NTTがロボット用クラウドサービス「ロボコネクト」を発表、全国7万の介護施設のうち1万施設へのロボット導入を目指す

NTT東日本は、9月1日から提供を開始する新サービス「ロボコネクト」の記者発表会を行った。ロボコネクトは、ロボットの「会話機能」や「カメラ撮影機能」等のアプリケーションをクラウド上で提供するサービス。ヴイストン株式会社が開発を行う卓上型コミュニケーションロボット「Sota」に搭載する形で提供を開始する。

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ヴイストン株式会社のSota(ソータ)。ネイビー、オレンジ、ライトブルーの3色展開。

Sotaは、サイズ280(H)×140(W)×160(D)mm、重さ763gで、胴体1軸、腕2軸x2、首3軸の合計8の自由度を持つロボット。おでこにカメラ、頭頂部にマイク、胸にはスピーカー、両目と口にLEDが搭載されている。デザインはロボットクリエイターの高橋智隆さん。シャープのロボホンやデアゴスティーニのロビなどのデザインを行ったことで知られる人気ロボットクリエイターだ。



ロボコネクトの機能

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配布資料より

「コミュニケーション機能」「遠隔対話機能」「カメラ撮影機能」の3つがロボコネクトの主な機能。

コミュニケーション機能には、音声認識・合成エンジンといったNTTグループのAI関連技術の集合体「corevo(コレボ)」が用いられている。「corevo」には、国際技術評価で世界1位の精度を達成した音声認識技術や、40年以上研究蓄積を行ってきた自然言語処理や知識処理技術が搭載されているという。

遠隔対話機能は、Sota搭載のマイク・スピーカーを通じて、遠隔地のPCを経由し会話することができる。PC側では、Sotaのカメラから映した映像を見ることができる。

カメラ撮影機能は、Sotaに搭載されているカメラで写真撮影をすることができる機能。撮影した写真は、スマホやタブレットを通じて、WEB上の専用ページから確認することができる。

利用料金は、最低13か月契約の月額利用料3,000円(税別、初月無料)のほか、Sotaの本体価格100,000円(税別)、初期費用として契約料800円(税別)、サーバー登録料1ライセンスあたり1,000円(税別)がかかる。


ロボコネクトでは、以上の基本機能3種とは別に、付加アプリケーションと呼ばれる別契約のアプリが提供される。今回発表されたのは、介護施設向けアプリ「Sotaレク」だ。



介護施設向けの付加アプリ「Sotaレク」

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「Sotaレク」の開発を行うのはキューアンドエー株式会社。同社は、介護施設向けに「介護レク」というテレビモニターと連動したレクリエーションサービスの提供を行っている。ロボコネクトでは、その「介護レク」をSota専用のアプリ「Sotaレク」として提供することとなる。

Sotaレクでは、全84個のレクリエーションを介護施設利用者向けに提供することができる。介護施設では、スタッフがレクリエーションの進行を行うことが多いが、Sotaレクではその進行サポートをすることができるほか、Sota自身が進行役となってレクリエーションを提供することも可能だ。

昨年7月〜10月にNTTやヴイストンが行ったSotaを活用した実証実験では、介護施設のスタッフから「レクリエーションをロボットが代わりに行ってくれたことで時間的な余裕が生まれた」「負担が軽減した」という声が出たという。また、施設利用者に対しては、ロボットがない時に比べて、2倍近い認知症ケアができているという専門家の調査結果も出ている。ロボットがいることで、発言数も増え、施設利用者間の会話も増えたそうだ。

Sotaレクの利用には、初期費用として専用のセットトップボックス20,000円(税別)、設置・設定費用として30,000円(税別)、Sotaレクのライセンスとして年間14,400円(税別)がかかる。利用には、別途上述のロボコネクトの契約も必要だ。

NTTはロボコネクトの展開を始めるにあたり、「Sotaレク」を中心に据えることで、まずは介護施設向けに特化した提供を選択した。初年度は250施設の介護施設への導入を目指しており、ゆくゆくは全国7万ある介護施設のうち1万の施設への導入を進めていく狙いだ。

将来的には、介護施設向け以外にも、観光向けや店舗・受付など様々な領域に展開していきたい考えを持っており、付加アプリケーションを共に開発するデベロッパーを探しているという。ただし、開発をするための環境はまだまだ整備中とのこと。Sotaには「Vstone Magic」という、GUIを持つ専用SDKが準備されているが、ロボコネクトの付加アプリケーションの開発にはVstone Magicは用いられていないそうだ。ロボコネクトの今後の展開を見据えての選択かもしれない。



