ヒューマノイドは量産「年間5000台超へ」 AgiBotが語る「実用化のユースケース、現在と未来」

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中国・上海を拠点とするヒューマノイド企業 AgiBot(エージーアイボット) は、2025年12月3日~6日に東京ビッグサイトで開催される「2025国際ロボット展」(iREX 2025)に、新たに3機種のヒューマノイドを展示し、デモンストレーションも公開する(リアル会場小間番号:E7-52)。

画像中央のヒューマノイド、左からフルサイズ「AgiBot A2」、少し小型の「AgiBot X2」、車輪型の「AgiBot G2」

出展するヒューマノイドは、商用規模導入を初めて実現するフルサイズ「AgiBot A2」(身長169cm)、高い運動性能とインタラクション能力を両立した「AgiBot X2」(身長130cm)、産業レベルのインタラクションと作業能力を備える車輪移動型「AgiBot G2」の3機種を予定している。

フルサイズ(169cm)のヒューマノイド「A2」
身体性能に優れた、少し小型(130cm)のヒューマノイド「X2」
製造業から納入を進めている「G2」。高度な推論と生産性/安定性を重視している

■2025 China International Import ExpoでのAgiBotブースの様子

「AgiBot A2」は2025年11月10日~13日にかけ、約106.286kmの連続歩行を達成。『ヒューマノイドロボットとして最長距離を歩行した機体』としてギネス世界記録に認定され、安定性と信頼性を示した。(関連記事:https://robotstart.info/article/2025/11/25/381449.html

AgiBotは2023年2月に上海で設立されたスタートアップで、創業から約2年半で従業員は約1,400名に達する。量産を前提に開発を進め、今回展示される3機種は新型だが、実績機種として二足歩行の「A1」「X1」、車輪移動型の「G1」がすでに存在し、累計2,000台以上を納品済み。また、四足歩行ロボットも手がけている。

出展に先がけて、AdiBot 東アジア事業本部長 張赫(Zhang He)さんに話を聞いた。

AdiBot 東アジア事業本部長 張赫(Zhang He)さん

ヒューマノイドの市場規模と導入実績

Q1. 中国では「ヒューマノイド関連企業は150社以上」とも報道されています。それは本当ですか?

A. はい、本当です。ただし 量産体制を持つ企業はごく一部に限られます。
現在の中国では「ヒューマノイド」のキーワードが投資の大きな軸になっており、実態が伴っていないにもかかわらず、ヒューマノイド開発を掲げるベンチャーも多いのが実情です。

当社は既に量産を開始していて、長時間歩行を含む実証でギネス記録を達成するなど、安定性・信頼性を実データで示している点が特徴になっています。

Q.今年中にどのくらいの台数を見込んでいますか?

当社は既に2,000台以上のヒューマノイドを納品しています。受注台数でいえば、今年中(2025年内)に4,000~5,000台に達する見込みです。これらも来年3月にはすべて納品できる体制を整えます。

Q.ヒューマノイドはどのような分野で、どんな作業に使われていますか。ユースケースを教えてください。

ユースケースはステップ・バイ・ステップで、段階を追って拡大していく予定です。二足歩行型は案内や接客、大型イベントでダンスをするなどです。実用的な用途としてまず現状はFA業界(製造業)向けに納品しています。製造業の次は物流、サービス業、そして最終的には家庭向けに展開していく予定です。ステップ・バイ・ステップで難易度は上がっていきますが、技術も進歩していくと予測しています。

まずは製造(FA)分野からヒューマノイドの納入を進めている

当社はハードとソフトウェアの両方を手がけていますが、現場に導入するのは当社1社だけでできるとは思っていないので、エコシステムを作って連携パートナーとともに展開して、ヒューマノイド業界を盛り上げていきたいと考えています。

Q.製造業ではどのような作業ができますか。

人間ができるすべての作業を代替したいと考えていますが、技術的な壁はまだ大きい。ただ、モノを運び、研磨や組み立てなどの一部の作業が可能になり始めています。今後、触覚技術を導入したり、VLA(Vision-Language-Action)や世界モデルを導入したり、技術が進化して、柔らかいものや変形するものにも対応し、製造ラインが頻繁に変わるものにも対応できるようになります。
今回の国際ロボット展では、その一例としてヒューマノイドがモノを持ち上げ、正確に挿入位置を認識して組み立てるデモも公開する予定です。強化学習とVLAで実現しています。

Q.どのような場所でヒューマノイドの導入実績がありますか。

二足歩行の「A1」や「X1」は身体能力に優れています。人間で言うと「小脳」の(バランスをとって滑らかに身体を動かす)能力です。また、親しみやすいフォルムなので、ショッピングセンターや店頭等でダンスや案内をしてほしいというニーズが多くあります。この2機種で既に約1,400台を納品しています。

車輪式の「G1」は運動能力は二足歩行型に劣りますが、デュアルハンド(双腕)での作業能力に優れています。また、高速処理の能力(AI推論)にも優れています。人間で言うと「大脳」の能力(考える、記憶する、判断する、言語を使ったコミュニケーションなど)です。それを活かして食品工場や自動車工場などで数多くのPoC(実証)をおこなっています。製造業では二足歩行が必須ではない工場も多いと感じています。ほとんどの工場は段差や階段がないように設計されているため、車輪型の方が電力効率が良く、安定していて経済的でもあります。車輪型は約700台の納入実績があります。

