DMMのロボット事業部「DMM.make ROBOTS」の事業責任者・岡本康広氏。
岡本氏は、本日12月9日付でDMMを退職することが決まっている。
新天地となる次の会社は、ロボットと関わりのない会社だ。
11月某日、岡本氏の退職を耳にした編集部はインタビューを申し入れた。
岡本氏「そんなことはありません」
編集部「では、なぜ辞めるのでしょうか?」
岡本氏「実はですね…」
真相を洗いざらいお話し頂くため、ロボスタ編集部にお越し頂き、インタビューの機会を得た。
前編・後編に渡ってお届けする、岡本氏のおそらく最後となるロボスタでのインタビュー。前編のテーマは、「なぜDMMを辞めるのか」。
上場企業の役員からDMMへ
編集部
早速ですが、なぜDMMを辞めるのでしょうか?
岡本氏
辞める理由をお話するためには、まずDMMに入った経緯からお話する必要があります。
編集部
なるほど。それでは、その当時のお話からお願いします。
岡本氏
DMMの前は、上場企業の役員を務めていました。その会社では重要なポジションを務めさせて頂き、会社や仕事については何も不満はありませんでした。
しかし2013年当時、私は40歳を過ぎ、新たなことにチャレンジをしたいと思うようになったんです。
年齢的にもチャレンジをするなら「ラストチャンス」だと感じていました。そこで選んだ会社がDMMでした。
岡本氏
DMMは、チャレンジをしたい人にとってはとても良い環境です。
実際にこの数年間で数多くのことを経験させて頂きましたし、当初想定していた以上に大きなチャレンジと経験をさせてもらいました。
入社後の配属先は当時新たに立ち上げられたばかりの3Dプリント事業部だった。そこでは、「DMM.make 3D PRINT」の企画営業プロデューサーを務めていたが、「DMM.make AKIBA」の場所決めにも関わったという。
岡本氏
3Dプリント事業を始めた当時、「DMM.make AKIBA」はまだありませんでした。
西麻布のシェアオフィスの一角に3Dプリンターを置き、そこを「3Dプリント工場」と呼んでいましたが、今思えば工場とは言えないほどの小さなスペースでした。
そんな折、ものづくりをする人たちを応援したいということで「DMM.make AKIBA」の立ち上げが決まり、候補地の秋葉原で物件を探すようになりました。
「DMM.make AKIBA」には切削機や試験機など数々の大型機械が置かれていますが、これらを設置させてもらえる物件がなかなか見つからず、途方に暮れていました。
ビルの一棟借りも考えていましたが、それも条件が合わず叶いません。
そこで私が相談を持ちかけたのが、現在「DMM.make AKIBA」が拠を置く、富士ソフト秋葉原ビルです。
私自身が過去に富士ソフトに在籍をしていたこともあり、以前から可愛がって頂いていた富士ソフトの重役に「ものづくり施設を富士ソフト秋葉原ビルで開設させていただけないか」とお願いしました。
すると、秋葉原ビルに「ソフトウェアのものづくり拠点」だけでなく「ハードウェアのものづくり拠点」が合わさると、「大きな相乗効果があり、相性が良い」ということになり、富士ソフト秋葉原ビルに現在の「DMM.make AKIBA」を開設することができました。
DMM.make ROBOTSの立ち上げ、販売開始へ
岡本氏
今振り返れば、「DMM.make AKIBA」の開設が決まった後、富士ソフトがDMMに挨拶に来られたときに「PALRO」を亀山会長に見せたのが大きな転機でした。
岡本氏
亀山会長は目の前で動く「PALRO」に興味津々で、ロボットに関心を持ち始めた様子でした。
そこで「どんなビジネスが可能かどうか調べてみます」と手を挙げ、私はロボットの市場調査を担当することになったんです。
ロボットの市場調査は1ヶ月という急ピッチで行われたという。インターネットでロボット系の企業を隈なく調べ上げ、出てきた会社に出向き、話を聞き、ロボットビジネスの可能性を探った岡本氏。
そこで一つの事業に可能性を見出した。
岡本氏
当時私は、ロボットを作る方々は「ロボットを売る方法がわからず困っているのではないか」という印象を持ちました。
ロボットの技術は最先端で、確かに素晴らしい。しかし、広く普及させるためのアクションが全くできておらず、もちろん量産も考えられていませんでした。
時折ロボットをイベントに出しては、集まったお客様を喜ばせる。そんな存在としてロボットを活用していたのです。
一方、DMMのビジネスは「売る」ことです。マーケティングにお金をかけて、DMM.comというプラットフォーム上で販売をする。
では「ここでロボットを売ったらどうなるだろうか」と考えるようになり、今のビジネスの構想に至りました。
DMMは2015年1月、世界初のロボットキャリア事業を発表した。ロボットのマーケティング・販売・一次サポートを担当することで、携帯キャリアと同じようにロボットを家庭に届けていくビジネスだ。市場調査、事業立ち上げを経験した岡本氏は、その後同事業部の事業責任者としてビジネスを推進していく。
そして、2015年4月、「DMM.make ROBOTS」でのロボット販売がスタートした。
その後のインタビューの中で、「DMM.make ROBOTS」でのロボット販売で培った知見をあらゆる角度から探った。この知見は、2017年以降、ロボットを普及させる上では「知っておくべき」価値ある情報だろう。これらは後編にてお伝えしていく。
やはり、最も気になるのは「なぜDMMを辞めるのか」ということだ。
なぜ辞めるのか
編集部
そろそろ教えてください。岡本さんがDMMを退職するに至った原因は、「DMM.make ROBOTS」がうまくいかないと思ったからでしょうか?
