雪に埋まった遭難者もWi-Fi通信を使って約10分で救助へ ソフトバンクと科学大 ドローンで広域捜索、Wi-Fiで位置特定

ソフトバンク株式会社と国立大学法人 東京科学大学 工学院 電気電子系 藤井輝也研究室は、雪山や山岳地帯での遭難者の捜索を迅速に行う「Wi-Fiを活用した遭難者携帯端末の位置特定システム」を開発したことを発表し、2025年6月9日に報道関係者向けに説明会を開催した。


国立大学法人 東京科学大学 工学院 特任教授 兼 ソフトバンク株式会社 基盤技術研究室 フェロー 藤井輝也氏(2025年2月に撮影)


遭難した要救助者のスマホと通信して場所を特定

このシステムは、携帯電話の通信エリア外において、登山や雪山で遭難した要救助者の場所を特定するために、要救助者が携帯しているスマートフォンを活用するシステム。全体としては2段階のステップで効率的に要救助者の位置を特定する。
まず、GPSの位置情報をドローンを使って受信、広いエリアで捜索して20メートル四方程度に場所を特定する。

ドローンを飛ばして要救助者が所持するスマホと通信して、GPS情報を捜索隊に通知する。地上の通信基地局とドローンが通信できない場合(エリア外)は中継機を置いて、通信エリアを拡大する

または、衛星通信を使用してドローンの通信エリアを拡大。広域を探索する

ドローン捜索で、範囲を20m四方に絞り込んだ後、指向性アンテナを搭載した専用機器で、要救助者のスマホが発信するWi-Fiの電波を受信。


Wi-Fiの電波強度を測定し、ピンポイントで要救助者の位置を特定する。要救助者がある程度の深さの雪に埋まっていても検知できる。


このうち、第2ステップの「Wi-Fiを使用してピンポイントで位置を特定するシステム」が新しい発表となる。予めスマホにアプリをインストールする必要があるが、推定誤差は数メートル内の精度で検知できる。その結果、ドローンで捜索範囲を絞り込んでから、Wi-Fiを使って約10分で要救助者が所持する(ことを想定した)スマホを発見できた。

目的のスマホを発見。要救助者が雪に埋まっている場合は、更に有効性が高い


雪に埋まっている要救助者を約10分で発見

要救助者が雪に埋まっている場合でも、約10分程度で発見することができるという。従来の人海戦術で捜索する場合は数時間かかる場合もあった。
Wi-Fiを使ったシステムの開発は、消防機関の研究支援者の北海道倶知安町 羊蹄山ろく消防組合消防本部から、雪山の遭難でも捜索時間を短縮できるシステムが要望されたことがきっかけだった。例えば、端末位置の推定誤差が数メートルとなるような端末位置特定システムがあれば、雪の中に埋まってしまった要救助者であっても、捜索時間を大幅に短縮して発見できる可能性がある。

要救助者が雪に埋まっている場合、従来はドローンで捜索範囲を特定して狭めた後、人海戦術で探していた(左)。発見まで数時間かかることもあったが、Wi-Fi電波を検知してピンポイントで特定すれば大幅な時間短縮が期待できる。


GPS+ドローン、Wi-Fi+専用機器での2ステップ捜索の詳細

解説が一部重複するが、詳細を説明しよう。


第一次ステップ:GNSSとドローンで捜索

山岳地帯や雪山では、携帯電話の通信エリア外の場合も多く、要救助者(遭難者)がスマホを所持していても、通信エリア外では遭難した位置を特定することは難しい。

スマホがGPSで位置情報を取得できたとしても、通信エリア外だと、その位置を捜索隊に通知することができない

そこで、ソフトバンクと東京科学大学は、スマホの通信エリア圏外であっても要救助者の位置を広域で捜索する方法を2022年に開発した(2016年に実証実験を実施)。

雪の下、5mの人形とスマホを発見(2016年の実証実験)

