株式会社Highlandersは、アマゾン ウェブ サービス ジャパン(AWSジャパン)が開催した「フィジカルAI開発支援プログラム by AWSジャパン」の成果発表会で、国産ヒューマノイド「N」と四足歩行ロボット「HLQ PRO」、独自の世界行動モデル(World Action Model:WAM)「Kepler」の開発状況を発表した。

同社はロボットの機構、電装・制御、通信・クラウド、AIから量産・品質管理までを一貫して手掛ける。しかし、その狙いはロボットの開発だけにあるのではない。

量産機を実世界へ展開し、フィジカルAIに欠かせない高品質な学習データを継続的に集めることにある。

■「本当にやりたいのはAIの開発」
Highlandersは2023年創業の東京大学発スタートアップ。若手の研究者やエンジニアを中心とする開発チームを組織し、ロボットのハードウェアとソフトウェア、フィジカルAI基盤モデルを自社で一貫して開発している。

同社が開発する「HLQ PRO」は、危険・過酷な環境での利用を想定した四足歩行ロボット。背面にロボットアームを搭載することができ、人が立ち入りにくい災害現場などを移動して、状況の確認やセンサーの設置といった作業を担うことを目指す。

展示したもう一方の「N」は、人間と同じ空間で軽作業を行うことを想定した国産ヒューマノイド。全身31自由度と5指ハンドを備え、製造や物流などでの活用を視野に入れる。Highlandersは三菱自動車工業と共同開発・量産に向けた協業を進めており、成果発表では2027年4月ごろの量産出荷を見込んでいると説明した。

ロボットを2機種開発し、量産まで進める同社だが、Highlanders代表の増岡氏は、自社について「ロボットの会社だとよく言われる」とした上で、「本当にやりたいのはAIの開発」と語った。この言葉に、同社の事業構想が端的に表れている。

■ロボットの量産を「データ戦略」に位置付ける
画像生成AIや大規模言語モデルは、インターネット上に蓄積された大量の画像や文章を学習に利用できる。一方、現実世界で行動するフィジカルAIには、カメラ映像だけでなく、接触時の力、関節に加わる負荷、慣性センサーの値など、ロボットが実際に動くことで得られるセンサーデータと行動データが必要になる。
そこでHighlandersは、ロボットそのものを学習データの収集基盤と捉える。ただし、実機を数多く配置すればよいというわけではない。100台、1000台へと展開したとき、どの機体からも統計的に一貫したデータを取得できることが重要になる。さらに、長時間稼働の最初と最後で機体特性が大きく変わらない品質も求められる。
機体ごとのばらつきが大きければ、収集するデータの統計的な一貫性を保つことが難しくなる。同社が機構や制御だけでなく、量産技術と品質管理まで自社の開発領域に含める理由がここにある。量産は製品供給の手段であると同時に、質のそろった実世界データを大規模に集めるための基盤なのである。

■100億パラメータの世界行動モデル「Kepler」
Highlandersがこうした実世界データを使って開発しているのが、100億パラメータ規模の世界行動モデル「Kepler」である。同社はKeplerを、ヒューマノイドが周囲の世界を知覚し、次の状態を予測しながら行動を生成するモデルと位置付ける。
Keplerは、大きく「計画層」と「反射層」の二層からなる。計画層は環境の状態を把握し、次に何をすべきかを比較的長い時間軸で考える。反射層は計画に沿って全身を高速に制御し、状況の変化に対応する。人間に例えれば、行動を組み立てる思考と、身体を即座に動かす反射を組み合わせる考え方である。
さらに、量産したロボットから収集した経験データを学習へ戻し、モデルを改善して再び機体へ展開する循環を構築する。ロボットの普及によってデータが増え、モデルの性能が上がり、性能向上が導入を後押しする仕組みを目指している。
■AWS上に24時間365日稼働する学習パイプラインを構築
AWSの開発支援プログラムでHighlandersが取り組んだのが、Keplerの開発を支えるフィジカルAIパイプラインの構築である。同社はAWSのソリューションアーキテクトやフィジカルAIチームと議論を重ね、データの収集からシミュレーション、モデル学習までをつなぐ構成を整えた。
実機の遠隔操作などで得たデータは、AWS上のデータパイプラインで抽出、変換、選別する。実環境だけでは集めにくい失敗例やまれな状況については、「NVIDIA Isaac Sim」による並列シミュレーションで合成データを生成する。実データとシミュレーションデータを組み合わせた大規模学習には「AWS ParallelCluster」を利用し、必要に応じてGPUリソースを確保する構成とした。
これにより、データの蓄積、シミュレーション、学習、評価、実機への反映を継続的に回す、24時間365日の学習基盤を目指す。クラウドはロボットの外部にある計算資源というだけではなく、多数の実機から集まるデータを統合し、次のモデルへ変換する中枢となる。

■ハードウェアとAIを循環させるフィジカルAI企業へ
Highlandersの取り組みで特徴的なのは、ヒューマノイドや四足歩行ロボットと世界モデルを別々の製品として扱わず、一つの循環として設計している点である。均質な量産機を実世界に展開し、現場で得たデータをクラウドへ集約する。そのデータでKeplerを改善し、新しいモデルを再びロボットへ届ける。
生成AIの発展を支えたのがインターネット上の膨大なデータであったとすれば、フィジカルAIでは実世界を経験するための身体と、その身体を一定品質で広げる量産力がデータ基盤になり得る。国産ヒューマノイド「N」の量産構想は、ロボット事業であると同時に、Highlandersが独自のフィジカルAIを育てるための戦略でもある。