岡本氏
それは違います。
今ではロボットの幅広いラインナップを抱えているので、ロボットを買いたいと思う人はまず「DMM.make ROBOTS」を訪れてくれます。そして、多くの方々がサイトを訪れてくれるからこそ、ここでロボットを売りたいというメーカーの方々にも集まって頂けます。
また、日本中に「DMM.make ROBOTS」経由でロボットを販売して頂けるお店も増えてきました。そのため「ロボットが目の前で動いている姿を見てから、買う」ということもできるようになってきました。
このように、良い循環が作れたことで、売り上げも少しずつではありますが確実に成長しています。
編集部
では、直近の売り上げは立つが、将来的にロボットが広まっていかないと考えたのでしょうか?
岡本氏
それも違います。私自身、ロボットは普及していくと考えています。一家に一台ロボットが普及する未来もそんなに遠い未来ではないと思います。
編集部
では、なぜ辞めるのでしょうか?
岡本氏
この歳になり、この先の人生を考えるようになりました。
ロボット事業はチャレンジングで面白いし、今でもロボットは大好きです。しかも「DMM.make ROBOTS」は私の子供のような存在です。
しかし、今の年齢を考えると、新しいチャレンジをし続けるということも難しいと感じるようになりました。
チャレンジをしたくてDMMに入り、実際に様々なことを経験させていただき、ロボットビジネスを立ち上げるという貴重な「ゼロイチ」の経験もさせて頂きました。DMMには本当に感謝しています。
プライベートでは昨年再婚もしました。そこで、立ち止まって今後の人生を考えた結果、私の我儘とも言えますが、ここから1を10にしていくチャレンジは仲間たちに任せよう、自分は得意なことに力を注ごうと思うようになったんです。
岡本氏の決断の背景には、今年Groove Xを立ち上げた林要氏がFacebookでシェアしたブログの言葉が影響したと、岡本氏は話す。こちらがそのブログの一節だ。
そうして考えてゆくと、実は「好きなこと」よりも「得意なこと」を意図的に探して選択するほうが、ずっと人生は楽しい。好きかどうかを考えず、試して得意なことを発見しに、広く外の世界へ出てみようではないか。
実は、大人になればなるほど、選択肢の幅は広くなるのだから。
岡本氏
林さんがシェアしたこちらのブログをたまたま見かけたんです。
確かに私はロボットが好きです。
しかし、あと十数年の仕事人生、「私は何をして過ごすべきか」と考えた時に、好きなことではなく得意なことをしようと思うようになりました。
これが、私がDMMを辞める理由です。
ロボットには未来も感じています。そして「DMM.make ROBOTS」は今までと変わらずに続いていきます。ロボットが家庭に普及する未来を、一人のロボットファンとして楽しみにしています。
(後編「ロボットを売るために必要なこととは?」に続く)
DMM.make ROBOTSの事業責任者である岡本さんが辞めるということ。それはロボット業界にとっては、インパクトがある出来事です。「DMM.make ROBOTSが終わるのではないか」と考えた人も少なくないと思います。
私自身、岡本さんには非常にお世話になりました。それだけに岡本さんがロボット業界を離れることは寂しいですが、一方でその理由がロボット業界にとってマイナスなことではなかったこと、そしてDMM.make ROBOTSが変わらず続いていくということに、心底ホッとしています。
岡本さんには新しい場所でさらにご活躍頂き、また美味しいお酒に連れて行ってもらいたいです。
さて、後編で言及する「ロボットをこれからどう売っていくべきか」というテーマは、今ロボット業界が抱える大きな課題です。ロボットを普及させたいと考える方にとっては知るべき内容になっていますので、ぜひご覧になってください。
最後に、インタビュー中、ずっと気になっていたことをぶつけてみた。
編集部
岡本さん、少し右目が赤いですが、それは様々なことを思い出して(泣いているの)でしょうか?
岡本さん
いえ、この間、目をぶつけてしまったんですよ。
編集部
あ、そうだったんですね…。
(前編・完)
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ロボットスタート株式会社ロボットスタートはネット広告・ネットメディアに知見のあるメンバーが、AI・ロボティクス技術を活用して新しいサービスを生み出すために創業した会社です。 2014年の創業以来、コミュニケーションロボット・スマートスピーカー・AI音声アシスタント領域など一貫して音声領域を中心に事業を進めてきました。 わたしたちの得意分野を生かして、いままでに市場に存在していないサービスを自社開発し、世の中を良い方向に変えていきたいと考えています。