産業用ロボットがまるで生き物のように動きだす NVIDIA「ロボット調教師」が語る共感的インタフェース

「ロボット調教師」と聞いて、みなさんは何を思うだろうか?

調教師とは馬、広義には動物全般を手懐けたり管理することに長けている人のこと。ロボットはもともと人間のプログラミングによって動作するのだから、調教もなにも人間の思い通りに動くに決まっている、とクビを傾げる人も多いだろう。


たしかにその通りだ。ただ、例えば次の動画を観て、産業用ロボットがまるで生きているように感じたり、ロボットと人間が呼応して互いの動作に反応して動いているように感じたとすれば、「ロボット調教師」と呼ばれるMADELINE GANNON(マデリン・ギャノン)氏の研究や仕事の意味、そして人とロボティクスの未来像が見えてくるかもしれない。


自律動作マシンのための「人間中心のインターフェイス」とは

ギャノン氏はロホディシスト、NVIDIAのRobotics and AI R&D Engineerだ。今年の3月にシリコンバレーで開催された「GTC 2019」ではギヤノン氏は「Human-Centered Interfaces for Autonomous Machines」(自律動作マシン用に開発された人間中心のインターフェイス)というセッションに登壇し、その研究とコンセプトを公開した。それはとても興味深い内容だったので、セッションでのギャノン氏の解説を中心に紹介したい。

GTC 2019のセッションに登壇したMADELINE GANNON氏

ギャノン氏

あなたは「ロボット」という言葉を聞いた時にどんなことを思い浮かべますか?
ブリキのロボットや工場で働くロボットアーム、そんなイメージを持っている人が多いでしょう。しかしそれはすぐに過去のビジョンになるでしょう。これからは人間型のヒューマノイドロボットが普及していく、というのも正確ではないでしょう。実際にラボから生まれ、私たちと生活することになるロボットたちは人間型である必要はありません。
ロボットは私たちが行くことができない危険な場所に行って作業したり、A地点からB地点へ荷物を運んだり、超人的なスピードで動くことができるものもあるでしょう。ロボットのエコシステムを動物のように例えると、Domesticated、tamed、Wildと3つのカテゴリーに分けられるでしょう。私の研究では、2つ目のTamed カテゴリーに焦点を置いています。



ギャノン氏はあえて水族館で飼われているセイウチの写真を見せて例にあげた。セイウチはショーに登場し、多くの観客に愛されたアイドル的な存在だ。ロボットは大きくてパワフル、使い方によっては大きなキバのような危険性をも併せ持つものもあるだろう、それをセイウチに例えた。それでも人に慣れ、人に忠実に動くことで協調していく、友達になることもできる。Wildは野生、Domesticatedとtamedとはどちらも「飼い慣らされた」と訳すことができる。野生のロボットから人間中心のインタフェースを持つことで人と協調できるロボットが生まれる、という研究だ。

ギャノン氏

私が取り組んでいるプロジェクトは、どのようにしてオートメーション・ツールを、より人間らしい動きに再設定できるかという研究です。私はロボットやマシンと、より良い方法でコミュニケーションをとる具体的な方法を研究しています。工場で働くためにデザインされた産業用ロボットは、人間よりパワフルで、人間より速く、人間より正確に動くことができますが、私たちのように世界が見えているわけではありません。今までは目を持たなかったのです。このプロジェクトはAutodeskという会社で行われましたが、この会社はモーションキャプチャの技術を持っています。しかし、モーションキャプチャのシステムは動くことができません。そのため、動くことはできるけれど見ることのできないロボットと、見ることはできるけど動けないモーションキャプチャのシステムを繋げると何が起こるかを確かめました。そして結果として、完全なるインタラクティングが実現しました。


今まで、ロボットのティーチングは長い時間をかけてプログラムをコーディングしたり、ジョイスティックで動きを学ばせていました。しかし、モーションキャプチャと連携したロボットはマーカーによって、私のことが見えるようになり、私の動きに反応できるようになったのです。人や物をマーキングし、その動きをトラッキングしたり、動きに合わせて動作することができるようになりました。パワフルなロボット、ある意味では危険性も併せ持ったマシンは、ビデオグラフィーやフォトグラフィーと連携してその機能を高めることができるということが示されたのです。



