NVIDIAは2026年3月16日に開幕した世界最大規模のGPUとAIイベント「GTC 2026」において、自動運転関連のVPであるAli Kani氏が報道関係者からの質問に答える「プレス・ブリーフィング」を開催した。ロボスタ編集部もこれに参加し、NVIDIAが描く自動運転のビジョンを確認した。

■「CES 2026」で自動運転車開発向け「Alpamayo」を発表
まずは今年に入ってからのNVIDIAが自動運転分野に向けて発表したニュースを振り返っておこう。
NVIDIAは2026年1月の「CES 2026」で、自動運転車開発向けの「NVIDIA Alpamayo」(アルパマヨ)ファミリーを発表した(関連記事「NVIDIA CEOが「CES」で発表したニュースまとめ 次世代AI基盤「Vera Rubin」から「フィジカルAI」まで」)。

「Alpamayo」とは?
「Alpamayo」は自動運転向けオープンAIモデル群であり、ロボタクシーや自動運転バス、自家用車などにおける自動運転開発を推進するプラットフォームだ。
「Alpamayo」は主な構成として、100億パラメータ級のリーズニング型教師モデル「Alpamayo 1」(Hugging Faceで公開)、「車載/エッジ向け推論型VLAモデル」(Vision-Language-Action)、オープンソースの自動運転向け物理シミュレータ「AlpaSim」、1,700時間以上の実走データセット「Physical AI Open Dataset」などが用意されている。
そして「Alpamayo」の社会実装の先駆けとしてMercedes-Benzの新型CLAモデルに同社のDRIVE AVを導入し、自動運転機能を搭載する計画も発表した。

今回の「GTC 2026」では「Alpamayo」の最新情報として「最新版 1.5のリリース」が発表された。それに加えて、一部の報道関係者向けにMercedes-Benzの新型CLAモデルの自動運転機能の試乗会を開催した。試乗車はサンノゼの市街地を40分間、自動運転で走行した。(関連記事「NVIDIA×メルセデス車で自動運転AI「Alpamayo」を体験 テスラやウェイモとの違いを解説/考えて走るAIの実力【GTC 2026】」)
■NVIDIAの自動運転戦略の全体像
カニ氏は今回のブリーフィングで、まずNVIDIAの自動運転戦略の全体像から説明を始めた。
「今回のGTCで我々にとって重要だったポイントを簡単に説明します。ご存じの通り、ジェンスン・フアンCEOは“NVIDIAは5層のケーキ構造を持っている”と話しています。これが最も明確に、そして最も完成度が高く表れているのが自動車分野です」
カニ氏はそう切り出し、自動運転領域におけるNVIDIAのプラットフォーム構造を整理した。
「自動車分野では、最下層にプラットフォームがあります。これが『Hyperion』です。これは単なるチップではありません。自動運転車のためのフルスタックのアーキテクチャです。その上にモデル、その上にアプリケーション、そして最上位にインフラがあります」

テスラとの連携(関係性)
この構造について、カニ氏はNVIDIAの最大の特徴を次のように強調した。
「NVIDIAはこのスタック全体を自社で構築し、しかもそれを実際にプロダクションにまで進めている世界で唯一の企業です。最も近いのはTeslaですが、彼らは車載チップ、モデル、アプリケーションは自社で開発している一方で、インフラではNVIDIAと協業しています」
さらに重要なのは、このスタックがモジュール化されている点だと付け加えた。
「我々の強みは、このスタックがモジュール化されていることです。パートナーは、自分たちが必要な部分だけを選んでNVIDIAと組むことができます。これがエコシステムの核になっています」
そのエコシステムが、今回のGTCでより明確になったとカニ氏は語る。
「今回のGTCで我々が非常に誇りに思っているのは、世界中のほぼすべての自動運転企業が、このスタックのどこかのレイヤーで、NVIDIAと連携していることがはっきり見えてきた点です」
Waymo(Google/アルファベット)との連携(関係性)
次にカニ氏は、複数の企業を挙げて具体例を紹介した。
「例えば、Waymoは最近、ロボタクシーの展開都市を10都市に拡大しましたが、彼らは車載でもクラウドの学習でもNVIDIAを使っています。Teslaもロボタクシーの展開を進めていて、インフラ面で我々のGPUを大量に使い、VLA(ビジョン・ランゲージ・アクションモデル)をトレーニングしています」

