人だけではなく、モノも自動で近距離移動する社会 WHILLが描く未来のモビリティ

電動車椅子型の近距離パーソナルモビリティを展開するWHILL株式会社が開催する「未来のモビリティ共創フォーラム ~WHILLが描く未来のモビリティ~」が、2025年6月18日に行われた。WHILL社の紹介のほか、羽田空港ターミナルでも使われている自動運転サービスの海外での活用例や、モビリティ開発の裏側、そして同社が近年力を入れている移動ロボット向けの「モビリティプラットフォーム事業」が紹介された。
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■世界6拠点を構え、約30の国・地域でサービスを提供するWHILL
WHILLは2012年創業。「ラスト1マイル以下」の、歩行領域でのモビリティプロダクト/サービスで、海外でも事業を展開している。2014年に最初の「ModelA」を発表したあと、2025年現在はジョイスティックで操作するチェア型の「Model C2」「Model F」のほか、スクーター型の「Model R」、「Model S」など、合計4モデルを販売している。
2025年現在、世界6地域に拠点を構え、約30の国と地域でサービスを提供している。販売スタイルはレンタル・販売だけではなく、施設のインフラとして移動サービスを提供するB2Bも展開している。スマホアプリと接続して機体の状況を確認できたり、フリート管理できるサービスも展開している。ハードウェアとソフトウェアはすべて内製。
■羽田空港では32台の自動運転「WHILL」が活躍中
空港での活用についてはWHILL株式会社 自動運転サービス事業本部 セールスディレクターの井村安里氏が紹介した。
羽田空港の第1、第2、第3ターミナルに導入されているWHILLの台数は、合計32台。第1、第2ターミナルで12台ずつ、第3ターミナルの出発フロアには合計8台配置されている。
予約の必要はない。手荷物があれば後ろのバスケットに預け、座ると目的地(出発ゲート近く)を手元のタブレットで指示すれば、そこまで走る。
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人が前にいると自動停止する。目的地に着くと降りるだけでいい。WHILLは自動でステーションに戻っていく。自動運用されている。
国際線では7言語まで対応している。料金は無料。
■海外の空港ではバケツリレー方式での活用も
海外の空港では空港スタッフが少なく、2台の車椅子を一人のスタッフが押しているという風景がしばしば見られるという。今後高齢化と人手不足は年々進むが、2042年の旅客数は、2024年の倍になると考えられている。混んでいる時間帯と混んでいない時間帯の調整も難しい。WHILLはこれらの課題の解決法として、自社プロダクトを提案している。
マイアミ空港ではコンフォートゾーン(待合所)にWHILLを置いて活用している。EUではアムステルダム、ローマ、バルセロナの各空港に導入されている。バルセロナの空港ではコンフォートゾーンからコンフォートゾーンへと「バケツリレー」のように移動する形式で運用されているという。
また、配車機能を使うことで、WHILLをタクシーのように呼ぶこともできる。羽田空港でも活用されているという。今後、ターミナル間移動にも使えればと考えているとのことだった。
■踏破性能や小回りだけではない全方向車輪のメリット
開発についてはWHILL株式会社 品質本部の中川智之氏が紹介した。中川氏は、全方向車輪の開発を手掛けたほか、2021年発表の折りたためる「Model F」のチーフエンジニア、2024年の電動スクータータイプの「Model R」の開発にもサブマネージャーとして携わった。現在は品質本部で、自動運転サービスの品質保証も担当している。
車椅子に乗るには「物理的ハードル」と「心のハードル」があるという。段差や坂道が上りにくいし、車椅子に乗っているところを見られたくないといったハードルのことだ。
「物理的ハードル」については段差乗り越え性能など踏破性能を向上させることで対応した。それらに貢献しているのが「全方向車輪」だ。通常の前後だけでなく、横にも機体を動かすことで、その場旋回が可能だ。直径が大きいので、5cmの段差を乗り越えることもできる。
しかしキャスター型の車椅子は前輪を大きくできない。足置きスペースが小さくなってしまうためだ。いっぽう、車輪がくるくる回らない全方向車輪だと足置きを大きく確保しつつ、小回りが効く。
また、キャスタータイプの場合、直進しても位置がズレる。いっぽう全方向車輪では直進しても位置がズレない。そのため、自動運転との相性がいい。
「心のハードル」については、デザインで乗り越えることを目指している。かっこいい、ワクワクするデザインを目指している。
大前提が「安心安全」である。物理的ハードルを乗り越える「機能」や、心のハードルを乗り越える「デザイン」は目に見える。「安心安全」は目に見えない。だが「根っこ」として非常に重要な部分であり、ユーザーの声や社内外の評価を繰り返して開発にフィードバックを続けている。見えるところと見えないところ、双方が大事というわけだ。
■ロボットメーカー向けにWHILL電動モビリティプラットフォームも展開
今後の展開については、WHILL株式会社 CFO付の堀出志野氏が紹介した。堀出氏は、大学時代から一貫して歩行領域の課題解決を志しているという。
WHILLは近距離モビリティの開発、サービスプラットフォームの構築、そしてすべての場所ですべての人が楽しくスマートに移動できるようにすることを目指している。将来的には革新的な近距離移動を提供する会社を目指している。
人だけではなく、モノも自動で近距離移動する社会が近未来にはやってくる。そこで同社が培ってきた技術を、歩行領域走行のロボット技術として提供する事業を開始している。ロボット台車、電装系キット、オムニホイールを4輪搭載したプラットフォーム、研究開発用の「Model CR2」などである。
ROS、ROS2、Pythonなどでプログラミングすることで外部からWHILL台車を動かせるようにすることで、移動ロボットの足回りとして活用してもらおうという提案だ。電動車椅子で実績があるWHILLの製品なので、安定した品質の部品を、安定調達できるというメリットもある。
同社のプラットフォーム製品を使うことで、開発費を抑えつつ、耐久性高く安定して歩道領域を走行できる足回りの開発が可能となる。
堀出氏は具体的な活用例として配送ロボット、警備ロボット、搬送ロボットなどを挙げた。日本通運とは共同で作業用モビリティや、直進性・回転性の高い台車モビリティを開発している。
実際、足回りを見ると「これはWHILLだな」とすぐにわかる移動ロボットを時々見かける。注意してみてみると面白い。
ワークショップイベントなので、このあと「WHILLがあったら良いなと思う場所はあるか」と問いかけられて意見交換が行われたが、以下は省略する。
WHILL株式会社
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森山 和道
フリーランスのサイエンスライター。1970年生。愛媛県宇和島市出身。1993年に広島大学理学部地質学科卒業。同年、NHKにディレクターとして入局。教育番組、芸能系生放送番組、ポップな科学番組等の制作に従事する。1997年8月末日退職。フリーライターになる。現在、科学技術分野全般を対象に取材執筆を行う。特に脳科学、ロボティクス、インターフェースデザイン分野。研究者インタビューを得意とする。WEB:http://moriyama.com/ Twitter:https://twitter.com/kmoriyama 著書:ロボットパークは大さわぎ! (学研まんが科学ふしぎクエスト)が好評発売中!