彼女はカメラシステムを連携したロボットと触れ、お互いに反応し合ううちに、自身がプログラマーだという感覚は次第に薄れ、動物の調教師のように感じてきたと語った。プログラマーとしてロボットと向き合っていた自分は「どうやったら安全に、忠実にロボットを使えるか」を考えてプログラミングしていたが、今ではオレンジ色の野獣が自分の動きに反応してついてきたり、感情的なものを多分に感じるようになったと続けた。


ロボットが人と境界線なしに協働できる世界へ

ギャノン氏

動画を観て気づくと思いますが、ロボットは人々から明確に隔離されています。ロボットは超人的なパワーやスピードを持つにもかかわらず、人とインタラクティブに協調する環境ではそれらを使うことはできず、明確に隔離されたスペースでのみそれが許されるのです。人と近いコンタクトできる距離にあっては、それらのパワーは封印しなければいけません。


ロボットは硬いスティールでできていて、人間はとてもソフトな肉体なのだから、それも当然のことです。絶対にぶつかってはいけません。
だからこそ、私の初期のロボティクス研究はそんなタブーにチャレンジすることでした。





博物館でインタラクティブなロボットを体験した観客たち

ギャノン氏

数年前、UKの「デザイン博物館」が「来場した人が将来のオートメーション技術について考える場を作るため」私を招待してくれました。私はとてもラッキーでした。私は工場のロボットを持ち出し、ロボットたちにUKでの休日を与えることにしました(笑)。まるで動物園の動物たちのようにロボットたちを6ヶ月間展示したときの動画を紹介します。


来場者はトラッキングマーカーを着ていません。ロボットは大勢の人間を認識し、ロボットとのインタラクションが可能になったのです。デプスカメラ(深度カメラ)によるカスタムセンシングテクニックに力を入れて取り組んだ成果です。大勢の来場者がいても、誰に注意を払うべきかを判別し、トラッキングできるようにしたのです。どのくらいの距離に人がいるのか、どのくらいの時間そこにいるのか、ただ立っているのか動いているのか、ロボットを見ているのか、ロボットに手を振ってくれているのかなどを判別します。



博物館で展示されたロボットたちと、来場者たちの様子は次の動画で観ることができる。ちょっとした驚きの体験が、動画を通して共有できるはずだ。

ギャノン氏

ロボットがそれぞれ個々の人を判別したり記憶することで、人によって異なる関係を築くことができるでしょう。例えば、あなたがもし彼女(ロボット)と長い時間を過ごせば、彼女との信頼を築くことができるかもしれません。もしかしたら彼女は周りの人をみんな無視して、あなただけに構って欲しくて動いたり、会いに来てくれるようにもなるかも(笑)。



ギャノン氏

来場した子ども達はロボットがモーション・ディテクトで動作していることをすぐに理解し、そして「天井に設置したカメラで私たちを見ているわ!」とすぐに気づき、すぐに動作によるロボットとのインタラクションを楽しみはじめました。これには私達も驚きました。


このプロジェクトで最も素晴らしいと感じたことは、工場やラボからロボットたちを連れ出したからこそ、6ヶ月という期間の中で10万人を超える人々がロボットを見て、反応しあえる体験ができたということです。ソーシャルメディアで率直な感想を投稿する観客の方もたくさんいらっしゃいました。フレンドリーだと感心したり、動きの緻密さに興味を持ってくれたり、こんな場所で使ったらどうかな、というアイディアもありました。その反面、ロボットは信用できないという意見もありました。どちらの意見も私達の今後の研究にとってとても役立つ情報であり、私達にとっても本当に有意義な機会となりました。



ギヤノン氏は”共感的インタフェースの展開”(how to deploy empathic interfaces)と表現する。人とロボットとの協調はプログラミングではなく、ボディランゲージとお互いの動きに反応し合う、人間を中心としたインタフェースによって実現していく。新しいロボットとの未来に向けたメッセージを感じたセッションだった。

(Featured Ayuka Alyson Kozaki)


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神崎 洋治
神崎 洋治

神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。

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