日本企業が結集して量子コンピュータ技術の「産業実装」を急ぐ「量子技術による新産業創出協議会」活動開始 略称は「Q-STAR」

2021年5月31日に発足した「量子技術による新産業創出協議会」設立発起人会は9月1日、設立会員24社による総会の承認を得て正式に設立、略称を「Q-STAR」(キュースター)とすることを発表した。発起人会社は11社、設立会員は24社で、これから参加企業を募集し、早期に100社以上を目指す考えだ。


「Q-STAR」の特徴は、量子技術の研究開発を加速し、産業の創造と社会実装を具体的に検討していく点。本日、設立記念シンポジウムも開催し、キーノートと4つの部会からの概要説明とスケジュールの発表がおこなわれた。

「量子技術による新産業創出協議会」設立記念シンポジウムを開催。冒頭では実行委員会委員長として東芝の島田太郎氏が登壇して協議会の趣旨を説明した

「Q-STAR」のスコープ。量子技術はハードウェアとしての量子コンピュータだけでなく、量子暗号、量子通信、量子バイオ、量子マテリアル、量子AIなどの要素がある。「Q-STAR」として重要なのは「量子技術の社会実装であり、ビジネスを創造していくこと」(島田氏)と強調

島田氏はリファレンスアーキテクシュアとして「QRAMI」(キューラミ)を提唱し、現時点でのベースモデルを明示して「QRAMIは量子技術を産業に実装するためには何をすべきかを整理するための3次元型モデル。量子の世界に合うようにモディファイした」と説明した。


量子技術は、現在のコンピュータと比較して膨大なデータ量をはるかに高速に演算処理することができる可能性を持つものの、具体的に実現できる目処は”これから”明確になっていくまさに「次世代」の技術。何ができて、どのように活用していけるのかも、”これから”明らかになっていくと予想される。
設立記念シンポジウムでは、金融業界での活用が早期に実現するのではないかとの意見も見られたが、これはおそらく、量子技術を現在のコンピュータに応用する「アニーリング技術」(イジングマシン技術)が既に実証実験レベルでは開始されていることに起因しているだろう。この技術は先陣を切って各国が争っている量子分野であり、日本でも富士通、日立、東芝などが開発をおこなっている。


「Q-STAR」の主な活動内容

量子時代の到来の足音が聞こえてきた。日本は材料、デバイス、計測技術、コンピュータ、通信、シミュレーションなど、量子の要素技術において技術の優位性を生かし、サービスの提供等を通して新産業を創出することを目指す。グローバルで確固たる「量子技術イノベーション立国」を目指し、Q-STARはグローバルでリーダーシップを発揮し、新時代における科学技術の発展に資する活動を推進、「量子技術イノベーション立国」の実現に貢献する。その上で日本の産業の振興と国際競争力の強化を図る。


主な活動内容

1) 量子技術の動向に関する調査・研究
量子技術の全般の動向の調査、産業界トップ層の間で情報共有
2) 量子技術の産業活用に関する調査・研究・提案
複数分野についての応用可能性を調査・研究
3) 量子関連技術に関する調査・検討
量子技術に必要となる材料、デバイス等についての調査・検討、情報共有
4) 量子関連人材に関する調査・企画・提案
量子技術に関連する人材の育成に関する調査・企画・提案、意見交換
5) 制度・ルールについての調査・検討
量子技術の実装に際し必要となる知財・標準化、倫理、トラスト等の調査・検討
6) 国内外の量子関連団体等との連携
本協議会の各種事業推進に必要となる国内外の量子関連団体との連携
7) その他
普及広報、政策提言など


