西武鉄道は、ugo(ユーゴー)と連携し、国産フィジカルAIロボット『ugo mini(ユーゴーミニ)』を活用した変電所の点検業務の実証実験を10月1日から開始した。
将来的な労働力不足に対応するため、保守係員の移動時間削減と点検データの蓄積・活用を進める。国産フィジカルAIロボットを変電所に常駐させる取り組みは、業界初という。
実証実験は2027年3月31日まで、西武鉄道の池袋変電所(東京都豊島区)で実施する。ロボットを常駐させ、遠隔監視と自動巡回による新たな設備保守体制の構築をめざす。
◆34カ所の変電所を約20人で保守
西武鉄道は東京都と埼玉県の沿線34カ所に変電設備を保有している。電気関係の係員が勤務する事務所は7カ所あり、このうち変電所の保守を担当する拠点は4カ所だ。変電所の保守には各拠点で5~6人、合計約20人が従事している。従来は係員が2人1組で現地を巡回し、月2回程度の点検を実施してきた。
変電所は広範囲に点在しており、保守拠点からおおむね15km圏内に収まるものの、遠方に位置する施設もある。西武鉄道鉄道本部電気部電力課の青木啓史課長補佐は、横瀬変電所(埼玉県横瀬町)を例に挙げ、現地まで事務所から片道約1時間、往復で約2時間を要すると説明した。
ロボットを現地に常駐させれば、係員が移動することなく、事務所から設備の状態を確認できる。異常発生時の初動確認も迅速化できる。青木課長補佐は、導入の目的について、人員削減ではなく移動時間の削減にあると説明する。移動に費やしていた時間を修繕計画の立案や点検データの分析など、より高度な業務に振り向ける考えだ。
青木課長補佐は「生産年齢人口の減少は、社会課題として大きく影響を受けている。インフラを維持していくことは大きな課題だ。われわれは広域に及ぶ鉄道の電気設備、路線を運営しており、現場に行くだけでもかなり時間がかかる。移動という課題を解決したい」と、実証実験の目的を説明する。

◆人の月2回からロボットの1日3回へ
今回導入した『ugo mini』は、ugoが国内で開発・製造する設備点検用のフィジカルAIロボットだ。車輪によって自律走行する小型ロボットで、重量は約16kg。伸縮機構を備えたカメラ部分は高さ約180cmまで上昇する。
先端には4Kカメラを搭載し、向きを変えながら設備を撮影できる。3D LiDAR(ライダー)による周囲の認識機能も備え、設備の間を自律的に移動する。AIを使ってアナログメーターやデジタルメーターの表示を読み取り、数値をデータ化することが可能だ。異常値を検出した場合には、自動で通知する機能も備える。
池袋変電所では、現在、7時、13時、19時の1日3回、自動巡回による点検を実施している。従来の人による月2回程度の巡回と比べ、設備の状態を高い頻度で記録できるようになった。青木課長補佐によると「1時間に1回の巡回も技術的には可能」という。
ロボットはクラウド上の管理システムと連携し、点検結果を記録する。現場の映像や計測値を継続的に蓄積することで、設備の状態の変化を把握しやすくする。

◆フィジカルAIで「いつもと違う」を検知
フィジカルAIは、現実世界の状況を認識し、判断を実際の動作につなげるAI技術だ。人型ロボットだけでなく、自動車や移動ロボットなど、物理的に動作するシステムにも応用できる。
ugoの羽田卓生取締役CSOは、『ugo mini』について、変電所の状況を認識し、正常か異常かを判断して行動を変えるロボットだと説明した。
今回の実証では、カメラによる目視点検の代替に加え、各種センサーによる設備状態の把握も検証する。温度の測定や熱源の検知に加え、一例として、将来的には匂いの変化を捉えるセンサーの活用も想定している。匂いの検知について羽田CSOは、特定の物質を識別するのではなく、普段の状態との違いを検出する考え方を示した。
決められた項目を点検するだけでなく、通常とは異なる状態をロボットが発見し、人に報告する。最終的な確認や判断には人が関与する仕組みをめざすという。
羽田CSOは、「特定の問題への対応というのは、もともと非常に難しい技術。そうではなく、『なんか異常感じたんですけど』と報告する、いつもと違うと教えてくれる、というのが、常駐しているロボットに求められる姿かなと思う。そのあとで人が介在する」と説明した。

◆定期保全から状態基準保全への転換
西武鉄道が重視するもうひとつの目的が、点検データの「資産化」だ。
従来の点検では、現地で確認した結果を手書きで記録する作業もあり、設備の状態を継続的なデジタルデータとして蓄積することが難しかった。ロボットによって高頻度のデータ収集が可能になれば、設備の状態を時系列で比較し、故障の予兆を捉えることが期待できる。
これまでの鉄道設備保守では、決められた期間ごとに点検や部品交換を行なうTBM(時間基準保全)が用いられてきた。西武鉄道は今回の実証を通じて、設備の状態に応じて修繕時期を判断するCBM(状態基準保全)への転換を進める。実証では、ロボットが収集するデータと西武鉄道が保有する設備データとを組み合わせ、状態基準保全の有効性を評価する。
また、既存設備の各所に固定式センサーを設置する方法と、移動式ロボットによる点検との費用対効果も検証する。現状、移動式ロボットを導入した方が、コスト的に有利なようだ。現場のレイアウト変更に対応しやすいのは、移動式ロボットの利点だ。
◆2027年3月まで実証、遠方の変電所から展開も
ugoは東京都千代田区神田に拠点を置くロボット開発企業だ。国内でロボットの設計・開発・製造を行ない、神田の製造ラインで量産している。部品は海外からも調達する。ugo miniは2025年に発売され、2026年3月には累計出荷台数が100台を突破した。データセンターや精密機器工場などで設備点検に活用されている。
西武鉄道は今回の実証で、移動時間と作業工数の削減効果、人とロボットの役割分担、センサーによるデータ収集の有効性を検証する。青木課長補佐は、ロボットができる作業と人が担うべき作業を明確にし、最適な運用方法を構築する方針を示した。
将来的には他の変電所への展開も視野に入れる。ただし、34カ所すべてへの一斉導入ではなく、保守拠点から遠く、移動時間の削減効果が大きい変電所などを優先して検討する。実証期間中には、池袋変電所以外の施設で検証する可能性もあるという。
西武鉄道は今回の取り組みを、将来的な「ロボットによる無人メンテナンスの実現」に向けた一歩と位置付ける。設備の状態をデジタルデータで継続的に把握し、労働力不足の中でも安全・安定輸送を維持できる保守体制の構築をめざす。








