量子技術を勤務シフト作成業務に試験導入、作業時間が5割超も短縮、偏りのないシフト作成にも効果 KDDIと日立らが業務実証に成功

以前から言われている、勤務シフト計算に「量子技術」が圧倒的な効果を発揮する、ということが鮮明になってきた。

株式会社日立製作所、KDDI株式会社、株式会社KDDIエボルバは、2022年6月に量子コンピューティング関連技術を活用して、auのメッセージサポート業務を担うコンタクトセンターのスタッフ勤務シフトを自動作成し、2022年7月に実勤務へ適用するたの実証を行った。
その結果、管理者がシフト作成にかける時間を5割超も短縮できることを確認した。また、実際の勤務への適用後に実施した調査では、9割以上のスタッフが勤務シフトの自動作成に肯定的な回答となった。3社は2023年度以降の実用化を目指す。
2022年8月26日に3社が連名で発表した。

今回使用した「量子コンピューティング関連技術」とは、組合せ最適化問題をQUBO(Quadratic Unconstrained Binary Optimization:二値の二次式で表される最適化問題)で表現し、量子コンピューターを含むイジングマシン(組合せ最適化問題を解くための技術)を用いて計算するもの。


勤務シフトの作成は複雑で時間がかかる業務

勤務シフトの作成は、スタッフの契約条件、勤務希望・スキル要件などの勤務条件、時間帯ごとの必要人員数の調整など、複雑な条件を満たす必要があり多くの時間を要する作業で、いわゆる複雑な「組み合わせ最適化問題」の典型例だ。

コンタクトセンターを中心とするビジネス・プロセス・アウトソーシング事業を展開するKDDIエボルバでは、従来、勤務シフトを作成する専門の管理者が勤務希望やスキル平準化などの20個以上の勤務条件をもとに、人手で勤務シフトを作成した。日ごと・時間帯ごと・スキルごとに必要なスタッフ数を満たすなどの考慮が必要なため、約100名のスタッフの勤務シフト作成に熟練した管理者でも11時間以上を要していた。

また、一般的な勤務シフト作成ツールは、必要人員数の調整は可能なものの、勤務条件を十分に満たすことができず人手による修正が発生し、かえって全体工数が増えてしまうこともあるという課題を抱えていた。
このツールを用いて100名規模のシフトを作成する場合、修正作業やスタッフとの調整を含めて20時間を要していた。さらに、特定スタッフの勤務時間帯に偏りが出るシフトが生成され、不公平感からスタッフの理解が得られないといった課題もあった。
こうした背景を鑑みて、この課題を解決し、業務の効率化を図るため、3社で量子技術を取り入れたシフト作成の実証に取り組んだ。


量子関連技術は「組み合わせ最適化問題」の解の算出に最適

KDDIは、株式会社KDDI総合研究所の協力のもと、量子コンピューティング関連技術を用いて勤務シフトを作成するための計算手法を研究している。また、日立は量子コンピューティングを模した日立独自の計算技術「CMOSアニーリング」を使用した「勤務シフト最適化ソリューション」を提供し、「金融」や「保険」業界の組み合わせ問題の最適解の算出に成果を出し始めている。
KDDI、日立両社の量子コンピューティング関連技術に関する知見を共有し、実勤務に適用可能なレベルを確保するため実証内容について議論・協創してきたという。


この実証ではKDDIエボルバの北海道地区事業所約100名のスタッフの1カ月分の勤務シフトを作成。勤務条件に関するデータの準備やスタッフとの最終調整も含めて、約5時間で作成を完了することができた。また、この実証では量子コンピューティング関連技術によってシフト作成にかかる工数削減だけではなく、特定スタッフに偏りの出ない勤務シフト作成が可能になることも確認できた。

日立、KDDI、KDDIエボルバは、シフト作成業務の負荷軽減とスタッフの業務効率改善に向け、量子コンピューティング関連技術を使った勤務シフト作成の実導入を目指す、としている。

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ロボスタ編集部

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