富士通×NVIDIA 戦略的協業拡大を発表 – AIインフラ構築と社会課題解決を目指す

富士通株式会社は2025年10月3日(金)、米国のNVIDIAとAI領域における戦略的協業を拡大することを公開する記者発表会を行った。同社CEOの時田隆仁氏、CTOのヴィヴェック・マハジャン氏、そしてゲストでNVIDIA CEOのジェンスン・フアン氏が登壇し、両社の今後の取り組みについて詳細を説明した。
時田氏による協業概要の説明 富士通の企業理念と90年の歴史
冒頭、時田氏は富士通の企業パーパスである「イノベーションによって社会に信頼をもたらし、世界をより持続可能にしていくこと」を紹介した。富士通は1935年に通信機器製造会社として誕生し、今年で創業90周年を迎える。創業以来、事業の形態は変化してきたが、「人々の幸せのため」という根底にある考え方は一貫して変わらず、技術開発とサービス提供に取り組んできたと述べた。
5つのキーテクノロジーと3つのマテリアリティ
時田氏は、富士通が注力する5つのキーテクノロジー領域を説明。それは、コンピューティング、ネットワーク、AI、データセキュリティ、そして複数分野を融合したコンバージングテクノロジーである。これらの技術をベースに、経営上の重要課題である3つのマテリアリティ―「「Planet(地球環境問題の解決)」「Prosperity(デジタル社会の発展)」「People(人々のウェルビーイング)」に取り組んでいると強調した。
AI進化の課題とインフラの必要性
生成AIの飛躍的な進化により、これまで不可能だった予測やシミュレーションが可能になり、自然災害や環境問題といった深刻な課題解決に一歩近づいたと時田氏は指摘した。しかし、労働人口の減少やエネルギー問題など、まだ多くの課題が残されている。AIの進化は学習データ量とハードウェアの処理能力に大きく依存しており、AIを本格的に企業や社会で実装していくためには、それを支える十分な処理能力と機能を持つAIインフラストラクチャーが不可欠だと述べた。
協業の3つの軸
今回の協業は、以下の3つを軸に進められる。
1. 自律的に進化するAIプラットフォーム
富士通のサービスプラットフォーム「Fujitsu Kozuchi(富士通コズチ)」にNVIDIAの技術を組み合わせ、AIエージェントやAIモデルが自律的に進化する自立型AIインフラストラクチャーを構築する。
2. 次世代コンピューティング基盤
富士通の高性能・省電力CPUである「FUJITSU-MONAKA(富士通モナカ)」シリーズと、NVIDIAが持つ高性能AI学習処理を実現するGPU(画像処理装置)を組み合わせる。シリコンレベルから共同で最適なインフラ開発を行い、データセンター規模の演算性能を実現する次世代AIコンピューティング基盤を目指す。
3. 産業特化型AIエコシステム
さまざまな産業の顧客やパートナーによるエコシステムを構築し、このAIインフラストラクチャーを通じてAIエージェントやAIモデルの活用拡大を支援する。
ロボティクス分野での社会実装
さらに、AIインフラによる社会変革実現のため、特定産業分野でのユースケース開発を開始する。まずはロボティクス分野において、フィジカルAI(物理世界で動作するAI)をはじめとする先端技術の社会実装を目指すとしている。
これまでの協業と将来展望
富士通とNVIDIAはこれまでもプラットフォーム領域で協業を進めてきた。最近では、理化学研究所が主導する次世代フラグシップスーパーコンピューター(コードネーム「富岳ネクスト」)において、両社の連携を発表している。
「私たちが実現するAI駆動社会は、人がAIに置き換わるのではない。AIの持つデータと処理能力と、人の判断力や創造性が組み合わさり、人とAIが協調・協働し、共創(コ・クリエーション)する社会である」と時田氏は強調し、人を常に発想の中心に据えたヒューマンセントリックの考え方で必要なテクノロジーを追求していくと締めくくった。
ヴィヴェック・マハジャン氏による技術詳細の説明 AI産業化の加速へ
続いて登壇したヴィヴェック・マハジャン氏は、AI産業化が始まっているものの、それをさらに加速させるために世界のAIをリードするナンバーワン企業であるNVIDIAと、日本の技術をリードする富士通が協業することの意義を説明した。
技術の詳細:AIエージェントとマイクロサービス
