【ロボカップサッカー】ヒューマノイドリーグのルールと魅力「果てしなく遠い夢に向かって」

「ロボカップ」において、サッカー競技は種目のひとつに過ぎないが、同時に中心的な位置付けにある種目でもある。
ロボカップサッカーは全く性質の異なる2種類で構成されている。それは「サッカーをやるために作られて進化しているロボットで行うサッカー」と「人間を模した二足歩行ロボットで行うサッカー」のふたつ。

文章で読んでも違いはピンと来ないかもしれないが、このふたつは全く異なる。前者はサッカー「中型リーグ」と「小型リーグ」であり、後者は「ヒューマノイドリーグ」だ。

サッカー小型リーグ 専用のロボットを開発し、スピードと戦術で競うリーグ

人間を模した二足歩行ロボットでサッカーをやるヒューマノイドリーグ

前者は既に下記の記事で解説しているので詳しくはそちらを参照して頂きたい。今回、解説するのはヒューマノイドリーグだ。


中型/小型リーグとヒューマノイドリーグのちがい

サッカーをするために作られたロボットは車輪で素早く動き、360度どの方向にも移動できる。ボールは特別な機構でドリブルしたり、はじいたり、チームによっては浮かせて飛ばすチップキックもできる。今年も中型リーグではロボット競技で優勝したチームが、人間のおじさんチームと対戦した。もちろんお遊びのひとつだが、既にその段階まで来ている。

一方、人型であるヒューマノイドは二足歩行でサッカーをする。あくまで人間を模したメカニズムによって人間と同様にサッカーを行うことを目的としている。
それはとても馬鹿げている。
現在のロボット技術では二足でバランスをとり続けて歩くだけでも難儀なことで、ましてやボールを蹴ればバランスを崩して転倒し、相手チームのロボットとぶつかっては転倒する。ひどい時にはボールから遠く離れた場所で足踏みしているだけのプレイヤーが転倒する。スピードもひどく遅い。最初は見ていてイライラする。観客席のある子どもが「バカだなぁ、ボールを通り過ぎちゃったよ」と嘲笑し、「もっと速く走れよ」となじる。


しかし、これはロボットが人間と同じことができるようになるための長い長い挑戦の一歩であり、ステップなのだ。観客で埋まったスタンドからはボールを蹴って転倒したロボットを応援する声が上がり、ゆっくりコロコロとボールがゴールに入ろうものならイベントホールが揺れるほどの歓声が響き渡る。
これは馬鹿げた茶番などではない。人型ロボットという親しみやすい形をした機械が、転びながらもゴールを目指す姿に感銘を覚え、声援を送るのだ。


2015年の中国大会からフィールド(ピッチ)は歩きやすかったカーペットから人工芝にルールが変更され、人型ロボットにとっては一層歩くのが難しくなった。ロボカップの運営は更に難易度を上げたのだ。「たって、サッカーの試合は芝でやるものでしょ」と関係者は平然と言う。ボールの色はロボットにとって識別しやすかったオレンジ色から、人間が使っている白と黒のサッカーボール、JFA公認球へとルールが変わった。ボールを素早く識別するビジョン技術が最も重要な技術のひとつになった。

果てしなく遠い夢に向かって、こうした壁をひとつずつ乗り越えて学生や研究者たちは新技術に挑戦し、後輩へと繋いでいく。それがロボカップのイデオロギーなのだ。

自律型ロボットのハードウェアも開発するヒューマノイドリーグは、大きさによって3つのカテゴリー(サブリーグ)がある。一番大きなアダルト、中型のティーン、小型のキッドだ。



アダルトサイズ

アダルトは130~180cmのロボットで、各チーム1台、1対1の戦いとなる。
1対1なのでゴールキーパーはいない。ボールを挟んで中盤でボールを取り合い、ゴールに蹴り込む。


今年のアダルトサイズの決勝はドイツのBonn大学「NimbRo AdultSize」とオランダのUniversities of applied sciences「Sweaty」の対決となった。

Sweatyチームのロボット

NimbRo AdultSizeチームのロボット

アダルトサイズは背が高いため転倒しやすく、重量があるため転倒によって壊れてしまう可能性が高い。そこで、ロボットに対してチームからひとり、介添えのように人間がつく。倒れそうになったらロボットをつかんで転倒を防ぐが、触った場合は一定時間、ロボットと介添えともにフィールドの外に出なければならない。相手チームにとってはチャンスだ。自分だけのフィールドでゴールを決めれば良い。

■ヒューマノイド アダルトサイズ 決勝戦

結果は11対1でNimbRoがコールド勝ちで優勝した。Sweatyの方がはるかに背の高いロボットだったが、ボールを挟んで押し合ったときなど、ロボットの安定感でNimbRoが圧倒的にまさっていた。

優勝を逃したSweatyのロボット。存在感は抜群だった



ティーンサイズ

ティーンサイズは1チーム3体のロボットで競技を行う。決勝は台湾の「Huro Evolution」(National Taiwan University of Science and Technology)とドイツの「NimbRo TeenSize」(University of Bonn)が激突。アダルトサイズに続き、NimbRoが勝利を収めた。







キッドサイズ

キッドサイズは1チーム4体のロボットで競技を行う。3つのカテゴリーの中では最も軽快に動き、観客の人気も高い。ここでは準決勝に千葉工大のCIT Brainsが進出したが、惜しくも敗れ、3位決定戦に回り、ここでは勝利を納めてみごと3位に輝いた。また、CIT Brainsはサッカー競技以外の技術を競うコンテスト「テクニカルチャレンジ」で優勝に輝いている。

キッドサイズサッカーの優勝は「Rhoban Football Club」(University of Bordeaux and Bordeaux INP)が勝ちとった。「Zju Dancers」(Zhejiang University)が2位だった。優勝したRhobanのロボットはバランスがよく、頻繁に首を降ってボールをサーチし、ボールをみつけるとそこに向かうのも速かった。






二足歩行ロボットはまだ人間のようには走ったり、スーパープレイを決めることはできない。
それでも、例え少しずつでも、ロボットは前に進み続けている。
会場では多くの子供達が笑顔で熱い声援を送っていた。その中の何人かの子供たちが数年後にきっとこう言うだろう。
「私のロボット研究は、両親に連れられて見に行った、日本で開催されたあのロボカップがきっかけだったんですよ」

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神崎 洋治

神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。

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