【IoT業界探訪vol23】都心から30分の実証共創空間「柏の葉IoTビジネス共創ラボ」設立イベントに行ってきた

「IoTビジネス共創ラボ」というコミュニティをご存知だろうか。

IoTの普及を目指し、IoTビジネスのプロジェクトを持つ人達向けに実証実験やビジネス化などに向けたノウハウなどを共有しているのコミュニティだ。

今回は、都心にほど近いつくばエクスプレス線「柏の葉キャンパス」を中心に新しく設立された地域グループ「柏の葉IoTビジネス共創ラボ」のキックオフミーティングの様子をお伝えする。

なお、興味を持った方は、8/27に開催される勉強会に参加してみることをお勧めする。

柏の葉とIoTビジネス共創ラボとのマッチング

まずは、『柏の葉』やIoTビジネス共創ラボについての知識がない方が多いと思うので簡単に説明する。柏の葉は20年ほど前に三井不動産が運営していたゴルフ場が、大学や住宅など一般に転用されて生まれた新しい街だ。

東大や産総研などのアカデミックな施設に加え、都心まで30分、羽田、成田、両国際空港から60分という交通の便を活かし、一大キャンパスタウンが整備された。


たった15年前の風景とは思えないほどの変貌を遂げた柏の葉

そして柏の葉に集う民間企業、市民団体、研究機関などは、いくつかの街づくりのテーマを掲げてが連携しており、今回の柏の葉IoTビジネス共創ラボ設立に関してはそのなかの「新産業創造」というテーマが大きく関係している。



次にIoTビジネス共創ラボについても簡単に紹介する。

IoTはやりがいのある分野だが、その反面、セキュリティ面や投資判断、技術者の育成などが難しく、ビジネス化に二の足を踏む企業は多い。

そこを後押しするため、東京エレクトロンデバイス株式会社が幹事会社、日本マイクロソフト株式会社が事務局となってIoTビジネス共創ラボは設立された。

2016年初頭の設立から、その規模は大きく増し、参画企業は約500社。connpassでのコミュニティメンバーも3000人以上になる。

参画企業各社の知見を集める8つのワーキンググループと、そこに横串を刺すハブ機能でIoT関連ビジネスの実現を強く推進している。また、実証実験フィールドの提供や、公共機関との連携などを目指し、地方支部も活発に活動中だ。



このように、IoTビジネスの社会実装を目指すIoTビジネス共創ラボの将来像と、新産業創造をテーマにあげる柏の葉の思惑が一致したのが、今回全国で5番目となる地方支部「柏の葉IoTビジネス共創ラボ」設立の大きな理由だろう。

これから街づくりの第二ステージに入るという柏の葉は、IoTシティ化なども期待できる。柏の葉IoTビジネス共創ラボを立ち上げ、これからどのような活動をしていきたいのか、これまで街づくりの中心となっていたプレイヤー達が語ってくれた。



地域の特色を全面に押し出したコミュニティづくり

柏の葉IoTビジネス共創ラボの大きな特徴は、メンバーの背景が多様であることだ。

街づくりに参加する自治体、市民団体、民間企業、大学、研究機関などが幅広く参加して互いに課題を持ち寄り、解決手段を探求、実証している。

キックオフミーティングの第一部では、柏の葉地区の街づくりや運営をしている三井不動産や柏市などがコミュニティ立ち上げの意図や目指す未来についてスピーチを行なった。

まずは、彼らのスライドやスピーチを紹介していく。



開会の挨拶は三井不動産株式会社の三宅弘人さん。三宅さんは、柏の葉の街づくりと同時にベンチャー共創事業を担当している。実証実験から得たフィードバックを、新規事業創生と街づくりに活かせる柏の葉らしい役職だ。



IoTビジネス共創ラボについての説明をする東京エレクトロンデバイス株式会社の福田良平さん。

先ほども紹介したように東京エレクトロンデバイスはIoTビジネス共創ラボ全体の幹事企業を務める。

柏の葉は都心から30分と非常に近いため都内の企業も参加しやすく、街ぐるみで実証実験に対して積極的なため、これからの取り組みに大いに期待していると語った。



柏市からは商工振興課の小島利夫さんが市としての取り組みを紹介。柏市の持つ課題の紹介とともに、今後のAI研究の中心地へと成長させていく展望を語った。

柏市は、AIとものづくりの技術が融合した国際的な研究開発拠点づくりを目指し、世界最大、最速級の人工知能クラウド「ABCI」が設置されるという。また、産学官の連携も目指し、新規で事業を興そうとする中小企業へも税の優遇など各種手段を用いて後押しする見込みだ。