具体的な技術面では、顧客のニーズに合わせたAIエージェントの開発において、NVIDIAのNeMoマイクロサービスと富士通の高度なモデルやツールを組み合わせ、顧客がスピーディーに導入できる環境を整えるとしている。
次世代コンピューティング基盤の開発
コンピューティング基盤に関しては、富士通とNVIDIAはすでに深く連携しているが、今後さらに密接に協力していくと述べた。NVIDIAのCEOであるジェンスン・フアン氏は、台湾での講演において、富士通のCPUとNVIDIAのGPUがNV-Linkを通じて密に連携していくことを発表している。
富士通のMONAKA CPUシリーズは継続的に進化し、NVIDIAの次世代GPUとも連携していく。シリコンレベルだけでなく、Armアーキテクチャ(省電力型のプロセッサ設計)の技術とNVIDIAの技術を組み合わせることで、革新的なプラットフォームを実現すると説明した。
マハジャン氏は、「メイドインジャパンの技術で」世界最高水準のシステムを構築すると強調し、8月22日にNVIDIAと発表した内容にも言及した。世界最高効率のCPUとGPUを組み合わせたプラットフォームを提供し、AIプラットフォームとコンピューティングプラットフォームを統合したソリューションを顧客に届けていくとしている。
先述の「富岳ネクスト」プロジェクトは富士通とNVIDIAのパートナーシップの一例だが、それだけでなく、さまざまな業界や顧客にこの技術を提供していく予定だと述べた。
産業エコシステムとユースケース開発
エコシステムについて、マハジャン氏は「NVIDIAと富士通のAI技術を語っても、顧客と一緒でなければ何の意味もなく、価値を提供できない」と強調した。最も重要なのは顧客とのパートナーシップであり、さまざまな業界―防衛、行政、製造、金融など―でイノベーションを起こし、生産性を向上させ、新しいサービスを提供していくことが目標だとしている。
ロボティクス分野での具体例
具体的なユースケースとして、ロボティクス分野のフィジカルAIを例に挙げた。この分野では株式会社安川電機とも協力していることをマハジャン氏は明かした。
量子コンピューティングとの融合
マハジャン氏は最後に、量子分野についても触れた。富士通はNVIDIAとのパートナーシップを通じて、量子コンピューティングとHPCのハイブリッドシステム、計算化学分野での技術実現、量子・古典ハイブリッドアプリケーション、量子アルゴリズムの実装などを進めていく予定だ。
ジェンスン・フアンCEOからのメッセージ
会見の終盤では、NVIDIA CEOのジェンスン・フアン氏がゲスト登壇。「本日は非常に重要な日である。我々の協業を発表し、日本のAI時代を始動させる」と述べた。
また、フアン氏は「AIは我々の時代における最も強力な技術力」であり、「次の産業革命」であると位置づけた。そして、電気やインターネットのように、AIは不可欠なインフラとなり、すべての国がそれを構築することも示唆した。「本日より、富士通と共に、NVIDIAは日本のためのAIインフラを構築していく」と力強く宣言した。
日本のためのAIインフラ
NVIDIAと富士通は、シリコンからシステム、AIモデル、ソフトウェアまで、日本の産業のために設計された日本のAIインフラを創造しているとフアン氏は説明した。富士通のMONAKA CPUとNVIDIAのGPUは、NV-Link Fusionという革新的な技術によって融合され、エネルギー効率が高く高性能な新しいクラスのコンピューティングシステムを生み出すとしている。
産業別の応用例
ヘルスケアでは、AIエージェントが医師や看護師を支援し、病院運営を管理する。製造業やロボティクスでは、反復的な手作業を効率化する。通信業界では、より高速でエネルギー効率の良いサービスを提供し、5Gや6Gにおけるネットワーク効率とパフォーマンスを向上させる。
ロボティクスとAIエージェントは、日本が直面する労働力不足という大きな課題に対処し、高齢化社会に備える一方で、経済成長のための新たな機会にもなるとフアン氏は語った。
まとめ
今回の記者発表会で、富士通とNVIDIAのAI領域の戦略的協業の詳細が語られた。来たるべきAI産業革命、そしてAI駆動社会に向けて両社が新たに創造するテクノロジーに今後も注目していきたい。
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