第4回「MaaSを日本に実装するための研究会」MaaS普及に必要なもの、日本における課題、シナジック・エクスチェンジ構想

「MaaSを日本に実装するための研究会」の第4回が2019年11月19日に六本木で開催され、名古屋大学 未来社会創造機構 モビリティ社会研究所、東日本旅客鉄道(JR東日本)、みちのりホールディングス、東京都が登壇した。
「MaaSを日本に実装するための研究会」の主催は一般社団法人ブロードバンド推進協議会(略称:BBA)で、代表理事はソフトバンクの代表取締役社長執行役員兼CEOの宮内謙氏。日本におけるMaaS(Mobility as a Service)の実装を推進するため、2019年3月に立ち上げられ、研究会では毎回主に、講演とフリーディスカッションが行われている。(※冒頭の写真は同研究会のイメージ BBA提供)


MaaS普及にはオープンプラットフォームが必要

今回、特に印象に残ったのは名古屋大学 未来社会創造機構 モビリティ社会研究所 教授の河口信夫氏の講演。
河口教授は「日本にはMaaSの導入に関わる多数の課題が存在している」と述べ、MaaS普及のためには「データやAPIを解放してオープンイノベーションを可能にするプラットフォームの存在が重要」とした。そしてその上で需給交換によるスマート社会の構築を目指す「シナジック・エクスチェンジ構想」を提案した。

河口教授は、日本におけるMaaS実装の課題として、公共交通の固定的な運賃制度、貨客混載の実情、法規制によって、電動キックボードなど新しい移動手段の導入がある意味で阻害されている一面などを紹介した。

MaaSを実装するために最も重要なことは「プラットフォーム」の存在、新しい「アーキテクチュア(構造)」だという河口教授の意見には賛成だ。大手鉄道会社が単独で作るエコシステムでは、プラットフォームの乱立を招き、結果として力を合わせて進化に取り組むことはできない。
河口教授は「交通手段やそれに付随するサービス等の情報は共有されるべきだが、一方で特定の企業や交通会社がデータやプラットフォームのシステムを寡占・独占する形では市場がうまくいかない」と主張する。また、公共交通においては、自治体の役割が大きいため「自治体がプラットフォームを持ったり先導していくべきではないか」と提案する。そのうえで、河口教授は「Synergic Mobility(シナジック・モビリティ)の創出」を提案した。

日本の社会課題としては、少子高齢化が労働力不足に繋がり、過疎化が交通弱者の壮大を招く。さらには社会インフラの老朽化から点検コストの増大も深刻だ。これらを踏まえると「シェアリング・エコノミー」の発想では間に合わない、「シナジーによる超効率化」が必要だと続けた。自動運転社会になると移動するのは人だけでなく、モノ、サービス、データなど、様々なものの移動をモビリティが担っていく、と。
例えば、未来のコネクテッドカーは人を乗せて走りつつ、車内で遠隔診療を受けながら移動したり、同時に配送の荷物も運び、道路をセンシングしてモニタリング、天候や渋滞情報を発信することで数倍の効率的な運用を目指そうというわけだ。

プラットフォームの寡占・独占からはイノベーションが生まれないとする一方で、多数のサービサー(サービス提供者)が乱立した場合、ユーザー視点で見ると、本来のサービス連携が実現できてこない。
例えば、タクシーの配車アプリは既に多数が乱立していて、ひとりのユーザーが複数のタクシー配車アプリを使う状態になりつつある一方で、目の前にいるタクシーに乗ることができないという弊害もある、とした。情報やデータは集約して公共財的に適切に利用され、どのルートでどんな交通機関を利用していくのかは様々なアプリ(プロバイダ)が自分たちの強みを活かした機能とサービス内容で提供することで、ユーザーが抱える交通や移動に関わるさまざまな問題を解決するソリューションを目指すべきとした。


超スマート社会に向けて

河口教授は「移動やモビリティは目的ではなく手段。病院に移動する人は病院に行きたいからではなくて医師に診察してもらいたいから移動する。その意味では医師の方が移動してくることも手段のひとつ。何か食べたいと思ったら、レストランに行くだけでなく、食事をデリバリーしてくれたり、コックさんが来てくれるなど、いろいろな手段やサービスがあっていい。人やモノを移動するモビリティサービスだけでなく、サービスが移動するモビリティによるサービス、モビリティを使うサービス、移動した先でのサービスなど、それらすべてがモビリティに関するビジネスが拡大させることができる」と語った。

「MaaSを日本に実装するための研究会」の次回、第5回は2020年2月7日にベルサール六本木で開催される。

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神崎 洋治

神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。

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