
アクセンチュアは年次の市場調査レポート「テクノロジービジョン2025」を公開し、2025年6月4日に、都内で報道関係者向けに説明会を開催した。
プログラミング業務の4分の1以上がこの2年で消滅
アクセンチュアの山根氏は最大のトレンドとして「AIエージェント」をあげ、「今日は主にAIエージェントにフォーカスしてお話しします」と切り出した。そして、衝撃的な数字のひとつとして「コンピュータプログラミングの仕事の4分の1以上がこの2年で消滅」(ワシントンポスト)し、「コンピュータプログラマの雇⽤はドットコムブームの半分ほどに減少している」(フォーチュン)というニュースを引用し、プログラミング分野でのAIの影響力を紹介した。これらのニュースは一般的にはAIによる人の仕事の侵食として捉えられ、AI事業者は主に効率化を賞賛する数字として捉えている。
なお、アクセンチュア自身、グローバルで約74万3千人の社員がいて、日本の社員は約2万3千人、多くのプログラマも従事している。
「予測」業務をAIエージェントに任せられるかが鍵
山根氏は「本題に入る前に、AIエージェントが登場する前と後でコンピュータの役割はどう変わったか」を説明した。それまでのコンピュータの得意分野・役割は「記憶」と「計算」であり、人の得意分野・役割は「予測」と「意思決定」だった。
この状況が変革する時期にきていて、今後はAIエージェントの台頭によってコンピュータの役割に「予測」が追加され、「AIエージェントによる予測の精度はやがて人間をはるかに凌駕するものになる可能性がある」としつつ、その予測をAIエージェントに任せることができるかどうかが壁のひとつにもなる」と続け、「信頼」の重要性を指摘した。
AIエージェントを理解し、信頼するための4つのトレンド
AIエージェントを理解し、信頼するための4つのトレンドとして「バイナリ‧ビッグバン」「未来の顔」「⼤規模⾔語モデル(LLM)が⾝体を持つ時」「新たな学習サイクル」をあげた。
バイナリ‧ビッグバン
AIが急激に拡⼤し、システムの様相は⼀変する。
未来の顔
似通ったインターフェースの中で、違いを⽣み出す。
⼤規模⾔語モデルが⾝体を持つ時
基盤モデルはどのようにロボットを再定義するか。
新たな学習サイクル
⼈とAIが互いに学び、リーダーシップを発揮し、創造する好循環をどう作るか。
複数の「AIエージェント」を切換えたり連携させるフェーズに
アクセンチュアは既に「AIエージェント」をすべての社員に割り当て、成果が出はじめていることを公言している。(関連記事「アクセンチュアが生成AIを軸にした新執行体制を発表 「既にほぼ全社員がAIエージェントを活用、成果を出し始めている」」
社会においてはChatGPTのような大規模言語モデル(LLM)を使ったAIチャットボットが台頭し、⽣成AIを使って⼈間の作業を⽀援するアプリやサービスが次々と発表されている。なかでもアクセンチュアは特定のタスクを⾃律的にこなす「AIエージェント」が転換期の鍵になると捉えている。そして、「AIエージェント」の先にはAIエージェント同士が対話しながら人の業務を支援していく「マルチエージェント」の時代を見据えている(自分の知見の分身であるAIエージェント同士が本人に代わって意見交換したり、打合せ、討論する)。
マルチエージェントへの進化を予想する理由としてMicrosoftやGoogleなど、大手各社がAIエージェントの構築サービスを次々に発表していることを紹介した。
どの生成AIを選ぶべきか
では、どの生成AIを選ぶべきか。
ChatGPT(GPT-4)、LaMDA2(Gemini)、LLaMa2、DeepSeekなど、多くのエージェントが登場しているが、それぞれに特徴があり、その性能は日進月歩で進化している。そのため、同社内でも「AIエージェントの支えるAIチャットボットや大規模言語モデルをひとつに絞るのではなく、状況やその時点の性能、適する分野、業界固有の課題への対応などを鑑みて、AIエージェントを支える技術を柔軟に切り換えていくことが重要」だと捉えている。
そんな背景から、AWS、Google、Microsoft、SAP、Oracle、Salesforceなど、同社にとってパートナー企業が提供しているAIエージェントをセキュアかつ円滑に連携するためのシステムへのニーズが社内で高まったという。そして、その商用版として異なるAIエージェントを連携できる「Trusted Agent Huddle」を、アクセンチュアのAIソリューション群「AI Refinery」に装備した。
生成AIがコーディング業務の一部を代替
アクセンチュアはコンサルティング業務だけでなく、システム開発を請け負う業務も大規模に展開している。つまり、たくさんのエンジニアが同社で作業しているが、既にプログラミングのコーディング業務を生成AIによって代替する部分が年々増えていて、「産業構造の変化が顕在化」していることを示した。
山根氏は「Googleで新たに導⼊されるコードの25%以上をAIが⽣成」していて(出典:フォーブス)、「プログラマの62%がAIを⽇常的に活⽤していること」(出典:スタックオーバーフロー)などを紹介した。
この変化は言い換えれば、「コンピュータプログラミングの仕事の4分の1以上がこの2年で消滅」し、「コンピュータプログラマの雇⽤はドットコムブームの半分ほどに減少」としているという。
山根氏は「プログラミング作業のコーディングの一部を生成AIで代替しているプログラマは、もう生成AIのない時代には戻れないと言っているし、ソフトウェア開発向けのAIエージェントがこの状況をさらに加速させる」とした。
プログラミングを自動化する自律型のAIエージェント「Devin」
その事例として、「完全⾃律型AIソフトウェアエンジニア“Devin”を⼀般公開」(Cognition)したニュースと「AIエージェントがGitHubのIssueを⾃律的に解決」(Microsoft – GitHub Copilot Coding Agent)に触れた。Devinは、プログラミングを自動化する自律型のAIエージェント。要件定義、コーディング、テストとデバッグ、デプロイなど、ソフトウェア開発のすべての工程が自動化できる、と注目されている。
また、ソフトウェア開発のパラダイムシフトとして「バイブ‧コーディング」、OpenAIがコードの⽣成‧実⾏の⾃動化に特化したAIエージェント「Codex」を発表したことにも触れた。「Codex」は自然言語からコードを生成し、テストの実行、バグの発見と修正、プルリクエストの提案とレビュー支援など、プログラミング業務の効率化に大きく貢献するツールとして注目されている。
また、大規模言語モデルなどのAIモデルと外部のデータソースやツールの接続を標準化するオープンプロトコルとしてAnthropicが開発した「Model Context Protocol(MCP)」を紹介した。
また、「MCPによってAIのスキルが拡張」することに触れ、エンジニアに限らず、AIエージェントが業務に必要な情報を横断的に学習し、最新情報を展開して行く上で「MCP」の重要性を確認した。
これらの流れから、AIエージェントの台頭によって、情報の検索や共有、活用、予測等に留まらず、単純なプログラムやアプリ開発がエンジニア以外の人も可能になると、ノーコードでワンタイム・プログラムを短時間に作って活用する時代、バイナリーデータが氾濫する「バイナリ・ビッグバン」が起こる、と語った。
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神崎 洋治
神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。