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国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が進めている「人工知能活用による革新的リモート技術開発事業」において、名古屋大学と豊田合成株式会社は、「e-Rubber」等の最新技術を使い、仮想空間での人同士の接触を利用した遠隔触診システムのプロトタイプを公開する。
具体的には「前腕部疾患に特化した世界初の遠隔触診システム」のプロトタイプを使い、そのシステムを使って「名古屋大学医学部附属病院」と「シンガポール国立大学病院」を通信で繋ぎ、実証試験を行う。また、そのシンポジウムも開催する。
日時は2025年3月1日(土)午前11時から午後2時まで。名古屋会場(リアル)、またはZoomでのオンライン参加が可能となっている。(参加申し込みのリンクはこちら)
前腕部疾患に特化した世界初の遠隔触診システム
「Contact Reality(CR)」
この事業では、触れたことにより得られる情報はもちろんのこと、人同士が触れ合うことにより起こる心理的な効果をも考慮に入れた、人同士の仮想空間での接触再現を「Contact Reality(CR)」と呼んでいる。
このCRを利用し、触診システム実現のため開発を進めてきた。開発では、適切な診断に触診が欠かせない整形外科領域における前腕および手関節の疼痛(とうつう:痛み)や関節異常診断に対象を絞り、遠隔触診を行うためのデバイス開発とシステム構築を行い、医師による実証試験を進めた結果、有効な遠隔触診が可能であることが明らかになった。
開発したデバイスを用いて、名古屋大学と大学間学術交流協定を結ぶシンガポール国立大学の協力を得て、名古屋大学医学部附属病院とシンガポール国立大学病院を結ぶ、国境を越えた遠隔触診の公開デモンストレーションを実施する。そして、その内容を報告する国際シンポジウムを開催する。
システムの構成
脳神経科学に基づく触診の位置づけや、患者への影響を理論的に検証するフェーズは次の通り(図1)。
医師側には、医師の触診意図を計測可能な「Haptic I/O Doll」を設置し、患者側には医師の触診意図に基づいて適切に患者に触れることのできる「触診マニピュレータ」を設置する。
技術の構成要素としては、人の肌と同様な物質特性を持つ「触覚伝送アクチュエータ(e-Rubber)」、「超小型6軸力覚センサー」6個と「e-Rubberセンサー」を指先サイズに統合して繊細な触圧を計測可能な「指先統合センサー」を活用、触診の情報を伝送する。また、医師の存在感を増すために患者側には「透明ディスプレイ」を設置している。
このような構成で、医師が的確に遠隔触診できるシステムを構築した。
「CES2024」に出展、反響を呼ぶ
このデバイスを昨年1月に開催された「CES2024」に出展、システムの完成度や将来性に対して多方面から好意的な意見が寄せられたという。
その後、名古屋大学大学院医学系研究科の生命倫理審査委員会の承認を得て、2024年11月からは名古屋大学医学部附属病院の医師による実証試験をおこなってきた。
開発の背景と成果
「COVID-19」によるパンデミック(世界的大流行)により、急激に社会に浸透したオンラインシステムは、皮肉なことに人同士が直接会うことの重要さ、楽しさを浮き彫りにした。
これは医療分野でも同様で、遠隔触診には利便性はあるものの、患者に直接触れられない難しさを露呈し、正確な診察への大きな課題となった。このような背景のもと、2021年度から本事業の一環として、名古屋大学と豊田合成は、CRの実現による遠隔触診システムの開発に取り組んできた。
シンガポール国立大学病院との実証試験
名古屋大学医学部附属病院内での実証試験により、テニス肘などの前腕および手関節の疼痛や関節疾患が十分に診断可能であることが実証された。
シンガポール国立大学病院(NUH)Department of Hand and Reconstructive Microsurgeryの協力を得て、名古屋―シンガポール間を結んだ実証試験を実施する。NUHの医師の協力による実証試験を2月27日~28日に行い、その成果や遠隔触診システムのデモンストレーションを含む国際シンポジウムを3月1日に開催する(参加申し込み)。
シンポジウムのスケジュール
2025年3月1日(土)午前11時から午後2時まで
(シンガポール時刻:午前10時から午後1時)
シンポジウム形式:ハイブリッド
〔名古屋会場〕〔シンガポール会場〕(いずれも招待者のみ)
〔Zoom Webinar〕下記QRコード、もしくは下記のリンクより参加申し込み可
参加申し込みのリンクはこちら
今後の予定
名古屋大学は、実際の臨床現場へ遠隔触診システムの投入を目指し、新技術の価値を国際的に訴求していく。また、地方都市の新しい医療サービスの創造と地域の成長に貢献することを目指して活動していく考えだ。
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