その手順はこうだ。まず、4Gや5Gなどの携帯電話用通信電波の基地局と中継できるドローンを飛ばす。ドローンは近くに地上の基地局があればそこと通信し、近くに基地局がない場合は衛星通信と接続できる(通信圏外のエリアを臨時にサービスエリア化)。

再掲

ドローンは要救助者の探索のために飛行し、スマホと通信できる範囲内(ドローンとスマホの通信圏内)を飛行すると、スマホのGPS位置情報を受信し、その位置を特定する。この時の位置の特定精度は好条件の場合は5~10m。誤差を想定しても約20m四方に捜索範囲を絞り込める。通常の山岳であれば捜索に十分に有効な範囲だが、雪山など要救助者が雪に埋まっている状況の場合は、人海戦術で雪の中を捜索するため発見には更に時間を要してしまう。


雪に埋もれている場合など、要救助者が視認できない場合、捜索者は推定誤差を考慮して、捜索範囲をGNSS推定位置の周辺約20メートル四方に設定、通常は人海戦術で位置を特定する。捜索者が横一列に並んで雪下の遭難者を20メートル四方の範囲においてくまなく捜索した場合でも、要救助者の発見までに数時間を要する場合もあるという。

第二次ステップ:Wi-Fiで捜索

本システムを利用することで、要救助者のスマホ(Wi-Fi受発信の推定位置)に直行することができ、特定することが可能となる。


そこで第二次ステップとして、今回発表した「Wi-Fiでの捜索」をおこなう。
Wi-Fiアクセスポイント(遭難対応AP)と通信を確立し、その感度をモニターする画面とWi-Fi指向性アンテナで構成された携帯端末「RSSIモニター」で、要救助者のスマホとWi-Fi通信してその方向を探る。



遭難者の端末は遭難対応APが発する電波の受信電力(RSSI)を測定し、感度の強さを一定間隔でRSSIモニターに表示、RSSIモニターに内蔵されるジャイロセンサーによって、方向と向きにおける遭難者のスマホの位置を特定していく。

一般に、受信電力が最大となる方向が遭難者端末の方向になることから、捜索者は受信電力が最大となる方向に進むことで、遭難者に近づくことができる。

「RSSIモニター」に搭載したジャイロセンサーによって回転角を取得し、回転角と受信した遭難者端末の受信電力値を円グラフ上に表示するとともに、測定開始からモニター確認時までの受信電力の最大値とその方向を同時に表示する。


この表示により、遭難者端末がある方向の探索が容易になるという。例えば、約3メートル進むごとに捜索者は指向性アンテナを一定範囲内で回転させて、受信電力が最大になる方向を確認し、その方向に進む。遭難者端末に近づくほど受信電力は大きくなるため、この探索を繰り返して行うことで、受信電力が一定値(しきい値)を超える場所を探索し、しきい値を超えた場所を遭難者端末の位置(Wi-Fi推定位置)と特定することができる。


また、しきい値を最適に設定することで、その誤差を数メートル以下にすることができる。なお、本システムは、しきい値を超えると“効果音”で知らせてくれる機能を搭載しているため、捜索者はRSSIモニターを常時見る必要もない。


Wi-Fi探索には予めアプリのインストールが必要

留意点として、今回発表の「Wi-Fiを活用した遭難者携帯端末の位置特定システム」を利用するためには、要救助者のスマホにアプリをインストールしておく必要がある。「RSSIモニター」と要救助者のスマホがWi-Fiで通信する必要があるためだ。
ソフトバンクと科学大は、実用化の際にはアプリのインストールを促すポスターなどを、登山道やスキー場等に隣接するホテルなど施設に掲示することで、利用を促進する考えだ。


両者は、「ドローン遭難者捜索支援システムとWi-Fi遭難者捜索支援システムを統合したシステムの実用化を目指すとともに、自治体や公共機関、企業と連携し、災害対策に向けた研究などを進めていきます」とコメントしている。

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神崎 洋治

神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。

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