2026年3月、米サンノゼで開催された「GTC2026」において、NVIDIAの創業者兼CEOジェンスン・フアン氏は、AIの次の進化段階として「エージェントAI(Agentic AI)」の時代の到来を強く打ち出した。その中核の一つとして位置づけられたのが、AIエージェントの実行基盤である「OpenClaw」である。

フアン氏は「OpenClawはパーソナルAIのOSである」と述べ、MacやWindowsになぞらえながら、その重要性を強調した。AIが単なる応答生成を超え、自律的にタスクを実行する主体へと進化する中で、その基盤となる新たなソフトウェアレイヤーを示した形だ。

OpenClawとは何か
OpenClawは、AIエージェントを構築・実行するためのオーケストレーションフレームワークである。複数のAIモデルやツール、外部サービスを統合し、目標に基づいて自律的に計画・実行する「エージェント型AI」を実現する。

従来のAIが「入力に対して応答を返す」存在であったのに対し、OpenClaw上のエージェントは、
タスクを分解し計画を立てる
必要なツールやサブエージェントを呼び出す
複数ステップにわたり処理を継続する
といった一連の行動を自律的に実行する。
また、複雑なタスクに対応するためには、長時間にわたって文脈を維持する「ワーキングメモリ」や、ツール間の連携制御が不可欠であり、OpenClawはその基盤として機能する。


「AIのOS」から「実装」へ NemoClawの登場
今回のGTCで特に重要なのは、OpenClawの概念提示にとどまらず、その実装基盤として「NemoClaw」が発表された点である。
NemoClawは、OpenClawコミュニティ向けに提供されるNVIDIAの統合スタックであり、
AIモデル(Nemotron)
セキュアな実行環境(OpenShellランタイム)
開発・最適化ツール群
を単一のコマンドでインストール・統合できる。


これにより、開発者はクラウド環境からオンプレミス、さらにはRTX搭載PCやDGXシステムに至るまで、同一の環境でAIエージェントを構築・実行することが可能となる。
安全性と“常時稼働エージェント”
NemoClawの大きな特徴は、セキュリティとプライバシーを前提とした設計にある。
AIエージェントは、
機密データへのアクセス
外部ツールの利用
コード実行
といった強力な機能を持つ一方で、リスクも伴う。
これに対しNemoClawは、
分離されたサンドボックス環境
ポリシーベースのアクセス制御
ネットワークおよびデータのガードレール
を提供し、安全な実行基盤を実現する。
また、ローカルモデルとクラウド上のフロンティアモデルを組み合わせる「ハイブリッド構成」により、プライバシーを確保しながら高度な処理を可能にする点も特徴だ。
一方で、エージェント型AIにはセキュリティや制御の課題も指摘されており、実運用には慎重な設計が求められる。その点も反映されている発表となった。
「常時稼働するAIアシスタント」の実現へ
NVIDIAは、エージェントを“常時稼働(Always-on)”する存在として位置づけている。
NemoClawは、
RTX PC
ワークステーション
DGX Station / DGX Spark
といったローカル環境でも動作し、ユーザー専用のAIアシスタントを24時間稼働させることを可能にする。これにより、AIはクラウド上のサービスから、個人の手元で動く「パーソナルインフラ」へと進化しつつある。

ソフトウェアの次の形へ
今回の発表は、単なる新技術の紹介には留まらない。AIが“応答する存在”から“行動する存在”へと進化する中で、その基盤となるソフトウェアの構造そのものが変わろうとしている。
従来のSaaSに対し、「Agent as a Service」への移行が示唆される中、NVIDIAはGPUによる計算基盤に加え、この「AIのOS層」とその実装まで着手している。OpenClawとNemoClawは、その転換点を象徴する存在と言えるだろう。
NVIDIAはGPUに加え、AIモデル、実行基盤、そしてエージェントのオーケストレーション層までを一体化することで、AIエコシステム全体のリーダー的存在を目指す。