柏の葉は「公(行政)」・「民(市民活動、企業活動)」・「学(産総研、東大、千葉大などのアカデミックな活動)」の強い連携が大きな特徴だ。そのコーディネートをしているUDCK(柏の葉アーバンデザインセンター)のディレクター、後藤良子さんが柏の葉IoTビジネス共創ラボの特徴と成り立ちを説明した。

柏の葉IoTビジネス共創ラボが生まれたきっかけは昨年末から3ヶ月間に渡って開催されたイベント、「柏の葉IoTハッカソン」だという。

このイベントを契機に、つくばエクスプレス沿線全域で運用されるようになった超広域LoRaWAN(省電力で広域をカバーすることができ、IoT 用途での利用に適した無線通信規格)環境や、MicrosoftのAzureを利用したIoTプロジェクト群、その制作者コミュニティが作られていった。

『サービスを生み出すこと』だけでなく、『サービスが生まれやすくなる環境を整える』というハッカソンの意義は、このような長期間のイベントのほうが体感しやすいのかもしれない。



柏の葉で生まれるプロジェクトを、街づくりとベンチャー共創という2つの視点で進めている三井不動産の西林加織さん。柏の葉の『街』としての特徴と、三井不動産が運営するオープンイノベーション推進事業31VENTURESについて説明した。

柏の葉は「環境共生」「健康長寿」「新産業創造」を街づくりのテーマとして掲げている。そこにつながる分野に挑戦するベンチャーには31VENTURESが、出資、ビジネスモデル構築や販路開拓などに加えて三井不動産ならではのサポートをしていくという。



実証実験への期待が高い参画企業

大規模な実験場所や事業拡大に対する資金の提供、行政からの税金補助など、様々な面で充実したサポートがある柏の葉地区。そこを舞台に活躍しようといる参画企業を紹介していこう。



「落ちない事業用ドローン」のためのフライトコントローラーを開発しているThink Next techの宮本昌典さん。ROS(ロボットOS)やオープンソースのフライトコントローラーをカスタマイズし、多様なセンサ情報を活用できるプロダクトを開発している。

また、柏の葉支部幹事企業のドローンワークスと連携し、Microsoft Azureを用いた事業用ドローン向けの包括的な運用システムを開発していくという。



つくばエクスプレス沿線に構築されている広大なLoRaWAN環境が柏の葉の大きな特徴だ。その環境を利用するのに必須なLoRaWAN通信プラットフォーム、SenseWay Mission Connectを展開するセンスウェイ株式会社の益子純一さん。LoRaWANを活用した様々なプロジェクトが進行している柏の葉に大いに期待しているという。



古くから柏市に工場、研究所を持つ大日本印刷株式会社の前田強さん。多様な分野に渡るコア事業の技術を活かし、実際に立ち上がった新規事業を説明していた。

上の画像はバイタルセンシング機能付きのベッド。ユーザーへの負担が低いセンサーシートには大日本印刷の技術が応用されている。
「AIとものづくりの融合した日本ならではの研究拠点」を目指す柏市とのマッチングでどのような新規事業がうまれるか楽しみだ。



AI時代のデジタル農業を創造する株式会社TrexEdgeの池田博樹さん。スマート工場などで活用されているIT化を農業にも応用していこうという狙いだ。

TrexEdgeが開発した農業支援アプリ「アグリオン」は現場での評判も高いという。柏の葉で、農業へのIoT活用を実証し、さらなる躍進を目指しているという。



意外にもIoT化が進んでいるのはごく一部だという自動販売機業界。IoT活用の一例として自動販売機用の防犯カメラで地域の治安も向上させる取り組みなどを紹介していた一般社団法人 防災・防犯自販機協会の五味隆介さん。

近未来の無人販売網がどのように地域に溶け込んでいくのかを実証していく。



感覚器官が集まる頭部に毎日長時間接触し続けることから「枕は人間の一等地にあり続ける」と話す、まくら株式会社の河元智行さん。枕の販売、開発の経験を活かし、AIやIoT技術を駆使した新たな枕の開発を目指す野心家だ。今回は22世紀の枕に期待する機能についてのプレゼンを披露した。



様々な形の事業用ドローンが運用される未来に向けて活動するドローンワークス株式会社の今村博宣さん。柏の葉IoTビジネス共創ラボの幹事企業も務める。

ドローンを安全に運用するため、センサーやモーターから取得される膨大なデータをAIで処理するシステムを構築している。

今回のホットトピックは、LoRaWANを時速120kmで移動しながら遠距離通信させた実験について。移動体への応用が難しいと言われていたLoRaWANだが、その限界を試すような実験ができるのは、広域に環境が整えられている柏の葉ならではのメリットと言える。

