自動車の大変革、MaaSがもたらす4つの新しい世界観「MaaSを日本に実装するための研究会」開催 SBドライブやMONETなど講演

一般社団法人ブロードバンド推進協議会は第3回「MaaSを日本に実装するための研究会」を9月6日に都内で開催した。
「MaaSを日本に実装するための研究会」は、交通関係者や、アプリやシステム開発関係の事業者、有識者、自治体などが一堂に集って、MaaSを取り巻くさまざまな課題について意見交換を行う場。国内のMaaS実装を推進するために、検討した事項は報告書として取りまとめて関係省庁へ提出したり、実装に向けて事業者間の連携を実現することを旨としている。本年3月に発足し、5月14日に第1回研究会を、7月9日に第2回研究会を開催し、今回が第3回めとなる。


なお、BBAブロードバンド推進協議会は、ソフトバンク株式会社 取締役会長の孫正義氏が名誉会長をつとめ、ソフトバンク株式会社 代表取締役 社長執行役員 兼 CEOの宮内謙氏が代表理事。その関係もあり、MaaSに対して精力的に事業を展開するソフトバンクグループを中心に、技術、法整備、実装のための課題などについて話し合う場となっている。
今回の勉強会も、SBドライブ、OpenStreet、ヤフー、MONET Technologiesと、ソフトバンク関連企業が講演を行なった。

各企業については、SBドライブは主に自動運転バス関連サービス、OpenStreetはバイクシェア関連、ヤフーはデータ解析やコンテンツ提供、MONET Technologiesはモビリティサービス/プラットフォームを提供する事業者。


SBドライブの自動運転パス 試乗人数は累計10,790人

SBドライブは社長兼CEOの佐治氏が登壇し、SBドライブが取り組む自動運バスの必要性や意義、実証実験などから得られた知見などが語られた。

SBドライブ株式会社 代表取締役社長 兼 CEO 佐治 友基 氏 (写真提供:ブロードバンド推進協議会)


85%が赤字

その内容はバス運行会社の厳しい現実を紹介することから始まった。国土交通省の発表によれば、平成29年度の乗り合いバス事業では、地域バス全体の165社中、141社が赤字で、およそ85%にのぼる。とはいえ、乗り合いバスはラストワンマイルの移動手段としては重要で、年間42億人が利用しているという(国土交通省 平成26年度の統計データ)。
保有台数でみれば、乗合バスと貸切バス、タクシーの合計は35万台で、そのうち乗合バスは17%に過ぎないにも関わらず、輸送人員数は42億人は69%にあたる。消費者に必要とされ、台数ベースでは利用者が多い庶民の重要な足であるバス運行が赤字に苦しんでいる。この赤字を減らしたり、赤字から脱却するための自動化のひとつとして自動運転バスが期待されている。

SBドライブはすでに日本全国で、自治体や企業と連携して累計30回以上の実証実験やデモ走行を実施してきた。その走行距離は累計で27,364kmを超える。試乗人数は累計10,790人を突破し、消費者に近いところで実績を積んでいる点も特徴的だ。

自動運転というと道路走行における安全運転に注目されがちだが、バスの場合は車内の安全という重要なファクターが追加される。SBドライブは車内外の安全を遠隔から監視する「Dispatcher」(ディスパッチャー)を開発し実証実験を重ねている。車内に異常があったり、走行中に立ち歩いている人がいればAIが検知して注意を促す。また、遠隔監視しているオペレータと車内で通話することもできる。いわば、乗客にとってみれば車掌が遠隔にいる感じで安心感にもつながる。


実現へのステップ

佐治氏は自動運転バス実現のためにはやはり「簡単なところから、早く安全に」導入していきたいと語る。一番早く実現できそうなのは「シャトル型 自動運転」で出発地と目的地をピストン輸送する方式。ショッピングモールやキャンパス、テーマパーク内など敷地内での運行であれば早期実現の可能性は非常に高い。実際に羽田空港内では全日本空輸(ANA)と連携して自動運転バスの実証実験が繰り返されている。こういった実績を積み重ねていけば、やがては巡回バスへ、さらにはオンデマンドバスへと「次第にドアtoドアに近づく」とする。


