自律走行する業務DXロボット「ugo」シリーズを活用した工場点検作業の自動化サービスの開発が始まり、報道関係者向けの実演デモが実施された。実演デモは「ugo mini」が登場し、完全自動で走行し、高低差のある2つのメーターを計測してデータをサーバに送る様子が公開された。
60年にわたって現場で培った大規模工場やプラント保守のノウハウを持ち、機器管理・運用を手がけてきた日立プラントサービスと、システムのコンサルティング、構築、導入、運用、そして保守も手がける日立システムズが、ugo(ユーゴー)社と提携し、自律走行する業務DXロボット「ugo」シリーズを活用した工場点検作業の自動化サービスの発表に伴うモノだ。説明会の詳細は別記事で報じているのでそちらを参照して欲しい。
報道関係者向け説明会では、工場の自動化を3社で協創し、今秋より半導体工場で実運用を開始、2024年度中のリリースを目指すとした。(関連記事「日立とugo 自律走行する業務DXロボットで工場の巡回点検を自動化、今年度中に提供開始 AI解析で全体最適化も 実演デモを公開」)
この共創プロジェクトについて3社にインタビューを行った。「現在、多くの製造・生産工場が抱えている課題」「3社の強み」「ugo社を選んだ理由」「売上目標や規模」「共創プロジェクトのビジョン」、そして多くの読者が最近注目している話題「今後の生成AI活用法」等について聞いた。
多くの製造・生産工場が抱えている課題
編集部
まずは、今回の共創プロジェクトの概要を改めて教えてください。
日立プラントサービス
3社で共創していくサービスは、自立走行ロボット「ugo」が、工場内を自動で巡回することで点検業務を自動化するものです。メーターや環境データを読み取り、集めた点検データをAIなどで解析、分析します。それによって、省エネに貢献したり、機器故障の予知など、トラブルを抑え、設備運用や施設運用全体を効率化することが目的です。
このシステムは2023年10月から、既に日本国内の半導体工場で実証実験を開始していて、成果が上がることを確認し、この秋から実運用を経て、2024年度中のサービスリリースを予定しています。
編集部
現在、多くの製造・生産工場ではどのような課題を抱えているのでしょうか
日立プラントサービス
製造・生産工場はご存じの通り、労働人口の減少による労働力不足が深刻です。また、労働環境の変化や、若年者の不足からベテランの技術を十分に継承できない、といった課題もあります。更には地球環境問題への取り組み、社会情勢の変化への対応など、課題は山積みです。これらに対して3社の強みを生かし、ロボットやAI、IoTなど、ICT技術を使って業務DXや情報の見える化を行い、お客様の課題解決に貢献したいと考えています。
日立プラントサービスは、60年に渡り、現場で培った工場やプラントの保守や運用の実績と、全国約40拠点に点在するサービス拠点があります。これらを生かして、今回発表したシステムを顧客のニーズに合わせて開発して商品化、作業効率化を実現する業務DXツールとして仕上げていきたいと思っています。
編集部
日立システムズの強みとプロジェクト内での役割を教えてください
日立システムズ
日立システムズは全国に300拠点あり、開発・運用・保守など、幅広いお客様にワンストップで高品質なサービスを提供しています。当社のサービスのひとつに高精度なメーター自動読み取りシステム「CYDEEN」(サイディーン)があります。固定カメラやスマートフォンで撮影した計器類やメーターの表示を解析して自動的に数値化するソリューションです。これをロボットと組み合わせることによって、ロボットが自走して予め決められた複数の計器を巡回して読み取り、自動的に数値をデータ化し、それをレポートすることができるようになります。
またugoには、カメラによる計測だけではなく、メーカーを問わず様々な種類のセンサーを搭載することができます。例えば、温湿度、振動数、気体漏れなどのセンサーデータをクラウド等で分析し、異常を検知したりレポートすることが可能です。いち早く異常を検知することで、重大なトラブルを未然に防いだり、ダウンタイムを最小限に抑えることが期待できます。
編集部
ugoの概要について改めて教えてください
ugo