ワーキンググループ参加メンバー以外に、勉強会を中心としたメンバーも募集しているのも柏の葉支部の大きな特徴だ。

この魅力的なフィールドや、コミュニティに興味がある方は、ワーキンググループ参加メンバー、勉強会メンバーのどちらを希望しているかを記入の上kashiwanoha-iot@drone.co.jpへ連絡してみてほしい。



多様なエコシステムとのマッチングに期待するプラットフォーマー

IoTデバイスから取得される膨大なデータを処理し、新たなビジネスに繋げるにはクラウドサービスが必須だ。今回のキックオフミーティングでは柏の葉IoTビジネス共創ラボをサポートするプラットフォーマーとして、日本マイクロソフト株式会社と東芝デジタルソリューションズ株式会社がプレゼンテーションを行った。


「いまやマイクロソフトはクラウドの会社である」と語る内藤稔さん。製造業、サービス業、関係など国内での多様な分野で事例があることを強くアピールしていた。



また、リアルタイムの画像認識を中心としたデモで紹介されたUIではさらに事例を増やしていこうという意気込みを強く感じられた。

例えば、設定やプログラミングに対する敷居が大きく下がったAzureのUIは、利用者層をエンジニア層からビジネス層へと広げていこうという意志のあらわれだろう。



また、IoT機器が今後増えていくにあたって重要になってくるのが機器のセキュリティだ。セキュリティの高いインターネット接続マイクロコントローラー (MCU) デバイスを開発するためのソリューション、Azure Sphereについてもかなりの時間を割いて紹介された。

サービスのユーザビリティやセキュリティの向上は、IoTが広く社会に実装されていく中で必須な要素だ。

この進化の速さが、IoTの一般化を強く感じさせた。


そして、最後に個人的に特に印象に残ったプレゼンテーションとして、東芝デジタルソリューションズ株式会社の吉本武弘さんのお話を紹介しよう。

紹介したサービスはスマホとつながるIoT機器同士をノンプラグラミングでサービス化できるifLink。IFTTTのようにIF/THENベースなので非常にサービスのイメージがしやすいだろう。



ifLinkの大きな特徴は、だれにでもとっつきやすいUIと、多様な対応機器群だ。デバイスやシチュエーションが描かれたIf/Thenカードでペアをつくり、スマホで撮影するだけであらかたのシステムができてしまう。



技術レベルを問わず、様々な利用者が、手軽に、多様な機器を使ったPoCを繰り返すことで、最適なサービスを構築することを狙ったUIだ。

機能的にも十分で、小規模事業者の場合、ifLinkで作られたPoCが、そのままサービスインしてしまうこともあるという。

柏の葉で導入されれば課題当事者によるソリューション制作ワークショップなども行っていきたいという吉本さん。開催された際には、「これぞIoTの一般化」だと言うようなソリューションが生まれる場面を目にすることができそうだ。



今後への期待

ロボスタでは今までにも、IoTビジネス共創ラボPepperワーキンググループの活動を紹介したことがあったが、ソフトバンクやMicrosoftなどのプラットフォーマーが主導になっているビジネス向けのコミュニティ、という印象が強かった。

しかし、少規模ながらxRに関するコミュニティを主導している株式会社ホロラボがxRワーキンググループのリーダー企業に就くなど、徐々にメンバー側がドライブするコミュニティへと変化しつつあるようだ。

また、普段はエンジニアのコミュニティ活動などに縁がなさそうな不動産デベロッパーや自治体が、メンバーとして前のめりな姿勢を見せていたのも、印象的だった。

おそらく3ヶ月に渡ったIoTハッカソン期間や、その企画段階。さらに今回の柏の葉IoTの設立準備までの間に、大きな手応えがあったからに違いない。

それに加えてつくばエクスプレス沿線上に整えられたLoRaWAN環境。

行政、不動産デベロッパーなど、多様な背景を持つメンバーが自律的に活動するコミュニティ。新規技術LoRaWANのインフラを持ち、大規模な実証実験が可能なフィールド。この組み合わせから何が生まれてくるのか。

柏の葉IoTビジネス共創ラボから、大きな成果が生まれることを期待して今後も活動を注視していきたい。


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梅田 正人
梅田 正人

大手電機メーカーで生産技術系エンジニアとして勤務後、メディアアーティストのもとでアシスタントワークを続け、プロダクトデザイナーとして独立。その後、アビダルマ株式会社にてデザイナー、コミュニティマネージャー、コンサルタントとして勤務。 ソフトバンクロボティクスでのPepper事業立ち上げ時からコミュニティマネジメント業務のサポートに携わる。今後は活動の範囲をIoT分野にも広げていくにあたりロボットスタートの業務にも合流する。

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