ロボコネクトが目指す先

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配布資料より

NTTは、前述の通り、ロボコネクトを介護施設以外へも提供していきたいという考えを持っている。また、今回第一弾のロボットとしてSotaが発表されたが、今後別のコミュニケーションロボットに対応していくことも視野に入れているという。
そして、NTTには、「R-env(連舞)」というクラウドサービスもある。R-envは、WEB上からロボットやIoTデバイスなどを制御することができるサービスで、Sotaに話しかけたら電気が付く、エアコンをつけっぱなしだとSotaが教えてくれるなどのデバイス間連携を簡単に行うことができる。


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R-env(連舞)ハッカソンでの様子。R-envの画面を拡大したもの。ボックスを並べていくことで、ロボットやIoTの制御を行うことができる

このR-envを含めたNTTが持つクラウドロボティクス基盤を活用して、さらにロボットを役立つものへと進化させていきたい考えを持っている。

NTTが、電話回線やフレッツ光等の回線提供を通じて、各介護施設とのパイプを持っていることは間違いない。全国のスタッフを動員することで、ロボコネクトの普及が進むことだろう。Sotaの本体代、Sotaレク含めても、初期費用計151,800円(税別)、月額利用料4,200円(税別/Sotaレクの年間利用料を12分割して計算)という価格も、他のロボットと比較すると手頃と言える。

しかし、ロボコネクトの展開にも2つの懸念点がある。1つは「他社のロボットの存在」、2つ目は「飽きさせない仕組みづくり」だ。



懸念点と、大きな可能性

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ロボスタにいるロボットの一部
他社のロボットの存在

会見でも「Pepperとの違いは?」という質問が飛んだが、Pepperなど他のロボットとの違いを、売り手が明確に理解する必要がある。会見では「サイズ感が小さいことで持ち運びやすい」「価格が安い」という2点がPepperとの違いだと説明があったが、サイズ感が小さいことは必ずしも良い方向には作用しない。特に介護施設のレクリエーションなど、大人数を相手にする場合はそうだ。Pepperは120cmというサイズだからこそ存在感があり、遠くからでも存在を認識することができる。また、Sotaは、現状のモデルではバッテリー駆動ではなく、コンセントをつなぐ必要があるため、移動性に優れているとも言えない。移動性だけを見れば、富士ソフトのPALROやシャープのロボホンの方が高いだろう。ロボコネクト搭載の「Sota」ならではのアピールをしていく必要がある。

飽きさせない仕組みづくり

2点目の「飽き」については、介護施設以外の分野へ進むにあたり重要なポイントになる。Pepperやその他のロボットもデベロッパーがアプリ開発をしやすいエコシステムの構築に力を注いでいるが、それがない限りコンテンツを増やしていくことは難しい。現状はロボットの固有の機能だけでユーザーの役に立つことは難しく、アプリを拡充していくことで、利用者に価値を提供することができるようになる。受付や観光案内においては、その法人用にカスタマイズされた機能が欲しいと考える施設も少なくないだろう。つまり、ロボットのアプリ開発をするための環境をきちんと整備し、外部のデベロッパーを巻き込んでいく必要があるということだ。R-envを含めたクラウドロボティクス基盤との連携はいち早く行うべきだろう。


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と、懸念点は述べたものの、ロボコネクトは大きな可能性を持っている。「Sota」を選んだことも良い選択だ。Sotaの開発を行うヴイストンは、ロボットのハードに関する多くの知見を持っており、ロボットを安価に作る技術も持っている。ロボコネクトは「Sota」や「Sotaレク」を含めても、3年間で300,000円(税別)という価格。Pepperと比較するとかなり安い。

計算式

初期費用) Sota本体代金 + 契約料 + サーバー登録料 + セットトップボックス + 設置・設定費用 = 100,000円 + 800円 + 1,000円 + 20,000円 + 30,000円 =151,800円

ランニングコスト3年分) ロボコネクト月額費用3,000円(×36か月) + Sotaレク年間費用14,400円(×3年) – ロボコネクト初月無料 3,000円 =108,000円 + 43,200円 – 3,000円 =148,200円

計) 300,000円(税別)

NTTは、同社の販売網を活かして、どの程度ロボットを普及させることができるのか。「ロボットだからこそできること」にどこまで目を向けられるだろうか。編集部でも、引き続き注目していきたい。

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ロボットスタート株式会社

ロボットスタートはネット広告・ネットメディアに知見のあるメンバーが、AI・ロボティクス技術を活用して新しいサービスを生み出すために創業した会社です。 2014年の創業以来、コミュニケーションロボット・スマートスピーカー・AI音声アシスタント領域など一貫して音声領域を中心に事業を進めてきました。 わたしたちの得意分野を生かして、いままでに市場に存在していないサービスを自社開発し、世の中を良い方向に変えていきたいと考えています。

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