GoogleやNVIDIA、Scale AIと連携 トロンが示すヒューマノイド/フィジカルAI時代のデータ戦略

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GoogleやNVIDIA、Scale AIと連携 トロンが示すヒューマノイド/フィジカルAI時代のデータ戦略
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ヒューマノイドやフィジカルAIへの注目が世界的に高まる中、多くの製造業企業が「何から始めれば良いのか」という問いを抱えている。

ロボスタカンファレンス2026で講演したトロン株式会社のCEO和嶋渓氏は、「ユーザー企業が今コントロールできるものは限られている」と指摘。その上で、ハードウェアやAIモデルの競争を見守りながらも、自社の現場データを蓄積することこそが、将来のフィジカルAIやヒューマノイド活用に向けた最重要課題だと語った。

トロン株式会社 代表取締役社長 和嶋渓氏

トロンはGoogle DeepMind、NVIDIA、Scale AI、Prevu3Dなど海外有力企業とのパートナーシップを構築し、さらにDEXMATE、i2RT Robotics、LimX Dynamicsなどのロボットメーカーとも連携しながら、製造業向けのロボティクス実装やデジタルツイン構築に取り組んでいる。本講演では、フィジカルAI時代に向けた「データ戦略」の重要性について解説した。

トロンはロボスタカンファレンスに、フルサイズのヒューマノイドを含む3体を稼働可能な状態で展示。人だかりができていた

■フィジカルAI時代、日本の製造業は何を準備すべきか

講演冒頭、和嶋氏はトロンの事業内容を紹介した。
同社は2024年設立のスタートアップで、工場デジタルツインとAIロボティクス活用を中心に事業を展開している。具体的には、Google DeepMindのGemini Robotics Trusted Partner、NVIDIA Omniverse Partner Council Japan、Scale AI公式日本パートナーなどとして活動。海外の先進技術を日本の製造業へ導入する一翼を担う。

「フィジカルAI事業の3本柱」とグローバルな企業連携

また名古屋のSTATION Aiにロボットラボを開設し、ヒューマノイドや移動ロボット、ロボットアームを用いた実証実験やデータ収集も進めている。

■ユーザー企業が唯一コントロールできるのは「データ」

和嶋氏は現在のフィジカルAI競争について「ハードウェアは中国、AIモデルは米国が先行している」と分析する。
Tesla、Figure、Agility Robotics、Unitree、LimX Dynamicsなど、米国と中国を中心に激しい開発競争が繰り広げられている一方で、ユーザー企業はその競争結果を直接コントロールすることは難しい。
しかし、ユーザーがユースケースと需要を生み出すことで、国内産業の活性化の起点になる、と語る。

では何ができるのか。
和嶋氏は「ユーザー企業が唯一取り組めるのはデータ」と断言。製造現場や建設現場には、その企業でしか取得できない作業データや運用データが存在する。将来どのAIモデルが主流になったとしても、現場固有のデータはユーザー自身しか準備できないことを強調した。

■フィジカルAI競争の源泉は「データ」にある

和嶋氏はフィジカルAI産業の成長構造を「フライホイール」で説明した。
「良質なデータがモデルを育てる」「優れたモデルは新しいユースケースを生み出す」「ユースケースはロボットの進化を促す」そして「実装されたロボットが新たなデータを生み出す」。こうした循環が産業全体の発展を支えるとした。

現在のフィジカルAIブームではヒューマノイド本体やAIモデルに注目が集まりがちだが、実際にはデータが競争力の源泉になっているとの考えを示した。

■ロボットデータ不足を補う「作業者マルチモーダルデータ」

更に講演で興味深かったのが、作業者マルチモーダルデータの活用だ。
従来はロボットを遠隔操作(テレオペレーション)して、カメラ画像を中心に学習データを収集する方法が主流だった。しかし、この方法はコストが割高になり、大量のデータ収集も難しい。
そこでトロンは、人間の作業者にカメラだけでなくセンサーを装着し、手や身体の動きをAIで解析して高精度にデータを取得・記録する手法に注目している。取得されたデータには手の21キーポイントや6自由度情報などが含まれ、単なる映像ではなく、ロボットが学習可能な動作データとして利用できる。

和嶋氏によれば、この手法を活用することでロボットの学習に必要なテレオペレーションによるデータ収集工数を大幅に削減しつつ、大量のデータを収集できるとした。
さらに同じデータセットを異なるロボットへ転用できるため、学習効率向上も期待される。

■世界最大級のデータ企業「Scale AI」と連携

トロンはデータ収集分野で、米Scale AIと協業している。Scale AIはAI学習データの収集・アノテーション分野で世界最大級の企業として知られる。
和嶋氏は、日本の製造現場から取得した高品質データを活用し、ユーザー企業向けのポストトレーニングや、将来的にはモデル開発企業へのデータ提供も視野に入れていると説明した。製造業データそのものが資産価値を持つ時代が近づいていることを示唆する内容だ。

Scale AIとのパートナーシップ連携

■デジタルツインは未来への投資ではなく今使える

講演後半では工場デジタルツインについても紹介した。
近年は3D Gaussian Splattingや高性能スキャナの普及により、従来より低コストかつ短期間で工場空間をデジタル化できるようになった。

和嶋氏は、こうした空間データが将来の世界モデルや合成データ生成の基盤になると説明。更に、現時点でもレイアウト変更や設備設計、遠隔現地調査などに活用できると語った。
つまりデジタルツインは「将来のためだけの投資」ではなく、今の生産性向上にも直結するという考え方だ。

4万㎡を1週間でデジタル化した事例も。工場空間データのベースライン

■フィジカルAI時代は「データの二毛作」が鍵になる

講演の締めくくりで和嶋氏は、フィジカルAIへの備えを単なる将来への投資として捉えるべきではないと強調し、これを「データの二毛作」と表現した。作業データや工場データを、現在は業務改善や生産性向上に活用しながら、将来的にはロボットやAIの学習データとしても利用する。
こうした発想によって、現場DXとフィジカルAIへの備えを同時に進めることができるという。

トロンの展示コーナー

ヒューマノイドやフィジカルAIの未来を語る講演は数多い。しかし今回の講演が特徴的だったのは、「将来どのロボットが勝つか」ではなく、「ユーザー企業は今何をすべきか」に焦点を当てていた点だ。

トロンの展示コーナー

フィジカルAI時代の競争力は、どのロボットを選ぶかだけでは決まらない。自社の現場でどれだけ高品質なデータを蓄積し、それを将来のAI学習資産へ転換できるか。和嶋氏の講演は、その準備を今から始めるべき、という明確なメッセージだった。


《ロボスタ編集部》

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