ロボタクシーやAVソフト企業が続々と導入
さらに、日本メーカーにも言及した。このエコシステムは「自動車OEM」「AVソフト企業」そして「ロボタクシー」事業者までも包含している。
「日産自動車はHyperionにアラインし、ロボタクシー対応車を開発しています。AVソフト企業やUberとも連携しています。これが我々のプラットフォーム・エコシステム戦略です。
東欧のBolt、東南アジアのGrab、欧米のLyftなど、地域ごとに主要なロボタクシー事業者を含め、すべてがこのエコシステムの中でつながっています。こうした形で全体をカバーしている企業は、実質的にNVIDIAだけだと言えます」(関連記事「2028年までに28都市でロボタクシー展開へ NVIDIAとUberの提携拡大、いすゞや日産、BYDなども開発を加速」)
Alpamayo1.5の発表
その上で、今回のGTCで「すべてのレイヤーで新しい発表があった」ことを強調した。まずモデル層では、自動運転AIモデル「Alpamayo」の新バージョン1.5が発表されている。
「Alpamayoはレベル4自動運転に不可欠な技術です。これは“推論できる言語モデル”です。なぜ重要かというと、自動運転ではすべての状況のデータを事前に集めることは不可能だからです。未知の状況に対応するには、モデル自身が推論して安全な判断を下せるようになる必要があります。
「Alpamayo 1.5では、テキストプロンプトに対応し、ナビゲーション情報も入力として扱えるようになりました。つまり、車がどこへ行こうとしているのかを理解した上で、目的地情報を踏まえて、より適切な走行軌道を生成できるようになりました。また、推論性能も大幅に向上しています」
NVIDIAは今後2年間で28都市に展開
アプリケーション層についても、NVIDIAは単なる技術提供にとどまらない。
「我々はフルスタックの自動運転ソフトウェアも自ら開発しています。そして今後2年間で28都市への展開を予定しています。Waymoは現在10都市で、将来18都市を計画していますが、我々も28都市での展開を見据えています」

この点についてカニ氏は、「顧客にはスタック全体はもちろん、必要なレイヤーだけでもエコシステムとして提供できること」がNVIDIAの強みだと強調した。さらにインフラ層では、2つの重要技術が紹介された。
インフラ層での2つの強み
インフラ層での重要技術の1つは「Cosmos」ワールドモデル(Cosmos世界モデル)、もう一つは「NVIDIA Neural Reconstruction(NuRec)」である。
「Cosmos世界モデル」についてはロボスタで何度も取り上げているので詳細は割愛するが、「NuRec」は実世界のカメラやLiDARのセンサーデータを「NVIDIA Omniverse」上で高精細な「3D Gaussian Splatting(3Dガウス点群)」ベースのシーンへと瞬時に変換する技術群を指す。主に自動運転車やロボティクス開発でのシミュレーションにおいて、現実空間をデジタルツインとして再現するために活用されている。
「自動運転では、実際の走行データから失敗したケースを取り出し、それをシミュレーションで再現する必要があります。そしてCosmos世界モデルを使えば、その状況に無限のバリエーションを与えることができます。例えば、左折で失敗したケースをベースにして、歩行者を増やしたり、車を増やしたり、交差点を変えたりする。バリエーションを増やして対応することでAIモデルを徹底的に鍛えるのです」