「ugo」シリーズは、人手不足が深刻になっている現場の負担を軽減するために、自動で巡回点検を行う業務DXロボットです。遠隔操作(アバター)と自動操縦(自律動作)のハイブリッド制御が可能です。今回のシステムでは自動で巡回を行い、ロボットに搭載したカメラによる目視でメーター等の点検作業ができます。ugoに搭載されたLiDARによって施設内のマップを生成し、巡回ルートと点検ルートを設定すれば、自動的に施設の巡回と点検が行えるようになります。
また、巡回経路や点検箇所に変更がある場合は、ノーコードで設定変更が可能です。ugoを使って取得したデータはオンプレミスやクラウドのサーバに保存することができ、業務レポートとしても利用できます。
編集部
ugoシリーズの機種の違いを教えてください。
ugo
今日実演デモを行ったのは、自律移動してメーターや計器類を読み取る機能を持った、シンプルな「ugo mini」です。フラッグシップモデルの「ugo Pro」はヒト型で、腕があり、設備側に働きかけることができます。軽いドアを開けて移動したり(ugo Proのアームは約1kg程度の重量に対応)、エレベータのボタンを自動で押して、フロアを越えたルートも巡回することができます。手にカード(身分証)を付けて、セキュリティゲートやフラッパーを通ることもできて、ロボットの行動範囲を拡げることができます。ヒト型の姿をしているので、お客様の対応やご案内を行ったり、巡回警備などにご活用頂くことも可能です。
中間の「ugo Ex」はいろいろな拡張が可能なモデルです。バーの部分にいろいろなセンサーやカメラを搭載して。お客様が自由にカスタマイズできる仕様になっています。
日立2社がugoを選んだ理由
日立プラントサービスと日立システムズはこれまでも大規模工場やプラントなどにICTを導入してきた。その一方で、自走型ロボットの活用は今回が初めてとなる。
ugoをパートナーとして選択した理由として、「データのセキュリティを重視するお客様が多く、日本製のロボットとシステムにこだわったこと」「簡単な操作でロボットのプログラミングができる」「拡張性が大きい、拡張しやすい」「ugoの外部連携APIなど、日立側の持っているシステムやセンサーの技術と連携しやすい」という点を評価したという。
ご存じの読者は多いと思うが、「ugo」はこれまで、大成とアバター警備ロボットで連携して2021年7月には量産体制を構築、NTTドコモと「プラント5G遠隔操業支援業務」や「顔認証AIを用いた受付業務」の開発、NTTデータによる点検業務の遠隔化と自動化で全国のデータセンターへの導入などを経て、NTTグループと資本提携、2023年12月にはNTT西日本と人材不足の解消に向けた協業事業化検討の基本合意を発表している。
製造工場やプラントへの導入についても、前述のドコモ、日本圧着端子製造(JST)、BIPROGY、竹中工務店との連携などを発表。PoCで終わりがちな業務DXロボットが数多くある中で、ugoはそれらとは一線を画し、着実にかつ輝かしい実績を積み上げてきたと言えるだろう。(ugo関連記事:ロボスタ)
3社が目指す「UaaS」
編集部
将来的なビジョンについておしえてください
日立プラントサービス
ugoを活用して、点検データの他にも幅広い情報を統合し、データを活用して、AIも利用しながら、将来的には多方面のスマート化を実現するユーティリティ・アズ・ア・サービス「UaaS」としてお客様へのサービス提供に繋げたいと考えています。
「UaaS」は弊社が新しいデジタルツールとして企画している工場付帯設備の運用支援サービスです。熟練技術者のスキルを持つ「生成AI」、故障の予知、エネルギーの効率的な運用をナビゲーションする等、お客様のさらなる事業効率化を支援したいと思います。
スマートメーター化の課題を点検ロボットが解決
編集部
工場ではスマートメーター化が進むと、将来的に点検ロボットの需要は減るのではないでしょうか
日立システムズ
確かに工場におけるメーターの最新モデルはスマート化されてきています。最近ではセンサーも無線通信に対応し、かつ非常に安価な製品もあり、センシングしたデータを取得しやすくなっています。しかし、大規模工場になると、数100個、数1000個の様々なメーカーの計器類があり、すべてにセンサーをつけたり、スマート化したりというのは費用面と管理の面で実は現実的ではありません。また、大規模設備の場合、スマートメーターに取り替えることができないものもあります。