会員を募集

Q-STARは参画する企業を募集していく。ベンチャー企業などは廉価に参加できるプランも用意している。


会費は年会費、特別会員は200万円、法人会員150万円、賛助会員が50万円、ベンチャー企業は10万円が目安となっている。
幅広い産業から設立趣旨や取り組みに賛同頂ける会員を募り、産学官で連携して、量子技術に関わる基本原理、基本法則を改めて整理し、その応用可能性、必要となる産業構造、制度・ルールについての調査・提言等、新技術の応用と関連技術基盤の確立に向けた取り組みを推進する。また、国内外の量子関連の団体との連携を積極的に推進し、グローバルで通用する基盤の構築を目指す考えだ。

Q-STARの概要
名称:量子技術による新産業創出協議会 略称「Q-STAR」
(Quantum STrategic industry Alliance for Revolution)
設立:2021年9月1日
形態:任意団体
運営委員会: (会社名の五十音順、敬称略)
株式会社東芝 代表執行役社長CEO 綱川 智 (委員長)
トヨタ自動車株式会社 代表取締役会長 内山田 竹志
日本電気株式会社 取締役会長 遠藤 信博 (副委員長)
日本電信電話株式会社 取締役会長 篠原 弘道 (副委員長)
株式会社日立製作所 取締役代表執行役 執行役会長兼CEO 東原 敏昭 (副委員長)
富士通株式会社 代表取締役社長CEO兼CDXO 時田 隆仁 (副委員長)
三菱ケミカル株式会社 代表取締役社長 和賀 昌之 (副委員長)




4つの部会を設置

情報通信技術(量子コンピューティング、量子暗号通信等)、関連基盤技術(材料、デバイス等)、重要応用領域(量子マテリアル、量子生命・医薬、量子バイオ、量子センサ、量子AI等)、人材、制度・ルール等に関しての検討課題の洗い出しを行い、必要に応じて部会を設置する。本日、発表された部会は下記の4つ。




量子波動・量子確率論応用部会
量子振幅推定や最適化を用いた新しい産業の創出を検討する。これらの技術と親和性の高い金融業界をはじめ、様々な業界の柱となる産業や複数業界に跨る産業の創出を目指す。




量子重ね合わせ応用部会
量子コンピュータの最大の特徴である量子重ね合わせの応用により創出されるシステムやサービス、ビジネスと、それによる既存産業や業界構造の変化を広い視野で検討する。ユーザとベンダが協力して新たな社会像を描くことで、業界の次の柱になるような新産業や、複数業界に跨った新産業の創出を目指す。




最適化・組合せ問題に関する部会
量子技術の中でも最も早期に社会実装が進みそうな分野「イジングマシン」や「アニーリング」を議論、「最適化問題」に特化した部会。量子現象に着想を得たイジングマシンなどの新コンピューティング技術を用いて、膨大な組合せの中から最適解を瞬時に算出し、リアルタイム予測、効率化、最適化などの問題を解くことで、産業分野の様々な課題解決を目指す。




量子暗号・量子通信部会
現在既に利用可能な技術である「量子暗号通信」のビジネス応用を検討し、理論的な安全性が保障された通信が切り拓く未来創出を目指す。ユースケースの例として、銀行や金融業界が通信する重要なデータを量子暗号を使うことで、専用線を使わずに通信できるようにする可能性に触れた。



設立会員:24社 (五十音順)


伊藤忠テクノソリューションズ株式会社
SBSホールディングス株式会社
キヤノン株式会社
JSR株式会社
住友商事株式会社
SOMPOホールディングス株式会社
第一生命保険株式会社
大日本印刷株式会社
大和証券グループ本社
株式会社長大
東京海上ホールディングス株式会社
株式会社東芝
凸版印刷株式会社
トヨタ自動車株式会社
日本電気株式会社
日本電信電話株式会社
株式会社日立製作所
富士通株式会社
株式会社みずほフィナンシャルグループ
三井住友海上火災保険株式会社
株式会社三井住友フィナンシャルグループ
三井物産株式会社
三菱ケミカル株式会社
三菱電機株式会社

ABOUT THE AUTHOR / 

神崎 洋治

神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。

PR

連載・コラム