月面探査車「YAOKI」が月に到着、撮影にも成功!日本の民間企業で初の快挙 パンチ工業の 3D 測定技術が貢献

パンチ工業が参画する、ダイモンの月面探査計画「Project YAOKI 1(PY-1)」において、月面探査車「YAOKI」が搭載されたIntuitive Machines社の月着陸船が日本時間2025年3月7日未明に月面軟着陸に成功。
デプロイヤーのトラブルにより、残念ながら YAOKI自体は月面を走行することはできなかったが、着陸から数時間後には、YAOKIは月面写真を撮影、地球へのデータの送信にも成功した。これにより、YAOKIは日本の民間企業が単独で開発し、月面に到達して稼働した初めての月面探査車となった。

横転した状態ではあるものの、Intuitive Machines社にとって今回の月面着陸成功は、2024年2月23日の初成功に続き2回目。また、アメリカの民間企業Firefly Aerospace社による月着陸船「Blue Ghost」の、2025年3月2日の月面着陸成功に続き、民間企業の月着陸船として3例目の成功となる。

着陸予定地点から250メートル離れたクレーター内に着陸

Intuitive Machines社による無人月着陸船「Nova-C」での2回目の月面着陸ミッション「IM-2」は、機体通称「Athena」によって行われ、月の南極点「モンス・ムートン」の着陸予定地点から250メートル離れたクレーター内に着陸。

今回のYAOKIの初月面ミッションに際し、パンチ工業では、3Dスキャナによる3D形状測定技術を活用し、YAOKI本体とデプロイヤー(YAOKI輸送用のケース)の最適な隙間(クリアランス)設定のサポートを行う他、打ち上げに際してYAOKIが求められる品質保証要件を満たすことで、打ち上げの土台作りに貢献した。

YAOKI搭載カメラによる月面での撮影(2025年3月7日)  左上: クレーターの縁 (リム) 中央下:月着陸船Athenaの脚部


ミッション「地球からの遠隔操作で月面を走行しながら撮影」

月面探査車YAOKIは、NASAが民間企業へ委託する商業月貨物輸送サービスCLPS(Commercial Lunar Payload Services)プログラムのもと、月の南極地域に送り込まれる貨物(ペイロード)のうち、民間に開放されたペイロードの1つ。今回のYAOKIのミッションは、月着陸船から分離し、地球からの遠隔操作で月面を走行しながら撮影したデータを地球に送信することだった。

月着陸船から撮影された月と、月着陸船に固定されているYAOKI

当初、月着陸船は月に対して垂直な姿勢での着陸を目指していたが、月の表面に横向きに着陸したことから月着陸船の最大活動時間を考慮しIntuitive Machines社から各ペイロードに、それぞれのミッションを着陸直後から短時間で遂行する指示が発せられた。


環境が悪化する状況下で、月面での写真撮影・データ送信に成功

YAOKIは、着陸の約5日後に計画していたミッションを、着陸直後に実行する計画変更の指示を受け、Athenaに搭載されている全てのペイロードの最後にミッションを実行。電力供給の制限や温度の低化など、時間が経つほど環境が悪化する状況下で、月面での写真撮影・データ送信に成功した。着陸船から月面に解放されるに至らなかったものの、YAOKIが月面で予定していた所定の動作が正常に作動することを確認した。

月着陸船からの、デプロイヤー開閉の電源供給が途絶えたため、YAOKIはデプロイヤーから月面に飛び出すことはできなかったが、YAOKI本体の全機能が正常に動作することが確認できたことから、パンチ工業が3D測定で隙間設計に貢献したデプロイヤーは、計画通りYAOKIを保護して月面に運ぶことが実証された。



YAOKIのカメラの位置。月面写真はケース内から撮影


YAOKIのミッション結果と成果

結果

YAOKIの運用は日本時間3月7日 午前11時17分51秒に開始され、最後のコマンド送信は13時32分30秒に行われた。2時間以上にわたりデータを地球に送信することに成功し、最終コマンド送信時点でYAOKIのバッテリー残量は4時間以上あることをオペレーションシステムにより確認した。

