「起業すると風景が変わる」 ロボティクススタートアップ会議2023が開催

「第41回日本ロボット学会学術講演会」オープンフォーラムの一環として、2023年9月11日、早稲田大学次世代ロボット研究機構と東京ロボティクス株式会社がシンポジウム「ロボティクススタートアップ会議2023」を開催した。今回参加したのは RENATUS ROBOTICS、ugo、建ロボテックの3社。

早稲田大学次世代ロボット研究機構招聘研究員、東京ロボティクス株式会社 代表取締役CEO 坂本義弘氏

はじめに司会・モデレータである早稲田大学次世代ロボット研究機構招聘研究員で、東京ロボティクス株式会社 代表取締役CEOの坂本義弘氏が主旨を解説した。「ロボティクススタートアップ会議」は今回で4回目。これまでも坂本氏が人選を行なっており、坂本氏の目から見て、ユニークかつ将来有望でエッジの効いた企業、経営者を呼んで話を聞いている。

「ロボティクススタートアップ会議」のこれまでの登壇企業

会の目的は、困難が多く成長が難しいと言われるロボティクス・スタートアップをどう成長させるかヒントを得ること。そしてスタートアップの魅力/立ち上げプロセスを知って起業イメージを具体化してもらうこと。


■新たな自動倉庫開発を目指す RENATUS ROBOTICS

自動倉庫開発を目指すRENATUS ROBOTICS

まず、RENATUS ROBOTICS株式会社 最高技術責任者CTOの服部秀男氏が講演した。「RENATUS」は「レナトス」と読む。ラテン語で「再生する」という意味で、自動倉庫を開発しており、米国に拠点を置いている。TRUST SMITH株式会社の関連会社で、代表取締役はどちらも大澤琢真氏。服部氏の前職は株式会社スマートロボティクスの創業取締役CTOとして7年間開発を行っていた。

RENATUS ROBOTICS株式会社 最高技術責任者CTO 服部秀男氏

TRUST SMITHが各種リリースを出しているなかで、自動倉庫に関する相談を顧客から受けるようになり、RENATUS ROBOTICS創業に至ったという。

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レナトスの自動倉庫は「シャトル」と呼ばれる移動ロボットが棚を縦横に走行して物品を動かして入出荷を助ける。既存の床上を走行するAGVを使うロボット倉庫に比べると、ロボットが全部の棚にアクセスしてピッキングステーションまで箱を持ってくることができることから効率よく動けるという。

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EC市場の需要はまだまだ拡大している。レナトスは特に欧州市場の自動倉庫の拡大を狙っている。またROI(投資利益率)を出せることを重視しているという。

能力・コストの比較

機体のほかにもアルゴリズムを強みとしており、経路生成の最適化や大規模ロケーション管理にも力を入れている。

アルゴリズムがRENATUS ROBOTICSの強みとのこと

自動倉庫は競合が多い市場だが、課題も多く、納期が長いといったこともあるので、そこをうまく埋め、前後の工程も含めて管理することでROIを出そうとしているという。

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3PL (サードパーティーロジスティクス)のイー・ロジットとも協業し、100万米ドルの資金調達を実施している。来年に実機を使ったものを見られるようにしていきたいとのこと(2023年8月のリリース https://www.e-logit.com/pub/20230803a.html)。

2024年8月ごろに稼働開始を目指す1号倉庫

このほか、デバンニングやピッキングの自動化にも取り組んでいる。

完全自動倉庫実現を目指した各種開発も進める

投資回収期間は3年〜5年を想定している。アクチュエーターやアルゴリズムの進化は早いが大手はなかなかキャッチアップできていない。それに対してRENATUS ROBOTICSは両者の進化を睨みながら最初から開発を行っていることから大手に対して強みがあるという。組み立てやすさなども重視しているとのこと。

RENATUS ROBOTICSの開発拠点の様子


■社会インフラの「インフラ」となるロボット開発を目指すugo

社会インフラの「インフラ」となるロボット開発を目指すugo

2番目にugo株式会社 代表取締役CEOの松井健氏が講演した。ugoは等身大のモバイルマニピュレータを使って、主に点検・警備市場を開拓している企業。松井氏はスマホアプリや業務システム開発を経て、IoTデバイス受託開発を行う会社を立ち上げたあと、RaaSモデルのugoを立ち上げている。

ugo株式会社 代表取締役CEO 松井健氏

ugoは「人とロボットで協業する」ビジネスモデルを掲げている。今後の日本ではデバイスやAIの技術進歩、データの集約が進む一方、社会インフラを支える人手が不足する。ここをロボットを使って少人数で支える仕組みの構築を目指す。

人手不足が進む日本社会の構造変化

日本社会は自動化、無人化、遠隔化が進みつつある。だが無人化できないプロセスは残る。それを遠隔化でカバーする動きが進んでいる。従来は店員が行っていた仕事を顧客にしてもらうことも増えている。そのような業務を自動化するためのロボットとプラットフォームをugoでは開発している。