また、近々のスマート化では、多種多様な管理用センサーやメーターが高度化していて、それらを「組み合わせる」ことが重要です。そのときに多メーカーによる数千個のセンサーの管理や、メーカー個々にインプットされるデータの統合は非常に困難にもなります。データを収集して一括でシステム連携させていくには、ロボットを様々なデータを収集するひとつのセンシングツールと見立てて、多種多様なセンサーやカメラのデータを収集・運用する方が統合開発しやすいという一面もあります。
売上目標や規模
編集部
2024年度中にサービスリリースということですが、売上目標や規模について教えてください
日立プラントサービス
明確な売上金額や規模については公表していません。ただ、労働人口不足というのは直近の課題であるとともに、今後も深刻になっていく一方なので、ソリューション市場は拡大していくと予想しています。そのため、当初はロボットの出荷が月間数10台程度からはじめて、数100大規模に拡大していくのではないかと感じています。
省人化の規模は
編集部
このサービスを導入することで、どのくらいの労働力をカバーできそうですか
日立プラントサービス
2023年に半導体工場での実証実験の結果を見ると、巡回点検部門とデータ解析部門で3~5割の省人化が期待できそうという見込みが立っています。また、省人化というだけでなく、例えば一日一回、人が巡回していて、もっと頻度を上げたいけれど人が足りない、人件費がかけられないという工場もあります。ロボットによる自動巡回によって、今まで以上に巡回数を増やして、頻繁にデータ収集や解析、故障の予兆診断がすることができるようにするというメリットもあります。ロボットなら夜中でも休日でも巡回してデータをとり続けることができます。
半導体工場で言えば、クリーンルームや冷却装置のトラブルは特に避けなければいけません。ダウンタイムが発生して製造がストップしてしまうと大きな痛手になります。トラブルをいち早く発見したり、予測や予知などを行い、効率的に運用する方法が求められています。どの程度の効率化、省人化になるかは、お客様の規模や職種、現場の状況などによって変わってきますので一概には数値で言えない部分ではあります。
各分野で「生成AI」は将来どのように活用されていくか
編集部
最後に、業界ではここ数年、「生成AI」の話題が熱を帯びています。3社のビジネスにおいて将来的に「生成AI」がどのように組み込まれ、展開できると予想していますか
ugo
業務DXロボットで言うと、生成AIによって人とロボットのインタフェースが多様化すると思います。今はロボットを操作するのには「管理画面」等を使って業務の指示や設定を行っています。自動化を進めるためにノーコードで設定ができるようにもしていますが、今後、生成AIを使うと「ここのメーターを見てきてください」など、ロボットに直接、呼びかけることによって、誰でもロボットに作業の指示ができるようになると思います。
日立システムズ
ロボットが収集したデータが溜まってくれば、AIが解析して適切に様々な診断が行えるようになります。人間が常にデータを見て判断するのではなく、生成AIがベテランの作業員と同様にデータを診断し、このような数値の時は何をすべきかを判断して提案することができるようになると思います。
日立プラントサービス
私も同様に感じています。例えば半導体工場で不良品が出た場合、ロット全体に影響する原因、何かの故障や異常が起こっているかもしれません。計器やメーターの数値、音や温度、振動など、その原因の一端が現れていたとしても、人が一日一回巡回して確認しているのでは防げないこともありますし、即時に原因を見極めることも困難です。
ロボットによって自動巡回の頻度が上がり、生成AIによって異常の発見や故障の予知を自動化すれば、より早期に異常を発見し、通知できるようになるでしょう。そうすればダウンタイムをなくし、製造効率の落ち込みを防ぎ、歩留まりを向上させるための提案が、生成AIによって将来的には行えるようになると考えています。
編集部
今日は、実演デモとインタビューの対応、どうもありがとうございました。
日立とugo 自律走行する業務DXロボットで工場の巡回点検を自動化、今年度中に提供開始 AI解析で全体最適化も 実演デモを公開
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神崎 洋治神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。