この開発ループこそが、自動運転開発の核心だとカニ氏は語った。
実データ vs 合成データ 比率はどうなるのか
路上で取得した実際のデータ量と、デジタルツインで生成したデータ量の具体的な数字やそれぞれの割合について質問すると、カニ氏からは明確な回答があった。
「現在、我々のスタックは約500万時間のデータでトレーニングされています。その前段階として、ネットを活用した約2000万時間のデータで事前学習されています」
一方でカニ氏は、単なるデータ量の競争ではないと説明を続けた。
「重要なのは量ではなく質です。我々は消費者の車両からすべてのデータを収集するわけではありません。AIが『これは珍しい事象だ』『この場面は認識の信頼度が低い』と判断した「ロングテールのデータ」(レアケースのデータ)を中心に収集します」
さらに今後は、合成データの比率が現実データを上回るようになるという。
「現実ではほとんど遭遇しない状況、例えば道路上の障害物や動物などを、シミュレーションでは無限に生成できます。ロングテールに特化した合成データは非常に価値が高いのです」
次世代チップ「Thor」は従来のOrinの約4倍の性能
ハードウェアについても言及があった。次世代チップ「Thor」(ソー)は従来の「Orin」(オーリン)の約4倍の性能を持つというものだ。ロボスタ編集部が試乗したメルセデス・ベンツ車は車載用に「Orin」を採用しているが、今後VLAをさらに高度化していく上では、より強力なThorの重要性が増していくことになる。試乗した際に説明員は、VLAが進歩した仕様では「Thor」を2基搭載することを視野に入れている、と説明してくれた。
カニ氏によれば、「Thor」はBlackwellベースで最大約2000 FP4 TOPSの性能を持ち、消費電力は「Orin」と同等水準でありながら、性能は約4倍に向上しているという。結果として、性能/ワットも大きく改善されるとした。
特に重要なのは、FP4によるメモリ効率だ。
「大規模モデルはメモリ帯域に制約されます。FP4はより効率的で、同じモデルをより少ないメモリで動かせる。これはコスト面でも非常に大きなメリットです」
“Compute is data”の意味
最後にカニ氏は、自動運転開発における本質的な競争軸について語った。
「重要なのは実際のデータ量ではありません。重要なのは開発フローの速度です。車からクラウドへ、データを取り込み、処理し、学習し、テストし、改善する。このループをどれだけ速く回せるかです」
その中核を担うのが、開発自動化基盤である。
「例えば『歩行者がいる無保護左折のデータを集めて欲しい』と指示すれば、データ検索、ラベリング、前処理まで自動で実行される。これによって開発速度は劇的に向上します」
そして、ジェンスン・フアンCEOが繰り返し述べている言葉の真意をこう解説する。
「“Compute is data”という言葉の意味は、単にデータが重要だということではありません。計算力、合成データ、シミュレーション、そして開発パイプライン。それらすべてを統合した能力こそが競争力になる、ということです」

この発言から見えてくるのは、自動運転の競争が「データ量」から「開発速度とパイプライン」へと完全に移行しつつあるという現実だ。
自動運転システムの開発は次世代フェーズへ
今回のAli Kani氏の説明から強く感じることは、NVIDIAが自動運転開発全体の基盤を用意し、必要なレイヤーだけを提供しようとしていることだ。
Hyperionによる車載プラットフォーム、Alpamayoによる推論型VLAモデル、Cosmos世界モデルとNuRecによる合成データ生成・再現シミュレーション、さらに開発フローを高速化する自動化基盤までを一体で提供することで、自動運転の競争軸を「どれだけ多くのデータを持つか」から「どれだけ速く学習・検証・改善を回せるか」へと移そうとしている。
とりわけ印象的だったのは、カニ氏が繰り返し強調した「重要なのはデータ量ではなく、開発フローの速度だ」ということ。ロングテールの実データを選別し、それをCosmosやNuRecで増幅し、クラウド側で学習と検証を高速に回す。この一連の仕組みを持つ企業こそが、次の自動運転競争を優位に進める。
自動運転の競争はもはや「どれだけデータを持つか」ではなく、「どれだけ速く学習し、失敗を再現し、改善できるか」。その開発速度こそが勝敗を分ける時代に入った。