5種類のロボットを提供中

現在、開発しているロボットは5機種。腕があるタイプはエレベーターのボタンも押せる。腕がないタイプは安価に導入できる。

ロボット導入における課題とugoによる解決

ただ、ロボットだけあってもインテグレーション費用が高い、設定を現場が変えられない、改善サイクルを回しにくいという課題があった。ugoではその課題に対して、すぐに設備と連携でき、ノーコードで自動化できるしくみ「Flow」を作り、データに基づく継続的な改善が回せるようにしている。

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現在、ugoのロボットは警備や点検、介護施設などで使われている。警備では夜間巡回や、日中の立哨業務を行っている。警備員は遠隔の警備室から警備を行う。日報も自動化している。

ugoの警備ソリューション

点検でもセンサーや高解像度カメラを使った自動記録によりデジタルで帳票を作ることができる。またロボットだけではカバーできない部分はIoTセンサーやドローンとの連携も進めている。

ugoの自動巡回/点検ソリューション

介護については現在はまだ実証実験段階。ケアサポーターとして傾聴などを手伝っている。

介護は実証実験中

ugoでは社会実装ファーストでビジネスを進めている。ロボット自体も自社で生産を進めており、スピーディに開発・改善を進めている。現実的な価格感と商品設計がサービスロボット普及には重要だという。

社会実装ファーストを重視

まずは簡単で安く使えて試せるものを使ってもらい、それに合わせてサービスを進化させていくというアプローチをとっている。いま一番顧客に刺さっている分野は、人手不足で困っている警備、点検、設備メンテナンスだという。

なお、ugoは大学や学術向けの研究にも使ってもらいたいと考えているとのこと。

ロボット組み立ても自社で


■「世界一ひとにやさしい現場を創る」建ロボテック

建ロボテック株式会社 代表取締役社長兼CEO 眞部達也氏

3番目に、建ロボテック株式会社 代表取締役社長兼CEOの眞部達也氏が講演した。建ロボテックは香川県に拠点を置き、鉄筋結束ロボットや搬送ロボットを開発している。眞部氏自身もかつて鉄筋職人で、現場ニーズを実感として把握しているキャリアの持ち主だ。ロボット開発はあくまで建設現場向けに「現場省力化ソリューション」として行っている。建築技術は世界共通だが、同社は積極的に海外展開を行っている点も特徴の一つとなっている。

眞部氏自身がもともと職人で建設現場のニーズを理解・把握している

どの現場も同じだが、建設現場も高齢化によって人手が不足している。特に建設は労働集約型産業であり、他の産業に比べても大きな需給ギャップがある。現場で働く日本人の若者は既に4%未満となっているという。

現場の30歳未満の若者はわずか4%

同社ではまず第一段として鉄筋結束ロボットを開発した。コンクリートのなかに入っている鉄筋を針金で結束するロボットだ。人と一緒に働く。

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2020年にリリース後、アップデートを重ね、現在の「X3」というバージョンでは大きく結束スピードが上がっている。横移動するロボットと組み合わせて用いられる。眞部氏がエンジニアと一緒に現場に入り、エンジニアに実際のモノの大きさや幅を体感してもらい、開発を始めたという。

「結束トモロボ」改良の歴史

ロボットは現場への直接販売ではなく、職人を束ねている会社に販売し、そこからレンタルとして出している。使ってもらうユーザーを増やし、職人のロボットへの抵抗を減らすことが狙いだ。現在既に100を超える現場で使われている。

現場へはレンタルのかたちで提供

現在、鉄筋以外の他の業者にも使ってもらうこと、デジタル化、グローバル展開などを進めている。高速道路で使うロボット、500kgを運べる運搬ロボット、屋根の上で動けるロボットなどを開発、販売している。

建設現場での新たなワークスタイルを生み出すことを目指す

人追従ロボットのDoogの農業用ロボット「メカロン」を建設用にカスタマイズしたロボットも販売開始している。

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建設現場には現場にしかわからないルールや価値観があり、それらを含むように開発しているが、それでも現場に持っていくと「違う」と言われることもあるという。

JR東日本のマッチングイベントにも参加し、新幹線の保線工事の省力化技術の開発も進めている。現在は調査段階。

2021年には「META Construction」という遠隔技術を使った開発コンセプトを出しており、NTT西日本と協働で開発・実装を進めている。

遠隔技術を使った「META Construction」というコンセプトも提案、開発中

海外展開も進めており、ラスベガスで開催される世界最大級のコンクリート・建設関係の展示会「World of Concrete」という展示会に出展。ビジネスにもつながっている。シンガポールにも子会社を設立。アジアにも進出している。政府の助成金対象のロボットとして認定されているという。

最後に眞部氏は「私たちが売っているのは、ロボットではなくソリューションである」というコンセプトを重視していると強調した。




■パネルディスカッション

パネルディスカッションの様子

パネルディスカッションでは4つの論点で議論が行われた。まず最初のお題は「プロダクト・マーケット・フィット(PMF)」。つまり売れる製品をどのように生み出したのか、生み出そうとしているのか。資金がなくなる前に、どうやって高速にそこに達するか。ソフトウェア開発ならばイテレーション(高速な反復)が可能だがハードウェアでは難しいため、そこには工夫が必要だ。