・デプロイヤーとYAOKIの分離:着陸船からの電力供給ができず実施不可。
・写真撮影:成功。リアルタイムで確認に成功。
・走行:デプロイヤー内部で車輪の回転を実施。分離されていれば月面走行可能と推定。

打上げから探査までの全工程で、YAOKIの温度を示すテレメトリーなどを正常に取得。また、YAOKI本体の全機能が正常に動作することが確認でき、予定していた全機能の動作を地上からオペレーションすることに成功した。なお、YAOKIは、複数あるペイロードのうち、ミッション全体を通じて最も活動的なペイロードの一つだった。

成果

画像データが欠落するパケットロスが無く、クリアなデータを受信。
1枚の写真データの受信時間は75秒で、リアルタイムに近い送信速度を確認。月着陸船からの、デプロイヤー開閉のエネルギーの供給が途絶えたため、デプロイヤー内部から撮影。

2025年2月27日 9時16分 Intuitive Machines社の月着陸船「Athena」の外側に取り付けられ、SpaceX社のロケット「Falcon 9」によって、フロリダ州のNASAケネディ宇宙センターから打ち上げ
2025年3月7日 未明 YAOKIを搭載した月着陸船が月に着陸
2025年3月7日 11時17分51秒 初回コマンド送信
2025年3月7日 11時19分02秒 初回データ受信
2025年3月7日 13時32分30秒 最終コマンド送信

着陸船の電源供給終了によりIM-2全ミッション終了


月着陸船Athenaが撮影した月面

「Project YAOKI 1」(PY-1)について

超小型・超軽量・高強度の月面探査車YAOKI

「PY-1」はダイモンが開発する月面探査車YAOKIの初めての月面ミッション。YAOKIは超小型・超軽量・高強度を兼ね備えた月面探査車で、低コストでの月面探査を実現。今後、YAOKIは今回のPY-1に続いて順次打ち上げられ、最終的に100機による月の探査を目指している。

なお、パンチ工業は、2023年5月8日にダイモンと技術パートナー契約を締結し、「Project YAOKI」の一員としてプロジェクトに参画している。

パンチ工業の技術で宇宙開発に貢献



3D測定技術

パンチ工業では、商品開発課にて、図面がない部品などの現物を3Dスキャナで3Dデータ化して復元する「リバースエンジニアリング」事業に取組んでいる。この3Dスキャナの測定技術を活用したサービス「3D計測パートナーズ」で、打ち上げに際してYAOKIが求められる品質保証要件を満たし、打ち上げの土台作りに貢献してきた。

また、YAOKIは、月着陸船で月まで収納ケースごと運ばれ、月着陸後にケースから飛び出して月面探査を行う。YAOKIが輸送時の振動に耐えられるように収納ケースとYAOKI本体の隙間(クリアランス)はスポンジ状の弾性体で適切に詰める必要がある。パンチ工業では、その数値をデータ化し検証することで、最適なケースの寸法や弾性体の厚さなどを導き出すためのサポートを行った。

パンチ工業の航空宇宙産業への取組み

パンチ工業では、2016年からR&D強化を目的として「航空宇宙産業関連への進出」への取組みを重点経営課題の一つに掲げており、航空宇宙関連の部品加工を中心に実績を伸ばしている。また、過去にはJAXA(国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構)と共同研究契約を締結し、ロケットエンジン部品などの複雑形状部品について共同研究を行うなど、行政や民間企業とも幅広く連携している。

今後さらなる発展が見込まれる航空宇宙産業への取組みを通じて、得られた技術を地球上での既存事業や新規事業に活用することで、より社会から必要とされる企業となることを目指しているとのことだ。

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ロボスタ編集部

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