【IoT業界探訪Vol.28】大阪発のIoT・ロボットビジネスを —— AIDOR Accelerationデモデイレポート

大阪発のIoT・ロボットビジネスを発掘するビジネス創出プログラム、AIDOR Acceleration(アイドルアクセラレーション)。

今回は3月に開催された、成果発表会(デモデイ)の様子をお伝えする。


AIDORの特徴

AIDORとは、 AI and Data Oriented Robotics Serviceの略語。大阪市による先端技術のビジネス活用サポート拠点、ソフト産業プラザ TEQS(テックス)が主催するIoT・ロボットビジネスに特化したビジネス創出プログラムだ。

プログラムの期間は4ヶ月。その間にサービス開発に必要な基礎知識講座と、実際に手を動かすワークショップでビジネス立ち上げに必要な知識をじっくりと身につけることができる。



特にAIDORはメンターが充実しており、距離感も近いため、ビジネス立ち上げの各プロセスについて有効な助言を得ることができそうだ。






MAMORIO 増木社長によるキーノート

イベントは、日本を代表するIoTスタートアップと言われるようになったMAMORIO株式会社の増木社長のキーノートスピーチから始まった。


スピーチの中で語られるビジネス立ち上げ時のエピソードは聞いているだけで胃が痛くなるようなものも。

内容はIoTビジネスの立ち上げについて。まさにHardware is Hard、という言葉にみあう壮絶なエピソードが続出していたが、どこかコミカルに聞こえたのは増木氏の人柄があってのことだろう。

そして、AIDORメンバー、イベント参加者へのメッセージとして挙げていた一言は「あなたが作ろうとしている新しい製品で捨てたものはなんですか」だった。



革新的なプロダクトは、その時代に合わせて機能を研ぎ澄ます強烈な引き算から生まれる。その際にはヒトの持つ欲求をどのように解釈したのか、サービスの本質が見えてくる。

MAMORIO自身をみても、ハード単体で機能を実現することを捨て、機能の殆どをスマホやクラウド側に持たせることによって小型軽量なサイズとフレキシビリティを得たと言う。

これは全てのサービス開発者にとって有用な視点だろう。



AIDOR参加者によるピッチ

では、ここからはAIDORプログラムに参加したチームの主だったピッチについて紹介してみよう。


誰でも始められる自転車シェア「Bike Link」

チームリーダーを含め経済学の博士号を持つスタッフが2名いる異色のチーム、Bike Link。写真はチームリーダーの高橋 新吾氏

優勝、オーディエンス賞、Garage Minato賞を受賞したBike Linkは新しい形のシェアサイクルサービスだ。

その特徴はシェアサイクルサービスに自分の持っている自転車を貸し出す点だという。彼らは、既存のシェアサイクルサービスの問題点をこのように分析している。

Bike Linkによる既存シェアサイクルの課題解析

①「自転車が少ない」
自転車やポートの地代などが運営側による負担になっているため。

②「ほしい場所にポートがない。」
シェアサイクルサービス運営側が立地場所調査費を負担するため、リスクが少ない場所か、もともとコネクションがある場所にしかポートを設置できていないため。



これらの課題は、シェアサイクルサービスに対して「自分が使いたい場所にポートや自転車を貸し出す個人事業主」、というプレイヤーを生み出すことで解消出来ると高橋氏は言う。

自転車やポートと言ったシェアサイクルサービスに必要なのハードと、貸し出すためのソフトウェアやネットワークを分割することでより軽快にサービス展開をしていくというBike Link。



草の根から新たな需要を掘り起こすBike Linkがシェアサイクルサービスを再発見することに期待したい。


3chネックウェアラブル開発+ARサービス 自在設計合同会社

続いて、NTTドコモ賞を受賞した首掛けタイプの3chスピーカーデバイスを紹介する。このデバイスは左右の2chに加え、後方に低音の1chのスピーカーを備え、臨場感のある音響空間で頭部を包み込むことができるというものだ。

特に距離感や方向を伝える表現力が高いため、音響ARデバイスとして大きな可能性を秘めている。


電機メーカー出身というキャリアの中で電子機器の設計と企画についての知見を持つ八田敦司氏。今回はそれに加えてARコンテンツの開発プラットフォームまで踏み込んでいった。

さらに、音響ARコンテンツとして大きな需要が予想される音声観光ガイドに関しては、開発プラットフォームまで用意する手の込みようだ。
NTTドコモとしても新たなコンテンツ消費スタイルの可能性に魅力を感じられたのではないだろうか。


価値観別採用で企業のベストマッチを実現する「Value Match」

Twilio賞を受賞したのは、採用支援ビジネスを展開する株式会社ヒューマンファーストのAIソリューション、Value Match。


採用したあとにどう職場になじませるのかが問題だと語る山本 陽亮氏

応募書類やオンラインでの採用面談時の動画をAIで解析し、企業のポリシーと個人のモットーとのマッチング具合をはかると言う。

AIソリューションの開発に必要なデータに関しても、ヒューマンファーストの従来業務の中で採用後の定着支援まで行ってきた中で培ってきた知見を活かせるだろう。

これから先、激化していく人材獲得競争において個々の企業のカラーに合った人材、成長をサポートしやすい人材を吟味していく需要は非常に高い。ヒューマンファーストの試算によると社内外でのコミュニケーションをすべて含めると市場規模は8500億円にのぼるという。



