小売業「トライアル」店舗における先進のAI活用事例!700台のカメラで顧客トラッキング&マーケティング – DLLAB DAY 2018

「全国221店舗で小売業を展開する「トライアル」では、店舗によっては700台のカメラを稼働し、P&Gと連携してディープラーニングを活用したマーケティングを推進している」

ディープラーニングのイベント「DLLAB DAY 2018 深層学習を使いこなす日」で行われた講演セッション「機械学習・深層学習で進化するオフラインマーケティング」でトライアルホールディングスの松下氏はそう語った。

株式会社トライアルホールディングス 執行役員 グループCTO 松下伸行氏


700台のカメラとディープラーニングを活用したトラッキング

九州は福岡市のアイランドシティにオープンしたスーパーセンター「トライアル」では店舗内に700台のカメラを設置し、映像をディープラーニングによって解析してマーケティングに利用する取り組みをはじめている。カメラの映像からは来店客の人数、属性(性別や年齢層)、移動経路などを把握することができる。また、顧客がどの通路を通り、どこの棚に立ち止まったのか、どの商品を手に取り、どれを棚に戻したのか、結果的にどの商品をカートに入れたのが、属性別に分析することもできる。

店舗内の顧客の位置や人数を機械学習したシステムが高精度で検知

来店客ごとに移動経路をトラッキング(追尾)し、通った通路や立ち止まった棚をロギング

松下氏によれば、スーパーはPOS技術の導入が早期から行われてきた業界だが、POSでは売れた製品を集計・分析するのには長けているが、それらの商品を購入するまでの顧客の購買行動まではこれまで把握することができなかった、と言う。トライアルではカメラとディープラーニングによる機械学習、解析システムを使うことで、これらを細かく分析し把握している。


分析から見えてくる顧客行動

商品棚に配置した商品によって来店客の購買行動は大きく異なると言う。
例えば、ビールは計画購買、すなわち購入することを予め決めていて、ビールの商品棚からどれを購入するかを選択したり、更には製品まで決めて棚に来るケースも多い。一方、菓子類の場合は、通路を通った際にパッケージを見てその商品の購入を決めたり、パッケージをアレコレ見て欲しくなってカートに入れる顧客が多いと言う。

ビール棚(画像左側の上)と菓子類棚(画像左側の下)の比較。通過人数、パッケージの手をとり方、衝動買いの頻度などで大きな違いがある。ビール棚の滞在時間は短く、予め購入することを決めて比較的短時間で製品を選んで買っていくことを示している

松下氏が、カメラ映像とAI解析によって、ビール棚と菓子類棚の比較、定番棚と中央の特売ワゴンとの比較による効果測定などを行う様子を解りやすく解説したのが下記の動画だ。カメラの映像から来店客の購買行動を分析する実例がよく解る


年齢性別によって広告が変わる

松下氏はカメラとディープラーニングを活用した興味深い事例をもうひとつ紹介した。ディスプレイ広告の内容を、見ている顧客の属性に合わせて自動的に切り換えるというシステムだ。ディスプレイ広告の前に立った顧客をカメラが映像として捉え、AIが属性を分析、属性に合わせて人気の製品を広告表示するというもの。限られた広告スペースを有効に活用するのに効果的だ。

20歳代の女性に最適な商品の広告をディスプレイ表示

20歳代の男性が立つと、別の最適な商品の広告にディスプレイ表示が自動で切り替わる


カメラと映像解析による欠品防止

カメラによって陳列商品の欠品も認識できる。例えば、バナナは山積みすると痛みが早くなるので平積みが望ましいが、平積みすると完売するタイミングが早くなるため、販売機会を逸しないためにも完売前に効率的に補充したい。そこでAIがカメラで監視して、バナナが完売する前、または完売したらすぐにスタッフに通知をするシステムが重要だとしている。これらは実はディープラーニングを使わなくても従来の色彩検知を活用することでも可能だと解説した。


解析にGANを活用

続いて、この「トライアル」店舗で活用しているシステム開発において提携しているP&G Japanのシニアデータサイエンティストの今村氏が登壇して、システム開発の舞台裏を説明した。

P&G Japan 株式会社 インフォメーションテクノロジー シニアデータサイエンティスト 今村修一郎氏

例えば、最適な棚割り・棚位置の指定に、機械学習をしたAIを使っていると言う。驚いたのが、これらディープラーニングの学習に「GAN」も利用しているということ。GANとは、Generative Adversarial Networkの略で、日本語では「敵対的生成ネットワーク」と訳される。簡単に言うと、偽のデータを作成する贋作AIとその真贋を判別するAIが競合、切磋琢磨することでAIを学習させていくトレーニング手法だ。本来は膨大な学習データが必要なニューラルネットワークで、効率的に機械学習させるため、少ないデータ量でもGANを用いることでトレーニングさせるしくみだ。

今村氏は、現在はたくさんの人たちが人力で棚割に四苦八苦しているが、今後はAIによる棚割り生成にどんどん変わっていくのではないか、とする。というのも、食料品の棚割ならスナック菓子やチョコレートなどでセオリーが異なり、生鮮食品や飲料にはそれぞれ個別に棚割のセオリーやノウハウがあると考えられているが、AIによる棚割生成のアプローチをとってみると、実はカテゴリーに関係なく最適な棚割というのはパターン化できるのでないか、という興味深い持論を紹介。他のカテゴリーの棚割の成功例を別のカテゴリーの棚に応用できるということは、今まで人がやってきた知見・能力を超えたものになるのではないか、と説明した。

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神崎 洋治
神崎 洋治

神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。

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