国際ロボット展で安川電機とソフトバンクは「AI-RAN」を活用したロボット協働のデモを披露した。AI処理をクラウドでもロボット内でもなく、5G/6Gネットワークの“すぐ近く”に置くという新しいアプローチだ。

この技術はロボットの知能化をどこまで加速し、産業の現場をどう変えていくのか。ソフトバンクの湧川隆次所長に、AI-RANの利点と今回のデモの狙いについて話を聞いた。

■フィジックスAI、MEC AIがロボットの役割を拡張する
湧川所長は、今回の国際ロボット展では多くの企業がロボット向けAI「フィジックスAI」を掲げている点を指摘する。
今回のデモはそれに加え、ロボット側のエッジAIに加えて、通信基地局近くに配置した「MEC AI」 が推論をおこなう構成になっている。


従来のロボットは、特定の処理を正確に繰り返す作業に向いていた。しかしMEC AIが環境データや映像を解析し、複数ロボットに対して状況に応じた指示を出すことで、「ロボットたちが新しいタスクをこなせるようになる」「これは技術的なブレイクスルーです」と湧川所長は強調する。
Q.今回、安川電機のロボットとソフトバンク「AI-RAN」が連携したデモを公開しましたが、ロボット活用において「AI-RAN」はどのようなメリットがありますか。
(湧川所長)
今回の国際ロボット展では、多くの企業がロボット向けのAI「フィジックスAI」や「フィジカルAI」を掲げて、ロボット作業の効率化にAIを使う提案をしています。今回のデモは、ロボット向けのエッジAIだけではなく、5Gネットワークの先、通信基地局のすぐそばにもうひとつの「MEC AI」があるという構成になっています。
従来からロボットは特定の処理を繰り返し、正確な作業を自律的におこなうことに適しています。「MEC AI」は様々な環境や作業のデータを蓄積し、映像の解析などをおこなうことで、「MEC AI」が推論をおこない、複数のロボットたちに対して環境に応じた指示を出しています。
そうすると、今まで単一の作業に特化していたロボットたちが、状況に応じて「MEC AI」がスマートな判断をおこなって新しいタスクが実行できるようになります。
私たちは、これは技術的なブレイクスルーだと感じています。

■1台の高性能GPUを複数ロボットで共有できる ― AI-RANの経済性
ロボットにGPUを搭載する知能化方式は一般的だが、ロボットの台数の分だけGPUが必要になり、コストや電力消費が増大する。その点、AI-RANでは基地局のすぐそばに高性能GPU(Grace Hopperなど)を配置するため、1基の高性能GPUを「複数ロボットの頭脳」として共有できる。
(湧川隆次氏)
従来から、ロボットにGPUを搭載することで知能化する手法がありますよね。ただ、その方法はロボットの数だけGPUが1基、2基と必要になり、システム構成の価格も高額になります。GPUは電力消費が大きいので、GPUをたくさん積むとバッテリー型のロボットは稼働時間が短くなります。
一方、AI-RANでは私達がネットワークの先、エッジに近い基地局のすぐそばにグレースホッパーなどの高性能なGPUを設置することで、ネットワークとAIの両方を効率的に動かすことができます。しかも、1基の高性能GPUを搭載したMECを、例えば10台のロボットの頭脳として共有することができます。とても経済的で効率的な環境を構築して運用することができます。
実際にこのような世界観を本当に実現するためには、ロボティクス技術と通信技術にAIの技術を組み合わせて新しいアーキテクチャを作っていくことで、リアリティのある世界観が作れるのではないかと感じています。
ソフトバンクとしては、通信ネットワークとAIのモバイルエッジの部分(AI-RAN)の部分を提供します。ロボットの知能化技術の一部分をMEC AIが担います。
■ 安川電機をパートナーに選んだ理由
今回のデモのパートナーには、産業ロボットの世界的メーカーである安川電機を選んだ。湧川所長は「私たちは通信とAIのプロですが、ロボティクスでは先進的なパートナーが必要」と語る。
Q.パートナーに安川電機を選択した理由はなんでしょうか?
私たちは通信やAIのプロですが、ロボティクスにおいて先進的なプロの力をお借りする必要があります。安川電機さんはご存じのように日本だけでなく世界的にみても非常に高い技術力を持っています。様々な種類のロボットをラインアップされています。エンジニアリング志向が強く、この連携が決まってから、現場も最大限の努力でアーキテクチャから開発、アップデートを繰り返しながら積極的に動いて頂いています。
そして何より、社長や経営陣の方々が「フィジックスAI」と「AI-RAN」、そのビジョンに対して大きな賛同を寄せてくれているのも理由のひとつです。とはいえ、エクスクルーシブな連携ではありません。
■ロボットが課題を“自律的に解決する”世界 ― デモの見どころ
Q.今回のデモでは実際に「AI-RAN」を構築していますか?
展示会の環境では、モバイル環境で実際のAI-RANを構築してお見せするのは困難なので、AI-RAN導入によってロボットとの協働がどう変わるのかを来場者の方にイメージしてもらえるようなデモにしています。
世界観としては、ロボットを5Gや6Gに接続して、基地局の側にあるMEC AIと連携することによって、低遅延でリアルタイムのようにAIと連携して動いていく環境は、AI-RANでこそ実現できると考えています。
Q.今回のデモの中で、AI-RANだからこそ実現できる、効率的になるというポイント、見どころを教えてください。
例えばデモの中では、新人研修の準備をしているヒューマノイドが「スマホが足りない」という問題点をロボットが発見します。その場合、従来は人に通知が届いて人がその問題点に対してどう対処すべきか対応する、という流れが一般的です。
AI-RANのある社会では、そこを人ではなくAIが自律的にロボットとコミュニケーションして、倉庫のデータベースを確認しながら適切な対処方法を検討し、かつAIが他のロボットに指示を出して解決していきます。人とAIエージェントがコミュニケーションしながら解決していくやりとりを、ロボットとAIエージェントで自律的に判断して実行していく環境を描いています。

コミュニケーションや判断をしてロボットに指示を出すためには、リアルタイムに通信して高度に推論する環境が必要です。今回のデモでは、ロボットとの連携作業をスムーズに進めるために、5Gや6G通信環境においてAIがすぐ近くにある「AI-RAN」が重要、という提案をさせて頂きました。

■まとめ
AI-RANは「ロボット自身がすべての知能を持つ」という従来の発想を超え、ネットワーク側に置いた低遅延のAI環境が複数ロボットを束ねる共有知能モデルを提案する。安川電機との協業は、その実装に向けた大きな一歩となる。
ロボティクス・通信・AIの境界線が溶けていく中、AI-RANが実現する世界は、次世代ロボットの姿を大きく変えていきそうだ。