すなわち、運動能力が要求されるシーンには二足歩行型、推論に優れてROIや効率性・生産性を重視している現場や作業には車輪型、と双方のニーズに応えられるラインアップ構成にしています。

ただ今後は、技術の進歩によって二足歩行ヒューマノイドの安定性や経済性が向上すれば、量産のことを考えると一気に二足歩行のみのラインアップに変わる時期が来るかもしれません。
というのは、工場に車輪型ヒューマノイドを導入する市場規模は数万~数十万台です。もしも、家庭用のヒューマノイドが普及すれば市場規模は数億台になります。ロボットの価格は量産の規模で下がりますから、今は仮に1台1,000万円だとしても、その量産規模になれば100万円を切る価格で高性能なヒューマノイドが買えるようになるかもしれません。そう考えると二足歩行のヒューマノイドの将来に向けた可能性は大きく拡がります。

Q.四足歩行ロボットはどのような場所と作業で使われていますか。

犬型のロボットは、自律的に巡回して点検するような現場が多いです。ただ、センサーやメーターを読むのではなく、VLMモデルを搭載して画像処理でいま何が起きているのかを判断することができます。秋田県での案件では、高所に設置したセキュリティカメラ(CCTV)が熊を発見すると通知が来て、四足歩行ロボットが迅速に現場に向かい、熊を認識して追い払ったり、撃退スプレーを照射するといったユースケースがあります。

Q.日本市場の開拓についてはどのように考えていますか。

日本はロボットやその制御を含めて、ICTにとても強い国だと感じています。そして、日本でもフィジカルAIについての気運が急速に高まっていることを感じます。
日本には独特のカルチャーもあり、技術力を持っているSIerや販売チャンネルを持った商社など、さまざまな方々とコラボレーションが必要になると感じています。今回、国際ロボット展に出展して、ヒューマノイド分野に興味がある日本のパートナー企業とお話しするきっかけにしたいと思っています。
実は既に日本市場において、2025年だけでヒューマノイド関連で約10億円を超える売上実績があります。それは共同開発や技術シェアにおけるプロジェクトが主な内容です。来年の売上は更に増える予定です。

Q.ヒューマノイドの社会実装にはどのような能力が必要ですか。

1つの身体と3つの能力が必要です。「本体(身体)」「会話能力」「作業能力」「運動能力」です。当社はハードとソフトの全てを開発し、フルスタック技術として用意しています。

AgiBotの「AIマスター」アーキテクチャの全容。青の要素は自社開発、水色は連携パートナーと共同で開発。大脳モジュール(VLA・LLM・タスク計画など)と、小脳モジュール(モーター制御・バランス制御・PID制御・MPC:モデル予測制御など)としてカテゴライズしている。

AgiBotは「汎用エンボディドAIロボット + エコシステム構築」を目指している。そして更に、2024年末~2025年にかけて大規模な実機データの収集ファクトリー(エンボディドAIのデータ収集センター)を設立している。

多数のヒューマノイドや業務AIロボットに実タスクを実行させ、センサーや環境データを収集する「データ収集 + 学習基盤」を運営。2025年3月には最初の汎用基盤モデルとして「GO-1」(ゴーワン)を発表(オープンソースとしてリリース済み)。

「AgiBot世界(AgiBot World)」と呼ばれる大量のデータセットとともにプラットフォーム「AIマスター」も公開している。
これによって「ロボット本体 + 大量の実機データ収集 + AIモデル学習基盤」という一貫した「フルスタック/フルパイプライン (full-stack / full-pipeline)」を持つまでに至っている。

Q.例えば、NVIDIAのプラットフォームに詳しい日本の技術者が、AgiBotのヒューマノイド本体とNVIDIAのプラットフォームを使って開発することもできますか?

はい、できると考えています。NVIDIAはとても多くのツールやプラットフォーム、データやモデル、APIなどを既にたくさん持っています。当社はNVIDIAとも一部連携しているところもあるので、NVIDIAに既に慣れている技術者が「Sim2Real」にNVIDIAのCUDA、Isaac、Omniverse、GR00Tなどを使って開発することもできると考えています。
ただ、機能的には当社のプラットフォームにも、VLAモデルや世界モデル、ロボット基盤モデルなど多くのツールやモデル、データセット類を用意しています。
私たちは、ロボットのトレーニングデータは複数の方法で収集すべきと考えています。2024年5月に設立した大規模な施設では実機からのデータを収集していますが、それだけでなく「Sim2Real」(シミュレーション)で生成したデータ、インターネット動画から学習したデータなどもトレーニングデータとして活用できます。

Q.「A2」「X2」「G2」は共通のプラットフォームで開発できますか。例えば、「G2」で開発して成熟したタスクをそのまま「A2」に適用するなど。

社内開発では機種ごとに性能を競っていることもあり、それぞれの機種の本体側は異なるプラットフォームで制御しています。APIやSDKを通じて共有することはできます。また、もちろん共通している部分もありますが、そのまま移植するという構造ではありません。私たちは導入する環境や用途を詳しく聞いて、どの機種でどのように開発していくのが効率的かを一緒に考えさせていただきます。

「2025国際ロボット展」(iREX 2025)は、2025年12月3日~6日まで、東京ビッグサイトで開催される。展示ブースでは動画ではなく実際に動いているヒューマノイドが見られるデモも行われる。注目が高まっているヒューマノイド関連企業のひとつAgiBotも要チェックだ。

《神崎 洋治》

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神崎 洋治

神崎 洋治

神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。

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