作業がロボットや機械にはできないとされていたこと。それが今、変わろうとしている。力加減や感覚が必要な分野、ユースケースにおいて、「e-Rubber」はロボットや自動化デバイスに、人に近い特性や能力を与えることができる。三品業界にとどまらず、将来的には遠隔ロボットによる触診診療やショッピング、VR等と融合したゲームやシミュレーション体験などにも活用されていくだろう。
そのステップとして、まずは柔らかいものをつかむロボットハンド「触覚ハンド」が製品化されることで、多くの分野で広く自動化が進むことを期待したい。

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