様々なコミュニケーションをサポートするTwilioとしては、オンライン面談時のデータ解析など、様々な局面で活用してもらいたいところだろう。


IoTモビリティ「ANSHiN」 立命館大学EDGE SPROUT

さくらインターネット賞を受賞したのは学生世代の自転車事故を防止するプロダクト IoT ANSHiNシステムだ。


立命館大学のイノベーター養成プログラムから派生した学生団体、EDGE SPROUTの戸簾 隼人氏

自転車事故の中でも目立つ学生世代の事故を防止するプロダクトを開発したのが学生自身だと言うのも面白いが、製品の仕組みもユニークだ。

コアモジュールはIoT化されたブレーキシステム。ブレーキレバーをにぎるためにグリップから一瞬指を離す動作をセンサーで感知し、電動でブレーキングを開始。空走距離を短縮すると言う。

その際の時刻、位置情報、速度などのデータは、「事故頻発ポイント」としてデータベースに格納され、以降はこの位置情報をトリガーにハプティック(触覚)デバイスや音声デバイスを用いて注意喚起する。



将来的には中学入学を機に大半の生徒が購入するという通学用自転車に標準装備するのが目標だという戸簾氏。学生の自転車事故を解決したい、という彼らならではの強い当事者意識の行き着く先を是非見てみたい。


ゆるい介護を実現するコミュニケーションロボット「パペッタ」 可愛堂

ロボスタ賞を受賞したのはおとしよりと人々が緩やかにつながり支え合う「ゆる介護」を実現するコミュニケーションロボット、パペッタだ。

その特徴は愛着を生むシステムだ。例えば外装はハンドパペットを着せ替えることで自分好みにカスタマイズすることができる。



また、パペッタに愛着を持てるような「生きた」アクションをうみだすパペッタシステムの裏側には「ゆる介護」を担当する人間(ヘルパー)を配置してある。

ヘルパーは「スマホゲームのプレイ」を通してパペッタシステムにヘルパーとして参加するという。

コミュニケーションに主眼を置いたゆるい形でのヘルパー業務を、スマホゲームというフィルターを通すことでさらに参加障壁を大きく下げ、クラウドソーシング化するというアイデアだ。



つまり、可愛堂が開発するパペッタは「キャラクターデザイン」や「会話プログラム」ではなく『パペットを被せられる設計』や『ゆるいクラウドソーシングによる人力対応』などの仕組みによって愛着を生み出そうとしているのだ。



可愛堂は現在、開発メンバーを募集中とのこと。ロボット開発を従来とは違ったアプローチで加速していこうとする姿勢に共感した方はぜひ連絡してみてはいかがだろうか。


浜田化学株式会社のブラインドライト

工場内の事故を改善するため、プロジェクションマッピングによって動的に導線案内を設置するアイデア。事故やヒヤリハットに関しても、カメラで解析することで改善案を提案するという。



今後さらに増加する外国人労働者にもわかりやすく、多品種ラインにおいても柔軟に対応が可能なものを、という要求を「プロジェクションマッピング」というエンタメ向けの技術で解決しようとする軽やかさが興味深かった。


バイオシグナル株式会社の飲食店環境コンサルティング

人の味覚は環境によって大きく変化することは医学的に広く知られている。例えば飛行機の機内食は気圧や湿度の変化により低下した味覚に合わせ1.3倍も味付けを濃くしているという。

それ以外にもBGMや周囲の騒音の影響によって、食事のスピードが上がるという研究結果も発表されている。



そこで、バイオシグナル社では、飲食店内の室温、騒音、二酸化炭素濃度などの様々な環境変数をIoT機器によって収集し、売れ行きなどのデータと比較しながらエアコンや導線などの制御についてのコンサルティングを行うという。

そのキーポイントが医師でありセミプロレベルの料理人でもあるバイオシグナル社代表、得丸氏の知見だ。



医学的なエビデンスと飲食店売上、室内環境を徳丸氏が結びつけることで売上や顧客満足度の向上をねらえる店内環境をコンサルティングできるようになると語った。



まとめ

今回のデモデイは、非常に中身が濃いイベントだったが、所々で東京との違いを感じられた気がする。

プロダクトやサービスを深掘りする際に、会社の成り立ちや個人の特質などに注目するのは東西を問わない。しかし、さすが商売と人情の街、大阪といえばいいのだろうか、メンターの寄り添い方が良いのか。ビジネスに個人の特質を反映する際にも解像度が高いイメージを共有されるため「この人、このチームならばこのアイデア、この仕組がうまくいくだろうな」という納得感が非常に強かった。

もう一点は、PoCのすすめ方の堅実さだ。ものづくりが盛んな地域なだけにそのつらさも身にしみているのか、IoTのプロジェクトであっても、安直にモノを作らない。IoTとなると、どうしても「ものづくり」をしたくなる参加者が多いが、堅実なビジネスをすすめるメンタリングが感じられた。



なお、エンディングのセッションでIoTカオスマップの中からロボスタから「民生品を使って手軽にPoCを回すようにしよう」という旨のお話をさせていただいた。IoTビジネスの立ち上げやPoCの難易度を下げることにたいして少しでも参考になったのならば幸いに思う。

関連サイト
AIDOR Acceleration

ABOUT THE AUTHOR / 

梅田 正人

大手電機メーカーで生産技術系エンジニアとして勤務後、メディアアーティストのもとでアシスタントワークを続け、プロダクトデザイナーとして独立。その後、アビダルマ株式会社にてデザイナー、コミュニティマネージャー、コンサルタントとして勤務。 ソフトバンクロボティクスでのPepper事業立ち上げ時からコミュニティマネジメント業務のサポートに携わる。今後は活動の範囲をIoT分野にも広げていくにあたりロボットスタートの業務にも合流する。

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