また、眞部氏は「リピートが来るかどうか」がPMFだと語った。労働対価の考え方が重要だという。RENATUS ROBOTICSの自動倉庫についてはROIを出せるよう改良を進めていって、いまの形に至っているとのこと。

2番目は「資金調達について」。タイミングや投資家選び、金額について。建ロボテックは累計の調達金額は6億円で、現在シリーズBをクローズしたところ。当面の必要資金だけを調達するようにしているという。いまは事業会社はほとんど入っておらず、VCが多いとのこと。

ugoの累計資金調達金額は8億円。実際に警備や点検を行いたい事業会社からの出資が多い。これは開発を進めるために狙って行ったという。今後独立を考えている人へのアドバイスとしては「資金調達はできる限りしないで回す方法を考えたほうがいい」と語った。

RENATUS ROBOTICSは累計調達金額は約3億円。VCと事業会社系のVCからだという。物流自動化の運用自体をビジネスにすることも想定しているとのこと。

「ロボットの適応領域を広げていきたい」と語るugo松井氏

3番目は「今後の成長をどう見据えているのか」。ugo松井氏は「ロボットの適応領域を広げていきたい」と語った。ゆくゆくは海外に出ていこうと考えているという。RENATUS ROBOTICS服部氏は海外を主軸としながら日本でも開発を進める両輪で行きたいと考えて、いまその準備も進めているという。

既に実際に製品を海外で販売している建ロボテックの眞部氏は認証の難しさについて語った。特に中国製部品を使っていたら大変になるという。円安なので日本で組み立てを行いたいが海外で作らざるを得ないこともあるとのことだった。今後はマレーシアで作ることを想定している。またサウジアラビアのスマートシティプロジェクト「THE LINE」建設にもロボットを投入したいと考えているという。

今回は司会に徹した東京ロボティクスCEO 坂本義弘氏

最後のテーマは「起業のすすめ」。今後、起業を考える人たちへのメッセージだ。眞部氏は「ハードウェアスタートアップは収益化まで時間がかかる。予定どおりいかないこともある。企業価値が生まれにくいのでIPOしても株価がつきにくい。最初はミニマムで開発したほうがいい。資金調達のためにすごいものを開発しているところもあるが実際にロボットを使うお客さんはリテラシーがあるのか、ニーズはあるのか、肌感で感じてほしい」と語った。

服部氏は「技術者が成長するためには『納品』の経験が重要。起業するにしても最低三回くらいは経験を回すと費用感や気をつけないといけないことがわかる。作るもののレベルもあがる。それを経た上で、それでもやりたいと思うならユーザーを捕まえつつ起業するのがいい」と語った。

松井氏は「まず、どうして起業するのかを考えたほうがいい。ロボットなら研究や企業に入る手段もある。リスクをとってまで起業したい理由は何かと考えたほうがいい。スタートアップをやってる人は幾つかネジが外れてる人が多い。スタートアップは『背水の陣』で、やらないと死ぬ。ゴールドリブンでなんとしてでもやる。そこが大きな違い。そこまで覚悟して『やりたい』と思うか。覚悟すると自分も成長する。自分の人生のなかで成長したいと思う人は起業したほうがいい」と語った。

坂本氏は「テクノロジーの会社はみんな案外助けてくれる。案外大丈夫」とフォローした。そして「起業の醍醐味」は何かと再度質問した。

「起業すると景色が変わる」と語った建ロボテック 眞部氏

眞部氏は「景色が変わる。建設現場の生産方法を変えようとしている。すると生産方法を考えている人たちと話し、全体を見るようになる。どういう人たちを残したいのか鷹の目で考えるようになる」と語った。服部氏は「各業界で困っていることを直接知り、解決策を提示できる。その最前線を走れる。それが自分たちでできるなと感じる自己効力感があることが魅力」と続けた。

松井氏は「やりがい、働きがいを作り出せるところ。自分たちの取り組みが社会に貢献できているかがダイレクトにつながっている。顧客の生の声からもやりがいを感じる」と語った。司会の坂本氏も「会えなかった人と会えてやりがいを感じられる、景色が変わる。秘密を知ることができる。ハイテクをやっていると世の中を動かしている人たちとも触れ合える。それが喜びにもつながる。自力を高めてもらって泣きながら納品して力をつけてほしい」と語った。

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森山 和道

フリーランスのサイエンスライター。1970年生。愛媛県宇和島市出身。1993年に広島大学理学部地質学科卒業。同年、NHKにディレクターとして入局。教育番組、芸能系生放送番組、ポップな科学番組等の制作に従事する。1997年8月末日退職。フリーライターになる。現在、科学技術分野全般を対象に取材執筆を行う。特に脳科学、ロボティクス、インターフェースデザイン分野。研究者インタビューを得意とする。WEB:http://moriyama.com/ Twitter:https://twitter.com/kmoriyama 著書:ロボットパークは大さわぎ! (学研まんが科学ふしぎクエスト)が好評発売中!

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