ビジネスモデルの再構築が必要

一方で佐治氏は大きな現実的な課題も感じていることを自由討議で吐露している。海外を含めて、バス運行は赤字が当たり前になっていること、そして運賃収入に頼っているビジネスモデルを前提にすると、自動運転バスを導入したとしても、赤字から脱却して安定した運営を継続していくのは困難だという点だ。観光やイベント等とタイアップして、安定的なビジネスモデルを構築することを模索する必要があるようだ。また「バスは時間通りに来るのか」「今はどこを走っているのか」など、ICTと連携して利便性を上げ、バス移動の価値そのものを向上することも必要だと語った。




MONETのMaaSプラットフォームコンセプト

MONET Technologiesは、ソフトバンクとトヨタ自動車が戦略的提携に合意、2018年10月に設立を発表した新会社だ。現在ではトヨタだけでなく、日野自動車、ホンダ、いすず、ススギ、ダイハツ、スバル、マツダらが名を連ねる日本連合となっている。自動車メーカーがこれだけ連携するということは、自動車業界が大きく変革する近い未来をメーカー各社自身も認識し、次の一手を模索していることにほかならない。


自治体との連携 急伸中

MONETは、MaaSを推進するプラットフォームコンセプトを掲げ、300以上の自治体と連携を協議中だ。3月末時点では88社だったが、半年足らずで大きく拡大し、すでに22の自治体と連携を開始した。
具体的にはプラットフォームサービスの提供だが、目に見える交通の形としては、コンビニやフードデリバリー、病院や高齢者施設の送迎シャトル、トイレ、オフィス、喫煙所、フードデリバリーなどが移動体となって、モビリティと結びついたサービスがはじまっていく。

MONET Technologies株式会社 企画渉外部 部長 宮岡冴子氏 (写真提供:ブロードバンド推進協議会)


MaaSがもたらす4つの新しい世界観

宮岡氏はMaaSがもたらす新しい世界観として、オンデマンドバス、不動産から可動産へ、車内空間の多様化、車両のマルチタスク化を掲げた。

オンデマンドバスは利用者の要求に対応して運行する形態で、乗合バスとタクシーの中間に位置づけられる。ひと言で言えば好きなところで乗って好きなところで降りられる乗合バスのようなイメージ。運賃の料金設定が重要になるが、規制によって自由度に制限があり、限定的なことが課題だという。

不動産から可動産へというのは、顧客がお店に行って買い物をする形態から、今後はモビリティと連携してお店のほうから顧客の近くにやってきてくれるサービスが登場することから発展。MssSプラットフォームと連携することでスマホで呼べるようになる可能性がある。しかし、場所が可動のため、複数の県や地域、自治体をまたいだり横断することになる。この点においても食品販売業営業許可や医薬品店舗販売業許可、酒類販売業免許など、現状では規制や法令が壁となり、実現には変更が必須となる。

車内空間の多様化では、モビリティとして使用する車両の内装や架装の自由度を向上する必要性を語った。モビリティをオフィスにしたり、コンビニ、バー等として活用するには多角的な改造が必要だが、たくさんの安全上の規制や制約、法令があって、今後は検討が必要だ。

車両のマルチタスク化とは、多用途モビリティの開発と利用を意味する。現在はタクシーは人を乗せるもの、トラックは貨物、ケータリングは飲食サービスと、モビリティの用途や仕様等が限定され、それに合わせた法令が用意されている。MONETが考えるモビリティサービスは多用途だ。例えば、車両自体は共通のもので、通勤時には人を乗せて運行し、そのあとは福祉施設のシャトル送迎、昼時にはフードデリバリー、夕方からは配送業務といったマルチタスクをこなすことによる効率的な運用を目指す。ここでもまた、現行の法令や制度、運行の枠組みなどの検討が必要だ。

MaaSへの取り組みはまだ始まったばかり。技術面や地域との連携面だげなく、さらには法令や制度の変更の働きかけなどが重要となる。
百年に一度と言われる自動車や交通網の大変革。MaaSの実態すら明確に見えていないこともあり、しばらくは具体的な検討を重ねていく必要がありそうです。注目していきたい。


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神崎 洋治

神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。

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